幕間
「不穏ってどういうことですか?」
私は、いつもの朗らかな雰囲気を落として真剣な顔つきの梢へと問いかけた。
今日『黒猫』へ訪れてから、妙に梢さんはソワソワしていた。そしてふと、私に不穏だとささやいてきたのだ。その唐突な流れに今更突っ込むことはないが、何が起こっても飄々としていた彼女が不穏というのが気になる。
「そのまんま。なんていうか、気の流れがおかしい気がして」
「はぁ……それで、どうなるんですか?」
「うん、ちょっとクロネコの倉庫の方へ行ってみようと思う。着いてきて」
「えっ? でもレジとかは……」
ちょいちょい私を手招くが、店番が残っている。確かに現状お客さんはいないが突然にやってくる可能性だってある。
「そんなのユウに任せておけばいいから」
「いや、出来ないでしょ!?」
思わずツッコミながらも手を引かれるので仕方がない。
そのままクロネコの倉庫へと向かうと、思わず吐き気が体中を襲う。ひどい倦怠感、めまい、血の巡りが悪くなる。
「しょ、梢さん。ストップ……うぷ」
「やっぱり、憑かれやすいから光ちゃんは、反応も如実なんだ……それに」
「それにって……。あっ、だめ」
タッタッと駆け出し離脱。口中が酸っぱい。過呼吸気味で体もしんどい。自分の腕を噛んで二酸化炭素を手に入れる。なんとか呼吸だけでも落ち着かせることに成功はするが、まだ体は重かった。
「な、なんなんですか、これ」
「わかんない。気の流れがおかしくなって……うぅん。とりあえず封印強化をしておくから今日はもうあがっていいわよ。ゆっくり眠れば大丈夫だから」
その言葉にさすがに嘘はないだろう。それに突然吐き気や過呼吸が起きたと病院に行っても仕方ない。もしものときは『クロネコ』が守ってくれるだろうし。
「はぁ、なんかこの吐き気ってデジャヴュ感ありますよ」
「大変だからね、色々。光ちゃんは」
「うぷ……すみません。おいとまします」
ふらふらと私は歩き出して黒猫を辞する。幽霊の憑きやすい体質だと言うことは理解しているけども、実際にこうなってしまうと恐ろしさも感じる。
「ふぅ……そう考えたらユウって害もなかったし、見えさえすれば全然怖くないな」
再びもよおしそうになる吐き気と戦いながらアパートへと戻る。後ろを振り返る。特別何かが変わっている様子こそみられないが、もしも私のように心霊に弱い人間が『黒猫』を訪れ、巻き込まれたらと思うと、少しだけ心配になった。




