お酒は二十歳になったから
「佐治くん、今から二次会行くけど、どうする?」
腕を組み、夜風の寒さに体を震わせている俺に、誰かがそう訊いてきた。
「……ん、ああ俺はもう帰るよ。酔っ払ってきたし」
顔を上げ、俺は声の主――御堂にそう答えた。
「えー、たったあれだけでー?」
「――酒にはあまり強くないんだよ」
ギクッとするも俺はそれを顔には出さないようにして「嘘」をつく。
「そっかー、残念!」
御堂はそれ以上は追求してこなかった。御堂は七、八人の男女のグループ内に入り込む。すでにデキ上がっているのか、無駄にテンションが高かった。
「じゃあね、佐治くんー!」
御堂は俺に手を振り、別れの挨拶を告げた。だがそれも一瞬のこと、御堂は他のサークル仲間と、再び夜の街へと姿を消していった。
「……さて、と」
体内に溜まったアルコールを吐き出すかのように、俺は大きく呼吸する。
さっきああは言ったが、俺はビールと酎ハイの二杯しか飲まなかったこともあり、実際のところ酔いは少なかった。
ではなぜ俺はそんな嘘をついてまで二次会を拒んだか? ……そんなの俺が聞きたい。
高校を卒業してから一年と少しが経った。俺は無事、大学生になった。……といっても第一希望は落ち、一ランク下の良くもなければ悪くもない、普通の私立文系大学ではあるが。
県外ということもあり、家賃、食費と自分で稼がなければならないが、念願の一人暮らしをすることになった。
サークル活動、ゼミ、バイト、恋愛……きっと、とてもワクワクするような生活が待っていると思っていた。
だがそんな希望は最初の一年で、ほとんど打ち消された。というより、自ら拒否したというべきか……。
大学生活は俺が思っている以上に大変なものだった。将来のためにと俺は教員免許や図書館司書、学芸員の資格を取っておこうと、手当たり次第に講義を取ることにした。
しかしそれは大きな失敗だった。いくら時間割を決めても、朝から夕方まで講義につぐ講義、レポート、そしてサークル活動……。けっきょく俺は一年の内にはバイトはできず、食費、家賃は両親に頼むことになってしまった。
よく考えたら、何があろうとも俺は教師になるつもりはないと自覚し、二年に上がる際、俺は教員免許を取ることは諦めた。だがそのおかげもあり、時間に余裕が作れバイトを始めることができた。
一年遅れたが、これでキャンパスライフを満喫できる……はずだった。まだ一つ問題が残っていた。それが、サークル活動だった。
「――まさかここまで自分が人見知りするタイプだとはなあ……」
駅へと歩く中、俺はここ三年間を振り返り、自分自身を嘆いた。
ぶっちゃけた話、最初はゲーム研究会とか漫研みたいないわゆるオタ系サークルに入るつもりだった。つか、入るべきだった。
だが当時の俺は何を血迷ったのか、インドアとは真逆の、フットサル同好会なるものに入ってしまった。
だがこのフットサル同好会、たしかにフットサル場でフットサルはやるものの、それは週一か週二程度のペースで、その他のほとんどは部室でダベったり、飲み会の話ばかりというものだった。俗にいう「リア充サークル」ってやつだ。
そして十二月中旬の土曜、今日は忘年会を兼ねた飲み会だった。年末も近いということもあり、サークル内はいつも以上に盛り上がった。当然、俺はいつもの様にまったく馴染めずに、ただ時間が過ぎるのを待って、飲み会を終えた。
決してそこまで本気というわけではなかったが、俺はもうほんの少し、「汗」を流したかった。辞めることこそしなかったが、次第に俺はサークルの中に身の置き場所をなくしていった。
「女の子にウケが良さそうだな」っていう、やましい気持ちもたしかにあった。しかしそれ以上に、俺はサッカーをやるのはかなり好きだった。
といっても、俺はサッカー部に入っていたというわけではない。むしろ、サッカーなんぞギャルゲの中のクラブ活動としてしかやったことはなかった。
そんな俺がサッカーを好きになったのは確か……
「あの……佐治、くん」
過去の記憶を呼び戻そうとしたところ、急にかけられた声に、俺の意識は現在に戻される。背後に誰かの気配を感じる。俺はおそるおそると振り向いた。
「あー、えっと……」
そこにいたのは百五十センチくらいの小さな、ショートヘアの女の子だった。まったく何も知らない状態であれば俺はこの女の子を中学生だと間違えていたことだろう。しかし俺は彼女のことを知っていた。御堂の友達で、基本無口。よく講義でも一緒になる……
「えっと……模合さん……だっけ?」
必死に記憶の糸を辿り、俺は自信なさげに彼女の苗字を呼んだ。
「う、うん!」
彼女はコクコクと首を上下に揺らす。ほっ、良かった合っていた。
「えっと、今から帰るの?」
「ああうん、ちょっと酔ったからね。模合さんは二次会行かないの?」
動揺を悟られまいと、できるだけ自然に接しようとする。こういった演技には慣れている。
「あ、うん……まあ」
彼女は髪をいじりながら、曖昧に答えた。あまり話したことはないのではっきりとは分からないが、もしかしたら彼女も「ああいう場」が苦手なタイプなのかもしれない。
「……」
「……」
無言が続く。……やっばいな、あんま話したことのない娘だから、どう接していいか分からない。冷たい風が吹き、ぶるっと体が震えた。
「……あの、佐治くん」
「ん?」
寒くなってきた。もう立ち去ろうと、歩き出そうとした時だった。模合さんは俺の手をぎゅっと握り、予想外のことを口にした。
「途中まで……一緒に帰らない?」




