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文学シリーズ

運命の人

作者: 桜 舞華

 ___お前。これが、見えるか?


 私は妻に、左手の小指に絡んだものを見せた。


 ___まあなんですか?何もない手のひらなんて見せて。


 妻はクスクスと、長年のシワの折りたたまれた顔を崩して笑った。妻のこの顔は、年を取っても変わらない。

 私の癒しだよ。


 ___いや、何でもないよ。



 私は、妻が何もない(・・・・)と言った手のひらを1度ちらりと見やってから、手を下ろした。



 ___そういえばお前、運命とやらが好きだったね。


 思い出話に興じるのは、私が定年退職を迎えてからだ。それまでは忙しくて、話など聞いてやれなかった。



 ___まあ。いつの話です?


 ___運命を導く……ほら、あっただろう。運命の人へと繋がっているという……あれだよ。



 この歳になると、物忘れが酷くて困る。妻に言いたいのに、名前が出て来ない。


 ___ああ、覚えてますよ。そうですねえ。昔は、運命とか信じていましたが。


 そこまで言って、妻はよいしょと立ち上がった。


 ___あなた。一雨来そうですから、洗濯物を入れてきますね。


 老いて細った妻は、今にも折れそうだ。


 ___手伝おうか。


 ___あら。あなたがそんなことを言うなんて。珍しいこともあるもんですね。


 妻はカラカラと、変わらぬ笑い方をした。

 洗濯物を取り込みに二階へ上がった妻を目で追い、私は不意に笑みを消す。


 ___お前。もし、もしもだよ。


 運命の相手が、私でなく他の誰かだったら。どう思う?



 唐突だが。

 私には、運命とやらが見えるらしい。


 ただね、それはどうやら私と妻とで繋がっているわけではないらしいのだよ。


 なぜ?ほら、運命とやらは絡まりあう糸だからね。1度、私と同じように見える人がいて、その人と交換(・・)したんだよ。


 するとどうだ。


 絡まることなく、一本の糸として存在していたはずのそれが、真ん中のあたりで他者のものと絡み合ってしまったよ。


 だからね、私が引っ張った糸の先にお前がいるとは限らないのだよ。


 まあ今さら違うと言われたところで。


 お前を愛していることに変わりはないのだけどね。

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