玄関先にて
「あ、木城くん! おっはよー!」
玄関口で靴を履き替えていたところに、馬鹿みたいに元気な声が聞こえてきた。ここで本日第二号か。
「おはよう波照間さん」
「おはよう……」
「おう、おはよう! 今日も可愛いな!」
白のシャツに、黒のスパッツ。少しばかり日に焼けた体はスタイル抜群かつ、エロい……。俺たちは同級生、波照間由利にあいさつを返す。
「おはよ、木城くん、八原さん! ……くん!」
「まさかの『くん』だけ!?」
八原のごとく存在を忘れられなかった分まだいいが、地味にひどい! 波照間は快活に笑って、俺のツッコミを流し、巧に話し始めていた。
「そういえば今週の土曜日に大会らしいね」
「うん! 今年は百メートルだけじゃなくて、中距離と長距離にも出るんだ!」
「それはすごいね! 使う筋肉が違うって聞くのに」
「えへへ! 頑張ったから! ……ねえ、もしよかったらさ――」
「巧~そろそろ行こうぜ」
いつまでも長話させては、お互いに不利益を生じさせる。そう思った俺は二人の会話を中断させた。決して「羨ましい!」といった僻みからではない。
「あ、ほんとだ。それじゃ波照間さん、またね!」
「あ、うん……またあとで……」
なぜか元気を無くす波照間。どうしたんだろうと思った矢先に、横腹を八原の肘で突かれた。
「少しは空気読みなさいよ」
「フエン(When)!?」
小さい声だが、かなり怒っていることは伝わってきた。俺はエセ外国人のような英語で頭に疑問符を浮かべた。
「そこはWhat!」
「ごふっ!」
事細かい突っ込みを入れ、八原は再び肘鉄を食らわせてきた。
「ほ、ほわぁい(Why)……?」
今度こそ合っているだろう、そう俺は呻きながら呟くも、八原の姿はもうなかった。