いざ本命へ
何かが変わったようで、結局のところ何も変わることがなく、あっという間に月曜日がやって来た。
ぼーっとした頭のまま起き、着替え、飯を食って、ほとんど意味もわからぬ内に学校へ着いた。
最近夜更かしすることはなかったが、昨日は久しぶりに深夜までゲームをした。ギャルゲではない、往年の有名な落ち物ゲームをだ。
「……たまにやるとハマるよな、ほんと」
約一年ぶりにやったが、手が覚えていた。得意というわけではないが、ほぼ何も考えずにできるのが、昨日の俺にはちょうど良かった。
ネットではストレスを解消するとかいわれているだけあり、俺の中にあったモヤモヤしたものが、「あの時」と同じように払拭された。
「……けど、眠い」
そのかわり眠気が襲ってきた。日曜日に真夜中まで起きているのはダメだなやっぱり……。
「謙也、授業がもう始まるよ」
教室に到着してから、ずっと机に突っ伏していた俺に、巧が肩を揺らし起こしてくれた。
「……おう、サンキュ……」
俺は巧に礼を言い体を起こす。だが……。
「まだ五分あるじゃねえか!」
壁にかけられた時計を見て、俺は巧に怒りのツッコミを入れた。
「ごめんごめん、でもそうでも言わないと、謙也起きてくれそうになかったからさ」
「まあ、それは否定しないが……」
むしろ、話したいことがあるのに、ギリギリまで寝かせてくれ、さらに起こしてくれたんだ。感謝しとこう。俺は体を捻り、巧と話す姿勢をつくる。
「それで話ってのは?」
「うん、たしかもうすぐ誕生日だったよね」
「お、なにかプレゼントくれんのか? だったら……」
「いや謙也の誕生日は八月二十四日でしょ?」
「……よく覚えてんなお前」
冗談で言ってみたが、まさか正確な誕生日を覚えてもらっているとは思わなかった。さすが記憶力も良い奴だ。
「僕が言っているのは、加々美の誕生日だよ」
右斜め前、教室入ってすぐの席の八原の方をコソコソ見ながら、巧は小声で俺にそう言った。八原はノートを開き、勉強をしていた。
「そういえばもうすぐだとか言ってたな……」
俺はパワーストーン(ビー玉)をあげたときのことを思い出す。八原は今も持っているんだろうか。
「プレゼント、何がいいかな……?」
巧は真剣に悩んでいる。なるほど、誕生日プレゼントの相談か。……ってことは、
「あいつが好きなものをプレゼントするのが一番だろ」
と、いかにも月並みなことを言った俺だが重要なことだ。俺の好きなギャルゲでも、誕生日イベントは必須であり、そこで気に入るプレゼントを渡すことで、好感度がぐぐっと上がる。
「そっか、そうだよね! それで加々美の好きなものって何かな?」
「――知らね。というか、そもそもなんで俺に聞く。お前の方が八原との関係は深いだろうが」
「そうかな? 僕は謙也の方が仲がよさそうに見えるんだけど……」
「……それ、絶対に本人の前では言うなよ」
「なんで? 事実だと思うけど……」
「い・い・か・ら!」
俺は力強く思い切り、巧に念押ししておく。まったく、女心がわかっているんだかいないんだか……。どこをどう見れば、俺たちが仲が良いように見えるんだこいつは。
「……とにかく、お前からの贈り物なら、あいつはなんだって喜ぶと思うぞ」
最終的に俺はそう結論を出した。
「そうなのかなあ?」
「そうなんだよ。それじゃ、頑張れよ」
ドアが開く音がしたので、俺は体を前に向ける。ちらっと首を後ろに向けると、巧は思い悩んだ顔をしていた。
『お前をプレゼントに渡せばいいんじゃね?』
いつもの俺なら、そう茶化していたかもしれない。だが、言わなかった。
「……ねみい」
なぜか再び、モヤモヤした気持ちが生まれてきた。
ここ一年ばかり見てきた中で、巧と一番仲の良いといえる女子は誰かと問われれば、俺は迷うことなく八原加々美であると答えることができる。
誰にでも優しく、それゆえ多くの女の子に好意を抱かれている巧が、俺の知る限りにおいて告白というものを受けたことが無いのは、「巧は既に八原加賀美と付き合っている」と思われているからである。
実際そういった噂が広まっていた。多分、気づいていないのは本人たちを含めてごく少数だろう。
つまり、月草のいう計画が成功する「可能性」が一番高いのが、八原であった。
ではなぜ俺が、波照間を告白させようと(けっきょく何も出来なかったが)したか? それは八原自身のためであった。
巧にとって一番仲の良い「女友達」である八原が、その壁を破り巧に告白したとする。
成功すればそれが一番万々歳だが、もしも失敗してしまったらどうなるか? 巧にしても八原にしても、今までと同じような関係を築けなくなるだろう。
そりゃあ巧が他の女子と付き合うことになれば、八原はショックだろう。だが、友達じゃなくなるよりはマシだ。
とまあ、そういったかなり自分勝手な考えから、俺は波照間を告白させようとした――と思う。
「なんで最初っから八原にしなかったんだろう……?」
俺はポツリと、自分に語りかけるように疑問を述べた。
さっきの俺の考えは、最初からあったものではない。俺がそんな殊勝な考えをするはずがない。むしろ今になって突然出てきた、後付のようなものだった。
では最初、俺はどう考えていたのだろうか? 多分、何も考えていなかったのだろう。ただ、その場のノリから、俺は同じ好感度Aの波照間を選んだのだと思う。
だがそのノリも、波照間が入院したことで変えなければならなかった。巧に聞いたところ、波照間はリハビリも入れて一ヶ月は学校に来れないとのことだった。
その間巧は見舞いにこそ行くだろうが、波照間の性格から考えて、入院中に告白するとは考えにくい。というか、しにくいと思う。
よって俺は、ターゲットを八原に切り替えることにした。まあ、元々あまり手助けはできていなかったんだが、やはり波照間に対し、少し罪悪感を覚えた。けれどもう、そうも言っていられない。タイムリミットこそ提示されないが、そろそろ成果を見せないと、月草にどやされそうだった。
「あくまでひと押しするだけ、あくまでひと押しするだけ……」
俺は何度も自分にそう言い聞かし、自分のすることは簡単だと思うことにした。というか、そうでもしなければ、成功しそうになかった。




