『彼女』との馴れ初め
「君は巧くんとはいつから友達だったっけ?」
いきなり、北出は話題を変えてきた。
「なんだよそれ? 俺と巧は友達じゃないっていうのかよ?」
ムキになって俺は言い返す。だが北出は首を横に振り、
「そういう意味じゃないよ。……質問を変えるよ、君は巧くんの中学時代を知っているかい?」
「中学時代? いや、あいつとは高校に入ってからの付き合いだが……それがどうしたんだよ?」
とぼけた風に聞くものの、俺はなんとなく北出の言わんとすることがわかってきた。
「……佐治くん、君は今から私が話すことを聞いた後でも、彼と友達でいられるかい?」
いやに重々しい口調の問いかけ。場の雰囲気も重くなった気がした。
「……………」
長い沈黙、俺はごくりと唾を飲み込み、はっきりと言ってやった。
「ばーか、巧の過去話知ったくらいで、俺とあいつの関係が崩れるわけねえだろ。俺とあいつは何があろうと友達だよ」
そうだ、過去なんて関係ない。巧は俺の大事な「親友」であり、「主人公」だ。
「彼が実は男好きだったとしてもかい?」
「そのネタはもういいってっ! ほら、本題をさっさと言え!」
ちっくしょっ、せっかくシリアスさ全開だったのに……。北出もさすがにふざけすぎたと思ったのか、ごほんと咳払いをして言った。
「わかったよ。それじゃあまずは……彼女との出会いから話すよ」
「彼女? 彼じゃなくて?」
「うん、『彼女』で合っているよ。むしろ、彼女なくして私が知る限りの木城巧くんは語れないからね。
……中学三年になるまで、私は『親友』どころか、友達と呼べる存在はいなかったんだ。まあ、私も人付き合いは苦手なタイプだから、一人の方が気楽でいいとは思っていたんだがね。よく本ばかり読んでいたな。
だから、私は自分に『親友』ができたことがとても驚きだった。……というより、家族以外で、『大切』だと思える存在が、できたということにだろうか……。
彼女と出会ったのは、中学三年に上がってすぐのことだったかな。私は家から近いという理由だけで、プリントを届けに行くことになったんだ。今思うと、何か別の意図があったんじゃないかとも思うよ」
「へえ、ヒッキーだったのその女子?」
あまりに一人で話していくので、俺は茶化すように口を挟む。しかし北出はまったく怒ることはせず、普通に答えた。
「……まあ、『籠る』という意味なら、たしかにその通りだよ。彼女は当時、入院していたからね」
「……悪い、軽率だった」
軽率な発言をしてしまった。自分をぶん殴りたくなった。北出に謝っても仕方ないが、俺は頭を深く下げた。
「いいよ、私も言い出すのが遅かったし。彼女は中学三年に上がる頃には、ほとんど中学に来れていなくてね、名前は知っていたけど会うのは初めてだったんだ。だから、会ったとき驚いたよ。あんなに綺麗だとは、思っていなかったからね……」
「……へえ、お前がそう言うってことは、かなりなんだろうな」
頭を上げ、今度は素直な感情を口にした。
「ああ、不覚にもドキッとしたよ。私が男子なら即座に惚れるくらいにね。
……その日はプリントだけ渡して帰ったのだけれど、すぐにまた訪れる機会があってね。その時私は彼女に話しかけてみたよ。『私の名前は北出小夜子』といった具合にね。
彼女は私が思った以上に驚いていたよ。話しかけられるなんて、思っていなかったんだろうね。彼女は不機嫌そうな顔をしながらも、自分の名前を告げてくれたよ。ふふっ、懐かしいなあ……」
遊園地で遊ぶ、子供のような無邪気な笑顔だった。
「クラスメイトのよしみで、名前だけを告げるつもりだったんだけど、なんだか嬉しくなってね。私はすぐには帰らずに、自分のことを話すことにしたよ。といっても、好きな本とその内容といった、他愛もないことをだけどね。
――だけど、いくつか挙げた中の一つは、ちょうど彼女が今読んでいる本だったんだ。けっこう昔の、かなりマニアックなやつをね。フフッ、あの時はもう少しでネタバレをしそうになって、彼女にひどく怒られたよ。けど、ずっとムスッとしていた彼女が初めて感情を見せてくれたような気がして、思わず声を出して笑ってしまったんだ。それは当時の私からは考えられない行為だったよ。
まあ、結果的にそれが良いキッカケになってくれて、私たちはそれから一ヶ月後には、『親友』同士になっていたんだ……」
そこで北出は長い話をいったん終えた。北出は再び飴を取り出し、舐めだす。
「その……良かったな」
北出が飴を舐めている時、俺はなんともつまらない、普通の感想を言った。北出は飴を飲み込んだのか、ゴクンとさせ、照れた顔になった。
「ありがとう! 少し前置きが長くなったけれど、私と彼女が親友になってから半年くらい経った頃に、彼――木城巧くんが現われたんだ」
ここでやっと、巧の名前が登場か。……ん、ってことは。
「二人の前にってことは……なんだ、あいつ入院してたのか?」
「いや、彼じゃなくて彼の――」
「――ああ、誰かの見舞いに来てたんだな。それで病院の屋上? あたりで知り合ったってところか!」
一人納得、一人で勝手にストーリーを作っていく。北出は一瞬呆れたような顔をしながらも、すぐに表情を戻しうなずいた。
「……まあ、そんなところだよ。それで君の言うとおり、彼女を連れて屋上に上がった時に、私と彼女は巧くんと出会ったんだ。
君は信じられないかもしれないけど、当初の巧くんは、今とはかなり違う雰囲気をしていたんだよ」
「違う? 何、中二病にでもかかっていたのか?」
「――うーん、そうといえばそうかもしれないなあ……」
「マジかよ……!?」
冗談で言ってみたがまさかの当たりとは……誰もがかかる病気というのは、あながち嘘ではないらしい。
「とにかく、今と同じで、容姿は良かったけど、かなり近寄りがたい雰囲気を出していたよ。まるで別の世界にいるようだった――」
「あー、そりゃ完全にかかってるわー」
似たような症状にかかった奴を俺はよく知っている。
「だから私は、彼とは関わることはないと思っていたんだ。けど……」
「関わってしまったってわけか」
「そうなんだ。といっても、ほとんど偶然のようなもので、主に彼女の方がだけどね。
しばらく屋上で景色を見た後、私たちは病室へ戻ることにしたんだ。階段を下りるところだったかな。一歩ずつ、彼女を心配しながら下りていたんだけど……彼女は足を踏み外してしまったんだ――。彼女はそのまま、バランスを崩して階段の踊場まで転がり落ちそうになった。悔しいことに、一番近くにいた私は、まったく動くことができなかった……。私の中に、最悪なイメージが現われたよ。だけど、それは彼によって助けられたんだ……。
私たちが下りるより少し前に、階段を下りていた彼彼は、彼女が足を踏み外したことにいち早く気づき、落ちてくる彼女に対し、自らをクッションにして助けたんだ!
とてもカッコイイ助け方とはいえなかったんだけど……それがキッカケになったんだ」
そこまで聞いて俺が北出の顔を見ると、北出の頬はギャルゲでヒロインが主人公に惚れたことを、プレイヤーにはっきりと分からすかのごとく、真っ赤に染まっていた。




