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マイ・プレイス  作者: 国木田エイジロウ
EX ある物語の始まりと終わり
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EXTRA-X A.D.2030

かつて、生きていてほしい人たちがいた。

たとえそれが別世界の存在であっても。

全てが終わる前に、終わらせる前に。


 ひとりの男に命令されるがまま、宇宙船らしきものに乗せられて、どのくらいの時間が経ったのだろうか。雄大は考える。

 簡潔なつくりだが、振動も衝撃も乏しく現実味に欠けることが妙に心地よさを与えていた。

 故にいつの間にかウトウトと寝ていたらしく、雄大は身体を起こす。

 

「私たち、これからどうなっちゃうんだろう」

 同じく目を覚ました佳が雄大に問いかけてくる。

「わかりません。ただ、やつは協力しろ、と」

 今、二人は不思議な体験をしている。

 大きな窓越しに見えているのは宇宙。だが、教科書に載るような見え方とは違っていた。

 星の数が多すぎる。

 ところによっては同じ星が二重三重に重なったり、ズレたりを繰り返している。

「君たちはまだ自由に行き来できるわけではない。元いた世界に引っ張られても困る。これからその世界の終焉を見届けてもらいたいのに、死んでもらっては意味がない」

「おい、零二はどうした?」

「彼は私の中にある。さっき言ったが、私と彼はもとを辿れば同一の存在なのでね」

 二人は顔を見た。ようやく露わになった素顔はこれまでよく目にしてきた彼、大宮零二にそっくりであった。

「少し着替えに手間取ってしまってね。改めて紹介をしようか」

 普段着ないであろう白衣を羽織った彼は顔は同じだが別人に見えた。しかし……。

「私もレイジ。大宮零二なのだ。ただし、彼とは別の世界の、ね」


 

「……別の世界の人間?」

「ああ。時間の流れ、歩んだ道も彼とは違う。私はすでに大卒社会人。研究者の職に就くもの。そして私の世界の歴史に名を残したもの」

「名を……残した?」

 その言葉に笑みを浮かべる男。

「そう、これから名を残すのさ。人類の敵として、ね」

 レイジという研究者はそう言うと透明ガラスに見える地球を指さした。

 すると、地球からもう一つ、赤黒い球体が顔を出した。

「な、なんじゃこりゃ?!」

「それは第四の地球だったもの。私の故郷だったもの。あらゆる生命体が死に絶えた成れの果て」

 ここに生命は存続できない。それは真っ赤に染まった大地を見れば明らかだった。

 レイジは横に長い直方体の鉄の箱を手渡して言う。

「さて、簡単な後始末だ。ボタンを押したまえ」

 二つのボタン。それは水原と雄大、二人でボタンを押せということだろう。

「逆らえば、殺す」

 どこからともなく取り出した銃を向けられて脅され、従う以外の選択肢はなかった。

 苦い顔をしつつも、二人はボタンを押す。

 そう、自分たちの命と星の命を天秤にかけてひとつの世界を滅す決断を下した。

 

 凄まじい勢いで落ちていく隕石。

 燃え尽きて消えることなく、それは地球を貫き、まばゆい光が辺りを包む。


 凄まじい爆発だった。

「いい! 実にいい! これが宇宙規模の花火! これぞ芸術か!」

 レイジは興奮している。

 一方で自分たちの手である星の生命を終わらせたことと、そのあまりのスケールの大きさに二人は言葉が出なかった。

「……ふう。これにてあのどす黒い、見るに堪えない星は消えた。ああ、安心してくれたまえ。今のは君たちの世界にとっては微々たる影響に過ぎない。地域ひとつは吹っ飛んでいるかもしれないが」


 機械音声が状況を淡々と告げている。

 第四と名付けられた観測対象は消滅。

「第三は関東平野の消滅、と。その他各大陸で異常を検知。ふぅん、まあそんなもんか」

「そ、そんな?! お父さんは?! お母さんは?!」

 佳は状況を理解したのか、レイジに詰め寄った。

「関東平野丸々と言っただろうに。遠出さえしていなければみんな塵ひとつ残さず消えたんじゃない? 実にいい眺めだ。大都市が消えたあとの世界の観測、いいデータが取れそうだ」

「嘘、そんな……そんなことって……。野球部のチームメイト、友達……みんな……大好きな……」

 佳は泣き崩れ、その弱った肩を支えて撫でる雄大。

 雄大は拳を握りしめるも、怒りを抑えて堪えていた。納得はしていないが、ここで何をしても無駄なのはわかっていたしそんなことをしたところで帰れる保障もない。

 レイジに先程の行為を悪びれる様子は一切なく、次の指示が下された。

「さて、ひと仕事ご苦労。これから君たちには新世界のヌシである俺の従者になってもらう。簡単に言えばこの星の王様の家来だ」

「……なんだと?」

 そう尋ねるとレイジは言った。

「拒否権はないはずだ。君たちはすでにこの世の理から外れた存在。ここは宇宙ではない。君たちは宇宙の外側からこの宇宙を眺めているだけ。それに、とうに居場所なんてものは無いだろう?」


 あまりに大きすぎる宇宙。人間の生命ではその端に行くことすら遥かに難しいのに、その外側のことなんて二人は考えたこともなかった。

 そしてなにより、自分たちが外側の人間になったことについても理解は難しかった。

 すでに居場所を無くしていることさえも。

 たとえ、それでもこの状況から脱する手立てはあるはずだ。

 彼は利用価値があるから雄大たちを生かした。

 だがきっとそれだけではないのだろう。

 彼が零ニと同じだと言うのならば。


 

「……やっぱり理解できないな」

「は?」

 予想外の返答に驚いた表情を見せるレイジ。

「お前が零二だろうがレイジだろうが、これ以上は付き合いきれない」

「ならば、殺すまでだ。いいのか?」

 銃を向けるレイジに対し、雄大は物怖じすることなく言う。

「できないさ、あんたには」

 雄大は笑って続きの言葉を紡いでいく。

「中身は違っても、お前はお前。同一のものだといったのはお前自身。対抗心が強く、諦めの悪い男。そして、誰かに何かを押し付けないのもお前のいいところだ」

「何だと……? わかったようなことを……」

「わかるさ、全部」

 

 本当にやりたいと思うことは自分自身の手で掴み取る。それが大宮零二という少年。

 誰かに頼らず、何かを成し遂げる。

 きっかけは水原佳の特訓に過ぎないが、決してそれは零ニが誰かを頼ったことにはならない。

 それに、頼ることを申し訳なく思って自分でなんとかしようとする姿勢も健気で、雄大は見ていて微笑ましく感じてしまう。

「……そうかい。なら、ここでお別れか」

 レイジは雄大たちと袂を分かつことに決めた。



「さて、座標入力作業が終わればお前たちは地球に戻れる。ただし、さっきも言ったが関東平野丸ごと消失したから、同じ場所にとはいかない。そのへんは辻褄合わせだ」

「……本当に良いのか」

「今後一切、俺の邪魔をしないというならな。もし何かしようものなら、俺が手を下すまでもなく俺の兵隊や世界そのものがお前たちを駆逐するだろう。外宇宙の生命はそれだけ疎まれているのだから、無意識に」

 が、その条件はレイジにとっても同じだった。

「……あんたも外側のヒトなんだろうに」

 レイジに迷いなどなかった。

「世界の支配者になる。それは外のヒトとなった自分がやりたいと願ったもの。別に駒は他にもいくらでも居るから、十分だ。自分を守ることも、支配することも容易いものだ」

 そう言うとレイジは白衣のポケットに手を突っ込んで息を吐く。

「……せいぜい死ぬまで大人しくしとくんだな。ま、悪くなかったよ。お前らとの野球も」

「お前……お前は!」

「あばよ、役立たずども。殺さず見逃してやるんだ。残りの余生を大事にな」

 そう言ってボタンに触れるレイジ。

 すると、ふたりは光に包まれ、一瞬で消えた。

 

 

『格好つけやがって』

「別にいいだろう。本当は助けたかったんだろう、同じ顔をした誰かさんたちを。四番目の地球で救えなかった友人たちを」

 観測室に聞こえるのはひとりの声。

 心の声と対話するひとりの男。

『黙れ』

「四番目は誰のせいでもない。なるべくしてなった滅び。皆が思いやりを忘れたが故に起きた全面戦争とその果て。何かの掛け違いでこれほどのことが起こるなんてな」

 疑問は言うまでもなく、そこだ。

 心の声は答えることなく、話題を変える。

『お前は帰りたくはないのか? 奴らと一緒に』

「俺はいいさ。ここに残る。暴君のお前をなるべく封じなければならないからな」

『馬鹿だな。そもそも憎くは無いのか? お前の歩もうとした青春、居場所とやらは俺がぶち壊したというのに』

 零二は道を選ぶことができた。が、それはもういいと彼は首を横に振る。

「どんな掛け違いでお前みたいなやつが生まれたのか、今はそっちの方が興味があるかな」

『俺も同じだ。ただちょっと不憫なだけのお前の歩み、聞かせてもらうぞ』


 後に第三の世界にて、あらゆる現代の兵器を無効化し世界の支配者として君臨することになる彼は、雪止まぬ不死なる山の頂にてあらゆる観測と実験をし続けるだろう。

 西暦二〇三〇年となった今でも。

 自らを倒すものが現れるまで、ずっと。

 

次回作 マイ・プレイス2

2023年連載投稿開始予定

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