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道化上等!  作者: 本間 甲介
第六章
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消えたあいつと消えない思い

「それじゃあねえ謙也ー! またねー!」


「おう、さっさと寝ろよ」


 飲み交わしを終えた俺たちは、居酒屋を出た。けっきょく、巧はまともに歩けるような状態ではなく、俺は巧のアパートまで付き合うことになった。


「ふう、さっみぃ」


 巧がちゃんと部屋に入ったことを確認し終え、俺は踵を返し家の方へ向かう。寒さが体に染みこんでくるようで、一気に酔いも冷めそうだった。


「……本当、変わったよなあいつ」


 両手をポケットに入れて、俺は改めてそう思う。酒に溺れたということを除いても、木城巧はその内は高校の時とはまるで別人だった。……というより、


「あれが、『素』なんだろうな」


 星々が瞬く夜空を見上げ、俺は巧にかかっていた『呪い』が解けた後についてを思い出していた。



 あの日……巧が「好きだった女の子」の墓前で決意を誓った後、巧はその決意通りに、「本気」で自分を好きな女の子たちと向き合った。


 ――といっても、すぐに特定の女の子と付き合うことになったわけではない。なんていうか……すべてリセットされた状態から、また巧のモテっぷりは始まった。


 巧そのものは変わったが、何も知らぬ者から見たら相変わらずのギャルゲ主人公っぷりだったと思う。


 だが、俺もそうであったかと言われれば、違った。巧の親友を辞めたわけではないし、巧のことが嫌いになったわけではないが、俺は以前みたいな「親友キャラ」ってやつを演じることができなかった。というのも、俺もその間は色々と大変だったからだ。

 


 で、高校卒業の当日、巧はついに女の子と付き合うようになった。誰かに告白されたからではない。自分から告白してだ。


 その女子は俺もよく知っている女子だった。女子は巧の告白に大粒の涙をこぼし、それを承諾した。しかも二人は同じ大学、俺は知らないがここ二年近くはお互いの絆を深めあったことだろう。……決してエロい意味とかじゃなくて。


 そしてその女子は、巧にとってこの世で唯一頭の上がらない存在である。さっき俺が呼ぶと言ったのも、その女子のことだった。



『付き合うんでしょ?』



 急に、巧の言葉が脳裏をよぎり、俺は足を止めた。俺は近くの自販機でコーヒーを買った。


「付き合うのかな……」


 他人ごとのように、俺はコーヒーを飲みながら呟く。たしかに、俺は彼女とあまり話したことはない。だがそれを抜いても模合さんは可愛いし、性格もかなり良い。あんな良い娘が俺に告白してくることそのものが、奇跡に等しい。もう、こんなチャンスは訪れないだろう。


「うーん……」


 あっという間に缶が空っぽになった。考えれば考えるほど泥沼にはまっていくような感覚だった。俺はポイッと缶を捨て、再び歩き出す。


「……あれ?」


 ふと足元に目をやると、なぜか石段があった。それはずっと上まで続いている。無論、俺の家はこんな高くにはない。


 俺はあたりを見回す。暗くてよく分からなかったが、なんとなく思い出した。


「……巧のこと言えないな」


 俺もかなり酔っていたらしい。俺は家の方とは違う道を歩いてきていた。俺はパンパンと両頬を叩き、今度こそ家に――。


「…………」


 向かおうとしなかった。俺は石段の先へ目を向ける。


「――行ってみるか」


 多分、どうかしていたんだろう。そうじゃなけりゃ、こんな気持ちになるわけない。


 無駄で意味のない行動と分かっている、それでも俺は一歩一歩と、石段を登っていった。



 石段を登った先には月草神社があった。古びれた、まったく人気のないのは、初めて来た時とまったく変わっていなかった。俺はキョロキョロと携帯のライト機能を使って照らしてみる。


「……いるわけないか」

 だが、ある意味予想通り、俺の視界にあいつの姿はなかった。――いや、いたとしても今の俺に視ることはできないだろう。


「……いきなり消えてんじゃねえよ」



 巧が告白したその日、俺は――月草のことが視えなくなっていた。



 理由は分からない、本当に突然のことだった。


 アパートに引っ越すまでの間、俺はひたすらあいつを探した。俺の家、神社、学校、ファミレス、墓……。だがどこにもあいつの姿は視えなかった。俺は意気消沈したままに町を離れた。


 俺はすべてを忘れるかのごとく、空回りするように大学生活を送ることにした。だが、心の底からはっきりと忘れられていなかったのか、時折実家に帰っては俺は月草の姿を探した。


 もともと、視えるはずのない存在が目の前からいなくなった。それだけだ…………なんて割り切れるほど、俺は単純じゃなかった。


 巧が墓で誓いを立てたその後も、月草は「今度こそ巧の恋を応援するわよ!」と、成仏することなく俺につきまとっていた。


 映画を観に行こう、遊園地に行こう、サッカーの試合を観に行こう、サイクリングに行こう、旅行しよう……。


 口では巧を応援すると言っときながら、あいつはいなくなるその日まで、生前できなかっただろう願望を、俺と共に叶えていた。


 その度に付き合わされる俺はたまったものではなかった。何も知らない者からすれば、俺は一人ぼっちで色んなところ回っている寂しい野郎に見られたことだろう。


 でも、俺はそれが楽しかった。いつの間にか、月草は俺にとって大事な存在になっていたのだ。あいつと一緒にいることがとにかく心地よくて、そんな日々が一生続くんじゃないかとまで思っていた。


「――中々、吹っ切れねえな……」


 今年のゴールデンウィークに帰った時には、俺はもうあいつのことを探すのをやめようと思っていた。だから、「わずかな可能性」にすがるようなことさえしないように、俺は盆休みは帰らなかった。


だがこうして無意識の内に、あいつと初めて会った場所にやって来たということは、まだ俺の中に月草はいたということだろう。


 模合さんの告白に迷っているのも、それが原因だった。


「……帰ろ」


 忘れてしまおうと思っていた感情が一気に溢れ出してくる。目元を拭い、俺はさっさとこの場を離れようとした。



「――やあ、奇遇だね」


 石段を半分ほど下りたところ、そこに誰かが立っていた。


「つきぐ――!」


 あいつの名前を叫ぼうとしたところで、俺はそいつの姿に気づき止める。


「……北出」


 そこに立っていたのは月草ではなかった。だが、限りなく月草に親しい者だった。





 

※巧が付き合うことになった女の子については、特に決めていません。色々な可能性があったということで、ご了承ください。

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