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エピローグ

 私がこのクロネコで過ごした時間は非常に密度が濃くて、まるで何十年の出来事のようにも感じる。実際に、梢さんは何度も同じ世界をやり直すことで数年の月日を過ごしていたとのこと。それが過ぎたあまりに、私をはじめとする人物が何を考えているのかを覚えていたとは梢さん談だ。心が読まれていたわけでも何でもなかったとは、どこかガクリとくる。梢に覗かれたときに映写機を連想していたのは、人の思い込みによるものという。なんとも情けない結果だ。

「……結局、なんで夢幻回廊は暴走したんだろう」

「まぁ、色々想像は出来ますが決定打にはかけますね。母さんも別に気にしなくていいと言ってますし」

「……納得がいかない」

 零たちにはこの壮絶な戦いのことを知らせていない。知らせることも考えたが、余計な気遣いを彼らが起こす可能性を考えれば、伝えないという答えが一番正しいように思えた。なのでこのことを知っているのは私と梢さんの二人だけ。それとユウも実は知っているらしいということを聞いているが、私からコンタクトをとる方法がないため確証はない。

 とにかくこの世界には知らないほうがいいこともある。

「光さんは何かわかりましたか?」

「私はわかんないよ。でも、一つ確かなのはみんな無事にすんでよかった、それだけだよ」

「そうですか」

 おそらく零くんの中では夢幻回廊の事件が無事に済んだと伝わっていることだろうが、私が考えた無事は、時空の砂時計に関する事件のことである。結局は全てがなかったことにするというある意味夢落ちのような展開だったけど、それですんだのならいい。

「……ねぇ。お姉ちゃんはお母さんどこいったか知ってる」

 心ちゃんがきょろきょろとしながら尋ねてくる。彼らは学校から帰って来るなり、そんな議論に花を咲かせていたため今まで、本当に気がついていなかったようである。

「んー、お墓参りに行ってくるって」

「お墓参り……? 父のですか?」

「そう言ってたよ。思い立ったら吉日って」

「……墓参りの吉日?」

 確かにかなりの矛盾を感じる発言であった。なお、六曜でいえば今日は友引である。

「まあ、あの人の思考回路を想像しても無理じゃない?」

「それも、そうですね」

「……うん」

 子供たち二人にそう断言されるのも少々かわいそうではあるが、それは自業自得ともいえる。ただし、あの性格になったのは絃さんがいなくなった分無理に頑張ろうとしたせいであろうが。何はともあれ、梢さんもようやく前に進めるようになったわけだ。

 そうなると私の存在意義もなくなるのではと不安に駆られる。別段私がいなくても回る『クロネコ』、そして『黒猫』。平和だけど恐ろしい毎日。

「まぁ、いっか」

「どうされました?」

「ううん。さーてお仕事お仕事」

 顧客データや道具の手入れ、やるべき事はたくさんある。ここでうだうだ悩んでいても仕方がない。

 幸福は有限かもしれないが、それでも自分は誰かの幸せも求めていこうと考えている。

 そして今日もだれかにこの一言を伝え続けるのだ。

 ――――あなたに幸せを。

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