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第一話 開拓地の日常(上)

今まで受けた有形無形の指摘とかを参考にしつつ、書いてみました。

どうぞよろしく。




 抜けるように青い空だ。

 広々とした一面の青空に、所々白い雲が浮かんでいる。

 風はいつもに比べればそれほど強くはない。だが土地柄と云うべきだろう、山風が時折思い出したように風巻き、葉擦れの音と涼しげな感覚を伝えてきた。

 そんな風にあおられ、白い雲もゆっくりと動いていくのが視界に映る。


 時刻は昼過ぎだ。

 燦々と日が照りつけている。

 それでも不快にならずどこか涼しいのは緑が多い所為だろう。

 この辺りは密林と云うほどに木々が密集しているわけではないが、それでもやはり木々は多い。一歩その森林の中に入れば陽の光も半ばほどは遮られ、夕方頃には早々に薄暗くなり視界を確保するのに苦労するほどだ。


 探索する類の人間としては、それは歓迎すべき事ではない。

 死角が多いと云うことはそれだけ危険が近いと云う事でもある。

 自然の罠、突然の襲撃、そして遭難など。

 挙げればきりがない。

 だが今のように外から眺めている分に限って云えば、それは決して悪いものではない。

 やたら大きな木々に、そこを縫うように動く動物たち。その中には向こうでは決して見る事の出来なかった存在も多い。雄大で未知に溢れた自然。危険と隣り合わせの発見と冒険。そんなフレーズが、此方ではまだすたれていない。


「……はぁ」


 そんな事柄について取り留めもなく思考を巡らし、結局タスクは嘆息した。

 外見年齢は二十才前後。目の色は黒。髪の色も同色だが、環境の所為か現在はややその色素が抜けている。そんな中肉中背の青年だ。格好は武装というよりも旅装と云った方がいいだろうか。厚手のブーツやマント、腰に備え付けたナイフに雑嚢など、とても戦う者の姿には見えない。その中で、腰の両脇に一本ずつ下げられた金属製の旋棍が唯一異彩を放っていた。

 場所は、目の前の森林を警戒するように建てられた物見台。塔のようになった場所の頂上付近の観測所だ。観測所と云っても大したものではない。大体広さは二メートル四方程度。観測用の器具に緊急連絡用の装置。そして休憩時用にお茶の入ったケトルなどが置かれている。


 タスクは手すりに腰を掛け、足を組み、膝に肘を乗せるようにして頬杖を付いていた。

 物見台の高さは二十メートル程度はある。それを考えれば随分と危ない体勢だ。命綱を付けている訳でもない。虚空に身を乗り出すようなその姿勢は、一歩間違えればそのまま地上へ落下してしまう危険を孕んでいる。


 タスクも当然そのような事は判っている。

 だが同時に、その事に対して何の危機感も湧いてこないのも事実だった。

 それも当然だろう。昔ならばいざ知らず、今のタスクにとってその程度なんの脅威でもない。

 そしてそんな風になった自分に、タスクは寂寥感と無力感、そして不思議な感慨を抱くのだった。


「……なぁーにやってんだろなぁ、ほんと」


 思わずそんな言葉が漏れ出る。

 この世界に流されてきてどれだけの時間が経ったのか。タスクははっきりとは覚えていない。またその意味もないと思っていた。

 随分と居たはずなのに戻ってみればまるで時間が過ぎていなかったという不思議空間やら、飲めば若返るという魔法薬。そして老化すら止める魔力という万能の力。そんなものが存在する世界で、主観的な時間がどれだけ役に立つのか。

 ただ確かなのは、随分と長い間この世界に居るという事実だけだ。


 流されてきた当初は帰る事を第一の目的として動いてきた。その事に一抹の疑問すら抱かなかった。身の安全も顧みず、周りの意見など気にもしなかった。それが当然の事と思っていた。

 だが仲間が出来て、しがらみが増えて、以前の自分とは懸け離れた『力』を手に入れて、挙げ句に様々な存在を手に掛けて――。


 帰らなくてはいけない、と云う焦燥感にも似た義務感。胸の内を熾火のように焦がすソレは消えてはいない。

 だが帰りたいと云う感情が、以前より少なくなっている事も確かだ。

 それはこの世界に来て得た繋がりに因るものもある。得た力を振るう事の出来る場が惜しいと云う気持ちもある。

 だが同時に、帰るのが怖い、と感じている自分がいる事にもタスクは気付いていた。

 外見こそ少々成長した程度で済んでいるが、肉体的にも精神的にも、以前の自分とは懸け離れてしまった。そんな自分が帰ってどうするのか、そして帰った時どうなるのか。

 その答えがタスクにはどうしてもわからなかった。


 以前はこんなこと考えもしなかった。この世界に来た当初は勿論、仲間を得て只ひたすらに戦っていた時分もこのような事は考えなかった。もっと正確に言えば考える余裕がなかった。

 死と隣り合わせの生活。強くなる事に全てを注ぎ込み、その事に疑問すら抱かなかった。


 この大陸に来てからだろう、こんな事を考えるようになったのは。

 俗に新大陸などと呼ばれているロンバルト大陸。それは古く、そしてある意味新しいフロンティアだった。存在そのものが知られていなかった訳ではない。だがその開拓が行われるようになったのはつい最近だ。

 タスクはその開拓団の一つに雇われ此処に来ている。

 仕事の内容は護衛と狩猟。要するに暴力担当になる。

 他の開拓団とのトラブル解決や、開拓地域にいる特別厄介な魔獣の排除などを請け負う。

 だがそんな魔獣がやたらと生息している訳もなく、結果として暇な時間は割合と多い。


 強さを求めるならもっと効率のよい狩り場が幾らでもある。こんな、大物を狩るのに一々調査と許可が必要な場所をわざわざ選ぶ理由は何も無い。

 だがそれでも此処を選んだのは――仲間たちの勧めもあったが――多分単純な強さ以外のものを求めたからだろう。

 組織力。人脈。情報網。交渉力。

 どれもタスクが率いるクラン『ツチグモ』には無いものだ。

 狩れと云われればどんなものでも狩って見せよう。戦場に立てば敵を蹂躙する事だって出来る。迷宮の踏破に未探索区域への斥候。そんな仕事もこなせるだろう。

 だがその最初の一歩。戦場を設定し、狩り場を用意し、敵を特定する。そういった事柄についてツチグモは得手とは云えなかった。


 だからこそ、そういった力を求めて新天地へとやって来た。

 仲間も、特に古参の仲間はそれに賛意を示した。

 だが来てみると、どうも勝手が違う。只ひたすらに戦っていた時と同じといかない事は十分に判っているが、ではどうすればよいのか、これで正しいのかと問われれば、タスクは首を傾げてしまう。


 ――乗せられたかな?


 少しだけそんな事を思う。

 古参の仲間たちは、先へ先へと行き急ぐように進んでいくタスクを心配していた。タスク自身もその事に気付いていなかった訳ではない。だが仲間たちがそれを受け入れていた事もあり、結局それに甘えるような形になってしまっていた。

 そんな負い目に似た感情と、帰還への迷い。そして、それでも何か得られるのではないかという期待。

 そんなものを抱えてタスクはこの新大陸に立っている。


「……迷っている……のかねぇ」


 多分そういう事なのだろう。

 今まではそれがどんなに高かろうが乗り越えるべき壁は見えていた。それがふと見えなくなった。

 そして遠目には幾つかの壁があるがその先にあるものは判らない。

 きっとそんな状況だ。


「――ん?」


 そんな事を漫然と考えていると、タスクは物見台に登ってくる人の気配に気が付いた。

 特に隠している様子も急いでいる感じもない。何よりよく知った気配だった。

 タスクは手すりに腰掛けたまま、そのまま後ろへ倒れるようにして梯子の方へと視線を向ける。


 やがて逆さまになった視界に予想通りの顔が現れる。

 やや色の抜けたさらさらの金髪。深みを帯びたエメラルドブルーの瞳。その顔つきはまだあどけなさの名残を残し、どこか育ちの良さを窺わせた。

 これは礼儀作法を叩き込まれてきた、などと云う事では無い。顔に陰性のものがまるで見られないと云う事だ。特に陽気に見えると云う訳でもないのに、暗いもの、澱んだものを感じさせない。

 彼女の名前はコーデリア・アシュトン。

 古参の仲間の一人だ。

 クラス的にはツチグモ唯一のガンナーに当たり、その殲滅力はツチグモの中でも上位に位置する。またポーターとしての能力や魔具作成の能力も高い。


 コーデリアは梯子から顔だけ出すと、逆向きになったまま自らを見詰めるタスクの視線に気付き、目をぱちくりと見開いた。

 タスクはそんなどこか居心地の悪そうなコーデリアには構わず、只ぼんやりと視線を向け続ける。手摺りに掛けていた足を支点に身体をまるで蓑虫のように揺らしている。

 だがそんなタスクの奇態には慣れたものなのか、コーデリアは気分を入れ替えるようにして軽く息を吐くと、危なげなく観測所の上までやって来た。


「……お仕事よ」


 コーデリアは逆さ向きになっているタスクを少し呆れたように見て、溜め息混じりのそんな言葉を口にした。

 タスクはその言葉に答えずに、暫くぶらぶらと蓑虫のように揺れながら改めてコーデリアへと視線を向けた。尤も床近くに頭があるので、真っ直ぐに視線を伸ばせば見えるのはコーデリアの細いであろう足首だ。尤も足首近くまで伸びるロングスカートに革のブーツという出で立ちなので、実際にそれを確かめる事は出来なかったが。

 距離も近いのでスカートが短ければ見えてはいけない所まで見えてしまいそうだが、幸か不幸か見えるのは分厚いスカート生地だけだった。


 ……まあ、尤もこれはこれで。


 蓑虫状態のまま、タスクは一人頷く。

 普段と違う角度から見える少女の姿というのは、それはそれで乙なものだ。

 そんな事を考えていたタスクとコーデリアの視線が合う。お互い長い付き合いだという事もあるのだろう、コーデリアはタスクの視線に含まれる不埒な感情に気付いたようだ。


「…………」

「…………」


 逆さになった視界にコーデリアの顔が映る。

 お互いの視線が奇妙な形で交錯する。

 この手の事でからかわれる事も多いコーデリアだが、やはり気恥ずかしさを感じるのか、その白皙の肌には微かに赤みが差している。


「……いい加減にしときなさい」


 やがて耐えきれなくなったのか、コーデリアが僅かに膝を曲げしゃがみ込むようにして、手の平でタスクの視線を遮った。羞恥の混じったその声音は余り力強く無かったが、どこか叱るようだった。


「はいよ」


 残念ながらそこまでの余裕が無い事はタスクも判っていた。意識を少し真面目なものに変える。

 そして視界を覆うように差し出されたコーデリアの小さな手を握ると、タスクはそれを支点にして空中で一回転、危なげなく床に着地した。コーデリアもタイミングを揃えて引き上げてくれた。取り敢えずこの程度の事にのってくれる程度には彼女ものりがいい。

 そんなコーデリアは、タスクの着地の補助が上手くいって心なしか満足そうだ。


 タスクはそんなコーデリアを視界の端に捉えながら大きく伸びをして、それから改めてコーデリアの方へと向き直った。

 足首まで覆ったロングスカートに首もとまで覆った長袖のシャツ。そして白の手袋。

 相変わらず肌の露出を限りなく少なくしたデザインだ。

 子鹿を思わせるしなやかな動き。そして彼女の持っている雰囲気を考え合わせれば、おてんば気味の良家の子女と見られるのが一番自然だろう。

 そしてそれはある意味大きく外れている訳ではない。タスクに付いて来なければ、彼女はその通りの人生を送った筈だ。


「どうしたの?」


 そんな事を考えていたら流石に怪訝に思ったらしい。コーデリアが少し心配そうな表情を見せ問い掛けてくる。


「いんや、結構長い付き合いだなと思ってな」


 窺うような視線のコーデリアに、タスクは微苦笑と共にそんな言葉を掛ける。


「今更なに云ってるの」


 返ってきたのは呆れ混じりのそんな言葉だった。


「なに、ちょっとおセンチ気分で今まで歩んできた道程を振り返ってみただけだ」

「そうね。前を見るだけじゃなく時には立ち止まって振り返ったり……それに無理をせず休んだりする事も大事だと思うわよ」


 巫山戯半分のタスクの言葉に、コーデリアは思いの外真っ直ぐな言葉を返してきた。だが突っ込み待ちだったのに真面目に返されても困るのだ。


「……マジレスかっこわるい」

「かっこわるくありませんっ」


 結局暫くの沈黙の後、零すように口にしたタスクの言葉に、コーデリアがほぼ条件反射のように唇を尖らせる。


「ははっ」


 それに対しタスクは思わず口元を綻ばせた。彼女の言葉はタスクにどこか日向の匂いを連想させる。

 だがそろそろ時間も迫っている筈だ。タスクはくるりと首を回し気分を入れ替えた。


「んで、今日のお仕事はなんじゃらほい?」


 軽い言葉。だがそれと同時に空気が一変した。どこか怠惰で長閑な雰囲気から、得体の知れない緊迫したものへと。

 その中心はタスクだ。

 コーデリアも当然それは感じ取れたが、彼女もツチグモの一員。特に怖じる必要もなく、実際に怖じる事も無かったが、顔に浮かぶ僅かな緊張は隠せなかった。


「クライアントの意向は――適当にいなせ。『適当』の判断はそちらに任せる、だそうよ。……まあ、何時も通りね」

「確かに何時も通り。……って事は、起こった状況も以下同文?」

「ええ。敵の主力っぽい戦力と境界線上で睨み合い。その隙を突くような感じでピンポイントに襲撃されているわ。地道に此方の戦力を削いでいくのが狙いでしょうね」

「……ふむ」


 タスクは一言呟き状況を整理する。

 戦力を削ぐ――簡単にそういってもその中身は様々な手法がある。兵站を絶つ。兵士を殺す。情報を得る。難易度は様々だし、その効果も様々だ。


 だがここで問題なのは、タスク達が開拓団だと云う事だ。

 襲撃を仕掛けてきたのは別の開拓団だ。少なくともその息が掛かった連中だ。これは他の開拓団の戦力が此方の主戦力を釘付けにしている事からもほぼ間違いない。

 だがだからと云って、他の開拓団の拠点に攻め入って全滅させてしまえと云う訳にはいかない。

 向こうが此方の拠点に攻め入ってきたと云う動かぬ証拠と、その証拠の正しさを活用できるだけの政治的強さ。

 この二つが無ければ下手な強攻策は不利になるだけだ。それ故に、戦う相手と時と場合、これは慎重に選ばなくてはいけなかった。

 となると、敵の出方としては――。


「――お?」


 そんな事を考えていると、監視していた森の方から雄叫びのようなものが聞こえてくる。それに呼応するように森の各地から同じような雄叫びが響いた。

 タスクは振り返り、その視線を森の方へと向ける。


「声質の種類からすると亜人種が中心みたいね。声量と声の高さを考えれば、恐らくは中型中心」

「結構多いな。数十じゃきかないか。……少なくとも二百以上か?」

「ええ。そのくらいは居るみたい」


 亜人種と云ってもその内実は様々だ。

 ドワーフなどの小型。オークやオーガ、トロル、エルフなどの中型。ジャイアント、ミノタウロスなどの大型。

 この分類にしたところで厳密なものではない。

 そもそも亜人種というのは人型で、ヒューマン以外の種族で、なおかつ文化らしきものを持って生活している種族の総称だ。ある意味ヒューマンより一つ下に見た呼び方と云ってもよい。


 だがどちらにしろ、ヒューマンと亜人の関わり合いが長く深いのは確かだ。

 その歴史の中では何度となく対立し、利用し合い、時には同化し、また時には分離した。

 だが現在ヒューマンと亜人の関係は決して良くはない。亜人は奴隷とされる事も多く、ゴブリンなどに至っては取り扱いが容易な魔物のような扱いだ。

 それ故に、汚く危険な仕事をやらせる為に他の開拓団に所属している亜人種の集団が居てもおかしい事ではない。だが――。


「――来た」


 コーデリアが小さく呟き、右手にリボルバーを具現化させる。銀色に輝くソレは、コーデリアのように女性の中でも華奢な部類に入る射手が持つには一種違和感を覚えるほどに巨大な銃だった。銃身の先端近くには幾つかの穴が空いており、グリップは黒と赤でカラーリングされた革で覆われている。無骨さの中にどこか洗練された雰囲気を発するそれを、コーデリアは片手で軽々と保持した。


「さて――」


 そう呟くタスクの視界には、森の中から続々とやって来ている亜人達の姿が映っている。種族はトロルとゴブリン、それにオークが中心のようだ。兵隊としてのゴブリン。アタッカーとしてのオーク。盾役としてのトロル。悪い編制ではない。武装も亜人種にしては随分としっかりしている。


「……金掛けてんなぁ」


 結局零れた感想はそんなものだった。コーデリアはそんなタスクには構わず銃を片手で真っ直ぐに構える。決して軽くは無いだろうが、その手はピクリとも動かない。


「それでどうするの? タスクが何もしないのなら、私があれを受け持つわよ」

「……ん、その前に一つ試してみるか」


 特別な訓練を受けていない亜人は、生まれ持った身体能力と本能任せの戦闘を行う事が多い。それ故に、絡め手が効果的だ。

 そしてそんな絡め手については、タスクはそれなりに得手にしていた。


「―― <<マインドグラスプ>>」


 精神掌握。

 テイマーのスキルになる。

 特定の視覚効果がある訳ではないが、その名の通り相手の精神を掌握し、恐慌や自失、服従などのバッドステータスを与えるスキルだ。熟練度によっては対複数にも効果を広げられ、ある程度以上の相手には抵抗される事も多いものの、使い勝手はそれなりによい。タスクもこのスキルについてはそれなりに熟練していた。

 本来なら目の前の亜人程度には十分効果を発揮する筈。だが――。


「……やっぱりデザインドか」


 返ってきた感触がおかしかった。抵抗された訳ではない。完全に無効化されている。それも効果範囲内にいた全ての個体について、だ。

 こうなってくると可能性はほぼ一つに絞られる。


 ――デザインド。


 その名の通り、意図を持って設計された存在の事だ。

 家畜を掛け合わせるように、作物を品種改良するように――亜人たちを利用し、その使い勝手を向上させる。

 意図的な交配により優れた特質を受け継ぐ個体の選別。幼少時からの洗脳と訓練。いざという時の安全弁の設置。寿命を犠牲にした特殊能力の植え付け。そして意思判断能力を削り、あらゆる精神操作を受け付けない狂化の永続化。


 デザインドは裏で取引されるだけではない。ある程度の制限はあるものの、そのかなりの部分は堂々と表で売り買いされている。

 その用途は様々だ。低コストで潰しの利く兵士。殺される事を前提にした訓練相手。汚れ仕事の実働要員。基本的に禁止されているものの、ドワーフやエルフなどのヒューマンに近い亜人種においては愛玩用のデザインドも存在する。


 タスクはこのデザインドが正直余り好きではなかった。

 それはあるいはタスクがテイマーだからかも知れない。まるでペンキか何かで塗り潰された感情、鈍磨し疑う事すら出来ない精神。そういったものを感じるのは、決して気持ちのよい事ではない。

 またあるいは、タスクがマレビトと呼ばれる異世界からの来訪者であるからかも知れない。タスクの世界には亜人種と呼ばれるものは存在しなかった。前の世界でどんな生活をしていたのか、もうはっきりとは思い出すことが出来ない。だがそれでもこの世界に来て彼らを見た時の感情は覚えていた。


 勝手な感慨だ。この世界の事情を無視した暴論だ。合理的でない事も甚だしい。

 だが――気に入らない。


「んじゃ、そっちは頼むわ。俺はもう片方のお客さんの方をやる」



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