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道化上等!  作者: 本間 甲介
第四章
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予期せぬ出会い

 月草が去った後、俺は起き上がる気力も無く、おとなしく寝ることにした。そして次に起きた時、時刻は二時を過ぎていた。


「けど……そのおかげでだいぶすっきりしたな……」


 布団と毛布を三枚敷いて寝たのが良かったのかもしれない。体は汗まみれだったが、頭や胸の痛みは消えていた。俺はポカリをコップに注ぎ、乾いた喉を潤わす。


「……腹減ったー」


 喉こそ潤ったものの、満腹感には至らなかった。そういえば昨日の夜から、何も食べてない。


「……かゆ、あるかな」


 俺はベッドから起き上がり、部屋を出て階段を下り、まずは風呂場へ向かうことにした。


 風邪の際は入るなと聞くが、俺の場合ほとんど治ったようなものなので気にしない。俺は適温のシャワーを体に浴びせ、体を洗う。


「あーすっきりした」


 汗でベタベタしていた体が綺麗になったことで、俺の頭はより一層しゃきっとした。俺は風呂を上がり、脱衣所に置かれた棚の中から着替えを取り出す。ホームセンターでお母さんが買ってくれた、安物のジャージだが、病み上がりにはいいかもしれない。


 着替え終えた俺は、今度は腹の虫を抑えるために、台所へと向かった。


「さあて、何があるかなぁ?」


 わくわくしながら、俺は冷蔵庫を開けた。……独り言多いな俺。


「……なんもねえ」


 だが、冷蔵庫の中身を確認し、俺は落胆した。今すぐに食べられるようなものは、何もなかったのだ。


「くっ、この際ご飯だけでも……!」


 冷蔵庫を閉じ、俺は炊飯器へと向かい、ボタンを押し中を確認――はい、予想通り! 炊飯器の中は空っぽだった。


 ある程度予想していが、まさか本当に何もないとは……。俺はもう一度、冷蔵庫の中を確認した。冷蔵庫の中には、朝食の残り物といったものだけではなく、野菜や肉といったものも無かった。ゆえに、何か作ることもできない(どっちにしてもしないだろうが)


「はあ……仕方ねえ」


 今からご飯を炊いても、三十分近くはかかる。そんなに待っていたらおかしくなりそうだ。俺は、コンビニに行く決意を固めた。



「………」


「早く食べないと、せっかく温めてもらったお弁当が冷めちゃうよ」


「………」


「それにしても美味しそうだよね。良かったら一口くれ――」


「待て、何ごく自然に、俺の隣に座っているんだお前は」


 俺のひざ上のコンビニ弁当の、唐揚げへと伸びた手を、俺は直前でかわし、隣に座る北出に当然の疑問を投げかけた。


 コンビニまでの道のりは特に何もなく、俺は普通にコンビニで弁当とお茶を買った。


 コンビニ弁当は基本的に値段が高いイメージがあって、カップ麺あたりにしておきたかったが、家に帰ってお湯入れて三分待つことを想像すると、嫌気が差してきた。


 よって俺は、なけなしの小遣いを使い、温めてもらった弁当とともに、近くの公園へと行くことにした。


 平日の昼ということもあり、公園には人はいなかった。俺は周囲の目を気にしないでいいという安堵感から、どっさりとベンチに腰を落とした――のだが。


「いいじゃないか、この公園にはこのベンチしか無いのだから」


 さあ食べよう。わくわくしながら割り箸を割り、弁当のフタを開けたところで、予期せぬ珍客――北出が現われた。おそらく、この時間に、この公園で会うことはこの先一生無いだろう。


「……やらないからな」


 どうせ何を言ってもい続けるだろう。俺もベンチを移動する気は毛頭ない。なので俺はまず、北出に力強く念押しした。


「大丈夫、そこまでお腹は空いていないから安心してくれたまえ」


「そうかい、安心したよ。いただきます」


 ほっとした俺は、手を合わせ弁当を食べ始めた。……う、うめえ!


「そんなに嬉しそうに食べられると、こっちまで気持ちが良くなるよ」


 北出が何かを言っているが無視。俺はただ目の前にあるメシを貪るように食べる。空腹は最大のスパイスという言葉が、わかったような気がした。


「……ごっそさん!」


 ものの三分程度で、俺は米粒一つ残さず、弁当を平らげた。俺は五百ミリペットボトルのお茶を、一気に飲み干した。


「あー美味かったー!」


「ちゃんと噛まないと消化に悪いよ」


「いいんだよ、むしろ腹に残しときたいんだから」


「すごい考えをしているね、君は」


「そりゃどうも……ちょっと待て! なんでお前がここにいる!?」


 満腹感から、錆び付いていた脳が働き始め、俺は北出に尋ねた。


「本当に今さらだね……。というかそれは私のセリフだと思うんだが……君、学校はどうしたんだい?」


「いや俺は風邪で……え? 何おまえって今日学校行ってねえの?」


 北出の言い方は、今日学校に行っていれば出ない言葉だった。北出はうなずいた。


「起きたらもう昼でね。まあ一応制服に着替えて家を出て学校へ向かったんだが……はあ、まさか君に会うなんて」


「ちょっと待て、なんで俺が悪いみたいな顔になってんだ」


 ほぼ(いや完全に)サボりの北出と違い、俺は学校に届出を出した身だ。というか呼び止めた記憶も無い。


「このまま学校へ行っても、もう遅いだろうし……佐治くん、責任……取ってもらおうか……」


「変な言い方すんな! もう帰るぞ俺は!」


『頭痛が痛くなる』と、素で言ってしまいそうになるほど、俺は困惑してきた。俺は近くにあったゴミ箱へ、弁当の空を捨て、立ち上がろうとした。


「えー、もっと話そうよ。同じサボり仲間なんだしさー」


 北出はぎゅっと手を握って俺を止めた。退屈を持て余している、子供のような顔だった。


「……はあ、わかったよ」


 病み上がり(もとい現在進行中)の体ということもあり、俺は再び座った。北出は手を離す。


「ふふっ、ついに折れたね」


「自分で折ったんだよ。で、なんだよ話って」


「………よく考えると、話題は無いな」


「おい待て」


 その場の思いつきかよ! 俺はもう立ち去る気力も失せていた。


「まあそんなに怒るなよ、これあげるからさ」


 ほいっと北出がマジシャンのごとく手から何かを飛ばしてくる。反射的に、俺はそれを手に取ると、それは袋に包まれたアメだった。


「甘いものは脳を活性化させるというのが持論でね、私は毎日十個は舐めてるよ」


 そう言って北出は新たなアメを取り出し、口に含んでいく。釣られるように俺も皮は破り、口に入れた。


「美味しいかい?」


「まあ、な……」


 口の中に、微妙な酸味と甘さが混ざり合ったような味覚があらわれた。りんご味だろうか。食後の口直しにはちょうどいい。たしかに俺の脳の働きを良くしてくれたような気がした。


「……あ、そうだ。一つ話題があったよ。ねえ佐治くん、最近の君の動向についてなんだけど」


 アメの大きさが半分ほどになるまで舐めた時、北出は意味深なことを言った。


「……んっ! な、何がだよ……!?」


 意表を突くような言葉に、俺はアメを舐め終えず、飲み込んでしまった。北出は数センチ、俺に近づく。


「ああ、ちょっと気になっていてね。君の口からはっきりと訊きたいんだ」


 ――もしかして、バレているのか……。いや、まさかそんなわけ……! 



「そんなに君は、巧くんを誰かに取られたくないのかい?」



「……は?」


 だが北出の発した言葉は、これまた意外なものだった。北出は不思議そうに俺を見る。


「違うのかい? 私はてっきり、巧くんを他の女に取られたくないゆえに、いつも以上に、空気を読まない行為をしてきたかと思ったんだが……」


 なにいってんだこいつ? 北出の言葉はすぐに理解できなかった。そんな俺に、北出は続けて喋る。


「……巧くんのことを、好きなんじゃないのかい?」


「……一応聞いといてやる。それはライクとラブ、どっちの意味だ……?」


「それはもちろん、『L』から始まり、『E』で終わる方さ」


「……どっちもそうだろっ! ってか絶対お前の思っている方じゃないからな!」


 あまりにおぞましい言葉ゆえ、俺は言葉には出さずに、力強く念押しする。


「なんだ、残念だよ」


「本気で悔しがるなよっ! だから俺にそのケはいっぺんたりともねえっ!」


「そうなのかい? 本当に?」


「ああ、巧かお前かと言われれば、お前を選ぶくらいにな」


「ごめんなさい、これからもいい友だちでいましょう」


「即効!? いや、そもそもた・と・え! とにかく女の子が好きなの俺は!」


 喉がカラカラになってきた。くそ、相変わらず人を煽るのが上手い奴だ!


「けど本当に多いんだよ。君と巧くんが付き合っていると思って――」


「言うなぁ! それ以上言うんじゃねぇっ!」


 俺はあーあーと言いながら、両耳に両手をパンパンさせる。それを聞いてしまったら、巧と今まで通りの関係を築ける自信は無かった。俺は必死になって北出を止め――


「え、でも、マジ……?」


 ようとして、俺はやはり気になった。北出はこくりとうなずく。


「巧くんにこそ劣るが、君も容姿『は』中々いいからね。そういった妄想を繰り広げるには、最適なタイプらしいよ」


 聞いててさっきとは違う感覚が体を襲ってくる。漫画やゲーム、アニメにおいてそういった男友達を変な目で見るみたい的なのがあると知っていたが、その対象がまさか自分に及ぶとは思いもしなかった。というか――。


「なるほど……俺が女にモテないのはそう思われていたからか……」


「いやそれは違うと思うよ。……違うよ、うん、絶対違う」


「何度も言わんでいい!」


 可哀想なものを見るような目で、北出は何度も首を横に振った。それは言った自分が一番良く分かっている。ちっくしょ、だけど他人に言われると傷つくな……。


「君ももう少し、性格をなんとかすればモテるかもしれないよ。恋愛ゲームを辞めるとかね」


「ほっとけ! というかそれだけは譲れねえな……。俺にとってギャルゲはそんな簡単なものじゃない……」


 そう、俺にとってギャルゲは単なるゲームではない。不安定になった自分を支えてくれる、精神安定剤のような役割を担っている――。


「……まあ、そう言うと思ったよ」


 生暖かい視線を向けてくる北出。バカにしている――というわけでもなさそうだった。


「俺のことはともかく――なに? お前もそんな腐った思考があるから、巧に告らねえの?」


 今まで俺は巧があまり告られねえのは、別の理由からだと思っていたが、北出の話を聞くとそうでないのかもしれない。俺はお返しといわんばかりに、思い切って訊いてみた。


「――そうだよ、悔しいけれど、君になら巧くんを任せられると思っている。だから、巧くんのことを幸せにしてあげてくれないかな……」


 だが北出はまったく動揺することなく、そう言い返してきた。くっ、手強いやつだ!


「冗談だよ。……まあ本気でもあるんだがね」


「笑談にしといてくれ……。けど、やっぱ好きなんだよな?」


 話が大幅に逸れたので、俺は強引に戻す。北出は力強くうなずいた。


「私にとって彼は『初恋』だからね。多分、この先彼以上の男は現れないだろうくらいにね」


 淡々とした言い方だが、さらっとすごいことを言う北出。こっちがこっ恥ずかしくなるほどだった。


「けっ、そうですか! モテモテだねえあいつは!」


 自分で振っといてアレだが、人の恋話は聞くものじゃない。俺は切なくなってきた気持ちを隠すように、ひねくれた言い方をした。俺は続ける。


「じゃああれか? 『初恋は実らない』っていうから、お前は告らねえで、今の状態を維持してんのか?」


「いやそうじゃない。それにそれは迷信だよ。現に、僕の親友は実ったしね」


「……マジかよ」


 初恋が実るとか、ギャルゲの中くらいだと思っていた。俺が驚いているのに関係なく、北出は理由を、少しばかり声のトーンを落として語っていく。


「フラれるのが怖いというわけじゃあない。告白する勇気が無いわけでもない。ただ……今はダメなんだ」


「ダメって……何がだよ?」


 どこかで聞いたようなセリフだった。北出はここにきて初めて、表情に変化を見せた。憐れみの、表情だった。



「彼は……呪われているんだ」



 意味深な、まるですべてを知った上で発したかのような言葉に、俺はゴクリと唾を飲み込んだ。


「……詳しく聞かせてくれないか」

 

 俺は北出からその言葉の真意を確かめることにした。




 


 




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