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道化上等!  作者: 本間 甲介
第六章
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初めてで、再会

「そ……そ、そんな……あんた、どうして……!」


 久しぶりに会った彼女の顔は、ひどく戸惑ったものだった。


「まあ落ち着け、ちゃんと……説明してやっから」


 頭がふらふらする、だが俺は彼女の手だけは絶対に離さないように力強く握りしめる。


「まずは……えっと……何聞きたい?」


 一から説明しようとしたものの、飲み過ぎたのか頭が働かない。俺は彼女に委ねることにした。


「なんで死のうとしたの!」


「そっから!?」


 ――意外なところからの切り出しだった。うーん、やっぱりちゃんと説明しよう。俺は深呼吸を数回繰り返し、頭を働かせる。


「まずはだな……俺は昨日、お前が書いた手紙を読み終えた瞬間、俺はお前が『まだ成仏していない』ということに気づいた」


「え……?」


 予想だにしていない言葉に彼女の眼が大きく開かれる。この歳になって気づいたが、ちっちゃな手だな……。


「なんで……そんなこと――」


「あのなあ……お前手紙の中でも書いてたけど、あの時も言ってただろ? 『消えたくても消えることができない』って。そんなこと言っている奴が、どうしていざって時に『自分の意志』で消えることができるっていうんだよ」


「あ……」


 どうやら彼女もその矛盾に気づいていなかったらしい。


「で、でもそんなのだけで……」


「もちろん、それだけでお前がまだ『いる』って信じたわけじゃない。もっとちゃんとした理由がある」


 そう言って俺はポケットから昨日貰った手紙を取り出し彼女に見せる。


「それが、どうしたのよ?」


「お前が俺の書いた文字を見て、俺が『フレイヤ』って分かったのと同じくらい、俺だってお前の書いた手紙をずっと読んできたんだぜ? ……だからさ、文字から嘘か本当か見分けるくらい、ひと目で分かるんだよ。筆圧とか文字の傾きとかでな」


「そ、そんなわけあるはずが……!」


「――ああ、もううっせえ!」


 つい、大声を出してしまった。彼女はびくっと体を震わせる。


「お前が信じなくてもだな……俺はお前がまだいるって信じたんだ! それでいいだろ!」


 正直、文字から分かるというのは嘘に近い。ただそうであってほしいと信じた上での言葉だ。


「――とにかく、だな。小学生みたいな感想だけど、俺はお前にまた会えて本当に嬉しい……それだけだ」


 ふうっとそこで息をつく。彼女は抵抗も何もせず、ただただ呆然としていた。……しばらくして、


「あたしが視えないだけで、あなたの側に『いる』と分かっていたから、この『作戦』を思いついたの?」


 どうやら彼女もさっきの俺の行動の意図が分かったらしい。俺は頷いた。

 

 今日、俺があんな風に馬鹿みたいに飲んだのは、決してやけくそになったからというわけではない(そういった気持ちも少しはあったが)。俺の予想通り、彼女が視えないだけで近くに「いる」とするならば、「酔った勢いで死のうとしている俺」を、放っとかないと考えた。


 つまり俺は、彼女を「呼び寄せる」ために、あのような行動を取ることにした。……といっても、演技という枠を超えて飲み過ぎてしまったのだが……。


「ちょっと待って……その、それってあなたの『勘』みたいなものよね……?」


「ん? ああ……最終的にはそうなるかな」


「――やっぱ馬鹿よあんた! もしあたしが成仏……はしていなくても、あなたの側にいなかったら、どうするつもりだったのよ!」


 こちらから一方的に握っていただけだったが、握り返されてきた。彼女は目に涙を浮かべ、本気で心配の声を上げた。


「――信じてたからな」


「答えになってない!」


 怒りのこもった返しだった。ああ、分かっているよ……。


「……そん時は、お前と『同じ』になるだけだよ」


 なんともないという風に、俺はニコッと微笑んだ。


 決して死を望んだというわけじゃない。ぶっちゃけ「気絶でもした拍子に幽体離脱ができたらいいなー」くらいの感覚だった。だが、よく考えたらやっぱり俺は馬鹿な行動をしてしまった――。


「馬鹿よ……本当に馬鹿よ……!」


 殴ってくるかもと身構えた。だけど、彼女はただただ嗚咽の混じった声を出した。泣いていた。


「……に、にしても本当だったんだな!」


 しんみりした空気を壊そうと、俺は話題を変えようとする。


「なにがよ……?」


「お前言ってただろ、ここは縁結びの神社だって。お前の言うとおり、俺はここでお前にまた会えた。……多少金はかかっちまったけどな!」


 ――つか、いまさらだけどどうしよう……。金だけならまだしも、カードとか色々入った財布を入れてしまった。なんとか取れないかな……?


「……怒って、ないの?」


「ん? 何にだ?」


「あたしが……何も言わずに消えたことよ……」


「あー、まあそりゃな、最初はふざけんなって思ったよ。……でもさ、お前の書いた手紙を読んだ後だと、そんなこと言えなくなっちまったよ。理由はどうあれ、お前は俺のために自らを犠牲にしようとしてくれたんだから。――ありがとな」


 顔が真っ赤に染まる照れくさくてしょうがない。でも、俺ははっきりと彼女に感謝の言葉を伝える。


「もう一度言うぞ……その、初めまして……!」


 最初は素性を偽って、


 次は気持ちを偽って、


 そして最後は存在そのものを偽って……。

 


 長い、長い道のりの上、俺はやっと――初恋の女の子と出会うことができた。

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