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30話 自然教室8 それは所詮客観的なモノだから

体が軽い。何故だろう、とても温かいものに包まれている感覚を覚える。そこは水の底、海の底、深くて暗くて、本来は底は見えないであろう所。だけれど、その暗闇の中であろうと僕は、確かに温もりを感じることが出来る。これは、僕の記憶なの?それとも………誰の記憶?







『起きたか?』


『ふぇ?』

揺ら揺らと揺られる。揺さぶられる。誰かに背負われて、運ばれている。それが誰かと理解するのに時間はあまり要さない。

『と、東夜!?』


『煩い騒ぐな重い…』


『ちょ!!仮にも女の子に向かって重たいはないんじゃない!?』


『じゃぁ、騒ぐな痛い肩が痛い……』


『じじいかよ…』

東夜の背中に体をもたれかけていることが、ひどく恥ずかしいことのように思えるも、今の自分の状況を咄嗟に確認する。出血していた足首には包帯が巻かれ、落ちた時にかすった指の所々には綺麗に泥を拭き取ったような跡がある。それから消毒液臭い。まだ右足がじんじんと痛むが、これはおそらく捻挫であろう。僕は今、治療されてから運ばれている。

『あ、えと、、その、治療してくれたの?』


東夜はこちらを振り返りもせず、

『別に………流石に見てて痛々しかったし』

と一言。その不器用さに思わず笑みをもらしてしまう。いい奴、だね


『そっか………ありがと…』

『ん……どうも』


なんというか、その、東夜の背中の居心地は、思ったより悪くないものであった。心が落ち着く。不器用な少年の不器用な足取りがまた心地よい。

『てか、前になんでリュック抱いてるの?それが重いんじゃない?』


『両方だ。こっちのリュックと青海川の比率を考えたら正直1:2くらいだな』


『あくまで僕が原因か!!』

東夜は何故か迷彩柄の大きなリュックサックを前にかけていた。救助用具的な奴であろうか?

『…アカギのことは見たか?』


『アカギ?誰のこと?』

航空空母ですか?ボーキサイトなら持ってないぞ


『…………まぁ、いいか。それより、青海川。お前は白場合戦についてどれだけ知ってる?』


『白場合戦?うん、昨日苺が語る前から知ってはいたよ。北國太守【清原郷衡(きよわらのさとひら)】と東国将軍家との戦いの1つだよね?確か清原家が東国将軍家の離反者を庇い、使者を斬り殺し、下野の御家人を1人暗殺したり、みたいなことが重なって、朝敵の命が降って東国将軍家が宣戦布告したっていう』


『その時、白場家は清原家の味方をして、、東国将軍家と戦った。そして、清原家と共に滅び、朝敵 逆賊の汚名を着せられ、その歴史は長く抹消された。これが史実通りだ』


『それが、どったの?』


『……それが、あいつに背負わせてきたことなのか』


『?』

東夜がぼそりと呟く。それから、何か決意したような眼を僕に向けた

『その白場家の無実を証明する証拠が見つかった………俺はなんとかしてこの事実を残したい』


『!?へ!?ホワッツ!?証拠品!?』

い、いきなり何を!?無実って?てかいつのまに!?


『これが世間に出たところで、所詮一地域の小さな歴史が暴かれるだけだ。それでも俺は、、そうしたい。そうしなければならない』


『…………』


『青海川………協力してほしい。新聞部で、俺たちでなんとか証明したい。せめて、この街の人たちだけでも、正しい歴史を知っていて欲しい』

東夜が何に必死になっているのかはわからない。けれど東夜はそれをやりたいと言った。どうして?いや、それはどうでもいい。僕は、この少年に、僕を何度も助けてくれた少年に何かしてあげたいと思う。何か返さなければならない。だから、

『……………それは、東夜一人じゃ、出来ないこと?』


『………というより、お前に必要なことだ。いや、まぁ具体的には社会の先生に要相談だから、実質俺らは記事書けばいいだけなんだけど……』


『??』

理由はわからない。けれど、理由は果たして必要なのか?僕は馬鹿だから、難しいことはわからない。僕に何が必要で、東夜が一体何を知っているのか、そこには東夜なりの考え方があって、僕は彼に恩返しができればそれで良い。それにもう1つ。ククリは何時ぞやの時僕に、

『この街の人間には正しい歴史を知って欲しい』と言っていた。これが何を意味するのかはわからないけど、、それは彼女、ククリを知る為にも必要なことのように感じられる。


嗚呼これはただの理由付けだ。僕はきっと、出雲崎東夜という人間を知りたくて、何か返せれば良いなって思って、僕を知って欲しくて、だから、手伝いたいって思ったんだ


なら、答えは単純だ。



『………必要…………そっか。よくわからないけどこの来夢、恩返しをさせて頂こうと思います!』

考えるのをやめよう。同じ部活の仲間が、話のタネを持ってきた、それくらいで考えておこう。それに、ちょっと面白そうだ。

『……そっか。助かる』

東夜は未だ前を向いたまま答える。表情はわからないが、多分柔和な表情してるんじゃないかと勘繰る。

『えへへ、この照れ屋さんめ。ほれほれ、そのリュック僕が持ってあげてもいいんだよ〜?』

ほっぺを後ろから突いてやる。意外とプニプニしててびっくりしてしまった。ニベ○か?ニ○アなのか?


『………落とすぞ』


『うっさい。あ、今変なとこ触ったでしょ?』


『な!?さ、触ってねぇ……てか、それを言ったら、胸………』


『???』


この時、来夢の成長中のお胸が東夜の背中にバッチリ当たっていたことを東夜は声高にして叫んでやりたかったらしい。鈍感な来夢ちゃん、まったく気付かず………









『あ、そうだ。それともう1つ、見附柚子のことを許してやってくれないか?』


『ん?ムダ毛女?なんかやったの?』


『…………目撃証言なしとかマジかぁ』


『ふぇ?』

東夜は何かを考え込むようにして、まぁいっか!みたいな顔に戻ると、再び山道を降り始めた。もうすぐ宿泊棟につく。

『いや、何でもない。あとはこっちでなんとかするわ。あ、ほら、月潟が手振ってんぞ』

『ホントだ!アリアーー!!!』

宿泊棟入り口のアーチの前で、アリアが大きく手を振ってるのが見える。やばい、超可愛い

『そだ、お前、取り敢えず記憶がないってことで済ませておけ。色々説明面倒いだろ?』


『え、東夜説明してくんないの?』


『え、ヤダよ部屋で休みたいし……』


『…………………』

ジト目ーーーー


『こっちも色々あんだよ……ほれ、先生出てきたら面倒だから、俺先行くわ…』

そう言って、東夜は宿泊棟の入り口まで全力疾走の構え………アクション!!

と、気づけば先生と入れ違いに、東夜の姿は見えなくなっていた。コンチクショウ、覚えておけよマジで


…………



………………………



………………………………………

その後の流れはあまり話したくはない。まずは保健室のような所に連れていかれ、そこで追加の手当てを受けた。手の出血具合がアレだったが、東夜の応急処置のお陰だろう。このくらいならすぐ治りそうだ。因みに初期手当ては自分でやった、ということにした。なんかワケありっぽいし今のところは見逃しといてやるぞ東夜!


で、、手当てが終われば

『来夢ーーーー!!!!!』

『あ、アリア、心配かけて、、ぶぎゃぁぁぁ!!』

アリアの突進………ノーマルタイプなのに効果は抜群だった。すいません僕怪我人です…

『しんっぱいっっっ!!したんですわよ!無事で良かったですわ!』

『…う、うん。ごめん。わかった、わかったから』

『うぁ、うぅぅ、グスッグスッ』

『ストップ!ここで泣くのはやめて!ほら、いい子だから、ね?』

『うわぁぁぁぁぁぁぁあん!!来夢ぅぅう!!!』

『あぁ、もう、涙と鼻水でぐちゃぐちゃじゃん………でも、ありがと、、ね』

何故か号泣するアリアの頭を撫でていると、僕もなんだか泣きたい気分になってくる。なかなかに怖い思いをしたし泣いてもいい気がします





そんな中、突然保健室(仮)のドアが勢いよく開き、1-2の女子たちがなだれ込んでくる。目が怖し…

『来夢!!我は心配したぞ!!』

『来夢〜〜痛いところとかないかしら??』

『うわぁぁぁぁぁん!アリアがくっついてるからあたしもハグするぅぅ!!』

汽笛、真知と続いて、苺一等兵がさらに突撃!!痛い痛い重い重い!

『ああぁ、来夢のおっぱい落ち着く〜〜』

『やぁぁぁ!!なんで揉んでるの!?ちょ、怪我人!僕怪我人!!ひゃぁあぁっ!』

苺の怒涛のテクニックが炸裂!あの、なんか慣れてるっぽいんですが、過去に百合った経験でもあるんでしょうか、、ひゃぅぅ!!


『やっべーー、マジで心配したわー。来夢無事で良かったっすわー!こりゃ、夜はクラス会っしょーー!来夢の無事祝うべ!!』

うわ、何言ってんだ。てかうるせぇい、保健室(仮)だぞここ!

「こら越路敦、保健室だ、静かになさい」

『あ、了解っす…』

だせぇ…

『あのさ、、青海川さん』

『ん?』

話しかけてきたのは、僕に敵意を持ってた女子「見附柚子」である。何か気まずそうにしているが…

『出雲崎から、、なんか聞いてる?』

『?東夜??いや、別に何も……』

…………そういえば東夜は、見附柚子がどうのこうのっていってたっけ。もしかして……

『そっか、、変なこときいてごめん』

『ううん。気にしないで、それより……』

ガラッ!!!



『来夢!!!』

来客が多いなクッソ!!今度は誰だってか静かにしろよ!って思ったら芳樹でした。表情が必死すぎて怖いんだけど…

『ちょ、、芳樹どしたのその表情??なんかウケる………!?!?』

突然、芳樹に抱きしめられる。途端、後ろの女子たちから黄色い声が上がり、保健室はザワザワし始めた。あれ、いつの間にかアリアやら苺やらがいないんですが、アレルェ?

『あ、えと、よしき?』

『……ごめん』

『……え?』

芳樹の身体が震えているのがわかる。前も、僕が溺れた時も、芳樹の身体は震えていた。それが、その源が罪悪感なのはよく知っている。芳樹は今、僕を助けに行けなかった自分を責めている。そういう性格なのを僕はよく知っている。


吹き付ける風によってギシギシと軋む窓の音が部屋に響く。静かなひと時、誰も言葉を発しない。第三者からみれば、客観的にみれば、僕と芳樹のそれは恋人のように見えてしまうのかもしれない。だけれど、僕はそれを忌々しく感じてはいない。もしそれを忌々しく感じる時が来るとすれば、それは僕か芳樹に、心から好きになれる人ができた時だ。その時まで、僕も芳樹も、周りのことなんてどうでもいいと思えばいい。そりゃあ、ちょっとてか結構恥ずかしいところはあるんですけどねぇ…

『ん、芳樹長い……暑いから離れて……』

『な!?ら、来夢?』

『馬鹿か、そんなんで友情崩壊するような付き合いじゃないでしょ。てかどうせ先生に止められたでしょ?逆に探しに来てたら怒ってたからね?』

『うぅ、すまん…』

『わかりゃいい。あの、後ろのお嬢さん方、、勘違いはしないで頂きたいのであとは若いお二人にとかいう感覚で退室しようとしないで…』

芳樹ファンクラブのお嬢さん方の顔がF ○で有り金全部溶かした顔になってる……あびやーー


『ふぇぇ!?い、いいよ!そのままそういう行為に入っても!あ、あたしは最後まで見届けるよぅ!!』

『いや、ならないし…てか見届けるんかいっ』

苺は処女説……


『あ、あなたが芳樹さんですの?』

『あ、芳樹。こっちは月潟アリア。僕の友達』

『あぁ、知ってるしってる。ハーフの子だから噂になってるしな。俺は相川芳樹!よろしくなっ』

『えぇ、負けませんわよ!』

『なにが!?』

アリアが一方的に火花飛ばしてるなぁ……なんでだろ…


「ほら出てった出てった!人が多くてかなわんよ、、青海川以外は出てけ」

保健の先生ちょっと怖い……。鶴の一声で、顔が溶けた生徒たちが次々と退室していく。男子の顔が特に歪んでいたのはなんでなんだろ?芳樹のこと殺しそうな顔してたわ…


『じゃあ、待ってますわね』

『ん、ごめんね?多分夕飯にはいけるかも。それまで確かスマートフォンに関する講演会だっけ?ラッキーー』

『むぅぅ、ずるいですわ。わたくしも看病するという名目で…』

「叩き出すぞ月潟」

『い、行って来ますわ!!』

この人カウンセリングも担当してるんだよね。なんでこんな怖いの??


『あ、そうですわ…』

『ん?』

『東夜が、夕食前に話があるって言ってましたわ。場所は、オリオン棟の二階小ホール』

『!?わかった、ありがとねアリア』


それじゃ、それまで寝ますか…………


と、布団を被ってから、先程の芳樹とのやりとりで顔が真っ赤に染まるまでそう時間はかからなかった。うん、勘違いは一歩ずつ解いていこう!!


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