時を待つ『ソラ』
気がつけば『ソラ』と呼ばれていた。
時に祈られ、時に疎まれ、時に願われ、時に厭われ。
その言葉一つ一つを吟味し、飲み込んでいくたびに疑問が募った。
僕に祈ったところで、願ったところで、一体何になるのだろう?
小さなその生き物達が恐れる事象は僕ではなく、僕が擁するモノ達が起こしているのに。
僕を嫌いになったところで、僕が消えたりはしないのに。
そもそも、どうしてこの小さな生き物達は、僕にこんなに欲望をぶつけてくるのだろう。
風が雲を呼び、雲は雨を降らせ、雷を起こす。
『人』と呼称されるその生き物達は、雨に感謝し、雷に怯え、太陽を隠す雲を厭う。
感謝される雨も、降り過ぎれば疎まれるのだから、どうしようもない。
『人』というものは、どうしてこうも、どうしようもないのだろう?
そんな事を考えながらも、僕は『人』を観察し続けた。
それ以外にすることも無かったし、『人』の行動にも興味があったから。
彼らは衰退と復興、戦争と休息を繰り返しながら、その数を徐々に増やしていった。
それと同時に文化も栄え、大陸は流通によって繋がれた。
戦いに明け暮れる生き物かと思えば、その傍らで芸術を生み出していたり、同属を殺したその手で沢山の命を抱いていたりもした。
僕は『人』を『矛盾だらけの生き物』だと評する事にした。
我ながらなかなかの感性だと思っていたけど、どうやら大分前にとある『人』が同じ事を言っていたという。
それは、僕が『人』に近付いたという事なのか、『人』が僕に近付いたということなのか。
それはどちらも正しいような気がした。
僕は『人』を観察している。
『人』は僕に迫ってきている。
いづれ出会ってしまうんじゃないかと不安になるくらいに、お互いに近付きあっている。
そう考えた時、僕は初めて『怖い』と思った。
『人』が持っている『感情』の中で、僕が初めて知ったのは『恐怖』だった。
僕を突くように伸びてきた塔やビルが。
僕を掻き回すように飛ぶ飛行機や戦闘機が。
僕を突き破り彼方に飛んでいく宇宙船や衛星が。
“いつかお前を制してやる”と言われている様で。
実際に、そうなりそうで。
僕は、『人』が、怖くなった。
『人』に近付いていっている僕が、怖くなった。
灰色の無機物から吐き出される臭い煙が僕を汚す。
真意の解らなくなった『人』を、僕から見え辛くする。
僕は、『ソラ』は『人』に『攻撃』されている。
汚れていく『視界』を抱えて、『ソラ』は怯えながらその年を待つ。
そこにあるだけの無力な『ソラ』は、ただ、その日を待つ。
大海が起き上がり『人』を飲み込むその時を。
風が暴れ『人』を巻き上げるその時を。
火山が目覚め『人』を焼き消すその時を。
大地が唸り『人』を埋めるその時を。
僕は。
『ソラ』は。
『空』は待っている。
この世界から『人』が消える、その瞬間を。
田舎住まいなもので、都会の空を知らなかったりします。
なので風邪っぴきのまま外に出て日光浴してたら、
「綺麗な空だなー……そうだ、空を題材になにかしたい」
という事で初短編。
拙いですが、誰かが気に入ってくれればいいなと。