昼食を利用して
色とりどりの花に囲まれた、四方を校舎に囲まれた中庭は、屋根付きの椅子と机や、ベンチが置かれており、昼休みになると生徒が昼食を取りにやって来る。
かくいう俺もその一人、巧を誘って男同士、色々恋話(主に巧に関して)をするつもりだったのだが……。
「木城くん! お弁当、ちょっと多めに作ってきたから……よかったら少しいらない?」
「いや待ちたまえ波照間くん。彼は今日、私の料理を食べると約束していたんだよ」
「北出さん、コンビニで買ったゼリー飲料は料理とは言わないわ。巧、これ前に頼まれたやつ……」
四角い木のテーブル、巧を囲むようにして、女子三人はそれぞれ持参した昼食を、巧の前に見せる。
「あ、その……僕さっき学食でパンと牛乳を買ってきたんだけど……」
巧はしどろもどろになりながら、三人に応える。ちっくしょ、何でこういう時に限って、この三人が揃うんだよ……!
学食において巧の昼飯の買い物に付き合った後、中庭において二人で食べ始めた。
……と思ったら、ほぼ同時といっていいぐらいに八原、北出、波照間がやってきた。
巧と向かい合うようにして、母お手製の弁当を食べていた俺だったが、三人によっていつの間にか、テーブルの一番端っこの方に追いやられた。俺はやけ食いのように弁当をさらっていき、一気に食べ終え、三人を観察することにした。
「巧くん、どれが一番美味しい? やはり私のかい?」
と、唐揚げを食べさせた北出。
「木城くん、その……無理してみんなのは食べなくていいから……だからあたしのだけは……」
遠慮しているような仕草の割に、意外と積極的な波照間。
「巧、『優先順』を考えれば、まずはあたしの作った弁当を食べるべきだと思うのだけれど」
まるで事前に約束していたかのように言う八原。
「う……うん……」
それらを巧は、苦しそうな表情を見せないようにしながら、食べていく。
「まあまあ御三方、少しは落ち着きなさいな」
あまりに全員、自分勝手な言い分だったので、俺は三人に声をかけ、視線を集める。三人は想像以上に驚いていた。
「……え、いたの佐治くん?」
「なんでそんな隅っこの方で食べているんだい?」
「来たなら来たって言いなさいよね」
「――ツッコまんぞ! 何があろうと、絶対にツッコまんぞ!」
三者三様、あいも変わらずひどい言い草だった。俺だからまだいいものの、他の奴に同じ態度とったら、いじめだぞこれ。
「ごほん……それでだなその弁当、もし良かったらこの俺が食べてやらんこともないぜ!」
困っている巧を救うため……といってしまえればいいんだが、実際は「食い足りねえ!」と思ってからの言葉だった。俺はテーブルの真ん中に並べられた、それぞれの食べ物に手を伸ばす。
「本気でやめて」
「まさかのマジレス!?」
八原の尖った氷のような言葉が、ぐさっと胸に突き刺さる。他の二人も言葉には出さないが、同じような視線を送ってくる。うっわ、なにこのアウェイ感? 俺が先に巧を誘ったっていうのに……!
「まあまあ、みんな落ち着いて。えっと波照間さん、北出さん、加々美。ちゃんとみんなの分食べるから安心してよ」
この場をなだめたのは巧本人であった。巧は買ってきたパンを、同じく買ってきたパック入り牛乳で流し込む。そして巧は、目の前に並べられた食べ物を、一つ一つ、ゆっくりと丁寧に美味しそうに食べていった。さすがに女子たちも、食べてくれる順番に関しては文句を言わなかった。
「……うん、どれも美味しいよ!」
巧は食べながら三人に向かって感想を述べる。額から汗が数滴こぼれ落ちている。すると三人の顔はぱあっと明るくなった。
和気あいあいと食べながら楽しげに会話を繰り広げる巧たち。もう完全に俺の存在は忘れられていた。
……さすがにこの流れの中に入っていく勇気はない。本当なら煽って茶化すんだが、これはこれで「チャンス」でもある。俺はそそくさと弁当箱を片付ける。
「じゃあな、巧」
聞こえないと思いつつも一応声かけ。俺は中庭をあとにする。
「あ、謙也ごめんね!」
――まさかの反応だった。俺は振り返らず、手を上げて巧に応える。ったく、ホントお前は、誰にでも「良い奴」だよ。
ぶっちゃけた話、俺は巧が誰と付きあおうともどうでもいい。そりゃ互いの気持ちがちゃんと通じ合っていることは大事だ。当たり前だがそれが「恋人」ということだ。
だが、なぜか、どういうわけかわからないが、俺は木城巧が誰かと「恋人」同士になるという未来が、全然イメージできなかった。




