空腹と檻
頭に衝撃を受けた痛みで目が覚めた。
俺は・・・いや、これからは女として生きていくのだから“私”、か。
どうやら私は寝ていたようだ。 馬車で
あれ?おかしいなぁ~
確か、最後の記憶では森の中で食べれる物探していてそれで・・・空腹で倒れたのか、私。
そして、馬車に乗せられているという事は誰か心優しい人が倒れている私を見つけてくれて保護してくれたのかなぁ~・・・・・・という状況であって欲しい。
なぜ願望なのかって?
それは今私の両手首足首に、手錠より一回りぐらい大きな枷が付いていて、檻に入れられているからだ。
(これはもしかしなくても正体不明の集団に拉致られたのだろうか?それにスキルが全て使えないし・・・この枷のせいか?にしてもこれはピンチすぎる。嫌な予感がすごくする・・・)
しばらくすると馬車が止まり、馬車の後ろが開き、50代くらいの商人っぽい男の人が入ってきた。
「目が覚めたか。飯の時間だ」
商人風の男は粗いパンを二つと水を置いて、そのまま出ていこうとする。
が、私は引き止めた。聞かなくてはならない事が山ほどあるのだ。
「待ってください!!ここはどこですか?あなたは誰ですか?私をどうするつもりですか!!」
「・・・ここは主要都に行く道中だ。あと二時間ぐらいで着く。私は奴隷商人で、お前は私の商品。つまり奴隷だ。だが安心しろ。お前は上級奴隷だ。貴族様に買ってもらえるぞ。それと無駄な抵抗はやめておけ、それは魔封じの枷だ。ステータスが全て15固定の上にスキル全封印される。だから諦めろ」
そのまま男は出て行った。
次は引き止められなかった。まだまだ聞きたい事はあったのだが、あまりのことに頭がパンクしそうだ。
しばらくして我に帰った。
とりあえず檻の中を見回してみる。
檻の中にはさっき置かれた粗いパンと水、それと自分と同じくらいの歳の男の子が寝ているだけだ。
そう、私以外にもう一人いたのだ。
私は見た目どうりに硬いパンを食べながら、その少年の前にもうひとつの粗いパンと水を持ってき、そのまま起こす。
「ねえ君、起きて。起きてってば」
「う、う~ん。」
少年は目を擦りながら起き上がり、背伸びをした。
そしてこちらを見て、目が会った瞬間固まった。
「お~い。もしも~し」
「・・・お、おう。き、君誰だ?」
彼は少しの硬直の後、戸惑いがちに聞いてきた。
「私はフィリル。君は?」
「お、俺はニール。で、フィリル。これ、なんなの?」
彼はそう言いながら、彼自身にはめられている枷を示す。
そして、ニールに二人とも奴隷になっていること、今、主要都に向かっていて、あと二時間ぐらいで着くらしい事を話した。
ニールは、私と同じように少しの間放心状態になっていた。
が、そんな彼を無理やりこちらに帰還させ、この世界のこと、お金のこと、奴隷のこと、ステータスのこと等を聞いた。ニールはそんなことも知らなかったのかという顔をしながら教えてくれた。
曰く、この世界には特に名前はなくて、国家などが存在しないらしく、物流などの要所は主要都と呼ばれ人口がそこらへんの街よりずっと多いらしい。
ちなみに自分の奴隷としての待遇はわりといいらしい。上級奴隷は奴隷全体のほんのひと握りぐらいしかおらず、そのほとんどが貴族に買われて、護衛やメイドをさせられているらしい。
そして一番問題なのが、ステータスだ。
まず、この世界でのステータスの平均レベルだが、一般人が5ぐらい、冒険者、騎士が30ぐらいらしい。過去最高は100年ぐらい前の勇者の120レベルくらいらしい。
そして私のレベルなのだが、200、つまりカンストしている。
次にスキル。スキルは例外なしに全て先天的で、成長しない。これはいいのだが、問題はスキルレベルは平均3で、希に8、9レベルは居ても、レベルMAXは世界で数人しかいない事だ。
私のスキルは7つものスキルがレベルMAXである。これはもはや異端の怪物だ。
「どうしよう。自分が異常過ぎる・・・・・・」
私のつぶやきは、目の前でパンを必死に噛み千切ろうと奮闘しているニールには聞こえて無かったようだ。
そして馬車は出発した。