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第九話 奴隷の一座(上)



 ポーターという存在は物資の流通に欠かせないものである。

 イデアライズと呼ばれるスキルを使う事で物資を自らのインナースペースに格納し、マテリアライズと呼ばれるスキルを使う事で逆に自らのインナースペースから物資を取り出す。


 だが制限も多い。

 特に大きな制限として、イデアライズによる継続的な負荷がある。つまりイデアライズしている物が大きければ大きいほど、操れる魔力が小さくなり、結果戦闘などで不利となる。

 しかもこの負荷は、イデアライズする品が魔具として格が高い程に高くなる傾向になる。つまり値打ち物の投げナイフは、只のプレートメイル十個分よりも負荷が高いかも知れないのだ。


 この制限は冒険者など、比較的少人数で予定が立ちにくい探索を行う者たちにとって特に深刻だ。

 探索先で得られた貴重な物品、また水や食糧、そして薬剤などの必須な魔具。それらを持ち運ぶ為には、ポーティングスキルが事実上必須な場合も多い。

 だがポーターは戦闘用スキルが未熟なため、またイデアライズの負荷が掛かるため、戦闘時には往々にして足手纏いになってしまう。


 尤も冒険者などに付き添うのでは無い、都市間などの物流に利用されるポーター達の場合は事情が違う。

 このようなタイプのポーターに関する最大の特徴は、兎にも角にも数が必要な事だ。そして管理しやすいようにスキルレベルは均一化されているのが望ましい。また何か不測の事態があった場合、早急にリカバリー可能である事も必要だ。

 この要求はかなり厳しい。事実上解決するのが不可能なようにも思える。


 例えば不測の事態におけるリカバリー、これ一つとってみてもそうだ。

 無論場所にもよるのだが、都市間の交通はそれほど安全ではない。特に、危険な魔物に運悪く遭遇する可能性はどうしても否定しきれないし、盗賊など人為的な危険もある。

 そしてこのような存在にポーターが殺されてしまえば、イデアライズされていた物品はそのまま虚空を彷徨う事になる。これを回収するには第三者のポーターがマテリアライズを使用すればよいが、地脈の性質によっては流されてしまう可能性もあるし、人間に襲われた場合は勿論のこと、魔物に襲われたのだとしても、火事場泥棒のような人間がその物品を盗んでいってしまう可能性は否定できない。

 このような可能性を減らすには護衛を十分につければよいが、当然ながら様々な面でコストが掛かる。実質上、不可能だ。


 こういった事態を解決する為に、物資の流通を担う商人達はある手法を考え出した。

 ――奴隷だ。

 その細かい手法は様々だが、大体のところは共通している。

 まず傭兵などの魔物討伐に同行するか、魔石の力を吸収する事によってレベルを上げる。それと並行してポーティングスキルを上げていく。ポーティングスキルはスキルよりも単純な魔力量、つまりレベルに依存する。それ故にポーティングスキルに支障が出ないぎりぎりまでレベルを上げていく。


 レベルの上げすぎによって戦闘用のスキルは勿論、実生活にまで悪影響が出る人間もいるが殆ど気にはされない。例えば感情が高ぶった事により人間ではなくなってしまったり、ほんの基本的なスキルに失敗しただけで身体を破裂させたりするような事態を引き起こす事もままある。


 またこの過程で学ばされるポーティングスキルは、自らが殺された場合に備えたセキュリティが掛かった商会固有のものになる。このセキュリティが掛かったイデアライズを使う事で、その商会に所属していないポーターがマテリアライズによって火事場泥棒をする事を防ぎ、地脈によって離れた場所に流されてしまう可能性を少なく出来る。

 結果、術者が死んだ物品を取り戻せる可能性が高くなる。尤もこの種の技術にありがちな事であるが、ある程度いたちごっこの面も否めないのだが。


 このシステムは非常に良く出来ている。

 奴隷に人権は無い。生殺与奪の権利は主人に与えられている。

 それ故にポーティングスキルにおける商会特有のセキュリティ、それに関しての機密を守る事はずっと簡単になる。更に死んだ場合でもその物品を取り戻せる可能性が高いという事は、リカバリーが利くという事になる。もっと云ってしまえばこれは護衛の人間の数を減らしても問題が無いと云う事になる。


 結果として、ポーターとしての奴隷は何処の都市でも見付ける事の出来る有り触れたものになっていき、その過程でシステムは洗練されていった。

 剥き出しのままでは探知に引っ掛かるので、それを防ぐ為のステルス機能。

 密輸などを防ぐ為に行う関門におけるチェックの効率化。

 特定の魔具に専門化したポーティングスキルの開発。

 そしてそれらの技能レベルを適切に診断する機器と人材。およびそれらを成り立たせる制度とノウハウの蓄積。


 そうした中で、亜人達はある種の立ち位置を担う事になる。

 ――被差別階級。

 一言で云ってしまえばそれに尽きる。

 つまり、ポーターを大量に必要とするシステムが確立されたが、その供給元はどうするのかと云う話だ。何もない場所から持ってくる訳にはいかない。またポーターを所持しているのは商会な訳で、その客に敵対視されるような方法で購う訳にもいかない。

 結果として、元々隔意を持たれていた亜人という存在が奴隷の供給元となった。

 それまでもあった白眼視はいよいよ酷くなり、特に都市ではそれが根深いものになっていく。強引すぎるレベル向上による不安定化。それによって暴走、つまりアビューズドとなった個体による事件が続発。それが偏った形で声高に喧伝される事で、その流れはますます加速していった。


 無論のこと亜人達からの反発はあった。

 商会のポーターは機密を持っている。それ故に逃がす訳にはいかない。つまり死ぬまでそこで生きるしかない。その上不要になれば容赦なく殺される。

 反発しない方がおかしい。


 だがこのような反乱は、例外なく武力によって鎮圧された。

 そしてその中で、亜人達にも階層がつくられるようになった。

 ヒューマンに近い者と、そうでない者だ。

 ヒューマンに近い者はポーターとして役割を担う事が多い。別にヒューマンに近くない亜人、例えばリザードマンなどがポーターとして不適格な訳ではない。だがシステムが成立していった過程でポーターに任される事になってきた役割については、外見上ヒューマンに近い方が色々と便利だった。


 その役割とは、一言で云ってしまえば旅芸人と呼べるだろう。

 だがその内実はかなり幅広い。

 代表的なのはその名の通り芸を披露する、情報の売り買いをする、そして春をひさぐといったところだが、場合によっては医療行為などを提供する事もあった。芸一つにしたところで、特殊なスキルを使った踊りを披露する者から、立体映像と音響を利用するコンテンツの提供する者など様々だ。


 しかしこれらに共通する事が二つほどある。それは定住民との接触が必要になる事と、ポーティング以外のスキルも必要になるという事だ。

 そしてそれにはそれ相応の教育と資質が必要になる。

 そんな中で外見は最も基本的で重要な要素の一つだ。なぜなら教育はある程度どうとでもなるが、外見という資質は変えるのが非常に難しいからだ。

 結果、このような教育を施された亜人はかなりの程度が人に近い外見を持っている事になった。無論特殊なスキルを持っていたり、隊商の補助として動く場合には話は少し異なるが、大勢は変わらない。

 こうして人に近い外見を持つ亜人達は、亜人という被差別階級における上級階級になっていったのだ。

 代表的な種族としては種々のエルフや、人に近いタイプの獣人などがいる。また春をひさぐ事が代表的なサービスの一つになっている性質上、比率的には女性の方が多い。


 ではヒューマンに近くない亜人はどうなるのか。

 傭兵のような役割を任されるのならまだよい。隊商の補助として潜り込めるのなら最上に近いだろう。

 数の上で最も多いのは、実戦における殺され役。つまり学生などを相手にした実戦を行い、殺され、レベルアップさせる役割だ。その為に、スキルやレベルなどは意図的に制限され調整されている事が殆どだ。またいざという時の為の安全弁が付けられている事も多い。このような安全弁には、反乱、自死、決死のサボタージュなどを起こさせない為の精神調整も含んでいる。

 これらを効率よく行うため、出生段階から調整されているのがいわゆるデザインドという事になる。

 このようなタイプの代表的な種族がゴブリン、リザードマン、オークなどで、場所によっては意思疎通の出来ない魔物と同一視されている所も多い。


 ――ハルヴァラの一座。


 そのような奴隷を中心とした旅芸人の一座、その一つだ。物資の輸送に舞踊、歌曲。そして娼妓に物語りに情報。そういった定番メニューを扱っている。

 メインの構成員は女のダークエルフ、エルフ、獣人などで、その補助として男のドワーフなどが若干名。男女合わせた数は全部で十五名程。このような旅芸人としてはよくある規模の一座だ。

 狐の獣人の少女であるヘッラも、このハルヴァラの一座に所属しているメンバーの一人だった。

 名字は無い。必要な場合は一座の名であるハルヴァラを使う。これは一座に所属している人間全てそうだ。


 そんなハルヴァラの一座は、新大陸と呼ばれるロンバルト大陸と呼ばれる場所へ来ていた。無論自分たちの意思ではない。所有者であるイグナート・ボロドフの命令によるものだ。

 イグナートは商会の主であるが、比較的後ろ暗い部分の多い男だ。はっきり言ってしまえばマフィアと大差ない。だが計算高く上昇志向の強い男でもある。結果、奴隷達の扱いはそこまで悪くなかった。尤もこれは資産価値を認めているというだけで、用をなさなくなった奴隷に対しては寧ろ厳しかった。


 そんなイグナートの命令でやって来たロンバルト大陸だが、求められている事は今までと大して変わらない。当然仕事のやり方も変わらなかった。

 ヘッラなどまだ技術的に未熟な年代の人間だけを纏めて、一台の装甲馬車に乗せる。そして管理側の人間も同数それに同乗させる。この装甲馬車は通常の馬車に近い。中から外へ出られるし、外部の情報も手に入る。

 だが大人達など、芸妓としてのスキルなどを持っている人間は違う。

 彼らはヘッラ達などに比べて様々なスキルを身に付けている。それらは戦闘用では無いし、最も即戦力になりやすいファイター関連のスキルなどは学ばされてもいないが、それでも戦闘に転用できない訳ではない。

 それ故に彼らはヘッラ達とは異なり、中から開ける事の出来ず外の様子も確認できない檻のような装甲馬車に乗せられている。もし彼らが何か反抗的な事をすれば、ヘッラ達は人質にされ場合によっては殺される事になる。


 その事はヘッラも重々承知していた。

 だから馬車が突然止まり、外から微かなざわめきが聞こえてきた時、ヘッラが真っ先に感じたのは緊張と恐怖だった。





 ゴドウィン達が去った後、場には装甲馬車が三台ほど残された。

 必要ないと云う事で御者自体も解放してしまった。その所為で装甲馬車としてきちんと使えるかと云えば怪しいが、まあテイマー技能を使えば取り敢えずは十分だろう。

 そんな目算をタスクは立てる。


 それより問題なのは、中に乗っている人員をどうするかだ。

 必要ないなら適当に荷物を奪い、 <<カースワード>> を掛けて解放というので良いかも知れないが、管理できるのなら捕虜として働かせる事も出来るかも知れない。


「……ま、取り敢えずは御開帳かね」


 どちらにしろ中の人間を外に出さなくては話にならない。一台ずつ見ていくが、どうやらこのような場合にもある程度抵抗できるようになっているらしい。乗合馬車のように外から手軽に開ける訳にはいかないようだ。


「聞こえてるか? お前ら外へ出ろ。素直に出てくれば待遇にサービス付けるぞ」


 そんなタスクの言葉に大人しく従ったのは、最も先頭の馬車に乗っていた者達だった。

 数は五名ほど。装甲馬車のサイズからして定員は十名ほどの筈だ。詰めればその倍は入る。それを考えれば五名とは随分と少ない。

 そんな愛想笑いのようなものを浮かべ、無抵抗を示すように両手を挙げ、代表者らしき者が近づいてきた。


「ははっ。待遇のサービスという言葉については……期待していいのかな?」


 まだ若い男だ。外見年齢は二十台半ばと云ったところだろう。

 身なりはそれなりに良い。だが目立った武装はしていなかった。身のこなしも戦闘訓練を受けた者のようには見えない。


「それはまあ、話し合いの結果次第だ」

「お手柔らかに」

「で、お前は誰だ?」

「名前はアルリーゴ・バッサーノ。零細商会の主だよ。後ろにいるのが部下になる」


 アルリーゴと名乗った男はそう言ってちらりと視線を後ろにやった。タスクもそれに合わせて視線を向ければ、不安そうに此方を見ている四人の姿が映った。


「で、その零細商会は何でこんな所にいるんだ?」

「それは酷いな。幸運にも新大陸での行動許可が取れたから、商売に必死に励んでいただけだよ。その台詞は寧ろこっちが君に送りたい」

「……へぇ」


 生殺与奪が握られていると云っても過言ではない相手に対して随分とはっきり物を言うものだ。タスクは微かに関心の声を上げた。


「まあこっちにも事情があるんだよ。……で、お前らが扱っている商品は何だ? 食糧、武器、人、それとも情報か?」

「魔具です。メインはメイジを必要としない警報機ですね。魔素の変化や魔物の襲撃などに対して自動で警報を発します。勿論ある程度は無線でその警報を飛ばす事が出来ますし、幾つか組み合わせれば拠点からかなり離れた場所の異常も感知できます」


 商売用という事か、アルリーゴが言葉尻を少し丁寧にして答えた。

 タスクは質問を続ける。


「それは後ろにいるお前の部下とやらが持っているのか?」

「いえいえ。うちにはそのレベルのポーターはいません。不便と云えば不便ですが、食糧などと違って魔具のような比較的高価で嵩張らない物はかえってそのまま運んでしまった方が安くつく事も多いですから」

「じゃあ馬車の中に乗せてあるのか」

「そうです」


 アルリーゴがタスクの言葉を肯定する。その声は緊張で微かに硬くなっていた。

 まあ無理もないだろう。

 この規模の商会で商品を全て奪われたら再起にどれだけの労力が必要になるか知れたものではない。もう二度と復活できない可能性も高い。


「さて、俺は山賊っぽい何かな訳だが……抵抗するか?」

「まさかっ! そもそも頼みにしていた護衛はあっさりとあなたにやられてしまいましたし」


 高い金払ったのに……。

 ぼそりと随分とやさぐれた声でアルリーゴが呟く。タスクはそれを聞かなかった事にして話を進めた。


「じゃあこの隊商のメインは後ろの二台な訳か?」

「ええ。イグナート・ボロドフという余り評判のよろしくない男の商会だと聞いています。護衛に関しては普段この隊商を護衛しているメンバー以外にも随分と数を雇い入れたみたいですけど」


 だから連携が拙い部分があったのかと、タスクは取り敢えず納得する。


「……ふむ」


 少し疑問もあるが、アルリーゴの言葉に大きな矛盾は見当たらない。

 なら少し釣り糸を垂らしてみても良いかも知れない。


「俺から出せる選択肢は二つだ」

「……拝聴しましょう」

「一つ目は俺たちに積み荷全てを奪われて記憶を混乱させられて解放される。取り敢えず俺から身体的危害を加える事はないし、多分命は助かる」

「…………」

「二つ目は俺たちの手先になって一仕事やってみること。誤魔化す為に積み荷は一時預かるかも知れないが、最終的にはそちらに返す。またある程度は報酬も支払おう」

「……仕事、ですか」


 困ったようにアルリーゴは呟く。その姿は一見頼りない。だがその実、頭は高速で回転しているのだろう。隠しているものの此方を見詰める視線には鋭さが垣間見える。


「ああ。別に無理な仕事を頼むつもりはない。ちょっとしたお使いだ。危険がある事は否定しないが、決死の仕事じゃない」


 その言葉にアルリーゴは暫し考え込んだ。だがやがて覚悟を決めたのか、口を開いた。


「……具体的な内容と報酬は?」

「仕事内容は取り敢えず情報収集だ。追加で何か頼む事もあるかも知れん。報酬については出来高としか言えないな」

「……それは、ちょっと――」


 不満を漏らそうとするアルリーゴの言葉を遮るようにして、タスクは懐から手の平サイズの金属板を一つ取り出すとアルリーゴへ向かって放り投げた。


「……これは?」

「手付けだ。二十万ゼール入ってる」

「っ!」


 アルリーゴが慌てて手渡された物を確認する。

 タスクが手渡したのはマネーカードと呼ばれるものだ。

 この世界では魔力が最も基本的で汎用的な価値を持つ。それ故に通過としてそれを加工したものが使われる事が多い。具体的には、金属に魔力を一定量染み込ませた物が貨幣として使われる。これは魔力だけを取り出す事も出来るが、そうなった場合貨幣価値は失われ、それが外見からも一目で判別できるようになっている。

 つまり貨幣とは、貨幣自体の魔具としての価値とそこに込められた魔力が合わさって通貨として成り立っている訳だ。そんな中、もっと手軽に報酬をやりとりする仕組みも開発された。

 つまりある範囲内なら好きなだけ魔力を込められ、取り出せる簡易的な貨幣――それがマネーカードだ。これを使えばマネーカードを持っている物同士での金銭のやりとりが簡略化される。


「オラルドが出している公的なマネーカードだ。好きな所で換金できるぞ」


 マネーカードはある一定の規格は存在するが、マネーカード自体の提供元が一つという訳ではない。大きな商会など幾つかの組織が独自のマネーカードを提供している。結局の所は満額の魔力が入ったマネーカードを持っていった場合にどこか貨幣との交換を保証するかという事なのだが、違う組織の出しているマネーカードでも魔力のやりとりは出来るため、そこまで気にされる事は少ない。まあだからこそ様々な組織が出しているとも言えるのだが。


「しかし二十万もの大金を……よろしいのですか?」


 持ってきた魔具全てを売り払っても、到底十万ゼールには届かないだろう。それを考えれば破格と云って良い。

 そもそもその魔具にしたところで、かなり無理をして資金を掻き集めたものだ。本来なら二十万ゼール等という金額は、零細の商人であるアルリーゴにとって手に入れる事は勿論、扱う事すら殆どない大金だ。

 マネーカードを手渡された時、恐らくそうだろうと思いつつ明確には何なのか確信が持てなかったのも、それほど額の大きいマネーカードを見た事が無かったからだ。


「ああ、構わない。好きに使え。その代わり持ってきた積み荷は引き取らせて貰う。他に売り物があればそれも出せ。これは全てが終わった後に返すか、それともこっちが買い取る形にするか。……まあ、その時に決めれば良いだろう」

「了解しました。異存はないです」


 契約の成立を示すために、タスクとアルリーゴは握手を交わす。


「馬は渡しても良いが、護衛はいないな。……ギデオン、お前が送っていってやれ」


 手を放し辺りを少し見回した後、タスクがそんな言葉を投げた。

 それまでずっとタスクの後ろに控えていたギデオンがその言葉を受けて、タスクに一歩近づいた。


「……いいんですか?」


 その声はタスクには届いていたが、目の前にいるアルリーゴには聞こえないだろう。

 ―― <<シークレットトーク>>。

 ローグのスキルだ。破る方法は幾つかあるが、ある程度の秘匿性があり簡易であるという理由でよく使われている。読唇術なのでも破る事が出来るが、この場合はアルリーゴ達に唇を見せないようにしているのでその心配は恐らく無い。


「……何のことだ?」


 タスクも同様のスキルを使えない訳では無かったが、その必要を認めなかった。別にアルリーゴに会話を聞かせても問題ないと判断した訳ではない。もっと効果的なスキルを切るべきだと考えたのだ。

 ―― <<ストレイセンス>>。

 タスクが使ったのはそんな名前のエレメンタラーのスキルだった。名前の通り相手の意識を逸らす効果がある。


「二十万ゼールもの金を渡しても、相手がきちんと働く確証は全くありませんよ? 寧ろ持ち逃げされるか、肝心なところで裏切られるかする方が普通です」

「それならそれで構わないさ」


 ギデオンの言葉にタスクはあっさりと返した。


「……どういう事です?」

「どういう事もなにもそのままだ。向こうがこっちを裏切るなら、その時点で切ればいい。報復も考えるが、別に逃げおおせられてもそれはそれで構わない」

「……試しって訳ですか?」

「そういう事だ。目先の金に目が眩んで逃げにくいこの大陸で裏切りを働くようなら、所詮手を組んだところで大した役には立たないだろうよ」


 タスクの言葉にギデオンは納得したように頷く。


「じゃあ話は取り敢えずこれで終わり。――ギデオン、近くまで送っていってやれ」


 ギデオンはローグのクラススキルを身に付けている。当然ハイディングなどの隠密関係も、タスク程ではないがこなせる。持っている魔具などを合わせればそう簡単にばれる事は無いだろう。問題は無い筈だ。

 ギデオンも不満はないのか、黙って一つ頷くと行動に移ろうと足を踏み出した。

 その時だった。

 突然、狐型の獣人の少女が馬車から飛び出してきた。

 そしてタスクの前に来るなり叫んだ。


「――お願いがありますっ!」



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