10話 ファーストコンタクト
出雲崎 東夜。それがあの時助けてくれた少年の名前だった。
あの時は暗くてよくわかんなかったけれど、改めて見るとかなりの美少年っぷりを発揮している。しかし目が死んでいる……あと負のオーラが凄い。あれが世に言うぼっち属性の持ち主だろう。
目が死んでいるとはいえ身長175くらいで美形で、クールそうな感じはまさに乙女の理想とも呼べるのではないか? 呼ばないか。
最初のアガゴロウを忘れるくらいに衝撃的な自己紹介に思考がぶっ飛んだ僕は、次の人の紹介を聞いておらず、気づけばもう僕にまわってきていた。やばい何も考えてない!
「あ、えと、柳中学から来ました青海川 来夢です。趣味は散歩と読書と買い物と、あと漫画読んだりとか……なんかあったかな……あ、そだ、楽器とかです、一年間よろしく〜」
よし無難な挨拶だ。漫画ならオタクっぽくないし、さりげなく趣味で楽器を吹いていることも伝えた。アルトサックスのあるたー君は入試終わるまで吹いてなかったからちょびなまってるだろうけど。
そして聞こえるヒソヒソ声。
「ちょ、可愛くね? あの子」
「青海川さんかぁ……漫画読むんだってさ…話しかけようかなぁ…」
「俺あの子落とすから見てろよ?」
「芸能人かなんかなのかな? 肌綺麗〜」
こらこらここまで主人公ageが続くと読者もイライラするからその辺にしなさい、てか全部聞こえてますから……誰だよ落とす落とすって! 何にだよ?池か?
「西中から来ました。小国 翠花です。趣味はバドミントンと料理です。よろしくお願いします」
うわぁぁ後ろの子可愛い! 銀髪系の美少女……あれ、ズボン履いてるってことは……まさか男ですか? 男の娘ってやつですか!? リアルにいたのか。可愛いすぎる! 自己紹介終わったら話しかけよう!
「黒崎真知です。東中から来ました! お菓子作ったり家事することが好きなのでママって呼ばれてました。よろしくお願いします!」
は、翠花ちゃんもとい翠花君のあまりの可愛さに何人か聞き逃した! 黒崎真知ちゃんってさっき話しかけて来てくれた子だよね。ぽっちゃりおっとりしてるのが可愛らしい子。うん、確かにママっぽい。
「越路 敦でっす! 西中出身です。好きなことはギターとカラオケっす! あと可愛い女の子!俺今彼女募集中なんで、じゃんじゃん応募してねー」
隣の席のチャラ男の自己紹介に、クラスで微妙に笑いが起こる。やらかさなくてよかったな少年。後ろの翠花くんがくすくす笑ってるからこっちも少し笑ってあげた。うん笑った顔も可愛いよう!
しかし茶髪メガネでピアス付きとかイケメンじゃなかったらほんとに恥ずかしい高校デビューだな。ある程度陽キャで、よかったな越路敦よ。
そのあとはつつがなく自己紹介がされていく。正直名前を覚えるのも必死だ。難しい名前多いんだよね……。
「月潟アリアです。英国と日本のハーフですわ。趣味はピアノとテニス。よろしくお願いいたしますわ」
おおハーフなのか。この子も後で話しかけよう。金髪お嬢様でしかもですわ口調とか絶滅危惧種でしょ。
自己紹介は最後までつつがなく、あとは普通に終わっていった。個性派ぞろいだとは思うが、おそらく芳樹のいる1組の方が個性派クラスとなるだろう。様々なジャンルの女の子を引き寄せる芳樹はクラスの環境すらも左右してしまう。1組の男子マジどんまい。
さて、いろんな子と仲良くなるためにはまず第一印象。これは自己紹介で既にクリア済みである。読書やら漫画やら楽器やらいろんな人が話しかけやすい紹介をぶら下げて向こうからもこちらからも会話の始まりを作るスタイル。そして次に自分から積極的に話しかけること。この時クラスでの地位を高めたいなら可愛い子や目立つ子 (でもしっかりしてる)と友達になることが重要。そんな下心ある付き合いとかしたくないんで、まぁクラスでの地位とかは正直置いておいて先ずは、
「来夢だよ! 宜しくね翠花ちゃん!」
「う、うん! こっちこそよろしくね、ええと、青海川さん!」
「来夢でいいよ!」
そう、最初に呼び方を提示してとかないと後々非常に厄介になるから注意。
「うん、分かった来夢さん!」
「翠花ちゃん可愛い……」
「ボク男なんだけどな……」
知ってますともえぇ、ああもう! すいかわいいなぁ。
「なーに話してんの〜俺も混ぜてよぉ! なぁ青海川さーん」
うえぇ出やがったなチャラ男越路!!特になんとも思わないけど
「あ、うん、敦くんもよろしく」
「いーよ敦でー! 仲良くしよーぜー」
「じゃあ敦、僕は来夢でいいから」
「んじゃ、来夢よろしくぅ!」
なるほどアクティビティな見た目だがやはりコミュ力も相当なものだね。翠花は女子である僕に対して名前にさん付けだったがこの男最初から呼び捨てとは。いや普通なんだけどね……その普通ができないら高校生は世の中に多いのよ。
「貴方には秘密がありますね?」
「はひ?」
そういって話しかけてきたのは黒髪のちっちゃい少女。確か名前は、
「ダークネスギルティと云う、覚えておくがいい凡俗」
違う絶対その名前じゃない! なんだろこの子今時珍しくもない厨二病キャラかな?
「こら汽笛! 最初に上手に自己紹介出来ないと本当にお友達できないよ?」
「あ、確か、黒崎真知ちゃん、だよね?」
「覚えててくれたんだね〜嬉しいよー。あ、真知でいいよ!」
「じゃあ僕のことも来夢で」
「うん、来夢だね! それでこっちの子が汽笛。五泉汽笛、変わった名前でしょ」
「黒鉄の力を見に纏いし我が力の前にひれ伏すがよい!」
「まぁおかしな子だけど小ちゃくて可愛いね! よろしくね汽笛」
「ダークネスギルティだ」
「呼ばないからね?」
長いよ……厨二病キャラの扱いには慣れてないんだよ……。
「真知と汽笛は昔から友達なの?」
「マチルダ:プレヴァンス近衛騎士団長は我の唯一の盟友である」
「そんな風に呼ばれてんのね……」
誰だよマチルダ! てか近衛騎士団長て……。
「ボクは翠花! よろしくね!真知さん、汽笛さん!」
「敦な! よろしくぅ!」
「ふっ、凡俗の相手をするのも疲れるのだがな…」
「汽笛ぃ! そーいうのいいから!」
なんだろう、自己紹介始まって10分経たずにお友達グループが出来上がる瞬間を目撃してしまった。
見た所クラス内にはぼっちも結構存在する。窓際の方ではさきほどの3人:吉田 苺、山古志 林檎、妙高 桜が男女問わずに話しかけ、勝手に盛り上がっている。おおぅ江南先生イライラしてるような……。
まぁこっちはこっちであとは出雲崎東夜と月潟アリアさんに話しかければミッションコンプリート!
「んで、言ってやったわけよ! てめぇのそれはバスケじゃねえってな!」
「初対面の人間によくそんなわけワカンねぇこと話せるなお前……」
おや、隣の席の男子と会話中かな? 隣の席の子はガタイのいい男子。多分アクティビティ男子。しかしぼっちスキルの持ち主かと思っていたが案外会話はできるらしい、だるそうだけど。
「あ」
「あ」
出雲崎東夜がこっちを見る。そもそも覚えているのだろうか? あの時ずぶ濡れだったし僕だとわからないかもしれない。それに、髪も目も色が違ったのだから……。
そう、出雲崎東夜は神憑りした僕の姿を見てしまっている。それは正直望ましいことではない。だからファーストコンタクトは慎重であるべきだ。
「えと、僕は青海川来夢……その、来夢でいいよ? よろしくね!」
無難だろうか?
「ん、そか…いや、苗字でいいか?その、なんつーか………」
わぁめっちゃウブ!
「あはは、んじゃぁ君は東夜でいい?」
「あ、ああ、まぁいいけど……お、青海川」
「……? うん、青海川だよ?」
「いやただ呼んだだけなんだけど……」
クールな少年の中で何かが葛藤しているらしい。男子高校生という生き物も大変なのだろうね。
「あ、あのさ……」
「……な、なんだ?」
まずい、いざ聞こうとすると緊張して聞けない……。
「う、運動とかしてるの? なんか身長高いし、運動しそうだなぁってあはは」
聞けねぇ!
「あ、ああ、いやこれは……毎日の筋トレ的な……感じ?」
あ、また目を逸らした。
「ほう、筋トレか! それも毎日! やっぱお前すごい奴だな、俺の目に狂いはなかった! 是非バスケ部に行こう!」
え、誰こいつ!? 東夜の隣の席のガタイのいい……うわ顔こわっ!
「ああ、俺は川西 達矢だ。バスケ部に入る予定でな。よろしくな青海川!」
めっちゃガタイのいい男の発するバスボイスがやけに耳に残る。いわゆる芳樹とはまた違ったイケボ!
「あ、うん、よろしくね!」
「俺もよろしくなぁ! 達矢と東夜ー」
「惇、うるさいからちょい黙ってて」
「我を無視してどこかに行くとはいい度胸だな青海川来夢!!」
「ちょっと汽笛やめなっば」
このクラスは……多分とっても賑やかになると確信した自己紹介開始から40分後。




