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マイ・プレイス  作者: 国木田エイジロウ
夏の大会編
17/64

第17話 凡骨の逆襲

「どういうことだ?! プロ選手と投球フォームが同じって」


 中村と航大のやりとりを聞いて、日野が言った。


「……投球フォームだけだと思ってたが、違う。球種までそっくりだ」


 木目田きめだ祐樹ゆうき。多彩な球種を操り打者を手玉に取る一流のプロ選手だ。

 手元で曲がる変化球とストレートを使い分ける。


「つまり、俺らが今戦っている投手ってのは……」


「一流選手のコピーってことさ」



 航大は今西に目を向ける。


「大丈夫…ではなさそうだな」


 硬球をぶつけられた今西の左手はひどく腫れている。

 仮に今日の試合で勝利したとしても明日の決勝の出場は難しそうだ。


「すまん」


「気にするな。お前の分まできっちり”お返し”をしてやらないとな」



 1回裏、近畿工業大付属の攻撃に移る。

 マウンドに上がった航大はマウンドの感触を確かめつつ、素振りをする1番打者に目をやる。

 これといって凄みは感じない。いわゆる凡骨である。


「不思議なもんだな」


 マウンドに駆け寄る中村に航大は言った。


「何が?』


「ここまで勝ち上がってくるわけだ。長原のように一流選手をコピーしてるもんかと思ったぜ」


「一流選手をコピーするなんてそう簡単なことじゃない。モノマネ程度が精一杯さ」


 そう告げた中村は守備位置に戻り、1番打者が打席に入る。

 航大は考える。

 相手の打線を抑え、次の回の勢いに繋げたい。狙うのは三者凡退だ。

 その初球。確実に打ち取るべく、速球を投じようとしたその瞬間、打者の動きが目に入った。


 バントの構えだ。


 慌てて駆け寄る航大。それを見て打者はバットを引く。

 判定はストライク。航大はふぅと息を吐き、中村からの返球を受ける。

 中村は打者を何度もチラチラ見ている。彼も想定できていなかったようだ。

 1番打者ならやりかねないが、凄みを感じない打者に油断してしまっていた。


 2球目。コースはアバウトだが、速い直球。

 またバントの構え。航大が走る。

 打者はバットを引いて見逃し、判定はストライク。コースはアバウトだが、速い直球。

 相手は揺さぶりをかけ、航大の体力を削りに来ている。


「それで俺を攻略しようとは。上等だ、とことんやってやる」


 打者に向かって航大は言った。

 対する打者は航大を気にする様子がなく、ただ無言。航大の方を見ようともしない。

 その様子はただただ不気味だった。


  3球目。普通ならここで相手は打ちに切り替えてくる。

 2ストライク時にバントがファールになるとアウトになるからだ。

 またしてもバントの構えだ。


「馬鹿な。スリーバントだぞ」


 相手はお構いなし。当てた打球はフェアゾーン、一、二塁間に転がる。

 プッシュバント。球足が早く、航大は捕球できず内野に任せる。

 取れない打球ではない、はずだった。

 今西から代わった高木。想定外だったのか、捕球できず、外野にボールが転がる。

 二塁に進まれることはなかったが、まさかの形で出塁を許してしまった。



「バントだけでいい。それだけで勝てる」


 監督代理となった男から発せられた第一声に耳を疑った。

 だが、全てはこのときのためだったのだと今なら思う。

 1番打者の口元が緩む。


「次はお前の番だ、大村」



 2番打者が打席に入る。今度は最初からバントの構えだ。

 航大は初球を投じる。

 航大がこちらに走ってくるのを確認した打者はバットを引き、スイング。

 一塁ランナーも走る。だが、これは単なるバスターエンドランではない。

 航大をマウンドから強引に引き摺り下ろすための次の一手。

 打者の目、打球は航大を捉えていた。


 だが……。

 ボールは航大のグラブに収まり、ボールは瞬く間に一塁に転送される。 

 ダブルプレーだ。


「そんな馬鹿な……。まさか読んでいたのか……?」


 至近距離での反応速度。やはり一筋縄とはいかない選手だ、と日野監督は唇を噛む。



 バント攻撃は続くがうまくかわし、しのいでいく航大。

 両チーム、ランナーは出すが、得点に結びつかない攻防が続く。

 ただ、龍山学院は押され気味だ。 

 時折見られる、相手を潰しにかかる行為。試合に出ているメンバーも注意しているが、航大以外の選手は思い切ったプレーができなくなっているように感じる。


「まずいな」


 日野の言葉に反応する日下部。


「どうした。何かに気づいたのか?」


 ベンチで会話する2人。


「親父がやりそうなことだ。あいつの勝利に対する姿勢は異常なものがある」


 相手の監督は日野の父親。ついこの前まで龍山学院の監督だった男だ。

 2年やわずかな関わりしかない1年のことも知っている。

 卑怯ではあるが、鍵谷や今西を土俵から下ろし、起爆剤を不発させようとしたのだろう。

 事実、今西が交代し、打線と守備に穴が空いた。


「勝利に対しての執念…か。歪んでるな」


「だが、今は1年たちのことだ」


 日野はグラウンドに目を向ける。

 守備、投球で手を抜いているようには見えない。おそらく航大は全力のプレーをしている。


「このままでは9イニングどころか中盤でスタミナ切れだ。それに……」


 本人はまだ気付いていない。この試合の本当の意味を。


 

 一流選手のコピーである想定外に手間取って得点できない龍山学院。

 ほぼ全力投球の航大。5回を終え、両チーム無得点。

 バントを仕掛けてくる相手に対し、投球するごとに走る航大。

 援護がなく粘りの投球だったが、ここに来てボール球の割合が増えてきた。

 今日初めての四球。ノーアウトでのランナーを出してしまう。

 肩で息をし始めた航大。球数は間も無く100球に達しようとしていた。



 バスターで打球が高木の元へ。

 セカンドの定位置。慌てることは何もない。高木は捕球態勢をとる。



 ……まさかだった。ボールは高木を無情にすり抜けていった。

 凡骨と思っていた相手が航大たちを苦しめる。相手に敗れた選手たちも同じ気持ちを味わったのではないだろうか。

 ランナーが初めて3塁に到達。何とかカバーに入った鍵谷の送球で本塁を踏まれることは防いだ。

 だが、全員の顔は沈んでいた。


 タイムがかかり、ベンチを飛び出してマウンドに向かう背番号11。日野だ。

 内野全体が集まる。

 日野が言った言葉。集まっていた全員に衝撃が走った。





「大村航大、マウンドを降りろ」

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