4話
前回まで、ハルトぼこぼこ。←誤解
討伐依頼受注
荒野を走る、1台のジープ。そこから、賑やかな話し声と、笑い声が、聴こえてくる。
「それで、ボクは、メグリさんの指示通りにやればいいんですか?」
「んー……、まぁ、そうだな。メグリちゃんのいってた通り、注意を引いてくれるか?」
「注意を引く、ですか……うまくできるかな……」
「大丈夫だよ……千雪は能力で近付いて、撃ってくれればいいんだから!」
「ちゃ、ちゃんと当たるかな……」
「当たるかどうか、不安だったら……さっき渡したナイフで、切りつけてもいいぞ?」
「そんな、笑顔でムチャ言わないでください!」
「冗談だよ……半分な」
「半分本気何ですか!?」
こんな、会話をする2人……千雪とハルトは、討伐目標の変異種が目撃された地点に、向かっている。
◆
「大丈夫そうね……」
そう、呟いたメグリに、
「なんか言ったか?メグリちゃん?」
そう、ハルトが訊ねる。
「何も言ってないわよ」
「そうか?なんか、ブツブツ言ってた気がしたんだが……」
「ああ、もしかしたら、ちょっとした作戦を考えていたから……」
そう言って、メグリは誤魔化す。
「んー……違う気がするが……」
「いいのよ!そんなことより、あんたは何か思い付いた?」
ハルトは、考えるそぶりすら見せずに、
「頭悪いから、考えるのは、ムリ!」
と、胸を張る。
「堂々と言わない!だから、あんたは……ハァ……」
「そんな、可哀想なものを見る目をしないでくれ!」
そんな会話をする2人を見て、千雪は、
「えーっと、結局、どうすればいいんですか?」
苦笑しながら訊ねる。
「ごめんごめん。千雪くんは、ハルトの援護をしてくれる?」
「援護……ですか……」
「そう、後で銃を渡すから、能力で姿を消したりして、変異種を撃ってくれる?」
「銃……ちゃんと撃てるかな……」
「なるべく、軽くて反動が小さい銃にするから、大丈夫よ」
「ナイフも持たせないとダメじゃないか?メグリちゃん」
横から、思い出したかのように口を挟むハルト。
「ナイフ、ね……でも、変異種に対してなら、かなり大振りになるわよ?」
「それは仕方ないだろ。もしもの事を考えたら、必要だと思うぞ?」
そんな風に懸念するハルトを、珍しいものを見るように、
「どうしたの?ハルト?熱でもあるんじゃない?」
メグリは本気で心配する。
「なんでだよ!家族の命がかかってるんだ……真剣に考えるのは、当たり前だろ!」 心外そうに、ハルトは叫ぶ。
「でも、さっき、考えるのは、ムリ!って言ってませんでしたっけ……?」
千雪が思わず、指摘する。
「い、いや……アレは……そう、俺が作戦とか練ったら、逆に危ないからで……」
必死に弁解するハルト。
「ハァ……そういうことにしときましょう。とにかく、千雪くんには、ナイフと銃を渡すわ」
「う……頑張ります……」
「ハルトにだったら、誤射しても大丈夫よ。気楽に撃ちなさい」
にこやかに笑うメグリ。
「いやいやいやいや……大丈夫じゃないからな?能力をフルで使って、口径が小さい銃ならわからないが……痛いもんは痛いし、血だって出るからな?」
冷や汗を大量に流しながら、叫ぶハルト。
「大丈夫よ。前にヤっちゃった銃よりも口径はずいぶん小さいから」
「え?ヤっちゃった?」
メグリの一言に、疑問を覚える千雪。
「昔の話よ……気にしなくてもいいわ」
「は、はい……」
「よし、それなら、地下に行った方がいいな、な?メグリちゃん」
そう言って、ハルトは屋敷の奥へ歩いて行こうとする。
「ちょっと待ちなさい!」
「なんだよ、射撃練習するんだろ?」
「そんなものしないわよ」
「へ?何でだ?もしかして、撃ち方を教えて終わりなのか?」
まさか、と思いながらか、ハルトは笑いながら訪ねる。
「ええ、そうよ」
ニヤリと笑いながら、メグリは答える。
「そんな、千雪は銃を持つのも初めてだろ?」
「は、はい……」
千雪は申し訳なさそうに答える。
「でも、能力があるじゃない」
「へ?」
「どういうことだ?メグリちゃん」
訳が分からず、キョトンとしている2人に、メグリは、
「だって、千雪くんの能力なら、変異種に近づいても、バレないでしょ?」
なんて、笑顔でのたまう。
「いやいやいやいや、ちょっと待て……それは流石に危ないんじゃないか?」
「んー……どう?千雪くん?」
少し、考えるそぶりをして、メグリは訊ねる。
「えーっと、レーダー?とか、そういうのを使ったりしない限りはバレないと思います……」
正直に答える千雪。
「ほら見なさい。大丈夫じゃないの」
勝ち誇ったかのような表情で、ハルトを見るメグリ。
「ハァ、止めても無駄そうかな……」
そう、呟くハルトにメグリは、
「何言ってるの?基本的に、あんたが狙われるのよ?千雪くんが怪我しないように頑張ってね」
ウィンク付きで、エールを飛ばす。
「ハァ、とにかく、まとめてくれるか?メグリちゃん」
「わかったわ。まず、ハルトは刀と能力で変異種を斬る。その時に千雪くんは、能力と銃やナイフで、変異種の気を惑わせたり、チクチクとダメージを与える。一言でいうと、ハルトは前衛、千雪くんは、攪乱ね」
ハルトの要望に、しっかりと応えるメグリ。
「ありがとう。さて、千雪、わかったよな?」
「はい、なんとか」
少し、自信なさげに答える千雪。
「まぁ、何かあったら、ハルトが助けてくれるわよ」
気楽に笑ながら、メグリはハルトの肩を叩く。
「あ、当たり前だ。末っ子の面倒ぐらい看れるに決まってるだろ?」
なぜか、少しどもりながらハルトは答える。
「ハルト……あんたもしかして不安なの?」
「い、いや、少し……」
「大丈夫よ。もしかしたら、千雪くんの方がしっかりしてるかもしれないのに……怪我だけ気を付ければいいのよ」
ハルトの不安を消そうと、メグリは笑いながら声をかける。
「メグリちゃん……何気にそれ……傷つくんだけど……」
涙目のハルト。
「とにかく、2人とも、千雪くんはしっかりしてるし、ハルトは実力あるんだから自信持って、無理しないでね?」
真面目な顔をして、メグリは2人に言う。
「おう、ありがとう。メグリちゃん」
「は、はい。頑張ってきます」
ハルトと千雪は、それぞれの反応でメグリに答える。
「それじゃあ、2人とも、頑張ってね。行ってらっしゃい」
そう言って、メグリが2人を笑顔で見送ったのは、1時間前。
◆
「そろそろかな……」
ハルトは、新しいタバコに火をつけ、車を停める。
「え?ここですか……」
千雪は、まさかこの場所だとは思ってもいなかったらしく、驚いている。
ハルトが、車を止めた場所は廃墟が立ち並ぶ、町の原型がなんとか判るようなゴーストタウン。ただ、住もうと思えば住めるような、そんな場所だ。
「いや、討伐目標がいるのは、もうちょっと先だろうな……ここで、最後の確認だ。俺は、この刀と能力で変異種を斬る、千雪は?」
普段とは全く違う。真面目な表情で、ハルトは確認する。
「えっと、ボクは能力と銃とナイフで変異種を攪乱させます」
緊張の滲んだ顔で、千雪ははっきりと答える。
「よし、OKだな。千雪、もう能力を使っとけ……ここから先、なにがあるかわからないからな」
「は、はい!」
2人は、ジープから降り、自らの装備の確認をする。
「俺は準備完了だ。千雪はどうだ?」
「はい。ボクもいけます」
ハルトの問いかけに、うなずく千雪。
「よし、いくぞ!」
刀の柄に手をかけ、ハルトは歩き出す。
「フゥ……」
深く、息を吐いた千雪。その姿が、ゆっくりと、だが、確実に周囲に溶け込む。
「グルルル……」
2人がしばらく歩くと、直ぐ近くから唸り声が聞こえてきた。
「早速か……」
あたりを見回すハルト。
「いました。あのガレキの後ろです」
「おお、ありがとう。もう、撃つ準備はできてるか?」
「いつでも行けます」
千雪は、能力で姿を隠し、変異種の居場所を突き止めてきたらしい。
2人は、件のガレキの近くまで行く。
「千雪、少し離れてろ。すぐに戦闘開始だ」
「は、はい」
ゴクリと、千雪はのどを鳴らしてハルトから離れる。
「さぁーって……やるか……」
小さく呟いたハルトの右腕に、大きな変化が生じる。
綺麗な、灰色の体毛がはえ、骨格ごとまったく別のモノに変化する。まるで、獣のような……しかし、粗暴なだけでなく、その丸太のように太くなった手には刀が握られている。
「ハァ……」
深呼吸をし、集中するハルト。
「いくぞ……ぅらあぁ!!」
ハルトは、ガレキごと、刀で、斬る。
「っ!?」
しかし、その刃は一匹の足に傷をつけるだけだった。
「ハルトさん!」
千雪の声を聴き、横に飛びのいたハルトの背後から、連続した発砲音と、いくつもの銃弾が変異種のもとに殺到する。
しかし、その銃弾も、嫌がるようなそぶりを見せるだけで、そこまで、ダメージは与えきれていない。
「グルルルル……」
唸り声をあげる2匹の変異種。犬のような姿をしているが、足は6本あり、大きさは、人の胸あたりまである。
「傷を負ってる方、頼みます!」
千雪はそう叫び、無傷な変異種に発砲しながらハルトから離れる。
「わかった!」
ハルトも、そう叫び返すと、脚を変化させ、人ではありえない速度で犬もどきに肉薄する。
「くらえ!」
叫ぶと同時に突き出した刀は、とっさに反応した犬もどきの爪に阻まれる。
「クソッ……案外、爪は硬いのか……」
悪態を吐きながら、刀を上段に構える。
「隙を突くのは苦手なんだよな……」
苦笑しながら足に力を入れる。不穏な空気を感じたのか、犬もどきは、距離を取ろうと脚に力を入れる。だが、
「反応がちょっとばかし、遅いかな」
その背後から、ハルトは声を投げる。犬もどきは、とっさに前足の爪で、刃を受け止めようとする。
「ぅらあっ‼」
凄まじい気迫とともに振るわれた刃は、爪には当たらず、犬もどきの体を引き裂く。
「フゥ……一撃で決めるつもりだったんだが……」
そう、呟くハルトの横顔は、一つの疲れも滲ませていなかった。
「さて、千雪が気を引いてくれてるやつだな、次は」
そう言って、ハルトは銃声の聞こえる方へ歩き出した。
GW中になんとか書き上げました。
当初の予定より短くなってしまい……すいません;
今回から、前回までのことを前書きに書かせてもらいます。
いらない、とか、邪魔、とか、何かあったら指摘の程、宜しくお願いします。