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道化上等!  作者: 本間 甲介
第一章
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問題になっていない問題

「ちょっとした問題を出すぞ。『毎年全国大会に出ている強豪野球部』と『万年一回戦負けの弱小野球部』があるとする。今年どちらかが全国大会に進むとしたら、どっちが進んだほうが、インパクトが大きい?」


 あれから俺は、本殿の短い階段に腰を下ろした。というより、無理やり座らされた。目の前に立つ、着物女によってだ。


「はあ、なんだそりゃ?」


 座ると同時に、いきなりわけのわからないことを言う女。てかもう帰りたいんですけど……。


 告白じゃないとわかった時点で、俺のテンションはだだ下がり。積んでるギャルゲのメガネっ娘ルートでもクリアして、このもやっとした気を紛らわせたかった。


「いいから答えるのじゃ!」


 ビシッと俺を指さし、睨みつける。耳からというより、直接頭に響いてくるような声だった。


 ちっくしょ、めんどくせえな。……けどこのままこいつに背中を見せて帰ると、「階段から突き落とされるんじゃね?」と一瞬思ってしまった俺は仕方なく、質問に答えてやることにした。えーと、何だ……この場合は――。


「やっぱ強豪校じゃねえの――ブヒイィ!」


 答えると同時に、俺の頬に痛みが伝う。人間がイメージする、豚の鳴き声のような叫びを上げてしまった。


「叩かれた」とわかるまで、少し時間がかかった。え、何これ!? 俺は唖然として、平手を食らわせた女を見た。


「違うでしょ! 弱小校が全国に行った方が、みんな驚くの!」


 自分がこの世で一番正しいんだといわんばかりの、ジャイアニズムに満ちた顔だった。いや、お前の主観を押し付けられても、どうしようもねえよ! ――あれ、つーかこいつさっき……。


「――聞いとるのか佐治謙也!」


「聞いてる……つーかふざけんな! だからって叩くことねえだろうがっ!」


「黙れ……小童! 我に反論するなぞ、千年早いわ!」


 小童なんて古臭い言葉、まさかリアルにしかも自分に使われる日がくるとは、このときまでは思わなかった。今にも手が出そうな自分を、何とかおさえる俺に、女は続ける。


「つまり、サジ、そういうことじゃよ」


「何がだよ……?」


 どうやら女の中で、俺の呼び名は「サジ」に決まったらしい。俺がキョトン顔していると、女は大きくため息をついた。


「まだわからんのか? 我が言いたいことが。こういうことじゃ、『意外性による驚愕』に勝る驚愕は無いのじゃ!」


 ふふんと鼻を鳴らして、どや顔で決め台詞(?)を口にする女。色々ツッコミたいが、また叩かれるのはゴメンだ。俺は女の話に同調することにした。


「……あー、それだったらたしかに、弱小校が全国大会に行くほうが、インパクトはあるなー?」


 俺から言わせりゃ、別にこんなのどっちでも変わらないとは思うんだがな。と、思うのは俺が野球に興味がない人間だからだろうか?


「で、それがいったい、なんだっていうんだ?」


 さっさと本題に入れと、俺は女に促す。


「おお、そうじゃの。……とはいってものー、どう説明したらいいのかのー?」


 艶のある長い黒髪を、無造作にポリポリとかく女。しばらくして、女はポンと手を叩いた。


「すいません、夕方から始まるアニメがあるから帰ります」


 男子高校生がするにしては、かなり程度の低い言い訳で、俺は立ち上がりこの場を脱しようとした。


「ま、まて……! わ、わかったのじゃ、ならば今から一緒に出かけるぞ!」


 慌てふためき、女は俺の手を掴み呼び止めた。


「……ちょっ」


 わけもわからぬままに、俺は女に腕を取られ、引っ張られるように神社の階段を下りていく。想像以上にの力強さから、俺は手をほどくことはできなかった。


このときまで、俺はほんのちょっとばかりだが、「モテ期キター!」と、内心では喜んでいた。いわゆる、「巻き込まれ型主人公」的なやつだ。 


 しかし、「モテない男が女子から声をかけられただけで『あれ、こいつ俺の事好きなんじゃね?』という現象」となることになった。


「主人公」なんて、俺がなれるはずがない。


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