表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋人以上×妹未満。  作者: しすたー遠藤
16/32

14話   『新人生歓迎会』

「天羽くんと二人きりではやんない、ぷんっ」


「じゃあ、私もやるわ」


「どうぞどうぞ……」


 ぷんっ、は口で言うものではないよ、栗花落さん……なんてこともあって、結局哀も参加することを認めざるを得ない状況となり、生徒会役員三人とも倶楽部紹介に参加することが決定した。

 思いのほか、まじめに生徒会役員会議は進行中である。


「……それで、栗花落さんはイエローで?」


「わたしピンクにする」


「私はブルーでいいわよ」


 この状況では当然だがイエローは選ばず、俺がレッド、栗花落さんがピンク、哀がブルーの衣装を担当することになった。

 戦隊名はもちろんセイトカイジャーね、というピンクさんの鶴の一声に俺は逆らうことができず。はい、俺めがセイトカイジャーです。

 逆らう必要も別にないのだが、何がもちろんなのかもよく分からない次第である。


「部活紹介の時間、何分くらいだったっけ?」


「一クラブで五分くらいだよ」


「五分、か……」


 舞台上での五分は意外と長い。普通に部活を紹介しただけでは時間が余ってしまうが、パフォーマンス含めてと考えれば妥当な時間設定であろう。

 だがしかし、今回の俺たちは出オチもいいとこだ。最初の方はまだいいが、残り三分ほど地獄絵図と化す可能性大だ。

 ちゃんとパフォーマンス内容、考えないとマズいな……。


「やっぱり、戦隊モノといえばキャッチフレーズかな?」


「あの、自分のカラーを言う前に叫ぶ自己紹介みたいなやつ?」


「そう、それ」


 燃える〇〇、レッド! みたいなヤツである。叫んでて照れないのか、と思うアレである。敵も何故か律義に攻撃せずに待っていてくれるアレである。


「……なんか恥ずかしくない?」


「大丈夫。戦隊モノの衣装着てる段階で十分恥ずかしいヤツだから」


「天羽くん、それを大丈夫とは言わないよ?」


「ここで、マスクさえつけたら中に誰が入ってるかなんて分かんないシステムが役立つというワケ」


「なるほど~!」


 手をポンと叩いたところ悪いのだが栗花落さん、生徒会の部活紹介って時点ですでに誰かバレてるけどね、ということは言わない、もちろん。

 先生からのお達しだし、新しい案を模索するのもめんど……ではなく時間もないことだ。しょうがない。

 

 スルーしてやっていたが、よくよく考えなくとも戦隊モノの衣装、ちょー恥ずかしくね? ハロウィンでコスプレとかするヤツの気が知れない。

 だからと、今さらやめることもできない。このキャッチフレーズ作戦が上手くいくかに懸かっている。

 引き続き、まじめに生徒会役員会議は進行中である。


「新入生歓迎会なんだから、キャッチフレーズは新入生をお題にするってのはどう?」


「案外いいんじゃない? わたしはいいと思う」


「私もいいアイデアだと思うわよ」


「じゃあそれで決まり。キャッチフレーズを言う順番はどうする?」


「セオリーどおり、レッド、ブルー、ピンクの順でどうかしら?」


「わたしもそれでいいと思うよ」


「そうだな。自分の担当カラーのは自分で決める、ってことでいいか?」


「わかった」


「分かったわ」


 俺が提案した新人生をお題にキャッチフレーズを個別で考え、俺、哀、栗花落さんの順に言っていくことが決定した。

 現時点も、まじめに生徒会役員会議は進行中である。


「時間もないことだし、今日決めとくか。別に今パッと思いついたやつでいいよ。キャッチフレーズはリズムが大事だから、ポンポンポンとお願いね、哀、栗花落さん」


「わかった」


「分かったわ」


「それでは、俺から行くぞ。『泪で目を腫らした、レッド』」


「『悲しみに明け暮れる、ブルー』」


「――ちょっ、ちょっと待って! 二人とも、お題新入生のはずだよね? しかも、なんで息ピッタリなの?」


「新入生といえばこんなイメージだろ?」


「そうね」


「新入生にどんなイメージ持ってるの!?」


「「そんなイメージ」」


「天羽兄妹、そんな双子みたいな連携力あった!?」


 だって、戦隊ですから。連携が命ですから。

 まだギリギリ、まじめに生徒会役員会議は進行中である?


「じゃあ、もう一パターンでいこうか? 哀も内容変えろよ。栗花落さんも次はしっかりね」


「分かったわ」


「わかった……」


「行くぞ。『泪で枕を濡らす、レッド』」


「『悲しみにさいなまれる、ブルー』」


「――ストーップ!」


「どうしたの? 次、栗花落さんの番だよ?」


「栗花落先輩、サボりはいけませんよ?」


「……二人とも新入生歓迎する気あるの?」


「確かに。哀の台詞、一回目とほとんど変わっていなかったからな」


「蓮こそ、泪で枕を濡らすはどっちかというとブルーじゃないかしら?」


「一理あるな」


「一理もないよ? お~い二人とも、問題点はそこじゃないよ?」


「じゃあもう一パターン新作を下ろすか」


「そうね」


「なんで二人とも、そんなアクティブにクリエイティブなの……」


「行くぞ。『悔しさで噛みしめた唇、レッド』」


「『はかなく散る悔し泪、ブルー』」


「――終~了! 何? これ大喜利だったの?」


「うん」


「そうですよ」


「そうだったんだ……」


 学校のパフォーマンスとは、いつの時代もこういうものである。ふざけたヤツだけが地獄絵図を回避する、つまり盛り上げることができるのだ。

 はい現時点を持って、まじめな生徒会役員会議は終~了!


「まじめに語ると、新入生なら押し寄せてくる不安という荒波に立ち向かっていく精神力の大切さを説いている。それに戦隊ヒーローとは、夢と希望を与える存在でなくてはならない」


「真顔で言ってるとこ悪いけど、さっきので新入生に与えるのは現実と絶望だからね」


「栗花落さん、厳しさを教えるのもまた生徒会の……いや、セイトカイジャーの役目なのだよ」


「聞いたことないから。新入生歓迎会で厳しさを説く部活なんて聞いたことないから」


「伝説はいつも新しいものから生まれるものだよ」


「そうなのかなぁ?」


 いや多分違う。いや絶対違う。こんなので伝説は生まれないから。

 でも、新入生からしてもクソつまらないものを見せられるより、盛り上がる方が良いに決まっている。それに俺も盛り上げる必要性がある。

 新入生の目がパフォーマンスにばかり行くと、これが部活紹介の勧誘であったことに誰も気づきやしない。これで俺のベストプレイス、生徒会室の平和は守られる、戦隊モノだけに。

 

 それどころか、頼まれていた皇先生の仕事に関しても、盛り上がったのに勧誘は上手くいかなかった。これならば正当な理由になるだろう。

 つまり、俺と新入生のウィンウィンの関係だ。

 フハハハ、俺に死角はない。俺に生徒会長をする資格もない。ついでに自覚もない。

 

 ――新入生諸君、騒げ。喚け。大いに盛り上がるがよい。


「私は一つ目の出来が良かったと思うわよ?」


「『泪で目を腫らした、レッド』と『悲しみに明け暮れる、ブルー』か?」


「そう、それよ」


 結局一番最初が一番いいってことは、世の中の常である。正直言ってただただもう考えるのが面倒臭くなったと思うことは、世の中の常である。世の中が悪い。

 

「うん、じゃあそれで決定」


「――いいの!?」


「二つ固定した方がピンクのキャッチフレーズ決めやすいかな、と……」


 ……表面上は思っております。


「私、ピンクならすぐ思いついたわよ」


「どんなの?」


「『純潔の血と白濁液、ピンク』でどうかしら?」


「あぁ~もう別にそれでいいんだけど……。新入生らしいといえばらしいが、レッドとブルーの関係性が薄くなってしまってるのが問題だな」


「天羽くん、問題点そこなの? お題新入生のはずだよね? 押し寄せてくる不安という荒波に立ち向かっていく精神力の大切さはどこにいったの?」


「確かにそうね。栗花落先輩の言うとおりだわ。押し寄せてくる不安という荒波なら『女の子の日、ピンク』の方が――」


「――それ押し寄せてきてるの不安という荒波じゃなくて、生理という荒波だから!」


 ツッコミが鋭い。

 なんか説得力が違う……。熱いぜ、栗花落さん。


「『泪で目を腫らした、レッド』、『悲しみに明け暮れる、ブルー』、『女の子の日、ピンク』。……ダメかしら?」


「――だめだよ! めちゃめちゃおかしいよ! その女の子に一体何があったの!?」


 その新入生の女の子は多分……。


「栗花落先輩それは、この子は女の子の日に大人の階段を上った。しかし……というストーリー展開です」


「可哀想に、とはならないよ。だってこれは戦隊ヒーローのキャッチフレーズだからね?」


「じゃあ、レッドの部分を『純潔の血、レッド』の方が分かりやすいでしょうか?」


「うんそっちの方が分かりやすいかもだけど、哀ちゃんそういうことではないよ?」


「あっ、そういうことですか。女の子の日はピンクではなくブルーですものね、気分が」


「――そういうことでもなくて!」


「栗花落先輩の意見をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「なんでわたしに?」


「だって栗花落先輩は今日フゴフゴ」


 哀の口をロックする。もちろん、俺の手が。口の閉まりを取り締まる。

 お二人さん、俺を挟んで女子高生がどんな会話してんだ。栗花落さんは我が妹に振り回されているだけだろうけど。

 スピード感溢れる会話だったのと、火傷したくもなかったので、会話からフェードアウトし空気に徹していたが、さすがにこの暴挙を見逃すワケにもいかず。

 なんで今日に限って女の子の日の話題を出すかね、このバカな妹は。本日俺、ビンタくらってんだよ。


「……で、結局まとめるとどうなった?」


「『純潔の血、レッド』、『女の子の日、ブルー』、『純潔の血と白濁液、ピンク』。これでどうかしら?」


「――アウトだから! それ一発でレッドカードだから!」


 出会って数日しか経っていないが、哀と栗花落さんはいつの間にか打ち解けたようである。俺の存在なしでも生徒会は平和そうだな。二人だけでも話せている。

 最初のうちは俺を介しての会話も多かったが、これで……俺の存在意義とかは大丈夫かな? まぁいいか。


 それで最終的にキャッチフレーズは、思春期の女の子の初体験を紹介することになっちゃった、チャンチャン……と終わるワケにもいかない。栗花落さんの一発もなんか危うい台詞に聞こえてきたとは、リアル女の子の日の女の子を前に紳士的な俺が言うはずもない。


「もぉ~天羽くん、哀ちゃんどうにかしてよ~」


「最後は蓮が決めていいわよ」


「そうだな……」


 俺の選択は……






 4月15日、新入生歓迎会。

 生徒会によるパフォーマンス、セイトカイジャーが後生に語り継がれる伝説になったとか、ならなかったとか……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ