登校中
「あ、巧……」
学校へと向かう途中で、俺たちは見知った女子に出くわした。というよりも、待ち伏せられていたという方が似合っているだろうか。
今日の第一号もやはりこいつか……俺はニカっとその女子に向かって笑みを浮かべ、
「よー八原! 今日も相変わらず可愛いな!」
開口一番、俺はその女子、八原加々美に事実を込めた言葉とともに、そう元気よくあいさつした。
「おはよ、巧」
「うん、おはよう加々美。今日もいい天気だねえ!」
「そうね。……そういえば巧、今日の放課後は暇?」
「え、今日? ……うーん、ごめんちょっと今日は用事があるんだ」
「あ……そうなんだ……」
「なにかあるの?」
「……あ、ううんなんでもない! 気にしないでいいよ!」
「――俺のことは気にしてくれよぉ!」
無視されているとわかり、俺はツッコミを入れる。いやひどくね? マジでスルーしてたよこの二人。
「……ああ、いたんだ佐治。壁に同化していて見えなかった」
「どんな色で見えてんの俺!?」
「うっさいわね、はいはい『さようなら』。これでいい?」
「お、やっとあいさつしてくれたか! じゃあな、また明日――って待て待て!」
よどみも何もない、ごく普通の言い方だったので、危うく騙されそうになった。せめてそこは「またね、また明日!」とマイルドに言ってくれ!
「はは、相変わらず二人は仲がいいね」
そんな俺たちのやり取りを、巧はにこやかな顔で見つめてくる。
「まあな!」
「冗談、犬と戯れているようなものよ」
「ワンッ!?」
せっかく良い返事をしてやったのに、当の本人からはひどい言われようだった。しかも八原は本気で言っている。
「そろそろ行こうか、遅刻したら困るし」
「そうね、行きましょう。それで巧、今日の昼食なんだけど……」
再び談笑し始める巧と八原。俺は少し後ろを歩きながら、黙ってそれを見続ける。
……いや決してハブられたとかじゃないからね? 誰に言うわけでもなく、俺はそう胸中で弁解した。