27話 自然教室5 ほんとヒロインしてるよ、僕って奴は
『な!?青海川が戻ってきてない!?それは本当ですか!?』
「お、落ち着きなさい川西君!一緒ではなかったのかね?」
『わ、私たち、その、霧でバラバラになっちゃって………戻ったらみんないるかな…って』
『そ、そうでござる!!なんか霧がすごかったでござる!!(語彙力』
「黒崎も阿賀もわかったから、、青海川以外は全員いるだろうな??黒崎、五泉、川西、阿賀、小国、月潟、、む?出雲崎はどうした?」
『あれ?いや、でも東夜途中まで一緒に……………え!?いない!?』
「先に棟に戻ったんじゃないかい?すまないが月潟、探しにいってくれ」
『……わ、わかりましたわ』
あの幽霊騒ぎの後、バラバラに逃げたわたくしたちは何人か集まってからゴールにたどり着いたのです。そこには既に他のゴールした班の子たちが集まってて、予想通りわたくしたちが最後でした。でもそんなことはどうでもよくて、、道中ずっと行方不明の来夢が心配で、戻ってきてくれてたらいいなってずっと思ってて。でも、、戻ってきたら来夢が………いなくて
『……来夢』
ゴールまで戻ってきた時、霧は晴れていた。と言うよりもこの宿泊棟付近は快晴に近かったのである。つまり、どう考えてもあの時の森が異常だったということになるのだ。
いやいや、変な方に考えてはダメですわ!きっと捜索隊の方達が見つけてくれるはず。そうでないなら、、最終手段に出るまでですわ。
『ていうか、東夜も一体どこへいったんですの………まさか、、探しに戻ってたりとかしてないですわよね?』
棟内をくまなく探し回るも、東夜らしき人は見当たらない。いや、全員が広間に集合しているはずだから、そもそも現在棟内に誰かいること自体がおかしなことではあるのだが。広間では先ほど点呼がとられていたから、おそらく広間の大衆の中には東夜はいない。そうなると早く帰ってきて既に宿泊棟に戻っているか、もしくは来夢を捜しに森の中を進んでいったのかの二択になってしまう。
ガサッ……
ふと、女子トイレの方から物音がした。話し声も聞こえる。もちろん東夜ではないだろうが、付近に寄って聞き耳をたてて、、
「ど、どうするのよ!ゆっちんの所為じゃん!!」
「あ、あたしは悪くない!!あたしは、ただ、、あいつがちょっと痛い目見ればいいって………でもさっちゃんもやろうって言ってたじゃん!!」
「ね、ねぇ、もう先生に言って詳しい場所言おうよ……青海川さん、落ちちゃったんだよ?早く助けなきゃ………」
「し、知らないわよあいつなんか!芳樹くんと、仲良いアピールするから!あ、あたしだって……」
なんの、、話をしているんですの?落とした?あたしは悪くない?何を言って………
「でも!出雲崎くんが証拠持ってるし、、やっぱり言おうよ!」
「なに?あいつにビビってんの?」
「だって……さっきの出雲崎くん、すごく怖かったし……」
「………………」
「証拠持ってるのは事実だしさ、実際見られてるし、、もう言いにいこうよ……ね、ゆっちん……」
ゆっちんって、同じクラスの見附柚子ちゃんのこと?あの、来夢がムダ毛女とか裏で呼んでたあの子ですの?証拠って、何の?
そこまで考えて女子たちがトイレから出ようとしていることに気づく。すかさず給湯室に隠れて様子を確認するが、柚子ちゃんが出てこないことに気づいた。見ると他の3人の女子は柚子ちゃんの班の子たちで、皆沈んだ表情をしている。どうやら何か言われたらしい。それに、東夜がどうのこうのって…
その柚子ちゃんはまだ手を洗っているらしい。水の流れる音が外まで聞こえる。
「ああ、くそ、あたしなんであんな………助けるべきだった?いや、あたしは悪くないあたしは悪くない悪くない悪くない悪くない。あああああああああ!!!なんで、なんで!あの時はどうかしてて、、あたしは!!悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない」
『な!?』
狂ったように柚子ちゃんが叫ぶ声が聞こえる。すかさずトイレに入ると、そこには水を出したまま手をかきむしる見附柚子の姿があった。
………
………………
…………………………
『い、、痛った……う、いてぇ…。折れたかな……』
『そう簡単には折れぬよ来夢』
『く、ククリ!?』
目を開けるとそこには顔を覗き込むククリの姿があった。いまいち状況が飲み込めなかったものの、周囲を見渡すことによって現状を理解した。
『……赤い』
そこは、真紅の部屋。真っ赤な木々に覆われた小さな空間に、僕とククリの2人が立っている。血のような赤い葉をつけた木々はゴォォという風を受けて不気味に揺れている。霧も少し立ち込め、今にも何か化けて出そうな、そんな心霊スポットが完成していた。
『ああ、ここ、わし知っておるな。一度きたことがある気がするのじゃ。ほれ、来夢立てるか?』
『いや、さも手を貸して起き上がらせてくれるみたいな動作をしてくれてますけど、お前実体化できないんだから貸す手がないでしょ…自分で起きられ………いたたたっ!』
足に激痛が走る。手もやはり岩肌を掴んだだけあって、血だらけになっている。なんとかして立ち上がって上を見上げると、霧の影響で全く上の様子がわからなかった。一体どれだけの高さから転落したのだろうか?
『うぅ、足ひねったみたい……。はぁ、ホントついてないな…』
『股にか?』
『運がなっ!!ああ、お前のせいで股にもついてないよコンチクショウ!』
『カラカラッ、それだけ元気があれば大丈夫じゃな。さて、来夢よ、ここがどこかわかるかぇ?』
『問いかけとかいいんでアンサーをくださいな』
ククリとのやりとりは時々面倒になってくる。ククリ自身がうざったいからだな、うん。
『いや、実際わしもわからんから、ちょっと歩いてみようかぇ。カラカラッ、なに、面白いものの一つや二つ、見つかるかもしれんぞ?』
渋々その提案を承諾して、重い足を引きずって歩く。枯葉がパリパリと小気味の良い音を立てて割れていった。
……
……………
……………………
『お主、落ちる前の瞬間、覚えておるか?』
『……………わかんないけど、、あれって誰なのか、ククリは見たの?』
落ちる前に僕を見下ろしていた人影。アレの正体についてはククリの専門かもしれない。そう思って尋ねて見たのだが、反応はあまり芳しくなかった。
『いや、残念ながらお主の心の悲鳴を感じて真っ先に飛んできたらお主はもう落ちてたのじゃ。実際落ちてからあまり時間は経ってないが………どこか痛むところはあるかぇ?』
『……心の悲鳴とか何それ、めっちゃかっこいい。うーん、頭は打ってないと思うよ?地面が柔らかかったのが幸いだったね〜』
『じゃがまぁ、かすった時の血は多く出ておるのぅ。わしには何もできんが、なんなら乗り移って痛みを代わってやろうかの?』
『最高に魅力的な相談だけど、、まぁ歩けないレベルじゃないし今はいいかな?やばくなったらヨロね』
歩きながら景色を確認する。古典的なやり方なら、とおった木々にに目印でもつけながら歩くのだろうが、道具も何もない今じゃぁ、何かできるとは思えなかった。帰れるのかなこれ…。
『なんじゃ、やけに落ち着いておるのぅ。異世界転生した主人公かなんかなのかぇ?』
『なんちゅう例え方をしているんだ。確かに彼らの豪胆っぷりにはなかなか参考にすべき点があるとしても…。方位磁針はあるから、取り敢えず宿泊施設の方角はわかるし、、最悪北に進み続ければ付けるかなぁって。もしかしたら捜索隊も出るかもだし、、それに、ククリはここにきたことがあるんでしょ?』
『微妙なのじゃ。なんせ一千年も生きておると場所がごっちゃになっていかん。ここもどこかで見たような気がするのじゃが……』
『まぁ思い出したら言ってね?僕の生死が掛かってるんで今回ばかりはガチで……』
『来夢はいつも死にかけとるのぅ』
『人生を折れ線グラフで示したら、今間違いなくど底辺を記録しているはずだよ…』
進む先に小川を見つけた。石が赤いせいか、心なしか水も赤く見えてしまう。昨日の怪談話によると、この『赤木の森』では白場軍と東国軍による合戦があったらしい。その時の血が木々に宿って流れ続けているから、この辺の木々は赤いのだと言う。2ヶ月前だったらビビって一歩も進めなかっただろうが、、今僕の隣にはガチの幽霊みたいなのがいるから、あまりそういうのの恐怖は感じない。敢えて感じるとしたらそれは、帰れるかどうかの不安であろう。こんなところで野垂れ死ぬのだけは勘弁だ。
………
………………
…………………………
真っ赤な世界に、とても目立った石が積まれている。それはなんだか不釣り合いというか、似合わないもののように感じる。
『これは、、祠??』
『そのようじゃな。ふむ、何やら神が祀られているようじゃが………いや、神ではないな。霊か??』
『もしかして………合戦の戦死者の石碑とかじゃない??白場合戦の戦死者の墓とかって、地元だとあまり聞かないし……』
『かも、しれんな。だとしたら来夢よ!これは大きな成果じゃ!!この街の忘れ去られた歴史を一つ掘り起こしたのじゃ!!流石は青海川の末裔じゃ!』
『え、そんな簡単でいいの?拍子抜けもいいとこなんだけど』
でも、なんというか、、この石碑……すごく禍々しい雰囲気がするのだけど。それは気のせいなのかな?ククリ………!?
『え!?』
何かが腕を掴む感触。ククリは実体化ができないから、掴めるものはいないはず。だからそれを確認するのは、、、つまり、
『く、ククリ、、誰かが、右手………あっ!』
右をちらりと見た時、それはやはり崖から落ちた時とおなじよう、真っ赤なナニカ。いや、今回はナニカではなく明確で………
手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手手
『………へ、いや、あ、、あぁ、
きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!』
多くの赤い手に絡みつかれる感覚。ククリが何か叫んでいるがその声は全く耳に届かない。時すでに遅しとはこのことで、、無数の手によって視界がふさがれていくのがわかる。ぞわぞわと背筋が凍る感覚。得体の知れないソレは、僕から平常心を奪い、恐怖というものを叩きつけるには十分すぎるくらいであった。
『あ、やぁっ!いやぁぁ!うぐっ………がぁ!!たすけ、、助け………きゃぁぁ!!』
こんなところに助けなんて来ないのはわかっている。
だから僕を呼ぶ声はきっと幻聴だって……。最近よく聞くその声。どうしているのか、なんて疑問は浮かばない。
『青海川!!』
一つだけ、体温を感じる手が僕の腕を掴む。死体のような温度の無数の手など気にならないような、生きた手。あの冷たい水の中、真っ暗な世界で、伸ばしてくれたあの手が、、また僕を掴んでいた。既視感ある光景。だからこそそれは安心できるもので、どこか暖かくて、心地よくて、
白馬の王子さまなんて死んでも似合わないような、真っ黒な髪の少年の腕の中で、また目を閉じる。
30分のうちに2回も気絶とか、ほんとヒロインしてるよ、僕って奴は。
ヒロインの定義ってなんだろな




