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道化上等!  作者: 本間 甲介
第二章
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頼みの詳細

 時間は少し遡る。


 昨日の部屋での月草との一件により、俺はもう引くに引けなくなった。


 俺だけに見える、いるかいないかと言われれば「いない」に等しい存在であるとわかっていながら、俺が従うことを決めた理由は唯一つ。

「そこにおっぱいがあるから」だ。


 ……まあ、それは冗談として(半分ほどは)、この月草なる神様は、俺が頼みを受け入れない限り、俺に対し理不尽な暴力を浴びせかねないと思ったからだ。


 ただの高校生である俺の力でどうかできるわけもなく、かといって誰かに相談することもできない。よって俺はまず、月草から詳しく話を聞いてみることにした。だから決して「おっぱい触った」ことによる罪悪感からではない! ということをはっきりと言っておく。


「――さて、なぜ我が木城巧を選んだかにつてじゃが、あやつが多くのおなごに好かれておるからじゃ」


 さっきの恥じらいなどまるでなかったかのように、月草はキリッとした表情で俺に言った。


「……どういうことだ?」


 口調こそ普通だが、俺の心臓はいまだバックンバックンいっていた。手にはまだ、感触が残っていた。


「つまり、『競争率』が高い男を、我が神社で願ったから『恋仲になった』ということを示すことが出来れば、我が神社の力を信じこむ輩が多くなるじゃろうというわけじゃ」


 満足気に説明を終える月草。だがそれを理解するのには少し時間がかかった。


「……えーつまり、お前が最初にした説明を踏まえっと、『弱小野球部』=『草月神社』で、『強豪野球部』=『でっけえ神社』。そんで『甲子園出場』=『巧と恋仲になること』って解釈でいいんだよな?」


「その通りじゃ! ようやくわかったようじゃな」


「まあ、な」

 

なるほどな。たしかに月草の言う方法ならば、有名な神社で願うよりも、潰れたと思っていた神社でお願いして望みが叶った方がインパクトはでっかいだろう。参拝客は増えるかどうかはべつとしてだが。


「まあなんとなくはわかったけどよ、具体的に俺は何をすればいいんだ? 神社の宣伝とかか?」


「あほう。言うたじゃろ、我には今力は無いと。仮に今来られてもどうすることもできぬわ」


 まるで自分に超常的な力があるかのような言い方だった(実際あるんだろうが)。……まあ、それを差し引いても月草神社は無いようなものだし、参拝に来られてもたまったものではないだろう。……そもそも月草神社は復興するつもりなんだろうか?


「自信満々にいうことじゃねえだろ……ってことはなに? あんたって俺に触れることくらいしかできねえの?」


「……まあ、の。我には信心の力が足りとらんから、今ある力は、我が『認めたもの』に対して干渉できるくらいじゃ。決して他の者には見えぬ」


 と言って、月草は本棚に並べられたゲームの一つに手を伸ばす。あ、やば……あれ十八禁じゃないけど、パッケージ絵がけっこうエロいやつだ――と心配したのもつかの間、月草の手はそのゲームに触れることはできず、煙を掴もうとした如く、すり抜けた。


「これでわかったじゃろ」


「わーお」


 漫画や映画でよく見る現象を始めて見た。すっげ、マジで幽霊みてえ!


「――神じゃというとろうが!」


「いてぇっ!」


 知らぬ内に漏らしたのか、月草は俺の頭をぽかんと殴る。たしかな痛み、ある意味納得した。……あれ、けど待てよ?


「じゃあ、あの手紙はいったいどうやって書いたんだ?」


 さっきみたいにすり抜けてしまうならば、こいつはいったいどうやって、あの手紙を書いたというのだろうか? というか今更だが、あの手紙は本当にこいつが書いたのだろうか?


「…………」


 月草はしばし黙った後、こう言った。


「お主の『思い』が強く宿るものならば、我は干渉できるのじゃ」


「『思い』……?」


「よくゆうじゃろ、物には魂が宿ると」


「ああ、物思いに耽るってやつか」


「あほう、全然違うわ。……まあよい」


 俺の言葉に呆れたのか、月草はそれ以上、そのことについては何も言わなかった。まあ要するに、触れる物もあるってことだろう。……ん、待てよ? 


「おい待て!」


 そこで俺は重要なことに気付いた。突然の俺の大声に、月草は体をビクッとさせた。


「な、なんじゃ……?」


「……その法則のままにいくと……俺は、あのゲームに思い入れがないってことになるじゃねえか!」


「……は?」


 月草はきょとんとした。くそ、全然わかってねえ……! 納得のいかなかった俺は先ほど月草が掴もうとしたゲームを棚から取り出した。


「このゲームはなあ……今まで俺がやってきたギャルゲの中でも五指に入るほどのお気に入りのゲームなんだぜ! それにお前が触れないってことは、俺のこのゲームに対しての『思い』を否定することになるじゃねえか! いいか、このゲームはだな……!」


 パッケージ絵を月草に見せるようにして、俺はこのゲームに対する思いを語っていく。月草はパッケージ絵から顔を逸らしたが、俺は気にせず語り続ける。


「――つまりこのゲームの真骨頂は……おウフッ!」


 ぐいっと月草ともう少しで鼻同士が触れ合うくらいまでに近づいたところで、俺は月草から苛烈なボディブローを食らった。


「か、神の我にそのようなものを近づけるとは何事じゃ!」


 月草が上ずった声を出し、俺に向かって怒りをぶつける。みぞおちに入り、呼吸することもままならず、俺はそれに対し反論できなかった。


「こ、このゲームは……べつにエロg……あ、すんません! もう何も言いません!」


 月草が無言のままに床に落ちたゲームの箱を潰そうとするのを見て、俺は土下座姿勢で速攻で謝った。触れない(納得行かないが)とわかっていても、やはりきつい。


「……まったく! ほら、続きを話すからさっさとそれを元に戻せい!」


「へい、ただいま!」


 悔しい思いを残したまま、俺は言われたとおりにゲームを棚に戻す。本当に、良いゲームなんだけどなあ……。


「はあ……よし、それでお主にやってもらうことは、木城巧をこれまで以上におなごと近づけてもらいたんじゃ」


 月草は大きなため息をついた後、険しい表情に戻り本題に戻った。


「……近づける?」


 なぜか俺は床に正座し、恐る恐ると聞き返す。


「そうじゃ。お主には木城巧とおなごの仲を取り次いでほしいんじゃ」


 いちいち言い方が古臭いので理解に時間がかかる。取り次ぐ……ああ、そういうことか。


 俺のやるべきことがやっとわかった。だが、それをする必要性があるかは疑問だった。


「ふう、それじゃあ明日から頼んだぞ、木城巧」


「うおっ……!」


 その疑問をぶつけようとする前に、月草は俺の手をぎゅっと握りしめてきた。俺は正座姿勢のまま、上半身だけ後ろに逸らし、月草から少しでも距離を取る。


「………」


 体温も脈動も感じない、「触れた」というの触覚のみ……。だけど、なんていうか……こいつの「熱意」のようなものは伝わってきた。


「――ああ、任せとけ!」


 上半身を元に戻す、月草の顔がいっそう近づく。俺は感化されるように、力強く答えた。


 ――正直、その場のノリと、断ると何されるかわからないという恐怖から、俺はうなずいた部分もある。


 この日、この世界で最も似合わない「恋のキューピッド」が誕生することになった。

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