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道化上等!  作者: 本間 甲介
第五章
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本当の気持ち

「ちょっと待ちなさいよ! あんた、何するつもりなのよ!」


 勢い良く公園を出て、数十メートル歩いた時だった。俺の言葉に固まっていた月草は我に返って俺に追ってきた。


「世間一般でいう、『空気の読めない行い』ってやつだよ……ってか邪魔だ」


 俺の前に回り込み、月草は進路を妨げようとした。


「何言って……あ、こら……!」


 月草はそう叫び、俺の肩に手を伸ばそうとする。それを俺は、パンッと振り払い、俺は月草の前に出る。ここから目的の場所まで一キロ程度はあるだろう、俺は一度大きく屈伸し――走りだした。


「ちょっ……待ちなさいっ!」


 だが、月草はその特性を生かしてすぐさま俺の前に回り込んだ。


「絶対に行かせないわよ……!」


 両手を目一杯に広げ、行く手を阻む月草。くそ……! 仮にまた振り切ってもすぐに回られる……。俺はいったん動きを止めた。


「どうして今になって告白を邪魔するなんて言うのよ! せっかくここまで順調に進めてきたのに……」


 月草は悲痛な声を上げ、なんとか俺を説得しようと試みる。だが俺は首を横に振る。


「……確かにさ、北出やお前から話を聞くまでは、俺だってこんな気は起きなかったさ。あいつが誰と付き合ってもいいって本気で思ってた」


「じゃあどうしてよ? 別にあいつが誰と恋人になろうと、あんたには関係ないじゃない!」


「大ありなんだよ、悪いけどな」


「……あんた、もしかしてあたしに気を遣っているの? だったら――」


「そうじゃねえ……いや、それもあるけど、俺が動くのは、個人的なーーー感情だよ!」


「なっ――!」


 一瞬の隙を突き、俺は右側の家と家の壁の隙間へ入り込んだ。


「……せめえな……!」


 ちょうど俺一人が通れるだろう、右に左へと入り組んだ狭い道を俺は体を横にしながら進んで行く。


「待ちなさい!」


 だがそのおかげか、月草は俺の姿を見失ったようだ。上空から月草の叫びが響いてくる。だが、俺の姿は見えていないはずだ。俺はわざと足音を大きく出し、広々となった道路へ月草の意識を集める。


「絶対に逃さないわよ!」


 正面の方から月草の声がする。俺は今度は足音を出さないようにして、振り返り、元来た道へと戻る。


 いくらあいつが浮遊できといっても、瞬間移動ができるわけではないので、視認されなければ問題ない。月草の視界から逃れた俺は、別の場所から路地を出て、一気に駆け出した。


 携帯を取り出し時間を確認する。とっくに授業は終わっている時間帯だった。


「ちっ……」


 すぐに携帯を閉じ、俺は速度を上げるために両手を太ももを大きく上げる。


首にかけているモノが、左右に激しく振られる。だがその振り幅はどんどん弱まって行く。


「はあっ……はあっ……!」


ジャージを着てきたので、動きやすいが、やはりいきなり走るものじゃない。百メートルくらい走って、俺の体力は尽き始めてきた。


「間に合う……か……!」


 止まらず、早足で歩きながらとにかく進む。頭の中はいろんなものでグチャグチャだった。


「らしく、ねえよな……!」


 ふざけたような態度を取っていれば、楽だと思っていた。だけど、それは違った。


『恋する気持ちに理由なんてねえっ!』


 タイトルは忘れたが、やったギャルゲーの中のキャラがそんなことを言っていたのを思い出す。そのキャラは、主人公の親友だっと思う。


 その時は青くさく、こっ恥ずかしい言葉に馬鹿にした態度を取ったが、謝らなければならない。


 今の俺がまさにそうだった。


「……あーちくしょっ!」


 このもやもやした気持がなんであるか、俺はやっと気づくことができた。



 月草に気取られないように遠回りをして、やっとのことで俺は目的地である、神社へたどり着いた。


 八原から聞いたわけではない、でも何となくあいつはここで巧に「告白」をすると思っていた。


「……っ!」


 そしてその予想はピタリと当たった。神社境内の前には、すでに二人の男女がいた。


「遅かったか……!?」


 俺は身を縮こまらせ、茂みに隠れて二人――巧と八原に対し聞き耳を立てる。巧の声が聞こえてきた。


「それにしてもこんな神社があるなんて知らなかったよ。加々美、よく知ってたね」


「……う、うん。その教えてもらってたから……」


 体をもじもじとさせる八原。良かった、告白はまだみたいだ……!


「それで巧……」


「うん、わかっているよ。誕生日、おめでとう!」


「え?」


 八原の言葉を遮るようにして、巧はカバンの中から何かを取り出した。手のひらサイズの、包み紙だった。


「色々考えて決めたんだけど……気に入ってくれるかな?」


 巧はそっと優しく、八原の手を取り、「プレゼント」を渡す。ここからでは何かは分からないが、八原の顔を見る限りは、かなり好感度の高いプレゼントのようだ。


 相も変わらぬ巧のイケメンっぷりがひしひしと伝わってくるが、今の俺にとっては、非常にまずい流れだった。


「…………」



 飛び出せ飛び出せ飛び出せ……。何度も頭の中でそう思うが、それに反して俺の足は、踏み出せずにいた。


「ありがと……!」


 大切そうに巧からのプレゼントを抱え込む八原。今まで見たどんな表情よりも、幸せそうだった。


 ……本当に、阻止するべきなんだろうか。八原の表情を見ていく内に、俺の意志は弱まってきた。


 このままいけば、八原はすぐに告白し、そしてそれを巧は受け入れる……。明確なビジョンが、俺の脳裏を流れる。


「……どうする、どうする……どうする……?」


 俺が悩んでいる間にも、時間は刻一刻と流れていく。つか、よく考えると俺は「邪魔する」という曖昧な気持ちしか持ち合わせておらず、はっきりとした方法なんてまったく頭に無かった。


「巧……その、訊いてほしいことが……あるんだ!」


 ついに八原が、準備に入った。


 頭に血が上る、心臓の鼓動がいっそう早くなる……。


「なに、加々美?」


「えっと、実はさ……」


「八原!」


 頭の中が真っ白の状態から、俺は思い切り叫んだ。俺は立ち上がり、茂みから飛び出た。


「さ、佐治……!?」


「謙也、いったいどうしたの!?」


 何の脈絡もなく出てきた俺に、二人はあっけにとられた顔になった。

 

 俺は髪についた枝切れを払うこと無く、ゆっくりと二人に近づく。


 その距離わずか五メートル、一歩一歩、力強く進みながら、俺は言うべき言葉を考える。……だが、巧の呪いを解くような言葉は、まだ出て来なかった。……いや正確にはある。だがそれを言う勇気が出てこなかった。


「………」


 八原の視線が、驚きから徐々に怒りへと変わるのがひしひしと伝わってくる。よっぽど、告白を阻止されたことが気に入らなかったのだろう。


 ――といっても、これは単なる一時しのぎだ。このままでは遅かれ早かれ「エンディング」は変わりそうにない。


「何しに来たのよ、早く帰ってよ……!」

 

 八原がキッと睨みつけたままに、俺に辛辣な言葉を浴びせてくる。ズキッと胸が痛む。確かに、ここは俺がでしゃばるような場面ではない。道化は道化らしく、画面上からフェードアウトするべきだ。


「八原――」


 でも、だからこそ俺は、


「な、なによ……」


 今この瞬間だけは、


「訊いてほしいことがある」

 

 道化を、やめることにした。


「好きだ、付き合ってくれ」

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