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恋人以上×妹未満。  作者: しすたー遠藤
12/32

10話   『おっぱいと口にしないのは頭脳派だよね?』

「それで、頼まれたもう一つの仕事って?」


「新入生歓迎会なんだけど……」


「やらない」


「これ伝統行事だから!」


 ……新入生歓迎会か。そりゃ、入学式とセット販売でついてくるわな。

 部活紹介やらパフォーマンスやらを長々と……アレである。やってる側は魅せているつもりなのかもしれないが、正直新入生にとっては単に見せられているだけのアレである。良い点といえば、授業が二限ほど潰れてくれるアレである。

 また挨拶用意しないといけないのか……。司会は栗花落さんに任せるとして、あとは準備ってところか。


「で、その新入生歓迎会っていつだっけ?」


「今週末だよ」


「……今日ってもう水曜じゃなかったっけ?」


「うん、そうだよ」


 いやいや、にっこり言われてもあと二日なんですけど。それに今、もう放課後なんですけど。


「ふぅー……でも俺詳しい話とか一切聞いてないよ?」


「だってわたし言ってないもん」


「……何故ゆえに?」


「入学式の日以来、仕事って言う度に話逸らしていたのは誰だったかな~? 今日の昼休みも伝えようと生徒会室に来たのにゴソゴソしてたのは誰だったかな~? ちらっ」


「ごめんなさい」


「素直でよろしいっ」


 触れられる距離にいる栗花落さんの表情が、先ほどより柔らかくなっているのが見て取れる。……いや、触れないけども。触らないけども。

 それと、ゴソゴソって言い方やめて。ソロプレイなんてしてないから。ちゃんと哀と二人で、マルチプレイしてたから。


 新入生歓迎会は入学式と違い、実際のところそれほど準備することもない。

 会場は再び体育館だが、あのパイプ椅子を永遠に並べ続ける作業もない。新入生くらい地べたで体育座りさせておけばいい。

 あとは、演者を舞台ステージとなる壇上で狂ったようにパフォーマンスをやらせておけばいい。


「ステージの順番とか時間とかは決まってる?」


「もうやっといたよ。はい、これプログラム表」


「ありがと」


 栗花落さんは鞄から綺麗に作成されたプログラム表を取り出し、見せてくれる。

 ステージに上がる組の順番からタイムスケジュールまで、完璧に仕上げられた惚れ惚れするくらいの出来栄えである。これほど優秀な人材、どこの会社や家庭に出しても恥ずかしくない。

 栗花落さん、良い奥さんになるよ。それに比べ……。さっきから俺の右肩が重いんですけど。帰ったら今度は俺が肩揉みやってもらうからな。


「一応確認だけど、この仕事って本来?」


「うん、皇先生の仕事だよ」


「……だろうね」


 生徒会がここまで便利に小間使いにされていいワケがない。いや、基本生徒会など学園の小間使いと書いて生徒会と呼ぶのは皆さんご存知だとは思うが、本来教師がこなす仕事まで押しつけられる義理はない。

 一応表記するとこう、学園の小間使い(生徒会)。そしてこう、学園の駒使い(生徒会)でもある。

 あの顧問ちょっとは働け……俺も人に言える立場ではないか……。コイツも、な。

 右肩を上下に揺らすと、少し反応はしたが再び俺の頬に甘い息を吹きかける。


「でも先生は直接やってくれ、とは言わなかったよ。『栗花落。ワタシは新入生の為に英語のテスト作らなくてはいけない。でもこれ……なんでもない』とチラ見されただけだよ」


「それはもう完全に黒だよ。あの人は色々、黒づくめの人だから」


 栗花落さんによる皇先生のモノマネが全く似ていなかったことはここで言及はしないが、さてと……俺はポケットから携帯を取り出す。


「何かするの?」


「挨拶作成」


「……もしかして入学式の生徒会長挨拶もネットのパク……引用なの?」


「イエッサー」


 この世の中にはコピーアンドペーストという素晴らしい手段がある。大学生のレポートなんて九割五分コレである(のはずだ)。

 まだ『入学式 挨拶』と履歴の残る検索ワードに『新入生歓迎会 挨拶』と打ち込む。


「あんま変わんねーな」


「なにがなにが?」


「内容だよ。入学式も新入生歓迎会もターゲットは同じだからね」


「使いまわしはだめだよ?」


「使いまわしなんかしたら新入生に『あの人同じことまたしゃべってるんですけど。ウケるんですけど。ウケるんですけどぉぉ』って言われかねない」


 栗花落さんの真隣からの暖かい見守りも受けながら、そして右肩に重りを乗せながら、原稿を仕上げる。カップラーメンが出来上がる時間もかからず、それは完成した。これが生徒会長の実態。

 どうせ生徒会自体、毎年毎年同じことを……コピーアンドペーストしたみたいな存在であろう。


「な~んか入学式も人と人が……みたいな無難なこと言ってるなぁ、と思っていたけどそういうことか~」


「失望した?」


「もぉ~、今さら何言ってるの! 天羽くんにはとっくに失望してるよ~!」


 ……いや、そんなキラッキラッのはじける笑顔で言われても。

 まぁ分かってはいるけども。今日の色々で栗花落さんの中で俺の尊厳どころか存在が砕け散っていきそうなんですけど。なんですけどぉぉ。……お前のせいで、な。

 再度右肩を上下に揺らすと、また少し反応はしたが変わらず俺の頬に甘い息を吹きかけ続ける……


「栗花落さん、……二人っきりだね」


「でも哀ちゃんそこに……あっわたしは、バカなのか? お前はバカなのか? って言った方がいいのかな?」


「ご自由に……」


「あっ……わかった。んっんっ、え~天羽くんは頭がおかしいのかな?」


 栗花落さんは声を整えてから、丁寧な口調でそう言った、言い直した。バカを頭がおかしいに変換するあたり、これが栗花落さんの優しさというやつか。でも頭がおかしいの方が言葉の攻撃力あると思うよ……


 何故俺がこんなことをしてるのかというと、別にトチ狂ったワケではない。ということは自然に言った哀はトチ狂っている、そんなこと今はどうでもいい。

 ただただイメージアップのためである、それしかない。本日地の底にまで落ちた俺の印象を多少強引にでも回復させておこう……つまり、まごうことなき邪念だ。


 ――ぼっちだとしても失いたくないものもある。


 ちょっと離れて座られただけでバカみたい? フッ、今ここにいるぼっちはそうは思わない。砕け散った欠片を拾うだけ。ただそれだけ。

 その日のことはその日のうちに。明日やろうはバカ野郎、だ。


「栗花落さん!」


「えっ、はい! 何!?」


 ……ったく、慣れないことはするもんじゃない。俺もそう思う。


「すっ……」


「す?」


「すっ…………」


「す??」


 栗花落さんは首を傾げ、俺の発言を待っている。

 ……ふぅ~、哀にも言ったことねーよ、こんなこと。


「すっ、す――」


 俺はホント何を言っているのだろう。持論を捨ててまでロクでもないヤツに俺は成り下がるのか……


「すっ、すごく可愛いね……」


 ……。

 ……。

 ……。

 ……。


「――いっ、いきなりなっ、なっ、な何っ!?」


「ありがとう」


 右耳にその感謝の言葉は直接届いた、そう右耳に。しかも物理的に。

 俺の耳に口当てんな。今はお前に言ってねー。

 栗花落さんも、言われ慣れていないわけではないだろうに。

 ……まぁ、俺が言う特殊性を狙っての台詞選びなのだが。案外効果はあるようだ。

 慌てふためく栗花落さんの頬と耳が赤く染まっていく。俺の尊厳、存在、ファーストエイド。


「んで、お前はいつから起きてる?」


「『栗花落さん、……二人っきりだね』ってとこよ?」


「一番良いところからじゃねーか! お前……肩揺らした時点で目覚めやがったな?」


 俺が二度も肩を揺らしたのは、哀の睡眠度をチェックするためだ。二度目の甘い吐息は偽物だったのか。


「そうよ。今の私はお目目パッチリよ。生まれた時からお目目パッチリよ」


 いや……綺麗で美しい目だとは思うが、お前のは切れ長で周りを凍りつかせる氷の姫ていうか氷帝みたいな目だぞ?


 パンパン!! 手を叩く。


「よし、話を戻すぞ。週末の新入生歓迎会のことだけど――」


「――あっ、天羽くん!!! ――話戻せると本気で思ってる!?」


 ブレザーの左袖、それどころか左腕ごと思いっきり引っ張られる。その反動でバランスを崩した俺の身体は、左に大きく傾いた。いや…………ダイブした。


 ……世の中ホントにあると思うか?

 うっかり女の子のパンツに顔を突っ込んだり、胸を触ってしまうとか。それこそ今は亡き勇者事件のおっさんと同じ行為だ。許されていいワケがない。

 ラノベ主人公とはちょっとつまづいたり、押されたり、引っ張られたりするとヒロインのパンツや胸に思いっきりダイブする生き物である。

 お前さっきまで敵と闘っていただろ、っていう肉体派の主人公がちょっとのアクシデントで倒れていいのか? 体幹はどうした? 体幹は!

 その理論でいくと、頭脳派タイプならまだ許されてもいいのかもね……


 ――ボフッ!

 ……むにゅ。……もみもみ。

 ……ふぅ~。黄ばみではない、レモンイエローだな。なぁパンツ。

 そういえばヘアピンも黄色だったね。栗花落さんは黄色が好きなのか? 人の好きな色になど興味はないが、案外覚えておくと使えるときが訪れるかもしれない……そんな気がする。


 ……もみ。


「……ふむ。なるほど」


「あ~らら」


 ――バチン!! ――痛っ!!


「……俺って頭脳派だよね?」


「――天羽くんはがおかしいだよ!!!!!」


 栗花落さん、さっきよりさらに言葉の攻撃力上がってるよ。……いや、ワザと尖らせたのか。

 

 ……これがラッキースケベに抱く罪悪感。

 ……ったく、慣れないことはするもんじゃない。これが女の子の……フッ、女の子の日の一撃か……


 人生で初めて女の子の胸を触った。そして、人生で初めて頬に手形がついた。

「何? 二話連続ふざけているのかしら?」


「どこがだよ?」


「この王道みたいなラブコメ話は何かしら?」


「意外と従来のラブコメとは違うんだぞ。罪悪感という部分を俺は重く重く受け止めている。重く重く、そして柔らかく……」


「――もしもし、警察ですか? 生徒会室に変態が一匹います」


「――待て、待て、待て!」


「犯罪者は得てして自分のことが見えていないものだわ」


「まだ分からないだろ。栗花落さんの同意さえもぎ取れば俺は犯罪者ではない、フハハハ」


「――もしもし、警察ですか? 生徒会室に変態思想の犯罪者が一匹います」


「――待て、待て、待て!」


「Cよ」


「何が?」


「栗花落先輩はCカップよ」


「何その、主人公の男友達が持ってそうな能力は」


「そして私はGカップよ」


「自分のことが見えていないのはお前だ! お前の胸は―――カップだ」


「……なんで知っているのよ。――もしもし、警察ですか? 私の胸のサイズが知りたければ評価、感想、ブックマ――」


「斬新な宣伝をするな、レビュー0だからって……。五名様、感想。十七名様、評価。ブックマーク共々まことにまことにありがとうございま~す」


「〇チンコ店かしら?」


「伏せ字の場所がおかしいだろ!」

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