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道化上等!  作者: 本間 甲介
第六章
36/47

字が上手くなった理由

 この章で一応、佐治謙也の道化の物語は終わります。もう少し、お付き合いください。

 なぜ今になって中学時代のことを夢に見たのだろうか。俺は寝起きでボーっとした頭を働かせながら、その夢――記憶を反芻した。


 たしか中三の頃だったと思う。俺には好きな女の子がいた。けど俺はその女の子に、会ったことが無かった。


 その娘とはとある文通サイトで出会った文通相手だった。


「メールとはまた違った楽しみがあるぞ」


 当時担任で、そこそこ好きだった先生に、面白いぞと勧められ始めた文通だった。でも、今思うとあれは出来の悪い生徒を少しでも更生させようという考えからだったのかもしれない。


 最初は仕方ないという消極的な気持ちから始めた。けど、やり続けていく内に俺はどんどん文通にハマっていった。


 メールとかとは違い、自筆で紙に書かれた文字を見ると、その人の本当の気持ちがよりいっそう伝わってきた。そんな手紙が届くのを待つ間、俺は非常にワクワクした。


 プライバシー的なものなのか、送る文通はいったんそのサイトの会社を通して、行き交うようになっていた。ゆえに相手先の住所はわからないようになっていた。


 さらに名前もできるだけ本名ではなくペンネームを使うようにとのことだった。そういったルールから、俺は本当にこの日本、もしくは外国にいる見知らぬ相手と文通をすることになった。


 相手のペンネームは「五月七日」という、変わったものだった。誕生日かなにかだろう、俺はそこまで気にしなかった。ちなみに俺のペンネームは「フレイヤ」で、当時やっていたゲームキャラから取った。


 初めて手紙を送ってきたのは「五月七日」さんからだった。その中で「五月七日」さんは「男? 女? 何才?」とだけ書いた手紙を送ってきた。変だなと思いながらも、俺はそれに正直に答えた。


 次に送られてきた時、「五月七日」さんは文面だけじゃなく、筆跡からも分かるほどうれしさをにじみだしていた。「五月七日」さんは俺と性別こそは違えど、俺と同い年だった。ネットならともかくとして、俺は決してそれを疑うことはしなかった。


 その後俺と「五月七日」さんは自分のこと、身の回りであった出来事、最近見たテレビのこと、最近読んだ本のことなど、他人からしたらどうでもいいような、それでいて大切なことを伝え合った。


 そんな関係を続けて半年ほど経った頃だった。俺は彼女のことが好きになっていた。


 顔どころか、名前も分からないただ手紙だけでの関係――笑いたければ笑うがいい。


 けど、そんなことは関係ない。人を好きになるということは色んな理由があっていいはずだ。俺の場合は、手紙だった。


 その感情を自覚した後、俺はなんとか気持ちを伝えようと、遠回しな言い方でアプローチした。


 だが彼女はそんな俺の想いに気付くことなかった。次の手紙で直球勝負に出よう……そう決意し、俺は何度も何度も書き直し、魂のこもった手紙――生まれて初めてラブレターを完成させた時だった。その手紙は送られることは決してなかった。


『好きな人ができたの。……だから、もう文通やめよ』


 最後の手紙の全内容は、そんな感じのものだったと思う。


 それが、俺と彼女の関係の終わりで、同時にギャルゲにハマるキッカケになった。


 ……でもやはり俺は無謀だろうが告白しておくべきだったと思う。その思いが強まったのは、「あの告白」の後だった。


 そんなことを考えながら、俺は布団から体を起こし、大学へ行く準備を始めることにした。


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