17話 月潟アリアのそのギャップ
『ふー、なんとか逃げ切ったね……ふふ、エミちゃん先生が向かったから今頃あいつら大量のキスマークがついているはずだよ〜』
まぁエミちゃん先生のお眼鏡に叶うかどうかは別ですが。まだ知り合って2日なので、叶わなかった人間の末路を見届けたことがございません。ちょっと興味あるんだよなぁ…
『ライム、ここは空き教室ですの?』
『い、いきなり呼び捨て!?』
『お気に障りましたかしら?』
『ううん。僕も連れ出す時にアリアって叫んじゃったから、、寧ろ嬉しいかな…』
アリアはそうですの、と言って不思議そうに部室を眺める。実際僕もまだここに来るのは2回目だから、この部室のことを隅々まで知り尽くしているわけではない。風通りがとてもよく、実は扇風機も用意されてるため夏でも快適なヒーリングプレイス。今だって風が気持ちいい。
『ライム………』
『ん?どったの?』
『少し、、ごめんなさい』
『ん?』
仏頂面のアリアが一言そう発したことに対し、軽く反応した次の瞬間、突然アリアが床に崩れ落ちたかと思うと、
『ふぇぇえん!!こ、怖かったぁぁ!う、あああああ、あああ』グスッグスッ
『!?』
え?え?あれ?貴族的なアリアは?あの強気なアリアは?うぅん!?
『ライムっ!ライムゥゥ!!怖かったぁぁっ!う、あああ、ああああぁぁあ!!』
そう言って涙でグチャグチャのアリアが抱きついて来る。鮮やかな金色の髪からは薔薇のような薫り。華奢なそのからだは僕より少し高めの身長だけど、今はとても小さく見えた。最大の救いは胸が慎ましやかであること、、うん、つまりひんぬー。プライドが高そうなアリアの、意外な一面。それでも僕は泣きじゃくる彼女を抱きしめ、頭を撫でてやる。妹の扱いでこういうのに慣れているから、あやすのは得意だ。
『うぅぁあぁ、な、殴られるかと思ったあぁ』
『う、うん』
うん、殴られるというか18禁のほうに走りそうな勢いだったよ?
『誰も、助けてくれないと、グスッ、思ったぁあ』
『………うん』
『………あり、がとう………ですわ』
『!!………うん』
震えるアリアは、もう少しだけ泣き続けた。微かに吹く風と、アリアの薔薇の香りが、とても心地よかった
…………
…………………
…………………………
『コホンッ、お見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでしたわ。た、多分驚いたとおもいますわ……』
『うん、ぶっちゃけびっくりしてます……』
『で、その……ライム…。わたくしがこんな風に泣きじゃくっていたことは、その、、秘密に…』
『あ、うん、それは大丈夫。絶対言わない!2人だけの約束っ♪』
『ふ、2人だけの……ですの……』
アリアの頰が少し赤く染まる。普段仏頂面でいることが印象に残っているので、そのギャップが凄い。もじもじと目線を下に向け、手を後ろで組んでいる姿が、すごく萌えます……。
『その、わたくし人の前で泣いたことがなくて……でも、あんなことがあったから…』
『うん。アリアの可愛い姿が見られて嬉しかったよ♪』
『か、可愛っ!?へ、へぇぇ、そうですの…』
もう、そうやってにやけちゃうのを隠しきれないところとか最高に可愛い!普段無理してあのキャラ作ってるっていうのも最高に可愛いし、うん、可愛いしか感想が出てこないくらい可愛い
『あんまり事情は聞かない方がいいかな……ていうか会話聞いてたら大体わかっちゃったし…』
『あの方の相手の男性がわたくしに交際を迫ってきたんですの。それを知って、、』
『それだけで他校のDQN呼ぶとかまじか…』
『類は友を呼ぶというやつですわね…、間違ってますの?』
『使い方はね…』
なんだかんだ話しやすい子のようで安心したな。ちょっと怖い印象はあったから…
ガラリという音がして部室の古いドアが開く。そこには東夜が気まずそうにつったっていた。
『話……終わったか?』
『ねぇまさか、聞いていたとかいわせないよ?』
『…………まぁ、そのなんだ…聞いてない、つもりだ』
『つ、つもりってなんですの!?あら?貴方確か同じクラスの……』
『出雲崎東夜だよ。ここの新聞部の部員。あと、僕も一応ここの部員…』
『なんで青海川が紹介しちゃんだよ…』
『ら、ライムもここの部員なんですの!?というか、新聞部………なんで入ったんですの?』
う、それを聞かれると弱いんだけど……
『新聞部はさ、歴史が古くて、顧問が教頭先生ってのもあって色々予算が降りたり、優遇されてるらしいんだよ…あと外出が認められてるし。何よりこの教室すごい快適だし……』
『結論……青海川の場合なんとなくってやつだな』
『東夜の場合はエミちゃん先生に強制されて、だけどね』
『何をする部活なんですの?』
『僕2日目でまだ内容はよくわかんない…』
『俺も同じくだ』
『い、意味不明でしてよ…』
『ていうか東夜さ、なんで教室の外にいたのさ?』
『あーー、いや、ちょっと、な』
『あらぁん♡東夜ちゃんがアタシのこと呼んできてくれたのよぉ〜。アリアちゃん、危なかったわね』
『え?東夜が?』
『……………………まぁ、偶然つーか、そんな感じだ』
『というか、誰ですの?このオカマの方は』
『アタシはオネェよ!!!』
野太い、声が野太いよぉ…
『葛籠山蝦夷教頭先生だよ。新聞部の顧問…』
『アリアちゃん、、あの子たちはアタシが直々に処罰しておいたからもう大丈夫よぉ〜。さぁ、お茶にしましょ☆美味しいお菓子、仕入れたんだからっ』
ウフッとかいいながら高そうな箱から最中を取り出す。そこには、4人分の最中と湯のみがあった。
『アリアちゃんも、如何かしらぁん?』
『え、えぇ、頂きますわ……』
初めてちゃんとした女子が入った女子会がスタート………
……
……………
………………………
『昨日は少しおふざけで言ったのだけどねぇ、新聞部は校内校外問わずにこの街の事件や、噂話なんかを新聞にまとめて学校内で掲示するのよぉ!もう80年以上続く伝統ある部活なのよぉ!一時期はこの街の色んなところに掲示されたんだからぁん!』
『そ、そんなすごい部活だったんだ…』
『ライムは、、ここで活動するんですの?』
『そのつもりだけど………アリア?』
『な、なら、わたくしも入りますわ!新聞部に!』
『あ、アリア!?』
『月潟…ま、、マジか…』
『あらぁ!大大大歓迎よぉ〜♡いよいよこの部室も3人の部員でようやく活動できるわね!』
さらっと3人必要だったことを今明かされたんですが…
『いいの?アリア』
『ライムと一緒に活動したいですわ!それにわたくし、、その、まだ、友達という方がいなくて……』
『あらあら、大分懐かれたわねぇ〜来夢ちゃんっ』
アリアの目は真剣だった。それなら、断る理由はないでしょ?
『…………うん、わかった。これから宜しくねっアリア!!』
『!!はいっ!!ですわ』
うん、その笑顔は入部試験がなくても合格。意外と打たれ弱くて、怖がりだけど、常に強くあろうとする女の子。月潟アリアという人間はまだ知らないことが多いけれど、それはお互い様だ。これからゆっくりじかんをかけて、少しずつ知っていきたい。マジかわいい……
『エミちゃん先生も宜しくお願い致しますわ』
『勿論よぉ!可愛い子大歓迎!』
『トーヤ!』
『!?…………い、いきなり呼び捨てなのか?』
『お気に障りましたかしら?』
『いや、別に………』
『ではわたくしのこともアリアと呼んでくださいまし?』
『な!?あ、その、だな。月潟でいいか?』
『………なんとも男らしくないですわね。レディの提案は素直に聞いて欲しくてよ?』
『悪い……てか名前呼びとか友達かと思っちまうから…』
『あら?わたくしはそのつもりでしてよ?貴方とわたくし、そしてライム、この3人は部活メンバーで、お友達ですわ!』
『…………そ、そうなの、か?』
『そうですわ!!まぁ、でも、無理に呼んでいただく必要はないですわね。ではわたくしのことは月潟と苗字で呼んでくださいまし?』
『………わかった。宜しくな……月潟』
『えぇ、宜しくですわっ』ニコッ
アリアは、友達が居なかったから、人との距離感がわかりにくいのかもしれない。だからこそ、東夜の様な人間と距離を置かずに接することができる。それは、まだぎこちなかった新聞部の関係を前進させる潤滑油になる、と思う。たじたじの東夜も、満足げなアリアも、これから大切な部活の仲間なのだ。
『それよりライム!近いうちに買い物に行きますわよ!!』
『ふぇ?あ、2週間後の林間学校のか…』
『えぇ!』
『その、アリアは、、もう決まってたりとかしてるの?班とか…』
『わたくし、まだ学校にライムとトウヤしかお友達が居ませんわ……』
『そっか………じゃあ僕たちの班に入る?真知と汽笛一緒だけど』
『いいんですの!?』
『うん、来週には色々準備しようって話してたし、その時買い物も行こう』
『いいですわね!わたくし、たい焼きなるものが食べてみたいですわ……』
『ん、なんでたいやき!?』
『それに、ライムの私服楽しみですわ!可愛いスカートとか………』
『あ、』
そうだ、忘れて居たわ。今の今まで忘れていた。僕はTS娘で、そしてうちの母親は最強のテンプレート。最近は学校青春系で話が進んでいたから完全に忘れてた。こっそり行こうかな買い物………。だって、、私服で好き好んであんなスースーする心もとない布を巻くなんて、無防備な真似出来ないし、、ていうかあれでよくやっていけるな世の乙女たちは…
『あらぁ、来夢ちゃんの私服、アタシも気になるわぁ!なんならアタシの従兄弟の娘さんのお下がりとかあげましょうか?可愛い服、いっぱいあるわよぉ〜』
『い、いらな……』
『ナイスですわ!ライム、今度うちにある服も着てみませんこと?ライムならなんでも似合いますわ!』
『アタシの従兄弟の趣味でねぇ、ゴスロリとかメイドとか、チャイナドレスとか色々あるのよぉ。今度、部室でファッションショーでもしましょ♡』
『お、俺の居場所がねぇ………』
『あら?東夜ちゃんも着る?チャイナドレス』
『よりにもよってなぜそのチョイス……着ませんよアホですか』
待って、なんか変な方向に話が進んでるんだけど、僕は別に可愛い服着たいとか思ってなくて…
『ライム制服のスカート短いから、そこらの男子たちがよく卑猥な言葉を口にしていましたわよ?』
『……………うわ』
『なんでしたっけ、「ぜったいりょーいき」とかいうのが、「まじしこでえろすてぃっく」だとかいう呪文を唱えていましたわ?』
『その純粋なアリアでいてください…』
なんか、自分が性的な目で見られているとか思うとちょっと、恥ずかしいような、変な気持ちになる。机の一メートル範囲内に透明なアクリル板でも設置しようかな…
『来夢ちゃ〜ん♪オンナは、見せてナンボよ?』
『何を!?何をみせるの!?』
そう考えると、急に自分の今の制服姿が恥ずかしくなってきた。1週間なんの違和感もなく朝下着をつけ、スカートを履いてきたけど、今考えると女装しているみたいですごく恥ずかしい!でも嫌じゃなくなってきている自分がいる……これ、思ったより精神が侵食されているような。
僕の複雑そうな顔と裏腹に、アリアやエミちゃん先生はニコニコと、東夜は目をつぶり、静かに最中を齧るのであった。




