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道化上等!  作者: 本間 甲介
第六章
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飲み交わし

 成人式という名の大人への階段を登る通過儀礼を明日に控えた土曜の晩。俺は市街地にある居酒屋で、親友――木城巧とともに酒を飲み交わすことになった。


「あ、謙也! あけましておめでとう! 元気にしていた?」


 駅前の噴水広場に先に来ていた巧は、いつも通りの笑顔を浮かべながら、少し遅めの挨拶を送ってきた。相も変わらぬイケメンっぷりに、周囲の女がちらちらと視線を送っているのが分かる。俺はそれを無視し、巧に近づいた。


「おー、あけおめことよろ。はあ、ったく疲れたぜ」


 俺は肩をコキコキさせて、「いかにも長距離移動で疲れました」的な感じを見せた。だが決して嘘ではない。年末から年始にかけて、俺はバイトの都合で実家に帰れておらず、ほんのつい二時間前に実家に帰り、荷物を置いてすぐに来たばかりだったのだ。


「一緒に神社行きたかったのに、残念だったよ。あ、そうだ! 今から行こうか?」


 パンと手を合わせ、いきなり巧は突拍子もないことを言い出した。


「誰が行くかアホ。それにお前の場合は俺がいなくても、一緒に行く奴はいただろ」


「それもそうだね」


「早っ! そこは『そんなことないよ~!』だろ!」


 あっさりと言われたので、思わずツッコミを入れた。そういやあいつ、元気にしてるのかな。


「まあ積もる話は飲みながら話そうよ!」


 尋ねようとしたその直前に、巧はそう言って歩き出した。仕方なく、俺も歩き出した。


 で、俺たちはそこから歩いて十分くらいの場所にある居酒屋に到着した。あらかじめ予約はしていたので指定された席に座り、二時間飲み放題コースで飲み始めた。俺も巧も、最初はビールを頼んだ。瓶に入ったビールをジョッキに注ぎ込み、俺たちはそれを高々と目の前に上げる。


「それじゃ明日『大人になる』ことを祝って~!」


「乾杯!」


 ジョッキ同士をカーンと合わせ、俺たちは意気揚々に飲み始めた。



「……あー、それでだな巧。実は俺――」


 最初の三十分ほどは、俺と巧は大学のことなどの近況について話し合った。巧は地元の国立大に通っており、話を聞くだけでも相変わらず楽しそうという感じがひしひしと伝わってきた。


 しかし今日の俺はそれを妬むようなことはしなかった。俺は意を決し、先月の告白についてを初めて誰かに話した。俺の覚えている限りのほとんどを、だ。


「……え?」


 すると巧、急に酔いが冷めたかのように目を大きくさせて俺を見た。


「――ところで謙也、明日は成人式だね」


「ん? ……あ、ああそうだな」


「よく考えたら、僕と謙也って地元が違うから、式場違うね」


「あ、言われてみれば……つかお前実家ってどこなんだ?」


「ああ、僕はS市だよ。大学もS市から近いから、今は実家から通っているんだ」


「そっか……ってことはちょうど良かったな。前日に会えて」


 当日は式が終わった後は、俺は中学時代の友達何人かと、飲み会に行くことになっていた。おそらくそれは巧も同じだろう。


「そうだねえ。でも謙也はまだこっちにいるんでしょ。明後日以降また会おうよ」


「ん、いや俺は明後日の昼にはもうあっちに帰るぞ。その次の日には講義始まるし」


「え、そうなの? 早くない?」


「いやこんなもんだろ。まあ俺の場合は単位がヤバイってこともあるけど……」


 一年の頃、卒業に必要な必須科目を落とした俺は、再び同じ講義を取ることになってしまった。それさえなければもう少しはこっちにいられるんだが。


「そっか、それは仕方ないね。あ、そうだ謙也」


「ん? どうかしたか」


 ジョッキに注がれたビールを飲み干してから、巧は急に思い出したように言った。



「さっきの話、どこのゲーム?」


「事実だボケっ!」



 あまりに話が逸れてしまい、俺自身も少し忘れていた。それをごまかすように、俺は思わずツッコミを入れ、軽く巧の頭を叩いた。


「い、痛いじゃないか謙也!」


「うっせ! ったく、何がゲームだ! いいか、巧。ギャルゲに無縁かつ無知なお前に教えておいてやる。ギャルゲにおいて何のフラグも立てていない女の子から、脈絡もなく、急な告白を受けるようなことは絶対にない! あったとしてもごく少数だ!」


 ビシっと巧に指差して、俺はそう断言した。巧同様、俺も酔いがかなり回ってきているらしい。自分でも何を言っているのかよく分からない。


「……うーん、確かにそうかも……。ごめんごめん! 謙也から急にそんな話を聞くとは思っていなかったから、すぐには信じられなかったんだ」


 巧は冗談めいた言い方をしながらも謝った。すぐに信じられない巧の気持ちも分からんではない。俺自身、未だに信じられていないしな……。



 けっきょくのところ、俺はあの告白に対してまだちゃんとした答えを出せていなかった。というのも、その告白の後模合さんは、顔を真っ赤にさせながら、元来た道を戻って、再び駅へと走り去っていったからだ。


 しばらく俺はその場で硬直してしまい、次の日には少し風邪気味になった。


 とにかく連絡を取らなければならない。そう思った俺だったが、よく考えると、俺は模合さんの連絡先を知らなかった。他の会員に聞こうともしたが、変に勘ぐられるのを恐れ、依然として知らないままだ。


 でも、ずっとこのままというわけにはいかないということも分かっている。だからこそ俺は、三日後の大学でちゃんとした「答え」を出すつもりだ。――だが、その「答え」は未だ決まらずにいた。


「それでさ謙也、すっきりした?」


「……っ」


 心臓を掴まれたような気分になった。俺は巧を見る。巧は笑みを浮かべたままではあるが、目つきは真剣だった。


「……まあ、な」


 俺は小さな声を出し頷いた。相変わらず、ここぞという時はマジな雰囲気を出す奴だ。たしかに巧の言うとおり、俺は誰でもいいからこのことについて話して、胸の中にあるモヤモヤを払拭したかった。


「それは良かった! ――でもごめん、それに関しては僕は何とも言えないよ」


 明るい声から一気に声のトーンを下げ、巧は謝った。


「ばーか、んなもん最初から分かってるっつーの」


 何も気にしていないと思わせるため、俺は軽い口調で返事した。そう、これは俺が一人で解決しなければならないことだ。人に意見を聞いたところで意味は無い。


「でも、一つだけ言えることがあるよ」


「なんだよ?」


 人差し指を一本立てながら、巧はこう言った。


「おめでとう、やっと春が来たね!」


「あ・り・が・と・よ!」


 随分間の抜けた、巧じゃなければ嫌味にしか聞こえない言葉を放った。俺は一語一語強調しながら、大きな声で言い返した。

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