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マイ・プレイス  作者: 国木田エイジロウ
夏の大会編2 激闘! 大阪大会決勝戦!
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第46話 激闘の果て

『さあ、龍山学院、初の全国大会出場まであとアウト一つです!』

『……ついにここまで来ましたか。疲労はかなり来ているでしょうが、お互いベストを尽くしてほしいですね』

 実況と解説もこの試合の大詰めを言葉にのせて伝える。

 無死満塁は併殺でも同点を許す危険があったが、なんとか二死までこぎつけた。

 二番をセカンドフライに打ち取ったとき、航大の気はだいぶ楽になり、三番の堀口はキャッチャーフライに抑えた。

 そして最後の山、多田が立ちはだかる。

(やはり俺たちの勝負なくして、この試合の決着はなかったか……)

 航大は思う。多田もきっとそう思っているはずだ。この二年。ずっと引っ掛かっていたもやもやにはっきりとケリをつける時が来た。

「勝負だ! 大村航大!」

「打ち取らせてもらうぞ、多田……!」

 四番対エース。この試合、最後になるかもしれない対決が幕を開けた。



(小手先の変化球も、直球も使えない。持てるだけの全ての力で抑え込むしかないだろう!)

『大村、第一球を投げました! 多田、見逃してストライク!』

 多田は振らなかった。球速表示は142キロ。それはただの142キロではなかった。

(驚いた……。まさか、ここに来てまだこんな球が投げられるとはな……)

 球数はもうじき130球。航大は、もう限界などとっくの昔に越えていた。

(二球目はどうするか……。緩急をつけてもおそらく対応してくるだろう。多田はそういう打者だ)

 変化球のサインに首を横に振る。

(そうか。やっぱり全力勝負したいんだな。だったらとことん付き合うぜ!)

『第二球。投げました!』

 完璧なコースだった。外角低めの真っすぐ。だが、多田のバットは逃さなかった。

 金属音が響き、強烈な打球がレフト方向へと飛んでいく。

『打った! 伸びる、伸びるー! どうだ? どうだー?!』

 


 審判が両手をブイ字に広げる。ファールだ。

『これは肝を冷やしたか、大村。打球はレフトスタンドファールゾーンへと吸い込まれて行きました。しかし、距離十分。もの凄い打球でした!』

 実況が興奮気味にその様子を伝えている。観客もホッとした感情と、惜しいという両方の感情が入り混じっていた。


(どうする、航大。この調子だと真っすぐは……)

「タイム!」

 中村は航大のもとへ行く。

「……どうする?」

「どうするも何も。全力勝負しかないだろ」

「打たれるとわかってて、か?」

 さっきの球の球速は144キロ。まぎれもなく航大が今投げられる中で最高の球であった。それも打者に打ちずらいと言われる外角低め。それをスタンドまで運ぶ力。特大ファールであったが、飛距離はとんでもない。

 そんな相手に直球は投げづらい。中村はそう考え、航大に訊いた。

「じゃ、どうするんだ」

「もう一歩、先に行く。144キロを超える球を投げてやる」

「……そんな簡単な話かよ。今の球がお前の精一杯だろう」

 航大は首を横に振る。

「できるさ。俺に不可能なんてないさ。それに、最後はやっぱり真っすぐで決めたい。最高のボールをお前のミットに収めたい」

「そうか……。二年前の忘れ物。ようやく取りに行けるな」

 航大は黙ってうなずく。

「よし、そうと決まれば、最後はびしっと頼むぜ、エース! 最後はこの怪物を倒して全国の扉をこじ開けようや!」

「……ああ!」


 試合再開。中村はマスクを被って座り、ミットを大きく構える。

 多田自身も最後の打者にはなりたくない。一年ながらエースで四番を任され、ここまでやってきた。

 多田は航大を睨みつける。おそらく来るであろう直球を狙っている。

(まだだ。まだ終わらない。俺も全力をもってやつの直球を打ち砕く。中村にできたことが、俺にできないわけがない!)

 航大は息を吐く。

(ここまで)

『大村、多田に対して第三球。投げました!』

 


 ミットに響く音。バットが空を切った。

 自己最速を超える145キロの速球。球速以上のノビを持った直球が怪物を仕留めたのだ。


『三振!! 試合終了!! 龍山学院、春夏通じて初めて大阪大会の頂点に立ちました!!』

 ベンチから飛び出す選手たち。全員がマウンドに押し寄せ、もみくちゃになる。

「お、おいおいよせって!!」

 

「やった! 勝ったよ、お姉ちゃん!」

「うん! 本当に良かった……!! おめでとう……」

 大村姉妹は共に抱きつき、喜びを分かち合う。千夏の目には涙。だがそれは二年前の悔し涙ではなく、うれし涙であった。

「……あれ、そういえば男子高校生くんは?」

「……そういえば。居なくなってるね」

 

 球場を去る一つの影。

 そこにもう一つの影が接触する。

「どうだった? 航大を久々に見た感想は」

「元気そうで、安心したよ。まあ九イニング投げるのはきつそうだったけどね」

 影の正体は男子高校生とスーツ姿の大人の男性。その関係性を図り知ることはできない。

「まさか、大阪に来ると言い出した時は驚いた」

「……そんなあなたも、大村航大の様子は気になっているでしょう」

 そう言うのは先ほどまでスタンドに居た高校生。

「だが、俺があいつに会うことはまだ許されない。だからこうして君に直接頼んだ。復活のための力も君に分け与えた」

 その言葉に眉を寄せる男子高校生。

「与えられた力を生かすも殺すも自分次第と言ったのはあなただ。まさかちょっと特訓しただけで、自分の力以上のものが出せるなんて思わなかったけれど」

「多田は失敗作だったが、君はそうならないことを祈っているよ、代々木くん」

 そう言って男性は去っていく。その後ろ姿を見送る代々木と呼ばれた高校生は、一人言葉をこぼす。

「素直じゃないですね、雄一さん。本当は息子が心配なくせに」



 興奮冷めやらぬまま、両校が整列し、礼をした後、互いの健闘をたたえる。

「日下部……。やはり俺は……二番煎じではダメだったか」

「堀口さん……」

 言葉を交わす二人。

 一方、航大はある人から声を掛けられる。

「大村、ありがとう。それと……すまなかった」

 多田辰也。中学、高校と激闘を演じた因縁のライバルでありながら、面と向かって会話するのはこれが初めてである。

「……あれは精一杯やった先の事故だった。それでいいだろ」

 その言葉を聞いて、ほっとしたのか、安堵の表情を見せる多田。

「そうか。そう言ってもらえるだけで今までのつかえていた所がとれたような気がする。ありがとう」

「……またやろうな」

「……ああ」

 立ち去ろうとする航大に多田は言う。

「あ! あと一つだけ言い忘れてたことが」

「……何だ」

「代々木隼人を知ってるか?」



「なぜその名前を……?」

 代々木と言えば、新宿リトルで航大の活躍し始めから入れ替わるように、チームを去った元エース。

 実力はもちろんあり、全国クラスの大会に出ていてもおかしくはない。

 なのでその後、航大が出場した中一での秋の全国大会で見かけなかったときは、代々木は野球から離れたものだと思っていた。

「中学二年と最後の夏。俺は四国代表で出てきた代々木と戦って負けた。それも完璧に。シニアナンバーワン投手の肩書きを持って、一年ながら名門である明王第一高校のエース投手だ。」

 明王第一高校。全国常連校であり、全国大会での通算勝ち数も五〇を超える屈指の強豪だ。そんなチームのエースなど、生半可な実力では成しえない。

 多田によれば、すでに今年の全国大会出場を決めているらしい。航大達は目先の戦いに夢中で他都道府県の動向など見向きもしていなかったため、知らなかった。

「今日、龍山学院側のベンチにも一瞬だけ居た。気づかなかったのか?」

「いちいち応援席なんか見てないからな……。まさか、今日の試合を観に来ていたとはな」

「俺の代わりにあいつを倒してくれ。俺を倒したお前なら、代々木を倒せるかもしれないからな。頼むわ」

 航大は打倒代々木を頼まれた。もし当たれば、今日以上の激戦になることは間違いない。もっと力をつけねば、と航大は思う。

「ま、当たればな」

「そこまで、負けるなよ!」

「はっ、当然てっぺん狙いに行くわ。負けねえよ」

 そう二人は言葉を交わし、多田はベンチへと引き上げていく……。

 


「ーーよくやってくれたな、と思います。選手たちには本当にありがとう、と言いたいです」

 校歌斉唱を終え、優勝監督のインタビューに緊張気味で答える水原監督。無論、インタビューの経験がないためこれは無理がない。

 選手たちは黙ってベンチでその様子を見聞きしている。ある準備をして。

「なあ、まだかな」

「もうすぐさ」

 そのときを待つ選手たち。

「……では監督、ありがとうございました」

「今だ!」

 選手たちが飛び出す。

「ちょ、ちょっと?! あなたたち、一体何を?!」

「せーの!! ワーッショイ! ワーッショイ!」

 監督を胴上げする龍山学院の選手たち。それは間違いなく、最高の瞬間だった。

 全国への切符を手に入れた龍山学院。

 ここに一つの大会が終わった。

 同時に全国大会で頂点を目指すための戦いが始まる。

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