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道化上等!  作者: 本間 甲介
第六章
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酒に飲まれて

「でもさ~本当~に、告白されるような心当たりはないの~?」


 一時間ほどしたところで、巧は絡むように聞いてきた。その顔は真っ赤に染まり、呂律も上手く回っていなかった。


「ねえよ、というか飲み過ぎだ」


 近づいた顔を押し戻し、俺は冷静に言った。あれほど飲み過ぎるなと言ったが、巧は頼んでは飲み、飲み終えてはまた新たに頼みと、見ているこっちが酔ってきそうなほどだった。


「だいじょーぶダイジョーブ! あはは!」


「店員さーん、水くださーい」


 巧はふらふらと体を揺らし馬鹿笑いをする。これ以上飲ませたら本気でまずいと思った俺は、近くを通った店員に水を頼んだ。


「えー謙也ー、僕まだ飲み足りないよ~!」


「十分すぎるほど飲んどるわ! お前な、『酒は飲んでも飲まれるな』って言うだろ!」


 まさかこいつがここまで酒癖の悪い奴だとは思わなかった。たしかに浮かれる気持ちは分かるけどよ……。


「水入りましたー」


「どうも、ほら巧飲め!」


「うっ……うぷっ!」


 運ばれてきた、グラスに入った水を、俺は強引に巧の口に運びこむ。最初こそ抵抗した巧だったが、諦めたのかゴクゴクと飲んでいった。


「――ぷはあ、全然味がしないね、このビール!」


「水だっつってんだろ。いいか、もう今から明日まで、絶対にアルコールを体内に入れんなよ! 店員さん、グレープフルーツ二つ!」


 少しでも酔いを覚まそうと俺は再び頼む。少なからずとも、俺も酔っているのだ。そんな状態で酔っぱらいを引き連れて変えるのは面倒極まりない。


「えー、最後にワインでしめようと思ったのに――」


 この上何を言っているんだこいつは? 俺は深い溜息をついた。


「……あのな巧、いい加減にしないとだな……呼ぶぞ?」


 腹が立ってきた。俺は最終手段へ取り掛かろうと携帯を取り出した。


「ちょっ、謙也それは――!」


 巧の赤くなった顔が一気に青ざめていく。やはり効果は絶大だった。俺は携帯をしまう。


「あいつを呼ばれたくなかったらちゃんと言うこと聞け。もう『大人』だろ」


 今までできなかったことが「できるようになる」のが大人のいいところだが、同時に「してはいけないこと」の区別もしっかりつけなければならない。


「う、うん……そうだね……」


 巧は俺の言葉に素直に頷いた。まだ酔いはあるみたいだが、もう大丈夫だろう。やはり巧にとってあいつは頭が上がらないらしい。グレープフルーツジュースが届いた。


「――でも、謙也ってやっぱりすごいよね」


「は?」


 急に持ち上げられるようなことを言われ、俺はきょとんとした。巧はジュースを飲み干し、優しげな笑みを浮かべた。


「僕が『間違った』行為をした時は、いつも正してくれるところだよ」


「いや、これは誰でも言うと思うぞ……」


「これだけじゃなくて、『あの時』もだよ」


 あの時がどの時か、俺はすぐに理解した。胸の内が熱くなった。


「おう、感謝しろよこの俺に!」


 照れくささを隠すかのように、俺はそう言った。だが、実際俺はあの時何もしていない。俺はただ、キッカケを作ってやっただけだ。あとは全部、巧自身が頑張ったことだ。


「本当に、模合って女の子はすごいと思うよ。見てくれじゃなくて、ちゃんと謙也の内面を見たからこそ、謙也に告白したんだよ」


「……そうかもな」


 若干もといかなり気になる言い方だったが、俺は頷いた。たしかに、顔で告られるくらいなら、とっくのとうに俺はかなりの女の子に告られているだろう。だからといって、俺の内面を見ぬいたとも思えないが……。


「でさ謙也……」


 急に巧はニヤニヤしだし、俺の肩をちょんちょんと叩く。


「ん、どうした?」


「もちろん、これから付き合うんでしょ?」


「は、二次会か? 馬鹿か、俺はもう帰るぞ」


「またまた~とぼけちゃって! 前後の文脈から判断して、この場合は『謙也が模合さんと付き合う』ってことに決まっているじゃないか!」


「……さて、便所行ってくるか」


「あ、ちょっと待ってよ謙也~!」


 その問いには答えず、俺は席を立ち上がり、靴を履いた。巧は何かをずっと言ってきている。


 無視したわけじゃない。ただ、俺は……。



「わっかんねえ……」



 付き合うのかどうか、好きかどうか……「ふっきれている」のかどうか、本当に俺は自分の気持ちがよく分かっていなかった。

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