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道化上等!  作者: 本間 甲介
第六章
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ラブレター

 本当に、本当にお久しぶりですフレイヤさん……そして、佐治謙也さん。


 この手紙を受け取る時には、あなたは既にあたしの正体が分かっていると思います。それでも、一応言わせてもらいます。



 あたし――「五月七日」は、「露理」であり、「月草」です。



 ……当然、様々な疑問があるでしょうから、順に説明していきます。


 そもそもあたしは中学校にはまったく通っていませんでした。それはあたしがひどい病を患っていたからです。


 その病が発症したのは中学に上がった頃でした。現代の医学では治すことはかなり難しいと言われる、「死」に直結するものでした。


 最初はショックでずっと泣いていました。でも、泣いて泣いて泣き疲れて……あたしは泣くのをやめました。


 どうせなら強く生きよう……あたしは残った時間を有意義に使うことを決意しました。


 ――といっても、あたしは病室から出られることは中々できず、結果的に本ばかり読んでいました。


 本を読むことそのものは面白かったです。でも、やはり何かが物足りませんでした。


 そんな時、あたしはとある雑誌に書かれていた記事を目にしました。それこそ、あなたと出会うキッカケになった文通です。


 どうせならやってみよう。そんな軽い気持ちで、あたしは文通を始めてみることにしました。


 えっと……一番最初に送った時の手紙を覚えているでしょうか? 何を聞いていいか分からずに、あのような失礼な質問をしてごめんなさい。でも、あなたはそんな質問にもちゃんと答えてくれましたね。異性とはいえ、同じ年頃の方だとわかり、あたしは安心しました。


 ……その、こう言ってはなんですけど、最初の内にあなたから送られてきた手紙に書かれていた文字は、かなり下手で読みづらかったです。でも、だんだんと上手くなっていく文字を見て、あなたの真剣さが伝わってきて、「ああ、良い人だなあ」という感じがひしひしと伝わってきました。


 あなたはどうか分かりませんでしたが、あたしは、あなたからの手紙がとても楽しみでした。送られてくる手紙からは、あなたの「思い」も深く伝わってくるようでした。



「それは恋だよ」



 あたしの大切な友達はそう言ってくれました。恥ずかしくて、すぐには認めたくありませんでした。でも、だんだんとそう思い始め、あたしの中にある感情が生まれました。



 あたしはあなたのことが好きでした。



 そう意識すると、あたしはあなたからの手紙の返事を書くのがとても恥ずかしくなりました。もう、まともではいられませんでした。


 だからこそ、あたしはあの手紙を最後にしようとしました。あの内容は、あなたを大きく勘違いさせる内容の手紙になったと思います。今更言うのはずるいかもしれませんが、勘違いしないでください。あたしはあなたに直接会いたいと思い、手紙をやめることにしたのです。


「確率的には低いけど治る可能性がある」


 当時主治医だったお医者さんは、あたしにそう伝えてきました。その時の表情はとても苦しげで、あたしはすぐにそれがどういう意味であるか、悟りました


「受けます、お願いします!」


 あたしは両親の反対を押し切り、その手術に臨んでみることにしました。


もし治ればあなたに会うことができる……そんな希望を抱いて、あたしはその手術に挑みました――。


 しかし、次に目を覚ました時には、あたしは病院にはいませんでした――。


 その後、あたしがどうなったかについてはご存知でしょう。


 消えようと思っても成仏できず、誰にも認識されない……地獄のような中、あたしは一つの光を見つけました。

 


 それがフレイヤ――佐治謙也さん、あなたです。



 こんな偶然があるなんてと、すぐには信じることができませんでした。だからすぐには、あなたにあたしの姿は見ることはできなかったのだと思います。


 あたしがあなたをフレイヤさんと気付いたのは、偶然あなたの書いた文字を見たところからでした。上手い下手とかじゃなくて、あなたの文字はあたしにとって一目で分かるものだったのです。


 なんとかしてあなたに会いたい。あたしはそれからずっと、あなたに認識されようと頑張りました。その努力が実り、あたしはなんとか自身の霊体を、うまい具合に調整できるようになりました。以前、あなたにも言った、「『思い』が強い物には触れることができ、視られることもできる」というものです。


 ――あ、それとすでにお気づきかと思いますが、この手紙の紙と書いたペンは、あなたがあたしとの文通時代に使っていたものです。あなたには分からないと思いますが、これらにはすごい「思い」が宿っていました。……それが、とても嬉しくもありました。


 これであなたに会える……そう、思っていました。

 

 でも、あたしは寸前で戸惑いを覚えました。

 

 今のあたしを視て、あなたはどう思うのだろうか?


 あたしの言うことを信じてくれるのだろうか?


 気味悪がられたりしないだろうか?


 あたしのことなんてもう忘れているんじゃないだろうか?


 そんな様々な不安が胸をよぎりました。そうです、あたしには勇気が無かったのです。


 そんな時でした。あたしは木城くんーーー巧くんがあたしの放った何気ない一言に、囚われているということに、気づきました。


 このままだと巧くんは、一生苦しい思いをする……そう思うと、あたしは気が気でありませんでした。


 でも、巧くんにはいくら頑張っても、あたしの姿を見せるようにはできませんでした。


 迷って迷って考えて考えて……あたしの中に、一つの答えを見出しました。



 それが月草神社の神様「月草」です。



 月草という神様自体は、あたしが考えたものですが、舞台と設定と口調を作れば、あなたに協力を求められるのではないかと思いました。


 でも、「月草」である時、あなたに対しひどい態度や口調を使ってごめんなさい。でもあたしはそうやって仮面を被る以外では、あなたと話せませんでした。といっても、あなたが言うには、時々あたしは「素」が出ていたみたいですけど……。


 正体を偽っていたとしても、あなたの側にいてあなたと話せることは、あたしにとってとても充実した日々でした。それだけで、十分でした――。


 だからこそあの日……あたしはあなたに正体がバレた日、そして巧くんが彼女――八原さんに告白されると分かった時、あたしはもうあなたの前から姿を消すつもりでした。


 でも、無理でした。あなたがあの日、八原さんに告白したのを見て、あたしの中に新たな迷いが生まれました。


 あたしはもっと、あなたの前に存在し続けたかったんです。


 あなたが、あたしが巧くんのことを好きだと勘違いしているのは、やっぱりショックでした。けれど、自分の口から本当のことは言えず、あたしはそれを逆手に取って、嘘をついて、あなたのそばにいようと考えました。


「はあ……仕方ねえな」 


 嫌がられるかと思っていました。だけど、あなたはあたしがそばにいるのを受け入れてくれました。複雑な気持ちでしたけど、ほっとしました。 


 映画を観に行ったり、遊園地に行ったり、旅行に行ったり……生きていた時ではできなかった様々な体験ができ、とても、本当にとても楽しかったです。

 

 こんな状態が一生続けばいい。そんな風にも思いました。


 ーーーけれど、あなたが卒業を迎えるにつれて、あたしは気づきました。あたしが存在し続ける限り、あなたは幸せになれないということにです……。


 消えなければならない。あたしはやっと、そう決意しました。


 だからあたしは、あなたが卒業すると同じ日に、現世から「卒業」することにしました。


 最後まで、あなたに「思い」を伝えるかどうか迷いました。けどやはり、あなたに未練を残すような真似はするべきではないという結論に達し、黙って消えることにしました。



 ――それでも、もしもあなたが消えたあたしを忘れられず、あたしのことを探すようなことがあるならば……そんな一抹の不安があったあたしは、一つ保険をかけておくことにしました。それが、この手紙です。


 あなたにこの手紙を見てもらうにはどうしたらいいか? 最初はどこかに隠しておこうとしましたが、それだと見つけてもらう可能性が低くなるなと思い、やめました。  


 色々と考えを巡らした上に、あたしはある方法を取ることにしました。それが、あたしの親友――北出小夜子を頼るというものです。


 おそらく、あなたはこの手紙を北出小夜子から貰ったと思います。その理由はあたしがこの手紙とは別に、小夜子に手紙を書いたからです。


 なぜ今までそうやらなかったか? そういった疑問もあったでしょう。……あたしは、一番の親友の小夜子に、手紙という文字媒体だけで、自分の存在を信じてもらえるかどうか、怖かったのです……。


 けれども、それは杞憂でした。小夜子はあたしの書いた手紙を読んだ後、彼女はあたしが近くにいるのが分かっていたかのように、「わかった」と頷いてくれました。たった一言でしたが、あたしは小夜子を信じることにしました。

 


 ……少し長くなってしまいました。まだまだ伝えたいことはたくさんありますが、もう終わりにさせて頂きます。


 最後に……これだけは言わせてもらいます。


 あなたに逢えて、本当に幸せでした。


 だから、どうかあなたも幸せになってください。


  

 本当に……今までお世話になりました。


 ――さようなら。




 そこで、手紙は終わった。


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