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31話 自然教室9 合理的な俺の不合理な感情

「は?」


見附柚子の間抜けな声が漏れる。小ホールには俺と、見附グループ4名だけ。所謂後日談、というか今回のオチ?である。


『だから…全部ハッタリだって言ってんじゃん。大体動画なんか撮ってる暇あったら普通に助けに行くっての。ガバガバトリックで笑い者なんだけど』


「………じゃぁ…教師には何も…」


『そもそもやったことはただの悪戯みたいなもんだし、肝心の青海川が何も見てないって言ってるから言う意味がないしな。本人に謝るかどうかについては見附、お前らが判断しろ。取り敢えずこの件はなかったことにするから』


「………なんで、、そこまでするの?」


『あ?』


「あたしは、青海川さんを見捨てたのに………こんな………」

見附の虚ろな目は俺を見ていない。そこには反省と、罪悪感と、そして俺に対する疑惑の意が込められている。いや、そんなことは心底どうでもよかった。俺は、見附柚子なんて人間がどうなろうと知らない。見附柚子だって、俺がどうなろうと知ったことではないだろう。だから…その目を見て一つ、あることが思い浮かんだ。まだ相川への思いを引きずっているであろう見附柚子と、青海川来夢の今後の関係。見附柚子の敵意を少しでも分散させるには。答えは簡単だ。



見附柚子にとっての「敵」の設定。




俺は、悪意を吐くことに関しては多分最強だ。だから友達が居ないっていう自覚もあるし、実際そうだったのだから仕方ない。人の言動には悪意を乗せてカウンター、というのが俺のコミュニケーションの基本手段。逆に言えばそうでなければうまくコミュニケーションが取れない。だってそうだろう?今まで俺に対して好意的に接してくれたやつなんていなかったのだから、必然的に、馬鹿にしに話し掛けてくる奴らには悪意でしか返せない。ここで見附柚子に大いに嫌われれば、俺の周りは、また中学の時みたいな反応になるだろう。それはわかっている。


でもそれで、青海川来夢への悪意の負担が少しでも減るのなら………丸く、上手く収まるなら。







なんでこんな必死なのかは全く分からない。


青海川来夢が特別だから??


誰の?


何が??


何も分からない。だけど俺は、、少し怒っているという自覚があった。


それだけで?


馬鹿じゃないのか?


お前はもっと合理的な人間だろう?


俺の頭の中で葛藤が起こる。考え直せ、お前は何が欲しかった?平穏に、誰にも敵意を向けられない、ただただ平坦な日々……


その中には、、青海川や月潟が含まれているのか??

『……………俺は』

『東夜!!』

聞き慣れた声。いや、出会ってまだ間もないけれど、この学校の中で一番よく聞く声。後ろには、青海川来夢が如何にも走ってきたような様子で立って居た。

『よかったぁ、早めにきて正解だったぁ。なんか変な空気だったもんね』


『おまっ、、なんでこんな早く…』


『見附さんがどうのこうのってずっと言ってたし、なんか僕だけ知らないの気分悪いし』


『いや、だからってなんでこの時間が…』


『スマートフォンの講義が始まるまであと10分、終わったらもう約束の時間。短時間で他の棟の行き来は面倒だし、逆にどこで見附さんと接触するのさ。僕そこまで馬鹿じゃないんだけど……』

唖然としてしまった。でも見るからに汗をかいて、フラフラな足取りを見る限り、少し走り回って探したんじゃないかと思う。ここは青海川に約束した小ホールの一個上の階の小ホールだから。


『それで、これは一体……』


「あ、あのさ、青海川さんっ!!」

見附が決心したように前に出る。そして


『へ?』


「あの、あ、あたし、あたしさ、、」


………


………………


…………………………


……………………………………


『これでよかった?』


当初東夜と約束した時間だ。あのあと、講義が始まるからと言って、見附グループと東夜は一階の講義室に向かうこととなった。僕は、というと、保健室に戻ってあの先生にこっ酷く叱られた。やっぱあの人カウンセリング担当じゃないよね!?


『結局相川関連の嫉妬から始まって、お前のクールな面を剥がしてみたかっただけってことか……アカギが駆り立てたとはいえ他にやり方あっただろうに…』


『見附さんが芳樹に好意を抱いているっていうのはまぁ前から大体わかってたから、なんとなくそうなのかなぁって……』



『よく笑って許せたな。言っちゃなんだが、あんな状況になって見捨てられたんだぞ?』


『うーん、別に。ちょっとした悪戯に逆に敏感になりすぎ、というか』


『えぇ………(困惑)』


『それに……』

青海川が俺を見上げる。少し弱々しい表情だが、それでもその笑顔は、太陽のように眩しい。


『東夜が助けてくれたからね!ありがとね、東夜っ』


屈託のない純真な笑顔。穢れなど知らぬと言わんばかりの純粋な心の持ち主。本当に彼女は、太陽のような人間だ、と形容するしかない。この笑顔だけで、なんというかまぁ、今日の疲れがとれる気がしないでも、ない。


『………も、戻るか。そろそろ晩飯だし…』


『うんっ!戻ろう戻ろう!』

嬉しそうに俺の横に並ぶ青海川。この距離感が俺にはひどく近く感じる。青海川としては友達と接するような距離なのだろうが、俺としては相手はアイドル級の美少女なのだから、なんとも接し辛い。

『今日のご飯何かなぁ。すき焼きとか出たらいいのにね〜』

『……ひ、ひまりヶ丘高校にそんな予算ねぇだろ』

『仮にも私立校ならご飯くらい豪華にしてくれてもいいのにね〜〜』

『その分次のスキー合宿では豪華な飯が出ることを期待するか…』

『先ずは晩御飯を期待しようよ〜』

『……予想してやろうか?多分朝となんも変わらないバイキングの飯だぞ』

『あ〜〜デザート争奪戦が楽しみだねっ♪』

『誰なんだよ、女子が多いこの学年のデザートメニューを抹茶ティラミスにした馬鹿野郎は…』

争奪戦が苛烈すぎるんだよなぁ。女子は大抵抹茶が好きだったりするから……





そんな穏やかな時間は、つつがなく過ぎて行く…。俺は自分を合理的な人間だと思ってる。だけど青海川は、青海川来夢は、俺にとって特別なのかもしれない。だから、彼女のためなら俺は不合理なことだってするかもしれない。それが何故なのかは、まだ分からない。


…………


…………………


…………………………

2人の男女が小ホールを出ていくのを眺める影が一つ。正式に言えば影ではない。見えてすらいない。神なのだから、通常の人には見えない。


『カラ、カラカラカラッ、青海川の末裔に、笹神家のガキときたかっ、カラカラッ。面白いこともあるものじゃのぅ』


ククリは笑う。嗤う。とても歪んだ顔で嗤う。自身の運のなさと、自身の運の良さをいっぺんに受け入れ、嗤う。


アカギが消えた。また自分を知る人間が減ったことを内心では嘆きつつ、そもそもアカギの存在自体を忘れていたことを思い出し、嗤う。いや、忘れていたなんてものではない。知らないのだ。「ククリ」は、アカギという人物と邂逅したことなどない。それは神の記憶。かの忌まわしき記憶。


『カラカラッ、本当にこの土地は呪われておるのぅ。一体誰のせいなのじゃろうなぁ、カラカラカラッ』


自らの願いを託す少女を見て、笑う。その顔は和やかなものであるが、内心はある望みで満ちている。アカギ同様、ククリには青海川来夢が必要(・・)なのだ。


『どうか踏み荒らしてくれるでないぞ?笹神の末裔』


小ホールには、カラカラッという笑い声だけが響いている。それは、2人の男女にすら聞こえることはなかった。









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