猫のいる生活の続きの続き
ピンポーン。
「ごめん下さい」
何のお客さんかと思ったら、役所の人だった。用件は税に関する話らしい。要点を二、三、かいつまんで説明される。この家の造りがどうのこうの、建っている土地の資産価値がどうたらこうたら。
「ところで、表札にあるお宅の猫も拝見したく…」
「はいはい、クロ、クロ」
呼んで聞こえる場所にいるかは不明だったが、意外と近くにいたようだ。こちらに寄ってきて、ちょこんと座り、くるっと尻尾が回る。
「クロに何かご用事で」
「普段、家の中には居ないのですね」
「ええ、まあ」
「食事は与えていますか」
「は、はい」
「ほぼ終日、屋外で過ごされる方もおられますが、クロさんはどこで寝ていますか」
そういえば、夜はどこにいるのか知らない。
「ニャア」
クロが立ち上がった。ついてくるようにと言っている。のっそりと家の裏手まで行くと、足を止めた。軒下と塀の陰辺り、ブロックの間を指す。
「あまり、いい寝床とは言えませんね」
雨、風は当たりにくそうではあるが、そう言われれば、そうかもしれない。
「基本、クロは外にいますので」
「そういう場合でも住環境への配慮は必要ですよ。きちんとされれば、税の控除もつきます」
「はあ」
「つまり、整った専用スペースがあればよいのですよ」
何となく理解できた。
「分かりました。作るとします」
「いいでしょう。それでは、この書類に署名とクロさんの印を」
自分の名前を書き入れ、クロの肉球をスタンプする。むず痒い。受け取った役所の人は、控えを置いて帰っていった。
とりあえず、猫ハウスがいるわけだ。サインをした手前、早速、作業に取り掛かった。材料は棚を作った際の残り板、ベニヤの破片、ダンボール他だ。イメージを膨らます。大きめの方がよいだろう。何をするのか分かったようで、クロは邪魔にならない位置に控えている。その日、午後一杯をかけて、作り上げた。
「うーん…」
クロと顔を見合わせる。猫に対して作ったつもりだが、犬小屋ができていた。一応、中にはクッション代わりのタオルも入れてある。でも、やはり、犬用な感じ。試しとばかり、クロは中に入っていき、顔を出す。
「ニャアン」
「すまんね、気を遣って貰って」
想像力が貧しいな。道具を片付けながら、嘆きもした。でも、これで基準はクリアーしているだろう。ある意味、親切な訪問だったと言える。渡された書類を見直すと、下の方の端、責任者の欄にタマ大臣の印があった。
そういうことで、クロは時々、その小屋で休んでいる。