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雪の道化と  作者: 澑〈りゅう〉
1章
9/12

8話

「やぁ、千雪」

 何処だろう……ココは……。

 見覚えのない場所。というか、真っ暗な場所。

「おーい、千雪。聞こえてるんだろう?」

 聞き覚えのない声だけが聴こえる。空耳だろうか……。

「空耳って……酷くないか?……絶対わざとだろう……拗ねるぞ?」

 声の主はいきなり独りで拗ね始めた……うん、ボクよりも随分と子どもっぽいな……。

「失敬な!!千雪よりは年上だぞ!?」

 ボクと同じ位の年齢の声に聴こえるけど……それより、さっきから

「"ボクの考えを読んでいるみたい"?」

 っ!?

「そりゃあ、ココはキミの"夢"みたいなものだよ?オレが千雪の考えてることをわかってもおかしくはないだろう?」

 ……キミは?

「オレ?見た方が早いんじゃないかな?」

 見る?なにも見えないじゃないか。

「アハハハ、可笑しいことを言うね、千雪。目を開けなくちゃ見えるものも見えないだろう?」

 目を開ける?

「ほら、もう見えるはずだよ?ココでは意識しないとナニもないんだから」

 やっぱりボクと同じ位にしか見えないけど……ナニもない?

「ああ、五感なんかもね」

 でも、ボクはキミを意識してなかったよ?

「オレはココに"居る"からな」

 "居る"?

「ああ、ココはオレの場所だ」

 ボクの"夢"みたいなものが?

「ああ、そうだ。千雪の夢が」

 ……それで、キミは?

「ナニに見える?」

 ……"鬼" ?

「そうだな、オレは"鬼"だ」

 ……名前は?桃色の角の鬼さん。

「そうだな……オレは"アメ"。オレは"雨"だ」

 そうだなって……それはホントの名前?

「アハハハ、どうだろうなぁ」

 違うんだ……。

「まぁ、いずれ知ることになると思うよ?」

 いずれ?今、教えてはくれないんだ。

「そりゃ、名前なんて個人を判断し区別するためのラベルだろ?ココにはオレとキミしかいないんだから正直な話、名前は必要ないと思ってるからね」

 ……わかった、雨。それで、キミは何で刀を持ってるんだい?

「んー……オレの中に在ったモノだからかな」

 雨の中に?

「ああ、これもいずれ知ることになることだな。それより千雪、オレは忠告に来たんだ」

 ……?忠告?

「ああ。キミが"アメ"を嫌わないうちに……忠告だ。もし、力が欲しいと思ったらオレを呼ぶといい。キミに力を貸そう。ただし、本当に力が必要なとき以外はやめた方がいい。オレみたいに歪んで戻れなくなる」

 ……わかった。よくわかんないけど……。

「わかんないならそれでいい。ココのことと、オレのことを覚えていればそれで……。オレのことは誰にもいっちゃダメだよ?」

 わかった。ねぇ、

「よし、そこまで。時間だ」

 時間?

「ああ、またな。ココ以外で会わないことを切に願うよ」

 待って、まだ聞きたいことが……。




「……夢?」

 千雪は、独り、布団から身を起こし呟く。

「"雨"、か……なんだったんだろう?……よし、とにかく今日も頑張ろう」

 千雪の一日が始まった。





「さ、依頼が来たわよ!」

 千雪とハルトが掛り稽古をする道場に、メグリの声が響く。

「依頼?どんな依頼だ?」

 ハルトは軽く尋ねるが、千雪は床に大の字になっている。

「ハァハァ……依頼……?」

「ええ、今回は二匹の怪鳥よ」

「カイチョウ?なんだそれ」

 わかっていない様子でハルトは首を傾げる。

「ハァ……ハルト……アンタ、それワザとじゃないでしょうね?」

「は?なんだよ、わかんないだろ!?どうだ?千雪、わかるか?」

「怪鳥……って普通じゃない鳥、大きい鳥のことですか?」

「まぁ、正解ね。ハルト……千雪くんに負けてるじゃない……大丈夫?」

 哀れむような目でハルトを見るメグリ。

「哀れむような目で見るなぁ!」

 例え、依頼が来たとしても血の繋がっていない葉桜家は通常運転だ。




「で、どんな鳥なんだ?」

 少しの休憩をいれたあと、情報の整理と作戦会議を始める三人。

「一応わかってる情報によると、一匹は右の翼と鉤爪が異様に発達している個体と、左の翼と尾羽が異様に発達している個体らしいわ」

「二匹……一対の鳥ですか……」

「ええ、そうなるわね」

「能力はどうなんだ?あと、レートは?」

「一気に聞かないでよ、まず、レートはB+」

「……メグリさん、両方とも?」

「ええ、能力は左の翼と尾羽が発達した方は羽を弾丸のように射ち出す能力。右は自身の羽を刃のように硬化させる能力のようよ」

「結構情報あるんだな……」

「そうなのよ。今回の依頼人はなかなか情報を出し惜しみしないのよ」

「何も裏は無いのか?」

「うーん……今のところは」

 思い当たる節がないか考えるメグリ。

「一応、気を付けてみるしか無さそうですね」

「だな……で、今回もメグリちゃんはお留守番か?」

「ええ、レートはB+だし、鳥じゃ銃も遠距離の年齢能力もないしね」

「ちょ、俺もその両方ともないぞ!?」

「へ?ボ、ボクもないですよ!?」

「ハルトも千雪くんも能力でなんとかできるでしょ?」

 ハルトと千雪のツッコミに笑顔で丸投げするメグリ。

「え?飛んでるんですよね?その鳥って」

「ええ、鳥だしね」

「ボクの攻撃届きませんよ!?」

 今のやり取りで気付いたように千雪が訴える。

「大丈夫よ。ハルトが撃ち落としてくれるから」

 メグリは気楽に笑う。

「……ハルトさん?」

 不安そうな千雪に、

「俺が能力で跳ぶしかないんだろうな……大丈夫だ、何回かあったパターンだから」

 どことなく哀愁を漂わせる疲れた笑みのハルト。

「……わかりました。作戦はどうするんですか?」

 理解したというよりは諦めたという表情の千雪。作戦を練ってからどうしようかと考える。

「そうね……情報によると二羽は連係するような挙動をするらしいけど、頭はそれほど良くないらしいわね」

「……それじゃ、分断か?」

「そうなるわね」

 ふざけた雰囲気は全くなく、堅実で確実な作戦を練っていく。

「ボクはどっちを担当したらいいですか?」「そうね……遠距離の左は千雪くんの能力でなんとかなると思うわ」

 既に考えてあったのか、比較的早く返事をするメグリ。

「……もしかして、メグリちゃん……依頼を聴いてるときにその作戦考えてなかったか?」

 何かに気付いたハルトがメグリに問う。その目をジッと覗き込む。

「……なんのことかしら?」

 フイッとその目を明後日の方向に向けるメグリ。

「……嘘だろう?メグリちゃん……千雪も何か言ってやれ!」

 メグリを指差し、叫ぶハルト。

「でも、ちゃんと依頼内容は聴いてるんですよね?」

 控え目に千雪は訊ねる。

「ええ、さっきの作戦は頭の片隅で考えていたことよ!」

 胸を張ってメグリは断言する。

「いや、ちゃんと聞いとかなくちゃダメだろ……」

 そのメグリをジト目で見るハルト。

「とにかく、千雪くんは左の遠距離型を引き付けて、その間にハルトはもう片方を討伐。その後、左もハルトが止めを刺す形よ」

 ハルトの視線を全力で無視し、大まかな作戦を決定付けるメグリ。

 千雪とハルトの二人は視線を合わせ、諦めたように溜め息を吐いた。





「さて、このビル群があるからなかなか討伐されなかったのかな……」

 ハルトは階段を登りながら愚痴る。

「階段……イヤだ……」

 その後ろを荒く息を吐きながら千雪が続く。

 千雪がしばらく前から使っている刀はハルトにもってもらっている。



 討伐対象のいる地点に着いた二人が見たのは、乱立する高層ビルとそのビル郡を飛び回る二匹の怪鳥の姿。

「……エレベーターは死んでるだろうから、階段を登るしかないな……」

 このハルトの一言で二人はビル郡で一番高いビルに登ることにした。



「ハルトさん、このビルに登った後はどうするんですか?」

 刀をもってもらっているといっても、アサルトライフルを一丁と替えの弾薬を持っているのだから、荷物の重量は13歳の少年が持って歩くものではない。

「ん?……そうだな、千雪はその銃で左の鳥を牽制してくれ俺は右の鳥が留まっているビルに跳び移って討伐してくる。まぁ、後は柔軟にやろうぜ」

 そう、ハルトは軽く言う。

「はい、わかりました」

「さ、そろそろだ。頼んだぜ、千雪!」

 そう言ってハルトは刀を千雪に渡して屋上に飛び出した。

「はい!」

 千雪は元気に返事をして能力を行使して、自らの認識の阻害を開始する。

 千雪は対象目掛けて引き金を引く。

 パララッ。

 乾いた銃声と共に、左の鳥に弾丸が突き刺さる。

「さ、俺も行くかっ」

 ダンッ。

 ビルを揺るがす程の音を鳴らしてハルトは宙に体を投げ出す。

「ぅおおおぉぉぉお!」

 宙に跳び出すのと同時に、ハルトは能力を行使して腕を獣のそれと化し刀を抜く。

 その大きな音に気付いた右の鳥は自らの羽を刃と化し、翼を大剣のように薙ぐ。

「葉桜流"崩崖道(あずみち)"」

 ハルトは叫び、その翼を殴るように刀を振るう。

 ガァアンッ。

 刀と翼とがぶつかる鈍い音が響く。

「これで欠けないか……素材としては最高だろうな」

 ボソッと笑いながら呟くハルト。その手に握られた刀は全く刃毀れしてない。


 葉桜流"崩崖道"。この技は、斬るということではなく、崩す、割ることに重きを置いた技だ。ハルトの腕力でこの技を振るえば余程の業物でもなければその相手を崩す。そして、衝撃を相手に通す技でもある。

 咆哮。

 ダメージが通ったのか、怒りを露にする怪鳥。

「これは疲れるからあんまりやりたくないんだけどなぁ……」

 空に舞い、上空で旋回する怪鳥。次第に速度を上げ、眼光はハルトを射抜いている。

「ふぅ……」

 ハルトは納刀し、息を吐き出し、脱力する。そして、旋回する怪鳥を睨み、右手で柄を握り、左手を鞘に添える。

「さぁ、来いよ。鳥野郎、刺身にしてやるよ」

 その言葉が聴こえた訳ではないだろうが、怪鳥は鋭く哭き、自らの身を矢のようにしてハルトに迫る。

「葉桜流抜刀術"朧朧雨裂(ろうろううれつ)"」

 裂けた。怪鳥が、大気が、雲が裂けた。

「ふぅ……今回は砕けなかったか……」

 ハルトは手に持った刀に視線をやり、溜め息を吐いた。その額には汗の玉が浮いている。

「次は遠距離型の方か……千雪に刀を借りるしかないか」

 そう言って、ハルトは脚を変化させて千雪のいるビルに跳び移る。

 そこでは、穴だらけの屋上と弾丸を避け続ける千雪、旋回し弾丸を放つ鳥がいる。

「千雪!刀を上に放り投げろ!」

 屋上にその足が着いた途端、ハルトは叫ぶ。

「はい!」

 ハルトの目に写る千雪とは違う場所から返事が挙がる。

 鳥とハルトとの間に千雪の刀が浮かび上がる。

「よくやったぁぁあっ」

 叫びながらハルトは跳ぶ。

 柄を握り、抜刀。

「こっちを見ろっ!」

 千雪は鳥の頭に狙いをつけて引き金を絞る。

「葉桜流に空中戦用の型は少ないんだよな……」

 鳥の注意が千雪に向き、余裕の表情で呟くハルト。

「……葉桜流"緋飛鳥(あかあすか)"」

 横薙ぎ気味に刀を振るう。

 鳥は千雪の方を向き、無防備に飛んでいる。

 一閃。

 翼の付け根から血が吹き出す。

 鳥は哭き、墜落していく。

「うおっと!」

 ハルトはその鳥にしがみつき、クッションにする。

「千雪!潰されないように気を付けろよ!」 叫びながらハルトは衝撃に備え、身を丸くする。

「くっ……」

 流石のハルトでも、完全には衝撃を殺しきれなかったようで声が漏れる。

「ハルトさん!大丈夫ですかっ?」

 すかさず駆け寄る千雪。

 ハルトは、

「だぁぁぁぁあ!疲れたっ!」

 叫ぶ。

「メグリちゃんはこれを見越して依頼を受けたな!?」

「え、大丈夫なんですか?ハルトさん」

 心配そうに訊ねる千雪。

「まぁ、大丈夫だけど……また階段かと思うと……」

「ああ……」

 疲れた表情の千雪とハルト。この世の階段全てを恨むように項垂れた。


 その後、二人は疲れた身体にムチ打つようにして階段を降り、葉桜の屋敷まで帰ってメグリに文句を言った。





 今でも思い出す。あの時、アイツ等に気付いていれば……どうにかなったんじゃないか。少しは、変わっていたんじゃないか……と。

「それはわからないんじゃないか?」

 うるさい。雨の力なら……。

「確かに、そうかもしれない。でも、オレは忠告したじゃないか」

 ……あれに関しては、仕方ないじゃないか……。

「"わかるわけ無いじゃないか"って?」

 ああ、そういうことだよ。

「でも、千雪は善処したと思うぞ?」

 ……善処じゃ意味がないんだ。完璧じゃないと……ダメなんだ。

「救い出して貰ったからか?」

 違う。家族だから……。

「そういうことにしておくか……」

 どういうこと?

「千雪、キミには気付かなくちゃいけないことがたくさんある。気付かないと、歪んでしまったキミは……」

 歪んだボクは……?

「ああ、もう時間だ」

 待てよっ!雨!

「じゃあ、いつかこの話を終わりまで話すよ。それまで、歪んで崩れないでくれよ?」

 ……また、いつかだ。いつになったら全部教えてくれるんだ?

「いつか、最適な刻にだよ。じゃあね」

 そう言って一つたりとも教えてもらってない……。




 あの日が、来なければいいのに……。

 ああ、真っ暗だ。ボクばっかり……。



 暗い暗い闇の中に記憶の中に千雪は沈んでいく。


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