酒に飲まれて
「でもさ~本当~に、告白されるような心当たりはないの~?」
一時間ほどしたところで、巧は絡むように聞いてきた。その顔は真っ赤に染まり、呂律も上手く回っていなかった。
「ねえよ、というか飲み過ぎだ」
近づいた顔を押し戻し、俺は冷静に言った。あれほど飲み過ぎるなと言ったが、巧は頼んでは飲み、飲み終えてはまた新たに頼みと、見ているこっちが酔ってきそうなほどだった。
「だいじょーぶダイジョーブ! あはは!」
「店員さーん、水くださーい」
巧はふらふらと体を揺らし馬鹿笑いをする。これ以上飲ませたら本気でまずいと思った俺は、近くを通った店員に水を頼んだ。
「えー謙也ー、僕まだ飲み足りないよ~!」
「十分すぎるほど飲んどるわ! お前な、『酒は飲んでも飲まれるな』って言うだろ!」
まさかこいつがここまで酒癖の悪い奴だとは思わなかった。たしかに浮かれる気持ちは分かるけどよ……。
「水入りましたー」
「どうも、ほら巧飲め!」
「うっ……うぷっ!」
運ばれてきた、グラスに入った水を、俺は強引に巧の口に運びこむ。最初こそ抵抗した巧だったが、諦めたのかゴクゴクと飲んでいった。
「――ぷはあ、全然味がしないね、このビール!」
「水だっつってんだろ。いいか、もう今から明日まで、絶対にアルコールを体内に入れんなよ! 店員さん、グレープフルーツ二つ!」
少しでも酔いを覚まそうと俺は再び頼む。少なからずとも、俺も酔っているのだ。そんな状態で酔っぱらいを引き連れて変えるのは面倒極まりない。
「えー、最後にワインでしめようと思ったのに――」
この上何を言っているんだこいつは? 俺は深い溜息をついた。
「……あのな巧、いい加減にしないとだな……呼ぶぞ?」
腹が立ってきた。俺は最終手段へ取り掛かろうと携帯を取り出した。
「ちょっ、謙也それは――!」
巧の赤くなった顔が一気に青ざめていく。やはり効果は絶大だった。俺は携帯をしまう。
「あいつを呼ばれたくなかったらちゃんと言うこと聞け。もう『大人』だろ」
今までできなかったことが「できるようになる」のが大人のいいところだが、同時に「してはいけないこと」の区別もしっかりつけなければならない。
「う、うん……そうだね……」
巧は俺の言葉に素直に頷いた。まだ酔いはあるみたいだが、もう大丈夫だろう。やはり巧にとってあいつは頭が上がらないらしい。グレープフルーツジュースが届いた。
「――でも、謙也ってやっぱりすごいよね」
「は?」
急に持ち上げられるようなことを言われ、俺はきょとんとした。巧はジュースを飲み干し、優しげな笑みを浮かべた。
「僕が『間違った』行為をした時は、いつも正してくれるところだよ」
「いや、これは誰でも言うと思うぞ……」
「これだけじゃなくて、『あの時』もだよ」
あの時がどの時か、俺はすぐに理解した。胸の内が熱くなった。
「おう、感謝しろよこの俺に!」
照れくささを隠すかのように、俺はそう言った。だが、実際俺はあの時何もしていない。俺はただ、キッカケを作ってやっただけだ。あとは全部、巧自身が頑張ったことだ。
「本当に、模合って女の子はすごいと思うよ。見てくれじゃなくて、ちゃんと謙也の内面を見たからこそ、謙也に告白したんだよ」
「……そうかもな」
若干もといかなり気になる言い方だったが、俺は頷いた。たしかに、顔で告られるくらいなら、とっくのとうに俺はかなりの女の子に告られているだろう。だからといって、俺の内面を見ぬいたとも思えないが……。
「でさ謙也……」
急に巧はニヤニヤしだし、俺の肩をちょんちょんと叩く。
「ん、どうした?」
「もちろん、これから付き合うんでしょ?」
「は、二次会か? 馬鹿か、俺はもう帰るぞ」
「またまた~とぼけちゃって! 前後の文脈から判断して、この場合は『謙也が模合さんと付き合う』ってことに決まっているじゃないか!」
「……さて、便所行ってくるか」
「あ、ちょっと待ってよ謙也~!」
その問いには答えず、俺は席を立ち上がり、靴を履いた。巧は何かをずっと言ってきている。
無視したわけじゃない。ただ、俺は……。
「わっかんねえ……」
付き合うのかどうか、好きかどうか……「ふっきれている」のかどうか、本当に俺は自分の気持ちがよく分かっていなかった。




