偽りの気持ち
俺がギャルゲーを好きになったのは、高校入学を控えた春休みのことだった。
卒業式の日、俺は失恋した。
失恋自体、小学校中学校とともに何度もあった。だがそれは決して告白してというわけではなく、「その女の子が別の男子を好き」だと分かった上での失恋だった。
そしてその時の失恋も、同じようなものだった。
『好きな人ができたの』
その女の子は俺にそう伝えてきた。それはまさに、俺が告白しようと決心した、その直前にだった。
ショックだった。俺は何の言葉も返せず、何も考えられなくなった。俺はその日を境に、部屋に引きこもった。
引きこもっている間、気分を紛らわせようとゲームをした。でも、手持ちのゲームはやり尽くしていたので、気分が晴れることはなかった。新しいゲームを買いに行く気力もなかった。
そんな時、俺は七つ離れた兄貴のことを思い出した。俺が中学に上がる頃には、兄貴はすでに県外の大学で一人暮らしをしていた。そして兄貴はそこで知り合った女性と交際を始め、大学を卒業する頃には結婚した。
そんな兄貴は、家にいる頃は俺以上に、色んなゲームを遊んでいた。だけど、決してゲーム中は俺を部屋に入れなかった。
早速俺は物置から兄貴の私物の入った箱を物色した。今では3だか4だかが出ているゲーム機の、一番最初のハードがあった。
俺はそれと几帳面に整理されたCD型のゲームが入った箱を部屋に持って行き、それらのゲームをしていくことにした。
何事もそつなくこなし、社交性も抜群、女の子にもかなりモテているというのが、俺が兄貴に抱いていたイメージであった。そんな兄貴を、俺は密かに尊敬し、あんな風になりたいとも思っていた。
だけど、その理想はあの瞬間に、一変した。
あらかじめ、ゲーム機内に入っていたゲームを含め、兄貴の持っていたそれらのゲームは、すべて「ギャルゲー」というジャンルのものであったのだ。
当時の俺はそういった類のゲームは、興味こそあったがやるのは……というより、買うのはかなり恥ずかしかったので、一度としてやったことはなかった。
なので失恋状態とはいえ、それらのゲームをやることに、正直ワクワクした。俺はあらかじめ入っていたギャルゲーをまずやることにした。
そのギャルゲーは俺も名前くらいは知っている、かなり有名なゲームだった。
主人公である自分が、高校生活三年間の間に、運動、勉強、根性といったパラメーターを上げ、女の子とデートをして好感度を高めていくというものだった。
昔のゲームだし、絵も今風じゃないなあ。プレイする前はそんな風に思っていた。
けど、どんどんやり続けていく内に、俺はこのゲームにのめり込んでいた。俺は寝る間を惜しんで、三日間かけてすべてのキャラをクリアした。
気づけば俺は兄貴の持っていたギャルゲーすべてを、入学式前日までやり尽くした。早い話、俺は「ギャルゲー」というものに、どっぷりと嵌り込んでいた。
ギャルゲーに嵌ったのはもちろん、色んな女の子と、色んな恋愛ができるという魅力があるからだ。
だけど本当に現実と妄想の区別がついていないというわけではない。だが、両者を別のものとして考えているわけでもない。
多分俺は、ギャルゲーを現実世界に反映させていたのだろう。
――といっても、それは決してギャルゲーの主人公のような色んな女の子にちやほやされた生活を送りたいからと思ったからではない。
最初の内は普通に主人公に感情移入して、普通に女の子を攻略することを楽しんでいた。
だが、何度も何度もやっていく内に、俺は主人公へと「感情移入」ができなくなっていた。
だから俺は、別のやり方でギャルゲーを楽しむようになっていた。それは別のキャラクターへの、感情移入だった。初めてやったギャルゲーが、特にそれが顕著だったと思う。
いじられやくで、引き立て役で、時には馬鹿で、そして……主人公の良き相談相手……。
ある意味で、主人公以上にスペックを求められ、それでいてゲームの性質上、絶対に「主人公」にはなれず、メインキャラクターを攻略できない、まるで……「道化」のような……存在。
「『親友キャラ』みたいになりてえ……」
そう切に思いながら、俺は高校入学から一年ちょっとの間、まさにそんな風に自身の理想像を演じながら過ごしてきた……と思う。
でも、今この時を持って初めて気づく。
俺は――「道化」に、向いていない……。




