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TIPs 捻くれた少年と不思議な女の子

 入学式、それはその式さえ終わってしまえば正直何もすることがない、なんて甘っちょろい日ではない。誰しもスタートダッシュは大事だし、既にスタートダッシュに失敗したものもいる。そう、速きこと風の如くと言うよう完全早い者勝ち制度。弱肉強食といった厳しいクラスの中の社会を生き抜くために、とにかくスピード勝負で人脈を広げる必要がある。女子のスクールカースト上位がいい例だ。あれは基本最初からそういう人を集めて構成されている。「外見至上主義」といった考え方は、根本的には根絶しないのだ。

 故にまた、1人ぼっちはどうあってもなくならない。ぼっちゼロのクラス?はっ、ふざけるな。それは強者達が無理やりボッチをコミュニティに引き入れ、集団に紛れてボッチが居ないように見せているだけだ。


「ほらっうちらのクラスマジ仲良しだし?」


 なんていう自慢の種に使われてしまうのがオチ。斯く言うボッチ達も、集団に紛れて居れば惨めな気持ちにならないで済む。しかし、それでいいのだろうか? なぜ合わせなければならない? 合わせることは彼ら、つまり強者に屈服したということだ。それはなんだか癪に触る。


 なんて捻くれているから、俺はどうせ高校もボッチだろう。なんて考えて居たのもつかの間。世の中には存在するのだ……『馬鹿』という存在が


「よぉっ! 俺は川西達矢(かわにしたつや)だ! 達矢でいいぞっ! よろしくな東夜! にしてもなかなかのイケメンだな!」


 ほらこういう奴がいると、 


「あれ、俺ってもしかしてコミュ力ついたんじゃね?」


 とか勘違いするアホが出てくるだろうが。


「あ、ああ、どうも……」

「はははっ固くなんなよ! これから同じクラス、席も隣なんだ! 仲良くしようぜっ!」

「お、オーケーー?」


 あれ、俺ってもしかしてコミュ力ついたんじゃね!?


「な、なぁ川西…」

「達矢だ!」

「た、達矢……お前、なんか運動とかしてんのか?」

「ほう、目がいいな。ああ、小中学とバスケをやっているのだ。無論高校でもやるつもりさっ! 一緒にどうだ?」


 ば、バスケだと!? あの人数揃ったら他のやつ要らないとかいって、クラスの数人で楽しめてしまうあのスポーツか!? 悪いな、俺は1人でボールをつくことしか能がない……。あ、あれ?涙が。


「い、いや……遠慮しとく……」

「お前もなかなか身長あるからかなりいい線行くと思うぞ! さぁ、バスケの楽しさについて一から語ってやろう!」

「え、いや、遠慮し……」

「あれは三年前だったか……C中学の和田とかいう奴がいてな……」


 いいよ、興味ねぇよクリス松本中学の和田ア○子とか。俺は帰宅部に入ってバンバン帰宅するんだ……。

 そう、他のやつの自己紹介も聞いていない。そもそもうまく行くはずがないのだ。それはもう、中学の時にいっぱい痛い目にあってきたからこその教訓だ。青春を謳歌しようとなんて思わない。将来は株でもやって自宅警備員にでもつこう。うわ俺ってなんて働き者。

 なんて考えていたけれど……自己紹介から、俺の心は驚愕で満ちていた。





 だって、


 そこに彼女は居たのだ。



 それは春休みに見た不思議な光景。多分一生忘れないであろう、あの神がかった美しさを。


◇◆◇


「もー、お兄が散歩するっていうからついてきたのに、なんでこんな神社まで来ちゃうかな」

「別に来なくても良かったし、なんなら来ない方が俺の財布からアイス1つ分のお金が消えることもなかったんだが……」

「もぐもぐ、そこは感謝してるよっ♬ お兄ちゃん♡」

「ほら、俺って妹に優しい良いお兄ちゃんだからね、お兄ちゃんオリンピックとかあったら堂々の金メダルだからな」

「うわ、ちょろキモ」

「人の本質を五文字で言い表す妹が怖い……」


 既に月は高く登っており、夜空には無数の星が煌めいている。夜風はこの時期にしては珍しく、冷涼としたいい風だった。少し吹くだけで辺りの木々は囁き、そこに潜む虫達の声が心地いい。薄暗い光を放つ電灯を本能的に頼りにして、あの山の神社を目指す。


 本当に何となく、思いついたが故の散歩だ。古びたその神社は、なるほどこれまた深い山奥にあり、その行く手を千本鳥居が迎える。神秘的で本来なら人気のスポットのはずなのだが、何しろ行きにくいことが1つ。そして、昔ここで凄惨な殺人事件が起こったことが、この神社に人があまり寄り付かないことの原因の大部分を占めているらしい。妹の話ではここは幽霊や怪異のような良くないものが集まる所だ、なんて中学生高校生の間では噂になっているらしい。街からも外れているので、肝試しにくるやつもいるにはいるようだが。


「てか、制服似合ってないよね〜。お兄ジジイみたい」

「流石にその悪口には無理があるだろ」


 制服が届いてテンション上がったが故の散歩、というわけではないが、まぁ本当になんとなく制服だ。今年からひまりヶ丘高校一年生となる。


「あ〜、いいよね〜こういうところ。西蘭(せら)さ、こういう所大好きなんだよ〜。なんか神秘的なこととかありそうじゃない?」

「神秘的なこと……か」


 ここはちょっとした洞窟部分。夜には洞窟の上から月の光が差し込んで来て、洞窟の中がキラキラと光る。この原因は実はまだ分かっていないけれどな。

 階段を上ると、もうすぐそこには古びた社がある。ああ、そのちょっと前に大きな池があったか。あそこ柵も何もないから早急に対策を練った方がいいような。


 ……? 誰かが池の前にいる……。


西蘭(せら)、池の前……誰かいるぞ」

「うぇ? あ、ホントだ。制服?」


 自殺……とかじゃないよな? なんか落っこちそうなくらい池の中を覗き込んでいるのだが。こんな夜遅くにこの山にいる人なんて俺たちみたいな可笑しな兄妹くらいだけだと思っていた。案外気があったりして……ないか? ないな。

 近くまで来ると、わかる。その人がどんな姿なのか?そして見えてしまう。あれは……尻尾?

 透き通る透明な何かが、その人、女の子の制服のスカートのあたりをぴょこぴょこ動いている。しかも、その制服の女の子の髪は、それはそれは神秘的な白だった。


「ーーッ!」


 思わず見とれてしまう。それほどまでにその後ろ姿は神々しく、絹のような白い髪がサラサラと風になびくのを見て、自分の頰が紅潮するのが鏡を見なくてもわかる。綺麗だ……とても。言葉に出さず、心の中で感嘆する。だが、妹はこころに留めておくことかできなかったらしい。


「……綺麗」


 声を漏らしてしまった。


 すると目の前の少女はくるりとこちらを向く。その瞬間目に入って来たのは、整った綺麗な顔立ち、真っ白な肌。そして燃えるような赤い目だった。


 第一印象としてはこの神社の神様。第二印象として雪女を思い浮かべてしまう。失礼に聞こえるかもしれないが、これはかなり褒め言葉だ。前者が妥当だろうか。少女はこちらを振り返り、驚いた様な顔を見せる。これは一瞬の出来事だった。次の瞬間には、俺が抱いていた神様というイメージを覆す間の抜けた声を出して、、


「え!? うわ、あ、きゃぁっ!」


 華麗な池ぽちゃをかましたのだった。


「え!? 嘘っ! お、お兄!」

「分かってる! 待ってろ!」


 この池の伝説は数多い。特に、この池の水深は判明しておらず、底なしの池と地元でも呼ばれているらしい。神様がこんな池で溺れるとは思わないが、やはりさっきの子は人間のようだ。いや、そんなことを考えている場合ではない。


 彼女の後を追って、急いで池に飛び込む。


 中は真っ暗。水は澄んでいるはずなのに何も見えず、あたかも暗闇に飲まれたかのような錯覚におちいる。暗闇に放り込まれた人間は、胎内のようだと本能的に落ち着くか、それとも何も見えないことに怯え、恐怖するかのどちらかだ。俺は後者。怖い、怖い、何も見えないことがこんなにも怖い……。


 だけど、見つけなくてはいけない。探し出さなくてはならない。何故か、そんな気がした。


 どれくらい沈んだかわからない。そんな中で、そんな暗闇の中で、ようやく俺は、白い女の子を見つけた。今度は逆に、はっきりと姿が見える。まるで少女自身が輝いているかのような真っ白の存在。この暗闇には、俺とその女の子の2人だけ。ここが、どこか別世界のように見えて仕方がなかった。


◇◆◇


 結局あの後、あの子を池から引きずり上げて、妹は救急車を呼んだ。しかし、不思議なことに、池から引き上げた時にはあの少女の髪は茶色へと変化していた。月が雲に隠れて、その姿ははっきりとは見えなかったけれど、その顔を忘れるわけがない。俺が人生15年生きてきて、今までで1番綺麗だと思った女の子。その子を記憶から忘却することは、不可能で、それでいて冒涜のように感じられた。一種の畏敬、畏怖のようなものを抱き、病院へはいかずそのまま帰宅。

 病院へ行くのは、何故だか怖かった。あの、神様のような女の子と、本当に対峙しなくてはならない状況が、俺にはハードルが高かった。そして、俺はそのままひまりヶ丘高校へ入学することになる。 


 あの女の子が、ひまりヶ丘高校の生徒かもしれないから、高校に入ったら真っ先に探そうと思ってた。病院へ行かなかったことを少し後悔していた。探したいというのは、単純な好奇心からだ。故に同じクラスだったので、今俺はびっくり仰天。しかも向こうから話しかけてきた。


 名前は青海川来夢(おうみかわらいむ)。茶髪のちょっと気怠げな表情がポイントのマジモンの美少女。正直モデルか何かかと思ったけど、特段そういうことでもないらしい。


 だが関わることはないだろう。俺があの時見たのは青海川来夢ではなく、青海川来夢が見たのは俺ではない。それでいいのだ。彼女には彼女の青春があるように、俺は灰色の……いや失敬、薔薇色の帰宅部人生を送るのだ。その中であんな異質な光景の話をわざわざ引っ張り出すこともない。ちょっと挨拶して、それで終わりの関係……の筈だったのだ。


 玄関でちょっと携帯をいじっていた時だった。初めて買ったスマートフォンなので、様々なゲームを入れて遊んでみるのが最近のマイブーム。中学の時に携帯持たなかったが故にクラスから疎外されるなんてよくあることだ。最近は小学生でもスマホを持つんだとか。怖い、怖すぎるぞ現代日本。


「あらぁ♡ いいオトコね〜」

「へ?」

「貴方、ちょっと来なさ〜い!アタシがイ・イ・コ・ト♡ 教えてあげるわぁ〜」

「う、うわぁぁぁっ! あ、あんた誰だ!?」


 おカマだった。うん、おカマ。初めて見た……いや、オネェなのか? オネェだな多分。


「アタシは葛籠山蝦夷(つづらやまえみし)。この学校で教頭をやってるわぁ! 気軽にエミちゃん先生って呼んでねっ♡」

「う、うそ!? 教頭!?」

「ほら、こっちよぉ〜。じゃないとその可愛い唇にアタシの舌ねじ込むわよ?」


 やだなにそのドスの効いた声、惚れる。あ、待って引っ張らないで……力強っ!!


◇◆◇


 そこで、再び出会ったのだ。同じクラスだから変な言い方かもしれないが、本当に関わることのない人種だと思っていた。おそらく青海川はこれから人気者になるタイプの女の子だ。クラスの可愛い系の子たちとも仲良くしているし、何より1組の相川と仲がいい。一方の俺は高校入学を機に転勤して来たボッチ。いや、仕方なくね? 中学の友達ゼロで友達作るのとか難易度高いし……まぁ、中学の友達なんてそもそもいないけどな。

 そんな青海川は、新聞部に興味があるらしい。やめておけ、オネェの相手は多分大変だ。それに、お前のような奴はどっかの運動部のマネージャーでもやって、そこでリア充どもと遊んでいた方が楽しいだろうに。


「だから、これから宜しく!」


 でも、その笑顔を見て、何とも言えなくなってしまった。彼女のことが分からない。中学の時にはそんな奴いなかった。みんなどうやって大きいグループに入れるか、どうやって地位を上げるか、かっこいい子や可愛い子とどうやって友達になるか、そんなことを考えているやつらばかり。だから、そういう系なのかとばかり思っていた。


 俺は、自分が思っているよりもずっと、人を外見だけで判断する愚か者だったのかもしれない


 シニカルな笑みを浮かべる。葛籠山先生が、女子会を始める準備を始めた。紅茶の香りが、既にこの古臭い部屋に立ち込め始めていた。

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