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道化上等!  作者: 本間 甲介
第四章
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チャンス到来

「ねえ佐治、ちょっと聞いてもいい?」


「昨日やったギャルゲのストーリーをか? それはだな……」


「違うし興味無いし気持ち悪いし気色悪い」


「最後二つはいらなくね!?」


 ばっさりと、八原は俺のジョークを切り捨てた。ちっ、せっかく熱弁ふるって語ろうと思ったのに……。


 夕日が差し込め、普段とは別世界を見せるかのような放課後の教室に、俺と八原は二人きりでいた。


 一昔前の漫画やアニメなら、ここで告白……とかなんだろうが、俺たちが手に持っているホウキとちりとりを見れば、誰だってそれは違うというだろう。


 わが校では日直になった者が、放課後教室の掃除をすることになっている。そして今日俺が日直の日でもあった。


 では八原もそうか? 五十音順で日直が進むのを見れば、それは違うとすぐにわかるだろう。早い話、八原は今日日直だった奴と交代したのだ。


「友達は今日何の用事だったんだ?」


「バイトよ。シフトが急に早まったんだって」


「ふうん、俺はてっきり面倒くさいからだと思ったよ」


「そんな娘じゃないわよ。あんただって知ってんでしょ」


「冗談だ、そんなに怒るな……にしても、良かったな」


 ホウキを掃く手をいったん止めて、俺は八原を見てそう言った。


「……何がよ?」


「いやこういう風に、……なんていうか、気軽に頼みあえる友達ができてよ」


「――大きなお世話よ!」


 ぷいっと顔を逸らし、八原は無造作にホウキを掃いていく。照れているとすぐにわかった。


 俺がこんなことを言うは、去年のことを思い出してのことだった。



 一年の頃、俺と巧は八原と同じクラスだった。当時の八原はかなり攻撃的な性格をしており、誰に対しても冷たい反応を取っていた。当時の俺は勝手に「ダーク八原」と呼んでいた。


 そのせいで誰とも馴染めず、友達と呼べる存在は一人としていなかった。つまりボッチだ。


 八原の今以上に俺に対しての冷たい態度を思い出し、心が傷んでくるのであまり深く考えることはしないが、その暗黒面から救い出したのが、巧であった。


「あのさ佐治……」


 などと回想に浸っていた俺に、八原が声をかけてきた。


「えっと、一応……あんたにも……その……感謝してるから」


 フッとすれば吹き飛ぶような小さな声、ほんとうについでのような感謝の言葉。だが、すごく嬉しかった。


「――なーに柄にもねえこと言ってんだ。あれか、女の子の日か?」


「ぶっ殺すわよ……! ほら、さっさと手を動かしなさいよ!」


 ふざけたような俺の態度と言い方に、八原はいつも俺に見せる表情へと戻る。そうそう、そういうしおらしい態度は巧のために取っとけ。俺は笑みを浮かべ、心のなかで八原にそう言った。


「よし、こんなものでいいだろ」


 その後も適当な会話を繰り広げ、二十分ほどかけて掃除を終えた。最後にちりとりでゴミを集め、ゴミ箱へと捨てた。


「あんたって意外と几帳面よね」


「意外には余計だが……まあな」


 綺麗好きというわけじゃないが、俺はどうにも散らかっているのは落ち着かない性分だった。ゆえに俺はやると決めたら面倒とわかっても、掃除は細かいところまでやると決めていた。


「そういえばあんたって、性格に似合わず字も綺麗よね」


「だから一言余計だっての! ……まあいいやそれじゃあな、また明日――」


「あ、ちょっと待って」


 別れの言葉を告げ、先に教室を出た俺を、八原は呼び止めた。同時に、俺は自分の目的を思い出した。あっぶねえ! 


「お、おう! な、なんだ?」


 せっかく二人きりになったのに、俺はまるで八原を巧に告白させるうそそのかすことを忘れていた。俺は慌てて立ち止まった。


「今週の木曜日ってさ、あんた……用事ある?」


 声はいつもどおりだが、なぜか俺は背筋がゾクッとした。


「いや……別にねえけど……?」


 心臓の鼓動が早くなったと感じる。俺は動揺しながらも何とか反応する。


「……巧と遊ぶとかも?」


「――あ、ああねえよ。多分、帰ってギャルゲするんじゃねえかな!」


 笑いながらふざけたような言い方をするも、「巧」という単語を聞くと同時に、俺の心は冷静になっていた。


 俺は今、何を思ったんだ……?


「……そっか」


「なんだよ、俺をどっかに誘うつもりなのか?」


 沈黙に耐え切れず、俺は軽い気持ちで、八原にとっては重要なことを聞いていた。


「あんたじゃないけど……まあ、ね……」


 八原の表情を見て、俺はそれが誰であるかすぐにわかった。


「――へえ、巧をか?」


「なっ……! べ、別にあんたが考えているようなことじゃなくて……!」


「否定すんなって、別に茶化したりしねえからよ」


 千載一遇のチャンスだった。俺はもう一言、気の利いた言葉を八原に送ってやろうと笑みを浮かべた。


「――じゃあなっ!」


 だが俺は、何も言うことはできなかった。俺は逃げるように八原の前から立ち去った。


「…………っ!」


 モヤがいっそう、深まっていった。


 

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