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道化上等!  作者: 本間 甲介
第六章
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ぶっ飛んだ事実

「……会ったこともない、か」


 いきなりの、知らない者からすればかなりおかしな問い。にも関わらず、北出は真面目な顔して、考え込んだ。


「その、俺が言っといてなんだけど……そこまで深く考えなくていいぞ」


 だんだん恥ずかしくなってきた。ああもう! 余計なこと言うんじゃなかった!


「佐治くん、それは『マジ』な問いかい?」


「え……うおっ!」


 いつの間にか、北出の顔が鼻の先にあった。


「お、おう! マジだぜ!」


 うんうんと、激しく首を振り答える。び、びっくりしたあ!


「――あ、決してギャルゲーの話じゃねえからな!」


「ふむ、そうか……」


 俺の補足の言葉を無視し、北出は再び考え込んだと思ったら、


「いいんじゃないかな」


 あっさりと、そう答えた。


「いいんじゃないかって……会ったことないっていうか……顔すら知ら

ないんだぜ……?」



 肯定の返事をしてくれたのに、なぜか俺は自分で自分の言葉を否定しようとしていた。


「別に世の中それが全てじゃないだろ。好きになるキッカケなんて、色々あるよ。彼女もそうだったし」


 あまりにさりげない言葉に、聞き逃してしまいそうになった。


「え、彼女って……つきぐ――じゃなくて露理って女の子のことか?」


 危うく月草と言ってしまいそうになった。北出はこくんと頷いた。


「おいおい、違うだろ。俺の場合は本当に会ったことのない……その、手紙でしか知らなかったんだぜ? 露理って女の子はさ……巧と出会ってたじゃん」


 言わないでもいいことまで言ってしまった。同時に、俺はやっと月草が消えた理由が分かった。



 幽霊が成仏する理由が、「未練を果たせた」とするなら……月草が消えたのも、まさにそれだったのだろう。


 月草は、好きだった巧がちゃんと誰かと付き合うまでを確認したかったから、巧にかけた呪いが解かれた後も、この世にいつづけた……。つまり俺は、単なる「暇つぶし」の相手だったのだ。


 だからこそ、あいつは巧が女の子と付き合うようになったその日に、消えた。


 あの時俺は、すでにそれに気付いていた。だけど認めたくなくて、それを心の内にしまいこんで、あいつの姿をずっと探していたんだ……。


「だからさ、露理さんは幸せだったと思うぜ……。近くに好きな奴がいてさ」


 でもいい加減、認めなければならない。俺は自嘲するように、小さな声でそう言った。つくづく俺って、誰かの引き立て役だよな……。


「あの、佐治くん……?」


 たそがれるように、夜の町を照らす光を見ていると、北出は困ったような声を出していた。顔を戻し、北出を見ると北出は出した声にシンクロさせるような、困った笑みを浮かべていた。


「どうかしたか?」


 べつにおかしなことを言ったつもりはなく、本心からの言葉だったのだが……。


「佐治くん、君さ……」


 そこで止め、北出はすうっと大きく息を吸い込み、


「すっごーーーぉおおおいっ! 勘違いしてる」


 鼓膜が破れんばかりの、大声だった。


「か、勘……違い? 何がだ?」


 耳がキーンとなったままに、俺は聞き返す。再び北出は息を吸い込む。俺は両耳の穴に指を突っ込み、第二波に備える。


「はああ~」


 だが、北出は何も言わず、ただただ大きなため息をついた。


「冗談で言っていると思っていたけど、まさか本当に気づいていなかったなんて……ある意味、二人とも可哀想だよなあ……」


 何やらよくわからないことを、北出は呆れたように言った。


「……すまん、分かるように言ってくれ」


 思わせぶりな態度が気になる。俺は北出に要点だけ答えてくれるように頼んだ。


「……それじゃ言うね。まずね、彼女――露理が好きだったのは巧くんじゃないよ」


「――え?」


 一瞬にして、頭の中が真っ白になった。だが北出は止めず、さらに衝撃の事実を口にした。



「『五月七日』はね、『つゆり』とも読むんだよ」



 その一言を理解するとともに、俺の視界はぼやけていき……多分、一時的にだが気を失った。


 ――そして、次に気付いた時には、北出の姿は目の前になかった。


 代わりに、一通の封筒が置かれてあった。

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