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道化上等!  作者: 本間 甲介
第四章
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呪いの正体

 ギャルゲでいうならヒロインたちとの出会い描かれたプロローグが終わったくらいのところ。北出は疲れたのか、ふうとため息をついた。普段あまり喋らない分、いっきに吐き出したって感じだな。


「……ふうん、あの巧が中二病ね。とてもじゃねえが信じられねえな」


 沈黙に耐えかね、俺は頭に思い浮かんだことを口に出していた。


「ハハ、それは仕方ないよ、今の彼があるのは、彼女のおかげだといってもいいくらい、彼女が巧くんに与えた影響は大きかったからね」


 嬉しさ半分、寂しさ半分といった微妙な表情を北出は浮かべた。


「へえ、ってことはその女の子が、今の巧――女たらしにさせた原因ってわけか」


「その言い方にはかなり私怨があると思うけど、まあ結果的にはそうなるかな。そしてそれが、彼女の残してしまった『呪い』でもあったんだ……」


 ここに来てやっと重要ワードが登場した。


「いやそもそもさ、その『呪い』ってのは何なんだ? ガチなあれなのか?」


 まずはっきりとさせたいのはそこだ。といっても今の俺は月草という「普通じゃない」存在との出会いもあり、俺は「そういうこと」があってもべつに不思議はないと思っている。


「いや、そういったオカルト的なものじゃないよ。あくまで私が言っているだけだの例えみたいなもので、『彼を縛り付けている』といった意味なんだ」


「縛り付けている……? 呪縛ってことか?」


「ああ。でも先に言っておくけれど、彼女にそんなつもりは、まったく無かったんだ。……佐治くん、この一年近くの巧くんを見て、君は彼の女の子への態度をどう思ってきた?」


「はあ? いやどうって……誰にでも優しく接してるだろ」


 そう、あいつの自己犠牲にも似た優しさは俺だけじゃなくて、巧を知る者ならば誰もが思うところだ。


「男子にもかい?」


「そりゃあそう…………あれ?」


 と、俺は首を大きく捻る。あれ、そういえば……あれ?


「気づいたようだね。たしかに彼は男子にも優しく接している。けど、女の子と同じかと言われると、そうでもない」


 たしかに、巧は男子か女子、どちらを優先するかと言われれば、たしかに女子だ。それは一番近くであいつを見てきた俺にはよくわかる。だが……


「そんなん、異性に関して優しくすんのは当然だろ。俺だってそうだし」


 ここで認めてしまうと、何かが壊れてしまうような気がした。俺は無駄と分かりながらも、反論した。


「うん、そうかもしれない。ただ彼の場合は絶対に違うと断言できるんだ。彼が女の子に優しい理由、それこそが彼女が彼に残した『呪い』なんだよ」


「そいつは、何て言ったんだよ」


 力なく、俺は尋ねた。


「『女の子は何があっても、絶対に大切にしなさい』――たった一言、そんなささいな言葉だよ」


 どこかで聞いたような、本当に普通の言葉だった。



「――以上が、私の知る限りの彼の秘密のようなものだよ。満足してくれたかな?」


 時間としては二十分程度の話だった。だが俺にとっては何倍にも感じた。呪いの言葉の後の、北出の話はまったく耳に入ってこなかった。だが充分だった。


「……ああ、ありがとう。……でも、どうして急に教えてくれる気になったんだ?」


 風邪がぶり返してきたのか、どうにも気分が悪くなった。しかし俺はそれを顔に出さないようにして努めて冷静に尋ねた。


「もしかしたら、君なら呪いを解いてくれるかもと思ってね」


 何を考えているかわからない笑み。ゆえにどこまで本気はわからない。


「無茶言うなっての。たしかにあいつとはダチだけどよ、こればっかりは『呪い』をかけたそいつが『べつにそういう意味じゃないよ』って言えばいいだけだろ」


 

「それができたら、そもそも『呪い』なんて生まれなかったんだけどね」



「どういうことだ?」



「話の流れ的に、気づいていたと思ったんだが……。佐治くん、彼女はもう、この世にいないんだ」


「………」


 さすがに何も言えなかった。この世にいない……つまりそれは……。


「詳しくは話せないけど……彼女が亡くなる前に放った『言葉』だったからこそ、その言葉は『呪い』へと変わったんだ」


「……つまり、あいつはそれを『遺言』だと思ってんのか?」


 さっきの話とつながり、俺の頭の中ですべてが繋がり出す。


「そういう風にも、取れるのかもしれないね……」


 徐々に北出の声が小さくなっていくことに、やっと気付いた。北出は顔を空に向けたり地面に向けたりして、落ち着きを失くす。


「お前から言ってやらないのかよ?」


「試そうとしたさ。だけど、本人ではない私が言ったところで、彼は絶対に信じてくれないさ」


 自嘲するかのように、北出は答えた。


「……じゃあさ、もう別にいいんじゃねえの? たしかにちょっと行き過ぎているところもあるけどよ、別に『害』があるわけじゃないんだし」


 しばらくの沈黙の後、俺がたどり着いた結論は、「仕方ない、あきらめよう」といったものだった。


 といっても、このまま八方美人すぎて、修羅場ルートに突入するみたいなことがあったら、その時はちゃんとフォローするつもりだ。……まあ、そんなことはあいつに限ってないと思うが。


 ……そうだよ、べつに女の子を大事にすることはまったく悪いことじゃない。優しくされることはあっても、決して誰も傷つきはしないんだ。俺は催眠術の如く何度も自分に言い聞かせ、「呪い」は良いものであると、納得させようとした。


 だが北出はそんな俺の幻想を打ち砕かんばかりに、首を大きく横に振った。


「そういうわけにも、いかないんだよ……。『呪い』が解かれない限り、彼は自分の気持ちと関係なく、女の子と付き合うことになるだろうからね」


「は? 待て、そりゃどういうことだ!?」


 意外な言葉に、思わず俺は北出に顔をぐいっと近づけた。北出はさして気にもしていない風にしながら、言った。


「言葉通りの意味だよ。さっきも言っただろ。彼は、彼女の言葉を過剰に受け取めている。つまり、『女の子を悲しませないために、女の子と付き合う』ということもする」


「んなアホな……」


 否定しようとした俺だったが、これまでの巧の行動を見ていると、「そうかもしれない」という感情が胸によぎった。


「現に私は、一度彼に告白したことがあるんだ。ちょうど、今年の春先にね。すると彼はまったく躊躇せずに、私の告白を受け入れたんだ」


「ホントかよ!?」


 そんな話、あいつの口からまったく聞くことはなかったし、素振りすら見えなかった。


「あまりにあっさりした対応に、その時は『冗談』と言って事無きを得たけどね。……だけど、彼はそれを聞いた後でも、まったく落胆する様子はなかった。――つまり、彼は本気で私のことが好きだから、告白を受け入れたわけじゃないんだ……」



 ……俺の中の木城巧のイメージが、一気に瓦解し始めた。



「だからこそ、私は彼の呪いが解けるまでは、他の女の子に告白させないように、木城くんに接して周囲を牽制してきた。しかし最近になって、それをまったく気にせず巧くんに接触する者も出始めた。特に、八原加々美くん。彼女は――」


「あああぁっ!」


 ぐちゃぐちゃでひっちゃかめっちゃかになった俺の頭は、北出が発したその名前によって、我を戻した。


 突然の叫び声に、北出はびくっと体を震わせた。俺は心臓が飛び出さんばかりの勢いで、八原に確認した。



「え、えっと……さ、八原。その……じゃ、じゃあよ。今……例えば今日とかに、お前みたいに……その、他の女子が巧に告ったとしたら……」


 上ずった声になる、鼻水がたらっと垂れた。しかし八原はすぐさま俺の言わんとすることを悟ったらしく、一瞬目を大きく見開いたかと思うと、すぐに冷静にこう言った。



「それは、『嘘』になるだろうね」


 その言葉を聞いて、俺もすべてを悟った。


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