3話
次は、ちょっと遅くなります(´・ω・`;)
現実逃避の結晶(´・ω・`)
まだ、肌寒い朝……。
眠そうに目を擦りながら、少年はアクビをする。光どころか、闇までをも飲み込むかのような真っ黒な髪に淡い水色の浴衣、その浴衣は少し少年には大きいらしく、襟元から雪のように真っ白な肌が薄暗い部屋で妖しく映える。
大きな屋敷、葉桜邸……真っ黒な髪の少年、千雪が実験施設から連れ出され、ひょんなことから入社した〈葉桜対変異種警備会社〉の社長、葉桜メグリの祖父の所持する屋敷だ。千雪を会社に勧誘したハルトも、ここに住んでいる。
ハルト曰く、
「家族なんだ、OKだよ」
と陽気に笑っていたが、千雪は優しくされるのに慣れていなく、(なにか裏があるのでは……?)と思っていたが、件の葉桜氏と対面したときにその不安は跡形もなくなくなった。どのように疑っても、疑っている自分自身が罪悪感を抱くほどの人物だったのだ。
さて、そんなことで葉桜邸に厄介になることになった千雪は、社長のメグリに命じられて、先輩であるはずのハルトを毎朝起こすことから1日が始まる。
「ハルトさんっ!朝だよ!起きて!」
まずは、布団にくるまっているハルトに声を掛けながらただ揺らす。
「んー……」
そう、唸って、ハルトは起きる気配は全くない……。
ため息を吐きながら、千雪はまず、枕を奪う。
ハルトは短く唸り、布団に抱きつき、長期戦に突入……、するはずだった、いや、いつも流れなら、そうなっていた。ハルトは奪われた枕を探すように腕を振り回し、千雪に抱きつき、お気に入りのヌイグルミを抱いた赤ん坊のように夢の世界に旅立っていった……。
抱きつかれ、ヌイグルミの役割を果たした千雪は叫んだ。
3分後……。
ハルトはロープで縛られ、地面の上に正座させられていた。その腿の上には江戸時代に使われていたであろう、拷問器具である岩が鎮座していた……。
「誤解だってっ、メグリちゃぁん!」
ハルトは必死に弁解している。よく見ると、からだの所々に、なにかで殴られたかのような跡、メグリと屋敷の侍女の手には使い古るされた竹刀が握られている。
「何が誤解なの?あの状況を見られて、よく誤解だなんて言っていられるわね……」
メグリは額に青筋を浮かべながら、低い声で言う。
「い、いや……、アレは事故だよ!事故!たまたま、偶然!」
「ふぅん……、じゃあ……、あんなに怯えてる千雪くんはなんなのよ!?」
メグリが指し示す先には、未だに怯え、侍女の1人に宥められている千雪の姿……。
「だから、事故だって!」
「そう……、でも、証言もあるのよ?」
そう言って、メグリは侍女の1人に目配せをする。すると、目配せされた侍女は自らが見た状況を話始めた……。
「まず、私がいつものように朝食の用意等をしていると、大きな悲鳴が聞こえました……。最初は、千雪ちゃ……ゴホン、千雪様が悪夢にうなされているのだと思い、千雪ちゃんの寝顔を……ゴホンッ、千雪様の様子を伺うために、千雪様の部屋に急ぎました……。しかし、千雪様はいらっしゃらず、すでにハルトさんの部屋に向かわれたあとでした。それなら、あの悲鳴は何だろう、もしかして、ハルトさんが千雪ちゃ……様の可愛さにとうとう我慢仕切れず、私より先に手を出したのかと思いまして、部屋に立て掛けてある竹刀を手に、ハルトさんの部屋に急いだのです……。すると、部屋の襖は閉まっておらず、羨ましい……、ハルトさんと千雪ちゃんの浴衣は乱れ、千雪ちゃんはハルトさんの腕の中で気を失っていました……。私1人ではこの状況の始末は荷が思いと判断し、お嬢様や、他の侍女を呼んで、いまの状況に至ります……」
話終え、なお怒りの収まらない様子の侍女。
「いやいやいや、俺よりももっと危ないやついるじゃねーか!?」
と、叫ぶハルト……。
「え……?」とわかっていない様子の侍女。
「え……?じゃねーよ!あんたの方が危ないだろ!?おい!?メグリちゃん!?」
叫ぶハルトと、竹刀を振りかぶるメグリ。
「証言もあったでしょう?ショタコンは極刑よ」
顔はにこやかに笑っているが、目はあくまで冷やかだ。証言をした侍女に、
「ねぇ、〈彌桜〉持ってきて」
と、言っている。
「待った!メグリちゃん!それは、家宝じゃなかったか!?」
全力で叫ぶハルト、目はもう潤んでいる。
「そうよ?〈彌桜〉は、葉桜家の存続を脅かすものを斬るために在るんですもの……。」
冷やかな声で応える。
「だよね!?でも、俺はやってないからな!?千雪を襲ったりなんかしてないからな!?」
「そう……、向こうで自らの過ちを悔いなさい」
「お嬢様、持ってきましたよ、〈彌桜〉」
「ありがとう。さぁ、ハルト……、覚悟は決めた?」
「え!?マジなの!?本気で切り捨てなのか!?」
〈彌桜〉を抜くメグリと、叫ぶハルト……。
「あ、あの……」
そこに、パニック状態から脱した千雪がメグリに声を掛ける。
「あら、千雪くん。大丈夫?」
「えーっと、大丈夫です。ボクはハルトさんになにもされてないんですけど……」
「ええ、何かしてたら、もう首と胴体はサヨナラしてるわ。未遂だから、さっきチャンスをあげたのよ」
メグリはもう切り捨てる気だ。
「いや、あの……ハルトさんは、寝惚けてボクに抱き付いただけで、何もしようとしてないんですよ?」
「え?そうなの!?じ、じゃあ、あの悲鳴は?」
千雪は申し訳なさそうに、
「えーっと、アレは……、行きなり抱き付かれて、スゴいビックリしただけです……」 と言う。
「だから、誤解だっていっただろう!?」
ハルトは、我が意を得たりといったように叫ぶ。
「関係ありません……、千雪ちゃんに抱き付いたのは事実です……」
証言をした侍女が何故か手に包丁を握り、呟く。
「は!?ちょっと待て!事故だっていっただろうが!?手に持っているものを下ろせ!」
「私より先に千雪ちゃんに抱き付くなんて……、極刑ですっ」
「完全に私怨じゃねーか!?」
命がかかっているので、ハルトは必死だ。
「メグリちゃぁん!頼むから止めてくれぇ」
「あぁ……もう、わかったわ。とにかく、やめなさい!」
「そんな、お嬢様!?私はこの男を赦せませんっ!」
「赦しなさい!もう……本当に誤解なのね?」
タメ息をつき、メグリは訊ねる。
「もちろんだ!何度も言ってたろ?」
誤解を解くことができ、ハルトは、涙目だ。
「はい、ハルトさんが寝惚けてただけで、誤解です」
申し訳なさそうに、千雪は言う。
「いつか……必ず……」
何故か、侍女はハルトを睨む。
ジリリリリリ。
「あら、電話ね……ちょっと、出てくるわ」
そう言って、メグリはその場を離れる。
「ああ、竹刀とか、片付けといてねぇ、ハルト」
「へっ、俺か?」
笑いながら、メグリは行ってしまった。
「ハァ、千雪……手伝ってくれるか?」
声に疲れを滲ませ、ハルトは、力無く笑う。
「わかりました。すいません、ハルトさん……ボクがもっと早く誤解を解いてれば……」
下を向いて、千雪は呟く。
「いいんだよ、誤解が解けただけ、十分だ」
ハルトは笑う。
「ハルトぉ!依頼が来たわよ!」
メグリが、ハルトの名を叫びながら、ハルトに走りよる。
「依頼?どんな依頼だ?」
「C+3体の討伐依頼!千雪くんも連れていってねぇ!」
千雪は、まさか自分も行くとは思ってなかったらしく、ビクッと、身体を揺らす。
「ボ、ボクもですか……」
「大丈夫よ!基本は、ハルトの指示でなんとかなるわ」
「任せろ!ちゃんと、役目は果たすぜ!」
胸を張って、ハルトは親指をたてる。
「初仕事だな、千雪。頑張ろうぜ!」
「は、はい。頑張ります!」
ハルトの言葉に、千雪は顔色を明るくする。
「大丈夫そうね……」
そんな、2人を見て、メグリは呟いた。