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道化上等!  作者: 本間 甲介
第六章
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夢か現か幻か

「えっと……佐治くんはどこのチームが好き?」


 一緒に駅まで歩く中、彼女はいきなり、何の脈絡のない質問を投げかけてきた。


「え、チーム? それってサッカーの?」


 わざとらしく俺は聞き返した。


「う、うん。ほら、佐治くんってよくサッカーの雑誌読んでいるみたいだから!」


「あー……」


 部室内でもあまり居場所がなく、部屋の片隅で雑誌を読んでいたのだが、まさか見られているとは思わなかった。


 だが、彼女は大きな誤解をしている。たしかに俺は今、サッカーにハマっている。だがそれはあくまで「やる」のであって、「観る」ことそのものはあまり好きではない。雑誌は読んでいるが、あくまで選手のスーパープレイが載ったところばかりだ。


「――が好きなの、あたし!」


 彼女は嬉しそうに好きなチーム名を答えた。その目はキラキラと輝いていた。


「そうなんだ、実は俺もそのチームが好きなんだ!」


 彼女の期待に応えるように、俺は嘘をついた。彼女はいっそう喜んだ。罪悪感で胸が潰されそうになった。


 その後、俺は彼女の話に相槌を打ちながらできるだけ話を盛り上げた。といっても、ほとんどがサッカーの話だったので、ボロを出さないように苦労した。唯一自信を持って答えられたのは、来年にある成人式の話題についてだ。最後に帰ったのはゴールデンウィークの時だったので、約半年ぶりだ。みんな元気にしているか、今からかなり楽しみだ。


「それじゃ俺はここで」


 などと話していく内に、駅へとたどり着いた。俺は模合さんに別れを告げ、券売機へと向かう。ここから家まで三十分程度あるから、地味にきつい。


「――あ、待って!」


 別れたと思っていた模合さんが俺の横に立っていた。模合さんは財布から小銭を取り出しながら、


「……あたしも、大学近くのアパートなんだ!」


 強調するようにそう言って、模合さんは俺の後に券を買った。



 終点一本前の電車で、自宅からの最寄り駅に到着した。電車にいる間、俺も模合さんも、席こそ近かったがほとんど口を利かなかった。電車の揺れと酒の酔いが良い反応を起こし、深い眠りを誘ったからだ。


 ギリギリのところで駅に着いた時には目を覚まし、俺は完全に熟睡状態であった模合さんを起こして、電車を出た。


「あ、ありがと……起こしてくれて!」


 駅を出たところで、模合さんは深々と頭を下げた。


「いいっていいって。……あー、家どこ?」


 このままここで別れても良かったのだが、模合さんのふらふらとする足を見ると、放っておけなかった。乗りかかった船だ。俺は最後まで面倒を見ることにした。


「え……あ……あ、ありがと……!」


 どうやら酔いはまだ冷めていないらしい。顔を真っ赤にさせながら模合さんはまた頭を下げた。俺は彼女の右斜め後ろを歩きながら、彼女の自宅へと向かう。


「……」


「……」


 再びの無言。さっきとは違い周りにはほとんど人はいないので、足音だけが響き渡る。


 そんな気まずい雰囲気がずっと続く中、俺の住むアパートが見えた。……と、そこで彼女は足を止めた。


「……あれ、もしかして模合さんって俺と同じアパートだったの?」


 アパートとはいっても、他の住人とのコミュニケーションは無いに等しいものだったので、素直に驚いた。同時に気まずかった。だが模合さんは首を横に振った。


「ううん、違うの。……ごめんなさい! あたし、嘘ついてました!」


 深々と頭を下げ、模合さんは俺に謝った。けれど何に対して謝られたのか、まったく理解できない。


「その……あたし、そもそもこの辺りにアパートはなくて……その、佐治くんと少しでも一緒にいたかったからついてきて……」


 だんだんと小さな声になりながらも、俺にそう告げる。


「あーっと……」


 その言葉の意味を判断しようと、頭を働かせる。えっと……一緒にいたいって……それはつまり――。

 

「あの、佐治くんって……今、彼女っているの?」


 そこに、彼女は続けて言葉を投げかけてきた。反射的に俺は首を横に振った。おかしいな……まだ酔っているのだろうか? 今目の前にいる彼女から発せられていく言葉は、全然現実感がなかった。


「――そうなんだ……!」


 彼女は安心した顔で、ほっと息をついた。


「あの……佐治くん……」


 模合さんが俺を見つめてくる。


 ――ありえない、されるはずがない。体内にあるアルコールが一気に外へ吐きだれたかのように、俺の頭はクリアになっていた。

 

「いきなりこんなこと言われたら迷惑かもしれないけど……」


 ドッキリだ、もしくは何かの陰謀だ……。


「もし良かったら……」


 そうじゃなければ、夢だ、夢に違いない! 俺は夢から覚めようと、思いきり自分の脇腹をつねってみた。


「――好きです! あたしと、付き合って下さい!」


 しかし、痛みはたしかに「ここ」にあった。


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