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第六話 襲撃(下)



 この世界の武術は、タスクが元いた世界の格闘技と大分違う。

 少なくともタスクはそう思っていた。

 一対一で同じ条件のレフリー付きの試合。それに類した条件など、この世界では成立する事の方が珍しい。そしてそれ故に、高度な駆け引きやコンビネーションなどそれほど発達していないように見える。

 だが実際にこの世界の武術、そのレベルが低い訳ではない。寧ろ逆だ。命の掛かった戦闘が身近なこの世界では、武術とは生きていける為に身に付けて損はない技術であり、その質の高さと層の厚さはタスクの元いた世界の比ではない。


 更に魔力の存在がある。

 万物の根源であり、万象を操る事も理論上は可能とされる普遍の力。

 それを操る事によって、只の人間でも超常の力を振るう事が出来るようになる。


 これは魔物などを殺す事、地脈上に暮らす事、食事などから直接吸収する事などによってその操る力の絶対量を増やす事ができ、これを俗にレベルなどと云う。尤もレベルが高いか低いかは持っている力の絶対量が違うというだけなので、当然それは一つの目安にしかならない。つまり能力の上下や戦闘の強弱などは相性や状況、そしてその人間の技能などによって幾らでも変化する。


「…………」


 タスクは周りを警戒しながらも目の前の男へと意識を集中させる。

 恐らく本職の戦士だろう。外見年齢は中年過ぎ。防具はそれほど大袈裟なものは装備していない。ただマテリアライズでフラッシュバンを出してきた事を考えると、隠し球がある可能性は高い。武装としては反りが入った細身の美しい片手剣を備え、それを右手に持ち、突き出すようにして構えている。


 自分から積極的に攻めるつもりは無いようだ。

 これは状況を考えなければ珍しい事と云えた。

 この世界の戦士は基本的に様子見を嫌う。相手が魔物などの場合顕著だが、時間を掛ければ掛けるだけ状況が悪くなる可能性が増えるからだ。また守りよりも攻めを好む。これは相手の攻撃を躱し防御する方が攻めるよりも遥かに難しいからだ。


 だがそれもやはり状況による。

 タスクはちらりと視線を男の横へ滑らせる。大剣や長柄など間合いの広い武器を装備している者たちが介入の隙を窺っている。もっと遠方ではガンナーが同様に自らの銃を構えている。

 そのような状況では男が自らの手で状況を決定づける必要はない。注意を逸らし、敵を引き付けておけばそれでよい。


 ……なかなか老獪な手を打ってくる。


 タスクは相手の能力を上方修正する。そして札を一個切るかを考え、すぐにそれを却下する。タスクはファイターとエレメンタラーのダブルというクラス構成だ。そして重点としては大分エレメンタラーの方に寄っている。その点ではタスクの目前にいる男――ゴドウィンが推測した事は正しい。

 だがやはりタスクは自らの制限を外す気にはなれなかった。

 理由としてはエレメンタラー系スキルの消耗の激しさなどがある。エレメンタラーのスキルが全て消耗が激しい訳ではないが、タスクが得意としている手はおしなべて消耗が激しい。


 それ故、タスクにとってファイター系の技能はある意味命綱に成り得るものだ。

 ならば磨いておいて損はない。そして、技能を磨くのに実戦は欠かせない。

 無論、命の危険があるのならもう少しタスクも考えただろう。エレメンタラーとファイターの技能を組み合わせて戦わなくてはならない敵。それとの戦いは是非とも活かすべき貴重な実戦経験になる。

 だが、目の前の相手達からはそれほどのプレッシャーを感じられない。ならばエレメンタラーの力を使わないで戦った方が質の高い経験を積めるだろう。

 結局の所、舐めていたのだ。目の前の敵はその程度のものだと。自分ならその程度の危機は踏破できると。

 そう意味ではゴドウィンの憤慨も尤もだった。だが――。


「せっ!」


 無造作に距離を詰めたタスクに対し、ゴドウィンが耐えきれず牽制の一撃を放つ。それを半身になる事で躱し、タスクは代わりに右の横薙ぎを放つ。だが間合いが遠い。ゴドウィンは軽く上体を反らすだけであっさりと躱した。

 ――ミスか?

 刹那、ゴドウィンの瞳に僅かな困惑の色が差す。だがそれはほんの一瞬だった。

 旋棍の厄介なところはその変則的な動きと疾さ。それに尽きる。殺傷力が劣っていても、間合いが広いとは云えなくても、それでも厄介な事には違いない。殆どその使い手が存在しない事もその厄介さに拍車を掛けていた。


 そんなゴドウィンの警戒が功を奏したのか、それとも裏目に出たのか。

 ゴドウィンは守勢にまわりタスクの動きを注視する。足を止め、見に徹した。そこへタスクの右の旋棍。回転を活かした薙ぎではなく純粋な突き。心臓を狙ったそれは、まともに決まれば一撃でその命を奪うに足るだろう。だがゴドウィンは横に回り込む事でその一撃を回避する。


「はっ!」


 二人は徐々にその攻防を加速させていく。

 足を止めての打ち合いではなく、フットワークを駆使しての攻防。それはお互い疾さを第一とする攻撃の応酬だ。だがそれですら相手の身体を捉える事は殆ど無い。ただ呼気にも似た掛け声と、攻撃の風切り音が辺りへ響く。一呼吸の間に幾つもの斬撃、刺突が放たれ、その刹那の隙を突いて旋棍が幻惑的な軌道を描く。


 その中でゴドウィンの表情に驚愕にも似た焦燥の色が浮かんできた。――攻めきれないのだ。

 単純に疾いとか強いとかそういうレベルではない。状況判断と決断力がずば抜けているのだ。それはゴドウィンよりもタスクが格上であると云う事ではない。もっと基本的な部分。それが決定的に異なっているような――。

 普通なら隙は排除しようとする。ゴドウィンが学んだ武術もそうだし、他の流派の武術もそうだろう。

 だがタスクはそうではない。隙を少なくするのではなく、隙を利用する。いや、自らの隙を晒す事を前提としているようにすら見える。

 そしてそれを餌に相手の動きを縛る。理屈はゴドウィンにも判るし、ある程度は戦法として採用する事もある。

 だがこれは余りに異常だ。


 ほんの僅かな間違いで致命傷になるのだ。その代わりに得るものは一体何だ? 敵を一撃で屠れるチャンスなどでは断じてない。もっと些細な、戦闘上の優位。いや、それは優位とすら呼べないものかも知れない。どう考えても割に合わない。なのにその戦い方は高いレベルで完成されている。

 正直なところ、ゴドウィンは戦闘の緊張とは別に、感じた事のない薄気味悪さをタスクに対して覚えていた。


 だが同時に今が機だとも感じていた。

 相手はまだ此方を舐めている。ならばその想定の上をいけば――。

 しかしそれがそれほど簡単な事ではない事も判っていた。


「…………」


 タスクの平坦な瞳をゴドウィンは見据える。視界の端では介入の隙を窺っている仲間たちが居る。本当ならここは数の利を活かす場面だろう。だがこの場合はそれも出来ない。下手に多数で攻めても恐らく利用されるだけだ。多数で攻めるという常道が通じない訳ではない。だがそれを使う時と条件を考えなければ逆手に取られる。下手な奇策も通用しないだろう。


 ――成る程。俺はコイツにとってその程度の存在だっていう事かよ。


 歯噛みをしつつもゴドウィンはそれを認める。同時にこのまま時間稼ぎを続けるかという考えも頭に浮かぶ。時間はどちらかと云えばゴドウィン達の味方の筈だ。このままの調子で続けていても悪い事はないかも知れない。

 だがそれも上手くない。一瞬の思考の後、ゴドウィンはその案も却下した。

 結局の所、主導権を向こうに渡すのには変わらないからだ。ならば――!


「―― <<ナイトフォール>>」


 それはゴドウィンもまともに使いこなせていない自己強化のスキルだった。

 反射。膂力。感覚。魔力。

 あらゆる能力を増大させ、一時的に自らの限界以上の能力を振るう事が出来る。だが当然ながらそれは条件付きの力だ。一歩間違えれば周囲を巻き込んで自滅する事になる。


「はっ……ははっ! はははははっ!」


 圧倒的な全能感とそれに伴う高揚感。気が付けばゴドウィンは駆け出していた。持っていた剣は何処かに放り投げている。両の手で掴み掛かるようにタスクへ向かって飛び掛かる。その動きはそれまでのゴドウィンとは比べものにならない程に、粗野で野蛮な動きだった。だが稚拙と云う訳ではない。寧ろ疾く鋭い。それは野生の獣の凶暴さとしなやかさだ。

 タスクの瞳にほんの僅か、驚愕にも似た色が混じる。それをゴドウィンは心地よく思いながら、頭のどこか奥深くでどの程度保つのかを計算していた。


 ――ブラッドカバー。


 それがゴドウィンのメインクラスになる。自己強化系スキルによる爆発力を得意とするファイターの上位職ベルセルク。そこに魔導の知識と技術をプラスする事で更なるブーストを可能にしたクラスだ。その特徴はベルセルクを超えるレベルでの自己強化。それに尽きる。ベルセルクでは耐えきれないレベルの自己強化をメイジ系のスキルを使う事で強引に成立させる訳だ。

 当然、暴走の危険もある。またベルセルク系のスキルにある理性の減少という問題も継承している。

 それ故に、忌み嫌われる事も多いクラスだ。

 だがその自己強化スキルの効力は、凄まじいの一言だ。


「しぃっ!」


 防御を捨てて向かってくるゴドウィンに対してはタスクの旋棍が放たれる。手首を弾くように横回転の一撃。筋肉の防御が利かない鎖骨への縦回転の一撃。同じく急所である喉元への突き。あらゆる場所へ次々と旋棍の打撃が放たれる。一度当たったらその反動を利用しての再びの攻撃。それを繰り返す事で圧倒的な連撃を成している。既に一続きにも聞こえる鈍い打撲音が響く。

 だがゴドウィンは止まらない。

 幾つかの攻撃はまともに喰らい、また幾つかの攻撃は素手で弾く。その反射と膂力は先程までの比ではない。只じりじりとタスクとの距離を詰め、掴み掛かろうとその隙を窺っていた。

 だがゴドウィンはその隙を見いだす事が出来なかった。その原因はタスクの繰り出す旋棍の連撃だ。下手に飛び掛かれば折角詰めた距離を離されてしまう。ゆっくりと圧力を掛けていくしかなかった。減衰した思考でもその程度はまだ判断できた。

 だが同時に、このままでは間に合わないと云う事も判っていた。


 限界を超えた自己強化。それを完全に制御できるほどゴドウィンはブラッドカバーとして卓越している訳ではない。このままではタスクの連撃に押され、折角の機を活かせずに、自滅する。

 しかしそれは周りに他の人間が居なければの話だ。

 タスクはゴドウィンへ対抗する為にその足を止めた。いや、止めざるを得なかった。それは今までのように、何時でも動ける状態でありながら偶々その場に立ち止まっていたのとは決定的に違う。それは外から見ればほんの些細な差だったかも知れない。だがその意味するところは余りに大きい。そして――。


「――今だっ!」


 それを見抜いた存在が居た。

 ゴドウィンとタスクの戦闘をずっと注視していたガンナーだ。

 彼は掛け声を上げ、それに応じて周りが動く。右横にいたベルセルクが、左横にいたマーセナリーが、そして後ろにいたローグが――連携などと云う洗練されたものではなかった――ただ己の必殺の一撃を相手に同時に叩き込む。只それだけだ。

 だがそれ故に、タスクにとっては厄介だった。

 少し前のゴドウィン相手ならば、タスクはそれらをいなす事も出来た。その余裕があった。だが今のゴドウィンが相手では、その一瞬が命取りになりかねない。


「……っ!」


 タスクが大きく後ろへと飛び退こうと力を入れる。その刹那、ゴドウィンが凄まじい勢いでタスクの身体へと両手を伸ばす。捕まれば動きが止まる。そして止まれば周りの攻撃を喰らう事になる。――それは上手くない。


「しぃっ!」


 それ故にタスクは後ろへ飛び退こうと込めていた力を急遽反転させ、ゴドウィンとの間合いを詰める。タイミングを外されたゴドウィンの掌が虚空を掴む。それを潜り抜けるようにしてタスクは前方へと踏み込んだ。タスクの肩がゴドウィンの胸へと軽く触れる。殆ど鼻先がぶつかり合うような密着状態。これで大抵の人間は攻めるのを躊躇う。誰でも見知った仲間を間違って殺したくはないからだ。

 だが現在タスクが対峙している相手は違う。


「きぃえぇぇぇぇぃぃぃ――っ!」


 獣じみた叫び声と共に繰り出されるベルセルクの男の大剣の打ち下ろし。躱す事は出来ない。そんな余裕はない。逸らす事も無理だ。体勢が十分ではない。ならば――。


「はっ!」


 右から繰り出される大剣の軌道に叩き付けるようにして旋棍を滑らせる。同時に左から繰り出される突きを左の旋棍で弾き、後ろから迫るローグには右後ろ廻し蹴りでそのナイフを持った持ち手を破壊する。それは武技と云うには余りに奇抜で、寧ろ曲芸じみていた。本来なら戦闘において見せるようなものでは断じてない。だが実際その動きは洗練され卓越していた。

 ほんの僅かなタイミングのずれも許されない極限の状況。その中で自らに迫る全ての攻撃へ適切な対処を施す。並大抵の人間に出来る事ではない。だが――


「……っ!」


 タスクの口から苦悶の声が漏れる。

 叩き付けられたベルセルクの一撃の衝撃。それが右の旋棍を通して全身へと広がったからだ。旋棍が切断された訳ではない。だがその衝撃を完全に殺す事は出来なかった。その一撃を支えるタスクの足と右腕に重い圧力がかかる。恐らくそのままならば上と下からの圧力で、押し出されるようにタスクはその体勢を崩し弾き飛ばされていただろう。


「はぁっ!」


 だがそうはならなかった。

 弾き飛ばされたタスクの身体を、ゴドウィンがしっかりと捕まえていたからだ。まるで抱きしめるようにタスクの身体を拘束するゴドウィン。後は周りの人間が仕留めればそれで終わりなのだ。ここで逃がす訳にはいかなかった。タスクを捕まえたその腕に凄まじい荷重が掛かる。


「……ぅぐっ!」


 だが歯を食い縛ってそれを耐える。時間にしたらそれほど長くない。ほんの数瞬の間だろう。だがその間ゴドウィンは動けない。周りも弾き飛ばされたタスクへ狙いを定めきれない。

 そして、その隙をタスクは突いた。

 自らの身体に掛かる衝撃と力。それに逆らうのではなく利用する。ゴドウィンの右腕にまだ自由に動く自らの左腕の旋棍を絡ませ、その肘の靱帯をねじ切る。同時にその拘束から脱出する。

 そもそも旋棍は力尽くで振り回す武器ではない。寧ろ複雑な力の流れを利用して操るものだ。それ故にこのような業はお手の物だった。

 後は靱帯をねじ切ったまま拘束していたゴドウィンを振り回し、敵との間の障害物として利用する。所詮ゴドウィンを中心にして編まれた包囲網だ。ゴドウィンを退かしてしまえば包囲の一角は手薄になる。そこを突破するのはタスクにとっては容易い事に思えた。

 だがそれは、今まで射線を塞いでいた存在が居なくなると云う事でもある。


「―― <<エイミングショット>>」


 声がした。

 気のせいだったのかも知れない。だがタスクには、低く抑えられたその声を確かに聞いた気がした。



 ***



 そもそも、魔力は万能だ。

 その効力は物理的なものに限らず、精神的なものにまで及ぶ。

 例えば魔力を用いる事により意思疎通を可能とする人形を作成する事すら出来る。だが逆に、これは魔力によって元々ある精神を変質させてしまう可能性が存在すると云う事でもある。


 つまり魔物を倒すなどして自分が操れる限界量以上の魔力を体内に蓄積させてしまうと、自らの存在を保つ事が出来なくなってしまう事があるのだ。それは精神的にかも知れないし、肉体的にかも知れない。だが一度壊れてしまえばそれを直すのは至難の業だ。結果、大抵の場合は魔物として退治される事になる。このような暴走体はアビューズドと呼ばれ、街ではその発生を防ぐ為に内部を結界で覆い周辺の地脈のチェックを怠らないなど最大限の注意を払う事が必要となる。


 亜人などがヒューマンから危険視と蔑視を受けるのは、そういった背景もあるのだろう。

 彼らの祖先は魔力によって変質したヒューマンだと云われている。それ故にアビューズドと同一視する考えが根深いのだ。


 そういった危険性があるものの、魔力が有用で必須ですらある事は確かだ。

 そしてそうなれば、当然それを操る技能は発達していく事になる。俗にスキルと呼ばれるものの発明だ。

 このスキルと呼ばれる技術は、街に住む人間がアビューズドにならずに済むよう幼少時から行う基礎訓練のようなものから、他には誰にも真似できない特殊なものまで、非常に多様性に富む。単独、または複数のあるスキルを前提にするようなスキルも存在するし、そもそも特殊な道具と状況を必要とするスキルもある。


 このスキル群の習得の順番を整理したものがクラスと呼ばれるものだ。

 最も基本的なクラスは全部で四つある。

 近接戦闘に強い力を発揮するファイター。

 飛び道具を操り、遠距離戦闘に適性を持つガンナー。

 精神操作や自然現象の操作など、魔力との親和力に重点を置くエレメンタラー。

 そして魔力の細かい制御を得意とするメイジ。


 これらは皆それぞれ長所と欠点を持つ。

 そんな中で、ガンナーの強みとして挙げられる事が多い特徴が一つある。


 ――ジャイアントキリング。


 銃という装備は、極端な話、引き金を引くだけでかなり上位の魔物も仕留める事が出来る。自らの能力を装備によって最も引き上げやすいクラスである。そう言い換える事も出来るかも知れない。それ故に、商売人などの護身用には銃が好まれるし、余り大きな威力の銃は治安上の問題を考えて取引が制限されている。

 無論ガンナーというクラスが他のクラスよりもスキル習熟などにおいて易しい訳ではない。だがガンナーというクラスが最も格上を仕留めやすい基本クラスである事は間違いないだろうし、周りにそれを期待される事も多い。それ故に、大抵のガンナーは自らの切り札的な弾丸を一つは懐に忍ばせている。


 タスクに向かって放たれたのは、そんな虎の子の一発だった。

 ――対大型魔獣用炸裂徹甲弾。

 それはそもそも人間相手に使うようものでは無い。馬鹿らしいまでの貫通力と破壊力を誇る国軍の切り札。本来なら彼が手に入れられるようなものでも無い。

 だがその威力は本物。まともに喰らえば人間など跡形も残らない。

 それはタスクにしたところで大して事情は変わらない。故に対応しなくてはならない。逸らすか、防ぐか、躱すか、弾くか。一瞬で様々な案が思い浮かぶ。だが同時にその殆どを却下する。

 ――無理だ。

 死ぬかは判らない。だが無傷で切り抜けるのはこのままでは不可能だ。何よりも単純に力が足りない。


 ……結局、この程度か。


 タスクの脳裏にそんな言葉が思い浮かぶ。それは諦観を含んだ感慨だった。付け焼き刃というほど甘いものでは無いつもりだが、防御にだけ重きを置いて、それだけで戦えるようには鍛えてこなかった業など、捨て身の敵と相対すれば肝心なところで地金を晒す、その程度のものに過ぎない。

 そんな事をタスクは改めて痛感した。そして同時に自らの負けを静かに認める。

 最初の想定通りの力では目標を達成できなかった。相手が想定より強かったと云う事もあるが、自らの戦術の未熟さと云う点も否めない。この欠点は克服すべきなのか、それとも受け入れるべきなのか。もう少し検討が必要かも知れない。

 そんな思考をタスクは巡らせる。それなりに実りの多い実戦だった。


 ――だが、もういい。


 タスクは胸中で呟く。

 それが戦闘の終わり――そして蹂躙の始まりだった。



書き直すかも。

なんか色々と難しいが、暫く時間が掛かりそうなのでアップ。

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