12話 鈍感主人公がトゥルーエンドをむかえる為に
『アリアちゃん、帰っちゃったね…』
『モタモタしてたことが1割、あとは分水くんが9割で悪いね…』
『すまないね、まさかそんな事情があったなんて』
分水くん、なぜか謝る姿もかっこいい…。芳樹もそうだが、イケメンは基本何してもイケメンであって、その根幹が揺らぐことはない。ヨゴレの仕事をやっていてもイケメン、マザコンシスコンなんならロリコンでもイケメンはイケメンなのだ。そんな彼らに求められる役割は多く、現に芳樹は気苦労が絶えない。そんな中でもやっぱりカッコよく映るのだから、イケメンはイケメンなんだろう。外見的な意味でなく、内面としてイケメンを保つ、イケてる面を常に見せ続けることのできる彼らにはやはり、尊敬の念を抱かずには居られない。イケメンが人間的に優れているかどうかの議論はともかくとして、カッコよくあろうとするその努力は賞賛に値する素晴らしいことなのだ。
『ああ、もう彼レギュラー入りでいんじゃないかな…』ボソッ
若干の嫉妬が入るのもまた、人間の性というか男の性ではあるのだけれど…
『ねぇ来夢〜!自転車通学の申請出しに行こ!』
『あ、そっか忘れてた。あれがないと明日も徒歩通学になるところだったね…。ローファーは足痛いんだよな〜』
身長は盛れるんだけどね…。因みに性転換してしまう前の男の姿では、僕の身長は166センチ。実に10センチも縮んでしまっている。なんか無念……
……
…………
………………
『ふ〜!登録終わりー!さて、遊びにでもいく?』
『苺、明日課題テストなの完全に忘れているよね?』
『でっもー、来夢と仲良くなりたいしー、なんなら分水有りでもいいからお茶しに行こうよぅ〜』
ちょ、腕に胸を押し付けるのやめっ!
『うーん、でも俺も課題テストの勉強しなきゃだしな。お茶のお誘いは、また今度にさせてもらうよ』
おや、分水くんもただのホストキャラじゃないようだ。その笑顔100点満点です。その辺の女子はこの笑顔でイチコロだろうなぁ…
『えー、でも響也って学校あんま来れないんでしょ?大丈夫なの?』
『え?学校来れないってどういう意味?』
『ああ、いや、知らないのかな?』
『へ?なんの話?』
『そっかぁ、俺も知名度はまだまだなんだな…』
『ちめーど?』
『俺さ、とある芸能事務所の練習生なんだよね』
『……………………………がち?』
『勿論!まさか知らない子がいるとは思わなかったな…。ファッションモデルとか、色々活動もしているんだけど、、やっぱりもっと頑張らなくちゃだな』
れ、練習生!?芸能事務所!?モデル!?世界が遠すぎる………
『なんか別次元の話をしているような…』
『とんでもない!来夢、君も十分に審査に受かるほどの美人だ。どうだい?芸能界に興味とかない?』
げ、げいのうかい?いや、でも今の段階で女子の生活に慣れてないのに、芸能人とかなおさら無理!!
『や、遠慮しとく…』
『そうか、残念だよ。でも、モデルとかの仕事なら誘ってもいいかな?結構給料もいいしね』
『お、お給料でる………よね、そりゃ、うん』
き、機会があったらいいかもしれない…なんて。お金ないんだよね僕……。服とかならお母さんが喜んで購入してしまうけれど
『おいっ!』
突然分水と僕との間に人が割って入る。あれ、芳樹?
『お前来夢に何してんだよ』
ん?あれかな。分水くんがあまりにも近づき過ぎてた件かな?
『誤解だよ誤解。気に障ったなら謝りたいな。来夢、君の彼氏くんかい?』
『は!?か、彼氏!?芳樹が!?いや、ないないないって』
うん、ないないない。ウチのお母さんみたいなことを言わないで
『な、ち、ちげぇよ!俺は来夢の親友だ!』
ねぇ芳樹…顔真っ赤なんですけど。からかわれていることに気づきなさいよ。
『か、帰るぞ!!ほら、今日テスト勉強するだろっ!お、教えてやるから…』
そういって芳樹は僕の腕を掴んでズイズイと歩き出す。なんか強引なんだけど、どしたのかな?横目で見たその表情には、まだ仄かに頰の赤らみが感じ取れた。
振り返ると、苺が「後日説明よろ♡」って顔をしていた。うわぁ、絶対誤解している…。明日には全力で誤解を解かなければ絵梨の二の舞だ。
『ちょっと、芳樹』
『え、ああ、なんだ?』
『どーしたの?なんか焦ってるっていうか…急に黙りこんじゃうし…』
『あ、いや、なんでもない…』
イラっとするなぁ。はい必殺上目遣いジト目!
『ねぇ〜言わないつもり?』
芳樹の顔がみるみるうちに赤く染まっていく。春休み中に気づいたが、こうすると芳樹は顔が真っ赤になるのだ。ふふ、面白い…
『や、さっきの奴、誰かなぁとかって…』
『ああ、分水ね。2組の分水響也。芸能事務所の練習生なんだって!モデルとか誘われちゃったんだよ!?ふふふ、僕ってもしかして結構可愛かったりするのかな?なんちて♬』
自惚れんなアホ来夢。と自分で自分にツッコミを入れる。ところが、芳樹から返ってきた言葉は完全に不意打ちだった。
『は?誰がどう見ても来夢は可愛いだろ?今更何言ってんだよ…って…』//////カァァァア
え?今なんて言ったのだこやつ?可愛い?
『え、や、うん。ありがと?』
『あ、ああ。ほら、絵梨も待ってるからい、いくぞ!』
一瞬不覚にもドキッとしてしまった……。危うく芳樹のヒロインの1人としてエントリーしてしまうところでした危ない危ない。しかしこれ性転換の副作用なのかどうかしらないけれど、
『可愛いって言われるの、意外と悪くないかもしれない………』
なんて、ぽつりと呟いたその言葉は、玄関の喧騒にかき消され、虚空へと消えていった。
……
…………
………………
『はぁ〜1組はいい子ばっかだったなぁ、可愛い子も多いし、ハゥハゥ〜幸せ〜』
『あぁ、気の合う友達も出来たし、女子も面白い子ばかりだったな』
『2組はどう?私気になっちゃいます!』
『え、いや、、まぁ普通に友達も出来たし……これからじゃない?』
『かっこいい子いた?なんちゃって』
絵梨としては、僕が芳樹に恋心を抱いていると勘違いしているから、ほんの軽口のつもりだったのかもしれないが、これを機会に誤解を解いていただこう。セルフサービスで。
『あーいるいる。1組ほどじゃないけどイケメンは多いしなかなかメンツが濃ゆい濃ゆい』
『え、来夢お前、1組の奴と知り合ったのか?』
『や、もう見なくても大体予想がつくし…』
なんどもいうけど、芳樹は只管自分の環境が幸運で出来ている。彼の周りはほぼギャルゲの世界だ。前に芳樹と歩いてる子の中にピンクの髪の子がいたし…。そこまできたらこいつのクラスはイケメンばかりになるのは最早必然
『つか、来夢でも男子のことカッコいいとか思ったりするんだな…』
『ん?いや、まぁそりゃ、女の子ですから♬』キャルッ
って感じのポーズをやる気なさげにやってみる。いや、ダメだ、もうこの時間帯だるすぎる。芳樹には、疲れるくらいならやるな……というか他の奴らの前であんまりやるな、とかアセアセしながら忠告された。
さて絵梨、僕としては君と芳樹がくっついてくれたらそれでゲームクリアのTrue end、正規ルートであとはエンドスクロールとともにスタッフの方々の名前が流れていくだけなのだ。だから、僕に遠慮していないで、1組で自分の物語を作って言ってほしい。高校生活は長いけど、これからも全力でサポートするからさ
しかしなにやら絵梨は不満そうな顔をしている。女になっても、女心はわからない…何か言いたげな…
『絵梨?どしたの?』
『ら、来夢!い、いつでも1組に来てね!!本当に面白い子ばかりだから!』
『え、あ、うん。そーする』
な、なんだったんだ?
『じゃあ、決まり!さて、今日はちゃんと勉強しよ!』
『腹減ったな……なんか食ってかねぇ?』
『もう!芳樹はなんですぐ外食なのよ!し、仕方ないから私ホットケーキでも作ってあげるね!』
『お、絵梨のホットケーキかぁ。楽しみだぜっ』ニコッ
『な!べ、別に芳樹のためじゃないよ!』
え、芳樹のためじゃないの?いや、それよりこんなテンプレ台詞は今時アリなの?判定はいかに!
『え、と、その!来夢が!来夢が食べたそうだったから!芳樹はついでなんだから……ね』
ぼ、僕を逃げ道にするなぁ…。絵梨はツンデレちゃんで困っちゃいますな。まぁ、それが彼女の魅力でもあるけれど。
全く、あんな可愛い絵梨に好かれているのに、それに全く気がつかないとか………死ねばいいのになぁ鈍感主人公は。芳樹はいい奴だが、鈍感という点が勿体無いところだ。ギャルゲやラノべの場合、まだまだ話を引き延ばしたいという作者の欲望と、1人のヒロインを選ばせず様々なヒロインの持ち味を引き出すためという物語作りの意図があるため、鈍感主人公というのはこの手の学園ラブコメに適している。しかし、それを知っている僕からしたら、そんな彼らの態度は苛立ちの募るヘタレ男のようにしか見えない。
鈍感は罪だ。鈍感であることは無意識であろうと逃げているということだ。まぁ別にそれは構わないし、大した問題ではない。ただ、その鈍感を盾に何度も同じ過ちを繰り返すことは罪だ。人の気持ちに気づかない人間は、自分の本当の気持ちにも気づくことができない。
なにが言いたいかわかる?さっさと絵梨とくっつけアホ芳樹!!ってことさっ
高校初めての下校時間、今日のお気に入りのひと時は、目の前の2人の仲睦まじい光景…ということにしておこうか。
…
…………
…………………
『ふぅ…』
『あーお兄ぃお帰り〜ご飯にする?お風呂にする?それともハ・ロ・ワ?』
『人をさりげなく無職扱いするな〜。つか、ご飯炊けてねぇし、お風呂も湧いてねぇだろ…』
『ぶぇー、そこはまじレスしちゃノンノンだよ〜』
『妹よ、それはネットの煽りにたいしてマジレスしちゃうお兄ちゃんへの遠回しな嫌味ですか?』
『うぇお兄そんなことやってんの?キッモ…マジキモ……まじハロワ』
『この妹どうしても俺を働かせるつもりらしいな…』
出雲崎家は今日も両親の帰りが遅い。親父はそれはそれは俺の父とは思えないくらい元気に社畜やってる。今日のノルマは靴舐め16回。取引先にへりくだりすぎだあんたの会社…
母さんもまぁ仕事だ。結構夜遅くまでみっちり働いて帰ってくる。まさにデキる女。まじ35億
『っでさ、どーだった?高校』
『どーしたもこーしたもねぇな。トイレが綺麗だったぞ』
『それ学校見学の時も言ってたじゃん…そーじゃなくてさ、友達できたー?とか可愛い子いたー?とかだよ』
うわ、余計なお世話だぞウチの妹。
『まぁそれなりにな………話せる奴は、出来た…』
『そっかーよかったねー』
ファッション誌読みながらの返答。ながら返答だめゼッタイ
『ひどい、お兄ちゃんにもっと興味もって…』
『お兄は外見だけなら完璧な美少年なのになぁ…』
『似たような見た目で生まれてきた自分を遠回しに誉めてるぞそれ』
『え!?……………ったく、お兄はこれだから…そういう台詞いろんな人に言えばいいのに…』ボソッ
うわウチの妹可愛いなぁ全く…俺には勿体無いくらいの可愛い妹だ。俺が東夜なら妹は西蘭。性格は東と西のように反対でも、なんだかんだバランスが取れている。
『あっ、そうだ!聞きたいことあったんだ…』
『ん?どした?』
お兄ちゃんそろそろゲームでもしたいから早めにね…なんていう軽口はここでは効果をもたないだろう。
俺はそこまで鈍感じゃない。避けたかった話題、それでも妹は追求する。そこに真実があれば、それに躊躇なく手を伸ばす。そこに罠があっても、それを見越した上で計算して勝利をもぎ取る。それが西蘭のやり方だ。俺は妹には勝てない。だから、その先に紡がれる言葉にも、、俺は向き合わなければならない。
それは、春休みに起きた、信じられない光景だったのだから……
『あの白い髪の女の子。いた?』




