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第十話 奴隷の一座(下)



 アルリーゴとの話は取り敢えず済んだ。

 まあ想定通りのところに落ち着いたと云って良いだろう。

 だが気になるところが無い訳ではない。

 それはそもそもアルリーゴが何故ここにいるのかだった。

 現在、ロンバルト大陸は入国制限が敷かれている。それがどの程度厳しいものかタスクには今一つ掴めなかったが、何の伝手もない零細商会が入ってこれるほど甘いものではないと考えていた。


 ならばアルリーゴという男の商会に、それだけの何かがあってもおかしくない。

 それは人脈かも知れず、金の力かも知れず、只の幸運かも知れない。

 聞こうと思えば聞き出せるだろうが、そこまで重要なものでもないだろう。

 そんな風にタスクは自己解決する。ついでに、張っていた <<ストレイセンス>> を解除し、その場にいる人間全てに聞こえるように口を開いた。


「じゃあ話は取り敢えずこれで終わり。――ギデオン、近くまで送っていってやれ」


 その言葉とほぼ同時、二台目の装甲馬車の扉が乱暴に開かれる。

 中から出てきたのは、狐の獣人の少女だ。体付きは随分と華奢だ。その所為だろうか、顔立ち自体は年頃の少女のものなのに何処か中性的な印象を与える。

 瞳は美しい群青。肩まで届かないさらさらとした髪は僅かに色素の抜けた金髪。しかしその耳の付け根あたりからは柔らかな琥珀色に変わっていた。

 琥珀色なのはそれだけではない。

 華奢な体格に見合わぬふさふさな尻尾も同様の琥珀色。ただその先端部分だけが雪のように白い。

 少女は扉から飛び出すように出てくると、一目散にタスク達の方へ駆けてきた。それを追うようにしてがらの悪い男達が複数追い掛けてくる。それを阻止しようと少女と同じくらいの年代の子供が男達に飛び掛かり、乱暴に叩き付けられた。


「――お願いがありますっ!」


 タスクの前までやって来た少女が開口一番で口にしたのはそんな言葉だった。

 随分と必死だったのだろう。叫んだ声は僅かに掠れていた。


「おいっ! なに勝手な事やってるんだ!」


 その後ろから男達が駆けてくる。数は五人ほど。そのうち三人がまだ子供の亜人を引き摺るように連れてきていた。人質にでもするつもりだろう。

 だが少女はそちらへ見向きもしなかった。


「僕はハルヴァラという旅芸人の者で、ヘッラと云います」

「ちっ!」


 無視された事に激高した男が腕を振り上げる。


「……うっ!」


 だがそこで男は突然止まる。別に今更タスク達の存在に気付いたからではない。タスクのスキルによって身体の自由を奪われたからでも無かった。

 もっと単純明快な脅威。ギデオンの剣がいつの間にかその喉元ぎりぎりに突き付けられていたからだった。

 恐らくタスクの精神干渉でも同様の事は出来ただろうが、確実を期すなら単純明快な武力が最も手っ取り早い。そんな事もありギデオンは動く許可をタスクに求め、タスクがそれを認めた形だ。


「まあ言わなくても察してくれたみたいだが――動くなよ」


 ギデオンの恫喝。底冷えするような声音に剣を突き付けられた男が硬直する。

 だがその後ろにいた男達はまだその意気が完全に挫かれてはいなかったらしい。


「おいっ。そいつを放せ! ガキどもを一人ずつ殺していくぞっ!」


 男達は捕まえていた子供の顔にナイフを突き付ける。

 だがギデオンはそれに対し呆れた様子を見せただけだった。


「はぁっ? それがどうして脅しになるんだ? 俺たちとは何の関係もないガキ達だろ?」

「……っ」


 そのやりとりを聞いていたヘッラの表情に恐怖の色が差す。


「……ふぅ」


 それらを見ていたタスクが溜め息を吐いた。

 ギデオンがその意図を窺うようにちらりと視線をタスクへ向ける。

 だが男達は気付かなかったようだ。追い詰められた者特有の狂気をその瞳に覗かせ――。


「――お前ら、動くな」


 止まった。

 干渉系のスキルによるものではない。タスクはただ単に殺気を籠めて宣告しただけだ。だがそれだけで、男達は呼吸すら忘れ立ち尽くした。


「お前らは結局このハルヴァラの一座とかいうのの飼い主か?」

「……あ、ああ」

「判った。後ろの馬車からそれを解放しろ。それが終わったらこっちの話が終わるまで黙ってろ」

「そんな要求飲めるわけが……」

「――やれ」

「ひっ」


 男は情けない悲鳴を上げて後ずさった。そして首を左右に頻りに振る。

 だが動こうとしない。既に戦闘は終わっている。ならば下手に抵抗しても良い事は無い筈なのに、男は引かない。それだけ上が恐ろしいのか、まともに思考が働いていないのか。

 どちらにしろ面倒な事この上なかった。精神干渉で支配しても良いが、この手のスキルはかなり繊細なものだ。防御手段も幾つかもあるし、記憶などを傷つける可能性もある。端的に言ってしまえば、面倒くさかった。


「……はぁ。ギデオン、頼む」


 壊したり乱したりといっただけなら楽なんだがな。

 そんな事を思いつつも結局はギデオンに丸投げする。どうやら対精神干渉用の装備も身に付けているらしいし、それが外れた場合殺傷も含めたセイフティーが入っている事も否定できない。それを一々調べるのもやはり手間だ。


「そっちの方々はどうする? 暫く持って貰えればさっき言ったとおりあいつが護衛に付くが……」


 ギデオンが男達を連れて行くのを視界の端に捉えながらタスクがアルリーゴに声を掛けると、アルリーゴはあっさりと答えた。


「勿論お願いするよ。ロハな上に頼りなるなら待つことくらい何でもない」


 それに一つ頷きを返すと、タスクは <<ストレイセンス>> を再び発動させる。これから起こるであろう事は、余り見て楽しいものでも無い。今度のは先程より強固に掛けた。霧に包まれ男達とギデオンの姿が何処かへ掻き消えたように第三者からは感じられるだろう。

 同様にアルリーゴ達も外の情報が判らないように隔離する。

 その上でタスクはヘッラと名乗った少女に向き直り、問い掛けた。


「――で、お前は一体何の用だ?」


 タスクの言葉は特に威圧を籠めたものでは無かった。

 だがヘッラは気圧されたように黙り込む。それを見てタスクが面倒くさそうに眉を顰めた。

 それを見て自分の立場を思い出したのだろう。まるで崖から飛び降りるような表情で、ヘッラが口を開いた。


「貴方に従えば、望むものが手に入ると先程聞きました」


 慣れていないのだろう、ヘッラの敬語はどこかつたない。だがその微かに震えた声音はどこまでも真剣だ。小さな手をきつく握り締め、大きな青い瞳でタスクを見る。


「何でもします。……力を貸して貰えませんか」


 振り絞るようなその声は、最後にはか細くなっていった。そして項垂れるように目を伏せる。

 ヘッラも判っているのだろう。普通に考えれば、そもそも取引など成り立たない。

 ヘッラはポーターとしての訓練もまだ終了していない半人前以下の存在だ。芸妓も閨事に関する技術もまともに身に付けていない。他人の奴隷に手を出すというリスクに応じた利用価値も資産価値も存在しない。


「まあ、話は聞こうか」


 だがタスクは取り敢えず話を聞く事を選択した。

 別に何か打算があった訳ではない。基本的に甘いところもあるタスクは、その必要もないのに弱者を切り捨てる気になれなかったというだけの話だ。

 ヘッラはタスクの言葉に一瞬喜色を浮かべる。その感情を反映したのか、ヘッラの大きな尻尾がふぁさりと一度だけ大きく振られる。だがすぐに喜んでいる場合ではないと気付いたのだろう、表情を真面目なものに戻し話し始めた。

 だが理路整然と話を進める事が得手という訳では無いらしい。


「えっーと、何から話せばいいのかな……」

「取り敢えずお前が望むものってのは何だ?」


 たどたどしく言葉を並べるヘッラにタスクが助け船を出してやる。

 その言葉にヘッラは口を閉じた。一瞬の沈黙。その群青の瞳に様々な感情が浮かんで消える。

 だがやがて口を開いたヘッラの瞳には強い決意の色があった。


「――僕と、僕の一座を奴隷の立場から解放して欲しい」


 思ったよりも普通の用件だ。

 それがタスクの第一印象だった。だが簡単という訳ではない。奴隷というのは結局の所他人の財産なのだ。奪えば報復は覚悟しなければならない。それが公的に認められたものだったら尚更だ。

 だからつついてみる事にした。


「何でもするっていう割には奴隷の立場を否定する。矛盾してないか?」

「……矛盾はしてないよ。他の人については判らないけど、少なくとも僕については」


 その問いは予想していたのだろう。ヘッラの答えには淀みがない。


「……どういう事だ?」

「奴隷の子は基本的に奴隷のまま。解放される事もあるけど、それは全て主人が決める。奴隷自身に選択権はない。まあ当然だよね、種から生えてきた植物が突然人権を認められるなんて事は無い。人間じゃないものが生んだ子供なんてやっぱり人間じゃないもんね」

「成る程ね。奴隷から解放されれば少なくともその子は自由の身って訳か」

「そういうこと」


 随分とヘッラに都合の良い話だ。

 例えばタスクがヘッラたちを今の主人から買い取った場合、奴隷の身分からの解放はある程度条件を整えれば十分に可能だ。だがそうすれば、タスクがヘッラ達に及ぼせる限定的なものとなり法的な拘束力を持たなくなる。ましてや子供の人権を保障するなどという事になれば、その権利の放棄分が丸損になるだけだ。

 その事を告げようとしたタスクの機先を制するように、ヘッラが再び口を開いた。


「僕の母も、その母、そのまた母も奴隷だった。そして主人はいつも同じ、ボロドフ家の当主だった。つまり僕らハルヴァラ一座はボロドフ家が代々持っている財産って事になる」

「……それで?」

「このボロドフ家っていうのは、まあ野心家なのか夢見がちなのか代々冒険心が豊かでね、何代か前にある事に手を染めたんだ。大体想像はつくかもね、そんなに珍しいものじゃないし」


 その声は軽い。だがそんな言葉と裏腹に、ヘッラの瞳に暗いものが覗く。

 そしてそこまで言われれば、タスクにも確かに思い当たるものがあった。


「……品種改良か」

「そう。優秀なオスとメスを交配させて子供を作る。都合の悪いものが生まれてきたら廃棄する。結局の所、それだけの話だけどね。やられる方は堪ったもんじゃないよ」


 ははっ、とヘッラは虚ろな笑みを浮かべた。


「胎内にいる期間を短くし、出産可能年齢を長くする。更には妊娠しやすいように、沢山孕むように身体をいじられる。普通の客も取る事が多いから外見年齢が若いまま固定される事も多い。『母体』になる位だから人気者が多いしね。そんな事を一日中一年中、一生と続けていく。その上、生んだ子供は廃棄か奴隷。幸せになる確率なんて殆ど零だ。そりゃおかしくもなるよ。そして、殆どみんな最後は精神か肉体がぼろぼろになって死んでいく。それが……っ」


 一気呵成に言い切ると、ヘッラは耐えきれなくなったように言葉を詰まらせた。その瞳からは涙が零れ、唇が微かに震えている。タスクはそんなヘッラを平静な視線で眺め遣った。

 気の毒だと思わない訳ではない。だが実際にそれなりに行われている事ではある。


 なぜなら、生まれ付きの資質というものが厳然として存在しているからだ。

 その究極は、例えば王家だろう。ある特定の血筋の者しか扱う事の出来ない神器、ある特定の血筋の者しか治める事の出来ない土地。そんなものは幾つもある。

 そこまでいかなくても、生まれ付きどんなクラス適性があるかはかなり個人差がある。特にエレメンタラーに関しては個人の資質によるところが大きい。そして都合の悪い事に、閨事に関するものを含め舞曲などの芸事のスキルはエレメンタラー系列のものが殆どだ。

 結果、ある程度の高級奴隷はまるで家畜のようにその交配をコントロールされ、『品質向上』を強制される。


 そしてそれは決して不自然な事ではない。寧ろ極々自然な事だ。そこには倫理は無いかも知れない。理不尽に感じる者もいるかも知れない。もっと不幸になる者が少なくなるような方法があるかも知れない。

 だがそんな事は問題ではないのだ。

 世界は為るようにしかならない。そこにあるのは合理で、善悪ではない。

 だからタスクは簡潔に問い掛けた。


「……で?」


 ともすれば冷淡とも取れるタスクの言葉。

 ヘッラが返した言葉は振るっていた。


「同情して」

「……くっ」


 タスクの口元に微かな笑みが浮かぶ。


「すると思うか?」

「……っ」


 揶揄するようなタスクの言葉に、ヘッラの瞳に悲憤の色が浮かぶ。そして何かを必死に耐えているような表情で、タスクを睨み返す。


「なあ、こうは考えられないか?」

「…………」

「世の中は為るようになる。逆に言ってしまえば、為るようにしかならないんだ。その中では個々の悲劇に意味などない。虫を食う鳥がいるようにように、獣が食う草があり、家畜を食う人がいる。食われる事に意味はある。ただ食われる為に生まれて、成長し、殺されるのだとしても、意味はあるんだ。つまり――」


 タスクはそこで言葉を切った。

 一拍の沈黙。

 そしてどこか歪んだ笑みをその口元に浮かべ、告げる。


「お前たちは貪られる為に生まれてきたんだ。何に恥じる事も無い。それに満足して生きるべきだろう」


 その言葉にヘッラがどんな感情を抱いたのかは判らない。

 呆気にとられたように口を開き、わなわなとその口を震わせた。その感情を示すように尻尾が微かに上を向いた。

 激発するか、とタスクは少し思う。だがヘッラはそれを飲み込んだようだった。急に肩から力を抜き、酷く疲れた笑い顔を見せた。


「僕は自分が生んだ子供が殺されるのを黙って見ていたくは無いんだ。例えそれが望んでいない子であっても……。そう考える事は間違っているのかな?」

「何も間違ってはいないだろうよ。だが受け入れざるを得ない事でもある」

「貴方はさっきゴドウィンとかいう人と話している時こう言った。――何もない者は忠誠を差し出し、教育と糧を。人種も前歴も人格も取り敢えずは棚上げ、問うつもりはないと」

「……確かに言ったな。だがそれとこれとは話が別だ。志望者の前歴を問わない事と、志望者の為に仕事をしてそいつを受け入れる事は全く別の事だろ?」

「…………」


 ヘッラは悔しげに押し黙った。

 タスクは言葉を続ける。


「世の中は為るようになっている。それを動かしているのは『合理』という理不尽で圧倒的な力だ。それを覆す為にはどうすればいい。それを無視する為には何が必要だ?」


 タスクの問いにヘッラは答えない、いや答えられない。

 だがタスクも答えを求めていた訳では無かった。


「答えはただ一つ――暴力だ」


 その声に淀みも迷いも無い。ただ明々白々な事実を宣言するようなそんな力強さがある。


「そして俺が持っているカードもそれだ。だから俺はお前を救う事が出来る。だからお前は俺に助けを求める必要がある。だがここで一つ問題だ。俺がお前を助けるメリットは何だ? お前が今、俺に差し出せる材料は何だ? 今お前が持っている技術でもいい。金でもいい。物資でもいい。形のない忠誠心なんてものでも構わないさ。それどころか将来手に入る予定のものでも認めよう。――それらはお前を手に入れる労力に見合ったものなのか?」

「…………」

「じゃあ改めて尋ねよう。イエスかノーかだけ答えてくれればいい」


 タスクはそう言ってヘッラの方を見る。心の内まで見抜くような無機質でどこか濁った双眸。


「――お前にそれだけの価値はあるのか?」


 ヘッラが圧倒されたように、後ずさった。

 タスクは黙ってそんなヘッラを見詰め続ける。


「……あ、あ――」


 何か言わなくては……。

 そう思うが、口が思うように動かない。ヘッラにはこれが最終宣告のように聞こえていた。ここできちんとした答えを返せなければ見捨てられる。そうなればまた元の生活に戻る事になる。


 ――それだけは嫌だっ!


 胸の中から湧き上がるその感情が如何なる理由によるものなのか、それはヘッラ自身にも判らなかった。だがその感情のうねりは他の全てを圧するほど大きく、それに押されるようにヘッラは言葉を返そうと口を開き――。


「――ヘッラ!」


 そこに声が響いた。

 視線をやれば、ギデオンが一人のエルフを連れだって此方へ向かってきていた。

 いやそれどころかエルフの方は此方へ向かって走り出していた。そして慌てたようにヘッラへ駆け寄ると、彼女を抱き締める。それは心配が極まったようにも、不都合な行動に出るのを強引に止めたようにも見えた。

 駆け寄ってきたエルフの女はそこで初めてタスクの存在に気付いたように向き直る。


「……失礼しました。私はハルヴァラの一座の代表をしておりますロヴィーサと申します」


 その言葉は丁寧だったが、どこか此方を窺うような色があった。

 ……苦手なタイプだ。

 タスクはそんな事を思いながら、改めて女を観察する。

 女は柔らかな薄い緑色の髪を腰まで伸ばしたエルフだ。瞳の色も同様に緑色だが、その色は髪よりも僅かに濃い。エルフ特有の透き通るような白い肌と豊満で艶麗な肢体をダークグレーのロングドレスに包んでいる。

 旅芸人だという事も関係しているのだろうか、足首まで覆うロングドレスにセパレートしている袖。特別露出が激しい訳ではないが、太腿まで覗くスリットと、剥き出しになっている二の腕。そして大胆に空いた白い背中が、どこか男の獣欲を誘っているようだった。


「……座長」

「話は簡単に聞きました。……貴女一人で何をやっているの」

「……仕方ないじゃないか」


 呆れたように溜め息を吐くロヴィーサにヘッラが唇を尖らす。

 だが先程までよりヘッラには随分と余裕があるようだ。信頼しているのだろう。

 どうやらロヴィーサはこんな環境でも立派な母親役を務めているらしい。

 ……やっぱり苦手なタイプだ。

 そんな事を思いつつ、タスクは視界の端から近寄ってくるギデオンの方へ視線をやった。


「……狙ってやがったな」


 ロヴィーサがヘッラが話した内容を多少なりとも知っているのはおかしい。ギデオンが教えたのだろう。


「ま、いたいけな少女に圧迫面接は余り良くないと思った訳ですよ」


 ギデオンは軽く肩を竦めて、タスクの言葉を暗に肯定する。

 この男は意外に子供に甘い。それにはタスクも気付いていた。


「まあ、いいけどな……」


 どうせハルヴァラの座長とは話しておく必要があったのだ。連れてきて貰って悪い事はない。

 だが子供にしろ母性を感じさせる女性にしろ、どうもタスクにとっては苦手なタイプだ。どうせだったらその前のゴドウィンとかアルリーゴの方が随分やりやすかった。

 基本的にウェットな感じのものが混じるのは苦手なのだ。どこまでやっていいのか上手く掴めない。敵なら殴ればいいし、場合によっては殺せばいい。利害で繋がった相手なら、実利で返せばいいだろう。だが面子が大事な相手だったり感情に基づく関係だった場合、どれをどうすればよいのかタスクにはさっぱり判らなかった。

 そこら辺が流石にロニー・メルヴィルは上手だったなと、タスクは驚くほど人畜無害に見せる事も出来るロニーの顔を思い浮かべる。


「……教育によるのかねぇ」


 どこか暢気な口調でタスクが独りごちる。視界の片隅には訝しげな表情を浮かべたギデオンの姿が映っていた。



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