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1話(完結)

初投稿です

四月一日、この街では“嘘”は消えない。

 それは道徳的な話じゃない。物理法則に近い。

 誰かが嘘をつくと、その嘘はどこかに保存される。

 ただし、どこに保存されるかは分からない。

 

 最初にそれが確認されたのは十年前だ。

 ある少女が言った。

「昨日、空が割れたんだよ」

 もちろん嘘だった。

 だが翌日、街の上空に“亀裂のような雲”が観測された。誰もが「偶然だ」と片付けたが、それは一週間、消えなかった。

 その頃から研究者たちは言い始めた。

 ——嘘は、現実のどこかに“歪み”として保存される。

 

 それ以来、四月一日は規制された。

 嘘の量が増えすぎると、世界の整合性が崩れるからだ。

 

 僕はその監視機関に所属している。

 役職は「記録補正官」。

 発生した“嘘の残留”を観測し、どの発言が原因かを特定する。

 

 今年も、例外なく報告が上がってきた。

 

「地点C-17にて、記憶の重複が発生」

 

 モニターには、同一人物が“二つの異なる過去”を持っている記録が映し出されていた。

 

 対象は、女子高生。

 記録A:彼女は一人っ子

 記録B:彼女には弟がいる

 

 両方とも、本人の記憶として成立している。

 

「原因となる発言は?」

 僕は尋ねた。

 

「不明。ただし四月一日のログに異常あり」

 

 再生すると、彼女はこう言っていた。

 

「私、弟いるんだよね」

 

 

 ただ、それだけだ。

 

 「単純すぎる……」

  僕は呟いた。

 こんな軽い嘘で、現実の記憶構造が二重化するのか。

だが、違和感があった。

彼女は“嘘をついた自覚がない”。

 

 記録を遡ると、彼女はその発言の直前、友人にこう言われている。

 

「エイプリルフールだからって変な嘘つかないでよ」

 

 つまり彼女は、“嘘をついている意識”を持たないまま発言している。

 「……主観と客観がズレてる?」

  僕は仮説を立てた。

 ——嘘は、内容ではなく“認識”によって定義されるのではないか。

 もしそうなら。

 

 自分が嘘だと思っていない発言は、“真実として保存される”。

 

 

 そしてその真実は、現実に影響する。

 

 

 僕は追加の事例を調べた。

 

 すると、奇妙な共通点が浮かび上がった。

 

 

 “重大な歪み”を生んでいる嘘ほど、発言者はそれを嘘だと認識していない。

 

 

 逆に、「どう考えても嘘」と分かる冗談は、小さなノイズしか残さない。

 

 

「つまり……」

 

 

 世界は、“主観的な真実”を優先している。

 

 

 その結論に至ったとき、背筋が冷えた。

 

 

 もしそれが正しいなら。

 

 

 “本気で信じた嘘”は、現実を上書きする。

 

 

 

 その夜、僕は自宅で考え続けた。

 

 

 嘘の保存則。

 

 エネルギー保存則のように、嘘は消えず、形を変えるだけ。

 

 

 ならば。

 

 どこまで改変できる?

 

 

 

 四月一日、23時58分。

 

 残り2分。

 僕は録音機を起動した。

 「俺は、三年前にこの仕事を辞めている」

 言った瞬間、違和感が走る。

 この発言を、僕は“半分だけ”信じていた。

 本当は辞めたかった。

 だが辞めていない。

 その中途半端な確信が、どんな結果を生むのか。

 

 

 

 四月二日。

 

 目が覚めると、部屋の様子が微妙に違っていた。

 

 机の上に、見覚えのない書類がある。

 

 タイトルにはこう書かれていた。

 

「退職届(受理済)」

 

「……成功、したのか?」

 

 だが、同時に。

 

 スマホには、いつも通りの業務連絡が届いている。

 

 ——本日も通常勤務。

 

 僕は、二つの状態にいた。

 

 “辞めた自分”と、“辞めていない自分”。

 

 出勤すると、同僚が普通に話しかけてくる。

 

「おはよう」

 

 だが別の同僚は、僕を見て首をかしげる。

 

「……誰?」

 

 

 認識が分裂している。

 

 僕という存在が、観測者ごとに違う状態を持っている。

 

 「収束してない……」

 

 僕は理解した。

 

 嘘は保存されるが、必ずしも一つの現実に統合されるとは限らない。

 

観測されるたびに、異なる形で現れる。

 

 つまり。

 

 “現実は一つではない”。

 

その瞬間、すべてが繋がった。

 

 過去の歪み。

 

記憶の重複。

 

存在の消失。


 どれも、“複数の現実の干渉”だったのだ。

 嘘は、新しい現実を生む。

 だが、元の現実は消えない。

 

結果、重なり合う。

 

そして。


 整合性が取れなくなった部分から、崩壊する。

 帰り道、僕は空を見上げた。

雲の裂け目が、まだ残っている。

 

十年前の嘘の残骸だ。


 ふと、思った。




 ——もし誰かが、「この世界は嘘だ」と本気で信じたら?

 

そのとき。

 

この現実は、どこへ保存されるのだろう。

 帰宅後、僕は最後の記録を残した。

 


「この文章は、虚構である」

 その文を書いた瞬間、手が止まった。

 もしこれが真なら、この文章は嘘になる。

 もし嘘なら、この文章は真になる。

 だが、それよりも重要なのは。

 


——僕が、それをどこまで信じているかだ。

 



画面の向こうで、この文章を読んでいるあなたは。

 これを、どちらだと判断する?

 その答えによって。

 この物語が、存在する現実は変わる。


エイプリルフールなのでそれを題材に書いてみました

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