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29話 自然教室7 大好きだよ、お兄ちゃん

『こんばんわお兄ちゃん。いい朝だねっ』

少女が屈託のない笑顔でそう語りかけてきた。

『…………時間感覚狂ってんな』

『あははははっ!お兄ちゃんイケメンさんだぁ!アカギ好みだぁ!あはははっあはははっ』

無邪気に笑う少女。恐らく、恐らくなのだが、、

『………お前は、、人間?』

『違うよ。カミサマだよ。この山のカミサマ。アカギっていうのっ!よろしくね♪お兄ちゃん!あはははっ!あはははっ!』

さらりといってのけた。それだけに驚くこともなかったし、疑うこともなかった。こんなところに、、こんな古い着物をきた女の子がいるなんてこと、あるわけ無い。この少女は生きた人間ではない。

『あはははっ!イケメンのお兄ちゃん、おっぱいは?あ、間違った、おなまえは?』

絶句……

『……いや、その間違い方はおかしすぎるだろ…東夜だ。出雲崎東夜』

『あはははっ!東夜、東夜お兄ちゃんだねっ!あはははっ。お兄ちゃん怖がらないんだね。ここに迷い込んだおじさんたちは、みんなみーんな、怖がって逃げていったんだよ?』

『………いや、怖いけど、、そう思う前にお前の方が警戒を解いてくれてるからな。なんでか知らんけど』

『うん、だって東夜お兄ちゃんは、あの女の子を助けにきたんでしょ?』


…………ビンゴらしい。多分この子は何か知っている。いや、答えすらも。

『悪意あって立ち入ったならまだしも、悪意の犠牲者を連れて帰りに来たならアカギは何もしないよ?あと東夜お兄ちゃんが好みだしっ!』

『そいつはどうも。で?案内してくれるのか?』

『任せなしゃいっ!えへへへ〜お兄ちゃんとお散歩〜〜』

なんでいきなり好感度マックスなんだ。ラノベか?ラノベの主人公なのか?

『お兄ちゃん、知ってる人の血が混じってるからね。笹神(ささかみ)家の親戚かなんかでしょ?』

『………………母方が笹神(ささかみ)家だ。知ってるのか?』

『ちょっとお世話になったからねぇ。かれこれ800年くらい前に』

『カミサマ歴長えな。これが世に言うロリババアというやつか……』

『あ?ババア?』

『ごめんなさいなんでもないです…』

豹変した………怖すぎるこのカミサマ






どうやら沼地を避ける抜け道があったらしい。少女はこの山のことならなんでも知っている、と言わんばかりの自信満々な歩みで、軽やかに進んでいく。そこそこ体力のある俺でも、それについていくのに必死だった。

『お兄ちゃん、こういう経験多いの?』

『………お前みたいな存在とは何度かあってるぞ。だから俺の家には盛り塩とホウ酸団子が置いてある』

『ふたつめのは関係なさそー。でもそっか、お兄ちゃんは怪異に触れやすい体質なんだね』

『笹神本家がな。俺はある意味その恩恵というか、呪いを受け継いだというか……』

『すご〜い、それなんか言いようによってはかっこいい〜』

『ああ、言ってて俺も厨二くさいと思ってしまった』






通る道は赤い。ひたすら赤の道。草木も、石も、川も、みな赤い。そして少女も。

『アカギね、、お姫様なんだよ?』

アカギがポツリと呟く。とても切なそうな声でそう呟く。

『昔ね、みんなに囲まれて、楽しく暮らして、遊んで、家族とも仲良くてね、、東夜お兄ちゃんみたいなお兄ちゃんもいたんだ〜』


『そうか……』

『でもね、みんな死んじゃった。みんなみんな、アカギを守るために死んじゃった。お兄ちゃんは、目の前で死んじゃった。でも、みんなみんなアカギの一部。アカギの森の一部なの』






………あぁ。分かった。分かってしまった。少女がなんなのか。この森と同じ名前の少女、というより、少女と同じ名前の森だったのだ。恐らく少女の本名は………

『あはははっ、白場赤城。それがアカギの名前。お兄ちゃんすぐ見抜いちゃうんだね』


『白場家………』

『うん、だからアカギはカミサマになったの。誰もいなくなっちゃったけど、アカギまでいなくなっちゃったら、みんなの歴史は残らないからね。東国軍の、なんて言ったっけな?北条のなんちゃらって言うのがこの地の記憶から白場を抹消したの。だからね、アカギは歴史を守る義務があるんだ』

アカギは、恐らく死んだのだろう。だけど、歴史を残すために、死んでも死に切れなかった。自分たちが生きた証が残らないことほど怖いことがない。それは、自分たちの生を否定されることと同類だ、そうアカギは考えたのだ。それこそ、カミサマになるくらい恐ろしかったのだ。


『北条のなんちゃらの所為でこんなに生きちゃった。あーあ』

少女は笑う。きっと少女はもう限界なのだ。疲れたのだ、守り続けることに。800年間という長い時間の重みは、俺には分からない。だから、俺も少し微笑んで言う。

『北条ね…くそ覚えづらい鎌倉期の天敵だよ。最期は確か盛大に滅亡したんだっけか?』

『ほんと?それ最高だね』


少女は期待している。歴史の語り手が、自分の代わりになってくれることを。 だから、縋ったのだ。多分何年も前から縋ったのだ。そして誰も答えてくれなかったから今日、強行手段にでた。


『この霧は、お前のか?アカギ』

いきなり核心をつく質問をする。アカギはそれをどこか予想していたらしい。

『お兄ちゃんは賢いんだね。そうだよ、アカギの霧だよ。ちょうどカミサマを連れたお姉ちゃんがいたから、その子に悪意を持ってた子に使っちゃった。きっとあの子もそこまで悪意は持ってなかったんだと思うなぁ。あはははっ、利用しちゃってなんだけどね』


歴史の語り手としてのカミサマ、自分に気づいてくれる人間に歴史を語り、自分の役目を果たし終えて成仏する。それがアカギの願いだと思う。アカギはこの歴史が、白場家の歴史が正しく伝わることを望んでいる。それを伝える人が訪れることをずっと待ち望んでいた。だから女子部屋で幽霊騒ぎを起こし、見附柚子の悪意を操って、自分の力で青海川来夢をこの崖まで誘導したのだ。最初に悪意の犠牲者がどうのとか言っていたが、それも全てアカギによって仕組まれていたのだろうな。





『だけど、お兄ちゃんがきて状況がかわった。別に誰でも良いんだ〜。アカギのこと見てくれて、アカギの話を聞いてくれて、アカギのこと怖がらないでくれて、アカギの望みを叶えてくれるなら。ほんとはあの茶髪のお姉ちゃんにやってもらおうと思ったんだけどね。なんて言ったってククリが付いていたんだし。でも、自分の意思でアカギに会いにきてくれた人は初めてだから、、アカギは、お兄ちゃんに語り手になってほしいなぁ』


アカギは、期待して、それでいて不安そうな目でこちらを見る。長年裏切られてきたのだろう。だから疑う。そんな目でみるなよ、俺はその目がすごく苦手なんだ。なんて理由づけしてまで叶えてやろうと思ったのはきっと、アカギが西蘭(せら)の小さい時に似ていたからに違いない。きっとそうだ。


『青海川が行方不明になって、見附があんな行動に出て、おかしな霧が出て、何かおかしいと思った。お前みたいな奴が、何かしていると思った。でも、青海川を助けにきたのが本目的だ。お前の目的を果たすのは、そのついでになる』


『……うん』


『俺はまぁ、その、新聞部っていう部活に入ってるんだ。なんでも、この街全体に新聞はれたり、上に色々怪しいコネのあるような伝統的な部活らしい』


『あはははっ!それじゃぁ』


『……まぁ、そんな顔すんなよ。上のお偉いさんに読んでもらえるような、良い文章書くさ。800年越しの真実、全部聞かせてくれ』



アカギの目から、赤ではない涙が零れおちる。草木が揺れ、徐々に霧が晴れていく。赤い葉がハラハラと地面に落ちていく。それはきっと、待ち望んだ言葉。朝敵、逆賊、そう呼ばれた白場の姫が欲しかった言葉。


『……………本当に……本当に……ありがとうね。お兄ちゃん』


何年も何年も期待し続けた少女の涙は、とても重い思いが詰まっているに違いなかった。


………


………………


…………………………

話はその後、二話前の最後に巻き戻る。つまり、俺が発狂している青海川を発見し、無事に保護したところだ。アカギはあの後、全てを話してくれた。歴史に伝わる【朝敵:白場家】の印象を覆すような話が、ポンポンと飛び出てきた。それだけでは証拠にならないので、数々の遺品を預かった。中には、白場の無実を証明するような書状もいくつか残っていた。東国軍は白場家を罪もないのに滅ぼした、というのはどうやら事実らしい。これで少女の無念が少しでも晴れてくれたら良いなと思う。


青海川は傷だらけだったので、気絶している間に手当てさせてもらった。さて、そこからが本題だ。

『…………なぁ、そこの青海川の守護霊みたいなやつ。聞こえてたら返事してほしいんだけど、』

『!?わしの声、聞こえるかのぅ?』

少女の声が聞こえる。おいおい、カミサマってロリしかいないのかよ……最高だな

『ああ、声は聞こえる。姿は見えない』

『ふむ、、………お主、苗字は?』

『は?出雲崎だけど……』

『ふむ、知らんな。本家とか親戚とかの苗字はわかるかぇ?』

何を聞いてるんだこいつは。なんのために?

『出雲崎は父方の姓、、母方は……笹神(ささかみ)

………沈黙。どうやら合点がいったらしい。姿が見えないのでなんとも言えないけど

『ああ、笹神か、笹神ね。そりゃそうじゃな。合点がいった。納得がいったわい。だからわしの声が聞こえるのか』

『………意味がわからねぇ。まぁいい。で、これは何ごとだ?』

青海川が何もないところで突然叫び出し、そして気絶した。その状況がイマイチ飲み込めない。

『おそらく幻覚じゃな。そこの赤いガキの力じゃろ?思い出したぞお主、久しぶりじゃなアカギ』

『あはははっ!久しぶりだねククリ!ごめんね、まさか適用範囲がこんなに広いなんて思わなくて』


どうやら旧知の仲らしい。カミサマ同士繋がりでもあるのか?







『それで、お主は来夢を語り手にしようとした、と』

話しました…

『うん、でももういいの。お兄ちゃんがやってくれるっていうし、アカギは〜もう思い残すことないかな』

それからアカギはくるりとこちらを向いて、

『お兄ちゃん、この祠が戦死者の石碑。いろんな怨念が詰まってる。でも、もう大丈夫だから。アカギと帰るから………』


そう言って、アカギは石碑に手を触れた。先ほどまで溢れていた禍々しい空気が一気に薄れ、やがて消えた。アカギの森はアカギの一部。だからアカギが納得すれば、それで彼らも納得するのだろう。霧はこれによって完全に晴れた。


『送ってくよ。このままだとまた迷っちゃうからね。送ったらそこでばいばいだね。アカギ、成仏するところとか見られたくないから…』

『ああ、助かる。じゃあ、これでお別れだ。ありがとなアカギ』

『あははっ!やっと名前で呼んでくれた!お兄ちゃんはロリコンだなぁ』

『否定できなくてつらいな……』


シスコンでロリコンとかもう擁護できねぇな俺。間違いなく小さい頃の西蘭(せら)が原因だな。あれは天使だった。


……


……………

そのあとは、俺が青海川を背中に乗せて山を登った。あぁ、こんなところ誰が気づくというのだろう。ほんとうに深いところまで来ていたのだ。これじゃあアカギもさぞ人を呼びずらかっただろうな。


ククリと呼ばれる青海川にくっついたカミサマとアカギは帰りの道でずっと思い出話?に花を咲かせていた。割と物騒な言葉が飛び交っていたので話には入らなかった。切腹シーンをまじまじと語るなし


そうして、どこか見たような景色のところまでたどり着いた時、アカギは立ち止まった。

『ここでお別れ。短い間だったけど楽しかったよ東夜お兄ちゃん♪本当にありかとう。これでやっと、やっと、ちゃんと死ねる……』

『………そうか。さよならだな、アカギ。その、なんていうか、、悪くない時間だった』

『あははっ!ますますお兄ちゃんに似てるなぁ。うん、きっと仲良くなれてたと思うよ?東夜がアカギの時代に生まれてたら』

『どうだかな。俺は人とうまくコミュニケーション出来ないから、仲良くなれてなかったと思うけどな』

『そういうところもお兄ちゃんそっくり!妹だけいれば良いっ!とか言っちゃって』

『ああ、俺そっくりだわそいつ…』

そうやって軽口をかわしあって、背を向ける。


さよなら、アカギ


さよなら、東夜お兄ちゃん









『あーあ、行っちゃったな。まぁ、最後に楽しい思いが出来てよかった〜。それじゃぁ、行こっか……』

目の前には、大好きなお兄ちゃん。あの日、アカギを庇って斬り殺された、妹思いのお兄ちゃん。あの石碑の怨念は皆吸収したから、アカギの中で幻覚として現れたのだろう。お兄ちゃんが手を差し出してくる。最後の時、あの雨の中、お兄ちゃんの笑顔が忘れられなかった。


『………最後に見れるとか、思わなかったよ』


ほんと、泣いてばっかだ。うん、泣いてばっか。だから、あの時最後に呟いた言葉を、ちゃんと返そう。あの時返せなかった言葉を…

「大好きだよ、アカギ」

そう呟いたお兄ちゃんに、ちゃんと返そう。



『大好きだよ、お兄ちゃん』

東夜視点のお話でした。長かった。意味わかんないシリアスを長くしてしまった。うん、次はちゃんと旅行を書こう。とりあえずラブコメっぽいこと書こう。勉強の息抜きにな。

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