11話 『すりすり∞』
ガラガラガラ。バタン。
……。
「フフッ」
「どうした? 哀。何かおかしいことでもあるのか?」
「話数またいだのに頬、手形ついてるフフ」
「話数とか言うな……」
まだヒリヒリ痛む。当然である。平手打ちはつい五分ほど前の出来事だ。
すりすり。すりすり。頬をさすらずにはいられない……
昨日のことのように思い出されるではなく、今日のことは思い出したくない、だ。今日のことどころかさっきのこと、だけどね。
栗花落さんは諸事情により席を離れている。今回は距離的にではなく、今生徒会室にはいないという意味だ。
「機嫌が戻ったり悪くなったり、栗花落さんってもしかしてツンデレだったのか? ツンデレなどただの二重人格者だと思っていたが」
「フフよく気づいたわね。ツンデレとは、ヒロインが女の子の日もしくはその前後だったため、情緒が不安定になっていたからだった……これがツンデレの真理よ」
「マジか……てかどこに需要あんだよ、その設定……じゃなくてヒロイン」
いつものバカな発言と右から左へと受け流したいが、もうなんかそんな気もしてきた。
……そんな俺はまだ頬をさすっている。
「じゃあ、ヒロインのチンデレとは何か分かるかしら?」
「どんなタイプだよ。聞いたことはないが、ある程度俺の中で予測はできている」
「もう……面白くないわね……」
哀の言いそうなことくらい大体お見通しだ。どれだけ一緒にいると思っている?
「一応聞いておくが、答えは?」
「そんなの決まっているじゃない」
「決まってはいねーよ。世間でこの問題分かるの俺とお前の二人だけだ」
「もちろん……チンチンを見てデレデレすることよ」
「だろうな、まんまじゃねーか。どんなヒロインだよ。そんなタイプのヒロインいねーよ。それこそどこに需要あんだよ?」
「一部の層から厚い支持どころか熱いものを顔に――」
「――そこまでだ! 口を閉じろ!」
「何を言っているのかしら? 口は閉じるに決まっているじゃない。だってそれだと口内――」
「――そこまでだ! 目を閉じろ!」
「何を言っているのかしら? 目は閉じるに決まっているじゃない。だって目に入ると失明の恐れがあるのよ」
「確かにお前の言ってることは正しい。けれど同時に、お前の言ってることは正しくない。俺の言ってる意味分かるか?」
「もろちん、よ。あっ、私としたことが噛んでしまったわ。もちろん、もちろんよ」
ワザとなのか? その言い間違えはワザとなのか? ワザとだろ。
……ったく、コイツの性格はどうなってんだ?
「じゃあ、哀のタイプは?」
「タイプ? そうね。あえて言うならば……こおりタイプかしら」
「ポケ〇ンの属性の話じゃねーよ」
ワザとなの? ワザとじゃないか バカなのか
「哀は自分的に〇〇デレとか、どのタイプの性格かって聞いたんだよ」
「もう、分かりにくいわね。いきなり話変えないでもらえるかしら?」
「ごめんごめん……って、話変えたのはお前だ」
ったく、話進まねー。というか進んだところで、この話に意味などあるだろうか? いや、ない。
哀はどんな発言も飄々と、普通に座って、普通なトーンで、普通な表情で、いつもと変わらなさすぎるくらい普通に……普通に頭大丈夫か? お兄ちゃん心配っ。
……さっき頭がおかしいと言われたのは俺の方だったか。
「私のタイプはデレデレよ」
「ウソつけ。お前のデレなんて四年に一度くらいしか見ねーよ」
「オリンピックより大切ね」
「そうかもな」
「蓮にとっては、オリンピックより私の方が大事ってことなのね」
……俺はオリンピックより見れる機会が少ないから貴重で大切、って意味で返事したつもりなんだけど。
まぁ、別に構わない。妹とオリンピックを天秤にかけて後者を選ぶ兄などこの世には存在しない。
「それにしても、栗花落先輩遅いわね……何ビビっているのかしら?」
「――べっ、別にビビってねーし」
栗花落さんの名前を聞いた途端、身体がビク! と反応したのは自分にも分かった。そう俺はビビ……いや緊張、それとも意識か?
ラッキースケベを発動した相手に対し俺は、どんな顔をすればいい? どんな会話をすればいい? どんな振る舞いをすればいい? 教えて、ラノベ主人公。
「ビビっている人が使う言葉ランキング、『――べっ、別にビビってねーし』が一位よ」
「そんなランキングサイトねーよ」
「ネットに載っていたわ、トリ〇ゴで」
「それ、料金比較サイトだから。ネットでホテル探してないから」
「そうね。探しているのは友達だものね?」
「探してねーよ。別にぼっちでもねーよ」
「一人しかいないなら四捨五入でぼっちよ」
「十の位探すなよ。絶対に探すなよ」
「それは探せ、ってことよね?」
「なんでだよ」
「あっ、新入生歓迎会の倶楽部紹介のことなのだけど……」
「クラブが漢字になってんぞ」
「何? もしかして蓮ってエスパー? 話した言葉が文字で見えるのかしら?」
「不自然なタイミングで話題をシフトしすぎなんだよ……」
特に面白い話も持ち合わせていないにも関わらず、話題転換するクソつまらないヤツも世間にはいるみたいだけど。話変わるけど系は、自分の話のハードルを上げていることに皆は気づいているのだろうか?
「蓮ってホントに私のことよく分かっているわね」
「そら、兄妹だからな」
「私がまだ膜があるってことも分かってるのよね?」
――いや知らん。そうなの? しか感想はねーよ……ホッ。
「私も蓮のことはよく分かってるわよ」
「そら、兄妹だからな」
「入学式の日、蓮のチンポジは左向きだったことも分かっているわ」
「そら、兄妹だか――兄妹、関係なくね? てかお前はどこ見てんだよ……」
「もろちん、蓮のチンチンよ」
ツッコミどころが多すぎてツッコまねーからな。
もちろん、もろちんそっちにも突っ込まねーから、血が出るから。
「あっそういえば話変わるのだけど……」
「なんだよ?」
「蓮のチンポジって――」
「――話変わってねー!」
我が妹は優秀である……安心する俺であった。
「……で、なんの話だったかしら?」
「兄妹だからよく分かっているとか、分かりすぎとかなんとか」
「そうだったわね。蓮が私を視姦している話だったわね」
「――話変わってるー!」
我が妹は劣悪である……安心できない俺であった。
「本当に、話変わるのだけれども……」
「今度はなんだよ?」
「それで……蓮はいつまで頬、さすっているつもりなのかしら?」
「あっ……忘れてた」
でも、胸の感触は忘れられない……。
ピンポンパンポン。
「放送委員からの連絡です。読後感を大切にされたい方は、後書きは読まなくても大丈夫だそうです。繰り返します。読後感を大切にされたい方は後書きは読まなくても大丈夫だそうです」
ピンポンパンポン。
「1話丸々何やってんだシリーズでもやりたいの?」
「そんなシリーズ予定はない」
「またがったままに引き続き、今回はさすったまま1話丸々、バカなのかしら? 作品が尖りすぎて、いつかその芯は折れるわよ……。……鉛筆よ」
「自分の比喩表現を説明するほど恥ずかしいことはないわな、フハハハ」
「うっ、うるさいわね。すりすりすりすり、チンチンでもすりすりしてなさい。ドピュてなさい」
「そんな単語、この世にねーよ」
「じゃあ何がやりたいの? 私とやりたいの?」
「後者はおかしいだろ。お前ホントどこに需要あんだよ」
「読者の皆さんよ、きらっ」
「いやいやせめて〇指、〇〇〇指、〇指を立てろ。今お前が立ててる指、中指だから。むしろ中指しか立てていないから!」
「感想、ブックマークお願いね、きらっ。評価で人気作品に押し上げてね、きらっ」
「哀は三本の指を立て、頬を染め恥ずかしながらも一生懸命、満面の笑顔を作るのだった」
「何を言っているのかしら、蓮?」
「足組んでふんぞり返っているお前のサポートしてやってんだよ……」