果ての幸せ
この作品は、二月期テーマ短編参加作品です。二月期のテーマは「自殺」
私の中での自殺の価値観、この作品を通して理解してもらえれば、幸いです。
「では、こちらの注意事項に目を通して同意してくださったら、ここに個人情報の署名と捺印を。あと個人が証明できるものを提示してください」
テーブルの向かいに座るスーツ姿のお姉さんが、営業スマイルを保ちながら、最後の契約書を私の前に丁寧に置く。
『 1、この書類に同意した時点で、この契約を取り消すことはできない
1、この書類に同意した後、契約者は速やかに施設内に入る
1、この書類に同意した----』
いいや、めんどくさい。
延々と注意事項が続くことに飽き飽きして、二つ目の注意事項まで読んだところで、署名を始める。
お姉さんも驚いた顔してる。当然か。さすがに書類を渡してから十秒もかからずに書類に記入を始めた人間は初めてだろう。
昔からこういう書類にはちゃんと目を通して来いと父親に言われたが、私はそういうのが大嫌いだった。それにもう関係ない。今から死ぬんだし。
記入を終えると、お姉さんに保険証を手渡して、書類に捺印をした。
「はい、では確認しますね。
御影彩華さん、19歳ですね。住所も……はい、あってますね。若いのにすごく綺麗な字をお書きになるんですね〜」
「ありがとうございます」
私の書いた文字を眺めながら、にこにこして話しかけてくるお姉さんに、謙遜しながら頭を下げる。正直何も嬉しくない。
小さい頃からそんな字を書けるように稽古され、字を書く度に褒められてきた。自分の字を見るのもこれが最後と思うとホッとする。
「はい、ではこの奥の扉にお入りください。希望はできる限り早く、ということですので、書類が通って、準備が整いましたら、担当者がお呼びします」
お姉さんはかけていた椅子の横に立つと、笑顔で奥のドアを右手で示す。それは私がこの部屋に入ってきたドアとは反対側の壁にあり、ここの関係者が使うであろうドアも別にあった。つまり、そこを通れば施設。後戻りは出来ない。でも、構わない。ようやく死ねる。
「はい、ありがとうございます」
お姉さんに軽く会釈をすると、なんの躊躇いもなく扉の奥へ入る。
扉の先は人一人が入れる程度の狭い空間があって、その先にはもう一つ扉があった。さっきのドアとは違って全自動の鋼鉄のドア。お姉さんの「さようなら〜」という言葉とともに私が入ってきたドアが閉められ、向こう側から鍵をかけられた。それと同時にゆっくりと前の扉が右にスライドして行く。
その先には広大な敷地に、様々な人がいた。共通しているのは、誰一人として生き生きした表情をしている人がいないということだ。
“自殺志願者援助法”
近年増加の一途を辿る自殺者数に歯止めがきかないことや、それによる事故処理や捜索にかける費用が財政を圧迫し始めたこと。自殺志願者の家族、遺族の負担が限界だったことなどから、数年前、民間の圧倒的反対を押し切って、半強制的にこの法律が施行された。
要は、他人に迷惑をかけずに死んでください。そのための場所や方法はこちらが用意しますよ、という制度を法的に許可したものだ。
十五歳以上の志願者であれば、全国八箇所に存在する施設に訪れ、書類を書くだけで、誰でも簡単に死ぬことができる。
政府は経済回復にもこの法を利用したいらしく、よい状態で死のうとすればするほど高い契約金が必要となる。安い金額でも自ら命を絶つよりは幸せに死ねるが、時間が選べなかったり、痛みを伴うので、皆有り金を叩いて可能な限り高いプランを選ぶ。
かく言う私も、自分で時間を選べて、麻酔ありで痛みなし、死後も最後まで丁寧に遺体を処理、お墓も素晴らしいものを用意してくれる、『フリータイム、痛みなし、死後も安心の最高級プラン』を選んだ。一軒家が買えるくらいの相当な値段だったが、親名義のカードで払ったから問題ない。
今私がいる東京の施設は八つの施設の中でも最も利用者が多い。そんな需要に合わせて、施設内はとても広く、様々な店があった。有名チェーン飲食店から高級料亭、ゲームセンターや本屋、映画館、果てにはジェットコースターなどのアトラクションまで。
本来遺族に回るはずの遺産まで搾り取るつもりなのか、どの店の料金表を見ても驚くほど高い。施設外の値段の十倍以上はするだろう。その上丁寧にATMまで置いてある。
だが、やはり皆死の目前で楽しむ気にはならないようで、どの店にも人は多くなく、大抵の人間は通路に置かれたベンチに座ったり、カフェでコーヒーを飲んだりして最後の時を待っていた。
「ねえ、君すごく可愛いね。そこで休憩していかない?」
少しだけ歩いた頃、突然後から男が駆け寄ってきて、私に話しかけてきた。
歳は私と大して変わらないだろうか。ピアスまみれの顔や、赤色で肩まで伸びている髪が、私は教養がない人間ですよ、って自分で示してるみたい。
……これはナンパなんだろうか?
いや、ナンパ自体は昔から何度もされてきた。整った顔立ちに背中まで伸びる長く美しい黒髪、どんな服装にもあう、適度な身長、体重、スリーサイズ。自分で言うのもなんだが日本美人とはまさに私のことだ。
まだ私に申し訳程度の自由があった頃、街に繰り出すといつも何人もの男に絡まれていた。
その時の男達の誘い方とこの男の誘い方は全く同じ。疑問なのは何故こんな場所にまで来てナンパなのか、ということ。もう今から死ぬのになんで女性とお知り合いになる必要があるのだろうか。
そんなことを考えながら男の指差す方を見る。そこにはピンクネオンでhotelという文字。
……なるほど。最後に美人と気持ちいいことして終わろうってことか。納得納得。本当にこの施設にはなんでもあるんだな。
でも嫌。絶対御免よ。なんで最後の最後まで、嫌な思いをして死ななければならないの。
「ごめんなさい、私他に行きたいところがあるから--」
「うるせぇ、黙ってついてこいよっ!!」
「きゃっ!? 痛いっ!! やめてください!!」
上品にお辞儀をして、足早にその場を立ち去ろうとした瞬間に、男は後ろから私の右腕を掴んで引き寄せる。
こっちがしたでに出れば調子に乗りやがって。でもこうなればこっちのもの。周りの人達が止めに……あれ?
こんなに大勢の前で助けを求めてるのに、誰も助けてくれない。なんで?
……あっ、そりゃそうか。今から死ぬのに世間体もクソもない。わざわざ最後に厄介事に首を突っ込むバカもいないだろう。施設からはもう出られないんだから、施設関係者だって不祥事を気にすることもない。つまりここは完全なる無法地帯ってことだ。
「ほら、さっさと来いよぉ!!」
「っ!!」
渋る私に苛立ったのか男は私の右腕を掴む力をさらに強くする。
ほんとどうしようかな。
……あっ、そっか。私も世間体気にしなくていいのか。
そう思うとなんか笑えてくるな。
「何笑ってんだよぉ!! 早く来いよ、殺すぞっ!! 」
男はついに大きな声で怒鳴り始める。
もういいや、やっちゃお。
男が私の右手を掴んでいる手を左手で掴んで手繰り寄せる。男の腹が私の背中に触れていることを確認して、少し体勢を低くして、男の手を私の右肩の上に乗せる。
「あの、その人俺の知り合いなんで離して--」
なんか知らない人の声が聞こえたけどもう遅いや。ここまで組んじゃったし。怯んだ男の手から右手を解放して、両手で男の手を掴む。後は思いっきり体を屈めて、両手を前に引っ張りそれに合わせて体を動かすだけっ!!
簡単に男の体は宙に浮き、その後すぐにコンクリートの地面に叩きつけられる。うん、少し変則的だけど一本背負い完了。
男は受身も取れず、直にダメージを受けたようで、声にならない叫びをあげ、床を転がり回っている。
私は体勢を直し、手をぱっぱっと叩く。後ろを向くと、たくさんの人が私をちらちらと見ている。
「もしかして……御影か?」
一人の男が近付いてくる。誰だったっけ……見たことあるようなないような……。
「俺だよ、俺。ほら、中学二年の時に一緒だった須田光希だよっ!!」
そんなに私の顔を見ながら身振り手振りで話されても……。
須田、須田…………あー、いたな。私の後ろの席だった奴だ。このうるさいとも言われかねない元気な声、すっきりした短髪、普通の顔……全然変わってないな。
「久しぶりだなっ!!
どーしてお前がこんな場所にいんのよ。……そーだ何もやることないならどっかで話さないか? この男みたいな変な場所じゃないぜ?
あっ、もちろん無理にとは言わねーよ。どうよ?」
須田は笑いながら、頭を掻く。先ほどの男のような、下心はみられない。というかコイツはそんな奴じゃなかったと思う。まあ、どうせやることなかったしな……
「うん、いいよ」
周りの目も気になったし、足早に須田と共にその場から去った。
「あんたよく私のこと覚えてたわね」
須田に歩幅を合わせながら、彼の意図を探る。
「いや、最初はわかんなかったよ」
「えっ!? じゃあなんで知り合いって言ったの?」
「そりゃ、お前……困ってる人を助けるのは当然だろ?」
須田は私を呆れた目で見てくる。そういえば、そうだったな。コイツは中学の時も呆れるほどのお人好しだった。こんな性格だから、コイツの周りにはいつも友達の輪が出来ていた。美人でお淑やかな私とはまるで真逆だった。
「はぁ、アンタってすごいわね……」
「アンタって……御影ってそんなキャラだったか?
……おっ、この店ならいいじゃん。入ろうぜ」
須田の目に止まったのは少しお高いレストラン、と言う感じの店だった。私はどこでもよかったので、須田に従って店に入る。
店内はあまり広くなく、手前にカウンターと厨房への入口、その奥に十五席程度の客席があった。
私はすぐに人目を気にしなくて済む奥のテーブルに腰を据える。
「注文が決まりましたら、お呼びください」
店員がすぐに駆けつけ、お手ふきと水とメニューを置いて、張り付いた笑顔で立ち去っていく。
「先にメニュー見ていいか? もう腹減っちまってやべーんだわ。……今から死のうって言うのにな」
テーブルの向かいに座った須田は、ははっと笑い、メニューを眺め始める。
「うげっ、たけーな。なんだよ定食が50000円って。俺そんなに持ってねーぞ」
メニューをめくる度に、須田の顔はどんどんとげっそりしていく。
「いいよ、奢ってあげるから好きなの選びな」
「いいのかっ!?」
申し訳なさそうな顔をしているが、空腹には勝てなかったのか、須田は食いつくように私を見てくる。
「うん、さっき助けようとしてくれたお礼。私がお金持ちなのは知ってるでしょ?
須田が決まったら頼んでいいよ。私はそんなにお腹すいてないから」
私はカバンから父親名義のカードを取り出すと、右手の人差し指と親指で掴んで、須田に向かってひらひらと棚引かせる。
「本当にすまねー。恩に着るわっ!!
すみませーんっ!!」
須田はテーブルすれすれまで頭を下げると、店員を呼び、一番安いうどん定食(といっても二万五千円)を頼む。私は一万円という破格のコーヒーを頼んだ。
店員は注文を読み返して確認すると、伝票を机の上に置いて立ち去っていった。
「それにしても驚いたよ。
あのお金持ち中学でも一番のお嬢様だった御影が一本背負いなんてするんだからよ」
「お嬢様だからこそよ。昔からよき強き妻になれるように、ありとあらゆる稽古を付けられてきたからね」
「ほへー、御影も大変なんだな。
……ってか、すげー雰囲気変わったな。昔のお前ってそんな言葉使いじゃなかっただろ」
あぁ、それでさっきから私が話す度にどもっていたのか。
須田が驚くのも当然だ。世界的な大企業、御影グループ代表の一人娘である私は、幼い頃からその身分に恥じない淑女となるように育てられてきた。そんな私は公私問わず美しい日本女性であることを強制されていた。こんな言葉遣い、家の者に見られたら一ヶ月は自宅に幽閉されるだろう。
でも今ならこんな言葉使いをしても誰にも何も言われない。こんなに気が楽なのは人生で初めてだ。
「で、御影はなんでこんな場所にいるのよ?
御影グループは今も順調だし、お前だって親に敷かれたレールを辿って行くだけで幸せな人生が待ってんじゃねーの?」
須田が疑問に思うのも当然だ。恵まれた容姿、体型、頭脳、運動能力。その上親は金持ちで、何一つ今後の人生に不安はない。ぱっと見、こんな幸せな人生はないだろう。でもーー
「だからこそここに来たの」
須田は黙って私の顔を見てくる。詳しく話せってことだろうか。初めて心の内をぶつけるのがコイツってのもあれだけど、まあもう死ぬんだし、誰に言っても一緒でしょ。
「今まで親の言う通りに育ってきたの。親の言う通りに勉強して、運動して、友達を多く作らないようにして、誰の前でもお淑やかに振舞って。でも、ふと気付いたんだ。
あれ、この幸せの先に、私自身はいないんじゃないか。って。
確かに彩華という人間は幸せになれるけど、そのための過程で私を私であらしめる要素は全てなくなっていくんだな、って気付いちゃったの。
その瞬間このレールに乗っても私は消えるんだってわかって、それなら辛い思いをせずに今すぐ死にたいな、って思って。
これが理由。どう? あなたにはわからないでしょ?」
須田は少しの間、腕を組んだまま、頭を左右に傾けながら唸っている。
「……うん、よくわかんねーや」
しばらくの後、そう言って晴れやかな笑顔で私を見た。
……やっぱりコイツに話したのは間違えだった。何でこいつにこんなセンチな話しちゃったんだろ。
後悔している私に「でも」と、須田は続けた。
「御影がここまで思いつめるほどってことは、相当大変だったんだな、とは思うよ」
須田は、はははっ、と笑う。ほんとに、いつでも笑う奴だ。今は笑うタイミングじゃないだろうに。でもこんな奴だからこそ、話そうという気になったのかもしれない。
「それにしても、中学一美人で、お淑やか、文武両道となんでも揃いな御影がそんなお悩みをお持ちとはね〜。いやー、意外意外。きっと同級生は誰も予想できてないだろうな」
「私はむしろアンタがここにいる理由の方が気になるわ。アンタはそんなキャラじゃないでしょ。頑張って大学にも入ったって聞いたし」
そう、私は須田がここにいる意味がずっとわからなかった。
確かに須田の人生は私と比べると不幸なものだった。須田が小さかった頃、たまたま須田の父親の仕事がとても上手くいき、一流企業の仲間入りをした。結果として、須田は裕福な家庭で育ち、私と同じお金持ち中学にいた。
しかし、須田が中学二年の時に、彼の父親の会社は倒産。父親は首をつって自殺し、お金がない須田は中学から消えた。
須田がいなくなってから、私の後ろがずっと空席だったことを思い出す。
でも、だからといって自殺しようと思うようなやつだろうか。須田はこんな明るいやつだったし、主席で一流大学にも合格したということを風の噂で聞いたこともある。そんな人間がなんでここに?
須田は頭をぽりぽりと掻きながら、いつもの笑みを浮かべながら話し出した。
「俺は御影みたいに大した理由はねーぞ?
俺が中学をやめた後、母ちゃんが必死に働いてくれて、そのおかげで高校にいけたんだよ。
んで、めっちゃ勉強して大学にも受かったんだけど、母ちゃんが働きすぎで倒れちゃってな。それ自体は俺がバイトと奨学金でなんとかしたんだけどな。
そしたら今度は弟が病気で倒れちゃったのよ。治らない病気ではないらしいんだけど、莫大な治療費がいるって言われてな。
で、これを申し込んだわけよ」
そう言うと須田は一枚の紙を私の前に見せる。
『人体実験素材プラン
死ぬ前、死ぬ途中、死後の体を検体として様々な分野の研究者に提供
遺族にはそれ相応の金額を付与
死体の返却は保証しかねる』
私が選んだプランのものとは比べ物にならないくらい粗末な説明内容だった。
要は人身売買。そのために彼はここにいた。
「な、俺の自殺理由なんてくだらねーだろ?」
どうやら須田は私の長い沈黙を退屈によるものだと思ったらしい。
何がくだらないだ。
私の理由の方がよっぽどくだらない。
アンタほど立派な人間はそうはいないだろ。
「お待たせしました〜」と店員がうどん定食とコーヒーが置いて去っていく。
「さあ、湿っぽい話は終わり終わり。ちょうど飯も来たところだし食おうぜ」
「まあ私はコーヒーだけど」
「うっせーよ。頂きますっ!!」
須田は私のツッコミに対して、私を箸で指すと、勢いよくうどんを啜りはじめる。
私の親が見れば、殴られてもおかしくないような下品な食べ方。でも、私にはそんな食べ方さえも羨ましく見えた。
「うん、うまいっ!!」
須田は私の方を向いて、ニコッと笑う。そんなにおいしいのだろうか。
私もつられるようにコーヒーを一口。
……まずい。今まで飲んできたコーヒーの中で一番。あっ、でも普通の人が飲むコーヒーってこんなものなのかな。
「須田、コーヒーおいしくない」
「知らねーよ。俺がいれたんじゃねーし」
須田はうどんを啜り続ける。
つまんないな。
両肘を机についてため息を着く。
……ん? 私今つまんないって思った? つまんないって思ったってことは、私は何かしらの反応を求めてたってこと? こいつに?
……なんか楽しいな。
「須田、次どっか行く?」
「何、突然乗り気じゃん。ちょいと待ちや」
須田は屈託のない笑みを私に向けると、一気に残りのうどんを食べる。
「しゃっ、じゃあ行くか」
「うん」
須田と共に店を出る。
「おっ、ジェットコースターあるじゃんっ!!」
須田は店を出るとすぐに遠くに見えるジェットコースターを指さして、目をきらきらと輝かせている。
「あれいこーぜ、あれっ!!」
「はいはい」
……なんかデートみたい。初めてこんな体験をした。不思議な感じ、でも嫌じゃない。
このままずっとこんな時間が続けばーー
「御影彩華さんですね」
突然後ろから声をかけられる。知らない声。振り向きたくなかった。要件が多方検討つくから。
でも私達に抗うことはできなかった。
歩きだそうとした私の背中に手を置かれる。
「準備が整いました。こちらへ」
やっぱりだ。後ろから聞こえてきたのは、終わりの合図。
「おっ、ついに来たか。よかったな御影」
先を歩いていた須田が振り向き、笑いながら話しかける。でも、その笑顔は先ほどまでの屈託のないものではなく、どこか寂しそうな、作り笑いに見えた。
ようやく死ねる。今までの退屈な生活もこれで終わる。
なのになんでアンタがそんな顔すんのよ。
なんで私の足は震えているの。
なんで最後になってこんな思いが……
「なあ、御影。
実は俺、中学の時、お前のこと大っ嫌いだったんだよ」
「はっ!?」
突然の告白に唖然とする。
普通人が死のうというタイミングで告白するだろうか。しかも、嫌いという告白を。
「なんか美人だからって調子に乗ってるっていうかよ。無愛想というか。
……でも、今日のお前はおもろかったよ。
中学の時のお前が今日みたいだったら惚れてたかもな」
初めて言われた言葉だった。初めて御影彩華じゃなくて私を認められた。
こんな気持ち初めてだった。
……だから、私も笑顔で返す。
「おそいよ、バーカ」
須田はどこか抜けた笑顔でひらひらと手を振る。
私もそれに応えて、手を振りながら、彼に背を向け担当者と共に“その場所”へと向かった。
気付くと足の震えは止まっていた。
自分でも驚くほど落ち着いていた。
人生で初めての喜びだった。
でもだからと言って、生きていく気にはなれないし、後戻りもできない。できたとしても幸せは続かない。
そんな日常の中の一コマのような小さな幸せ。
だからこそ、私はこのまま死にたい。絶望に満ちた人生の中、最後の最後にいい夢が見れた。こんな幸せがあるだろうか。
それからはよく覚えていない。
気付いたら手術台のようなものに寝かされていた。そしてチクリという麻酔針の痛み。そっか、もうじき死ぬのか。まあいいや。
こんな思いができるのなら……自殺も悪くない。
という感じでしたがいかがでしょう。
私は我儘な人間ですので、社会のため、とか、悲しむ人がいるから、とかいう理由で自殺がダメ、という意見は好きではありません。
長々と書くのもあれなんで、結論だけいいますが、私は、今後に希望がなくて、どう考えても自殺が最も救いとなるなら、死ねばいいじゃないか、と思っています。
でも大抵の場合、今後、今までより幸せにはなれないという確証はありません。だから、私は生きることを強く推奨します。でも、本当に辛い、これからも生きていく気になれない、そんな方には一選択肢として、自殺という道もあるんだよ、って思うんです。
長くなりましたね。こんな感じです。
ではまたいつか。